<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する 作:そらからり
■【戦姫到来 ワルキューレ】について
本来はTYPE:ガードナーから始まり、ガーディアン・レギオンへと成長し、第七形態では更に数を増したワルキューレ達という軍団特性をそのまま強化するはずであったエンブリオ。
しかしながら、その主であるプシュケーは自身の過去を封じ込めることで成長を著しく捻じ曲げている。
であれば、過去に決着を付けた今であれば。
第七形態では元の軌道に戻るのかと問われれば、それはまた別の話だ。
合意し、合理したが、合体したわけではない。
ある意味で決別したと言っても良い。
だからこそ、ワルキューレの一人目であるブリュンヒルドはプシュケーとは別の人物という扱いであるために、超級進化もその方向へと向かわなければならない。
そも、ワルキューレとは何か。
英雄を抱く戦乙女。
死んだ戦士をヴァルハラへと導く半神。
ワルキューレは人物名でなく、総称。
故に、個人を特定しない。
一人一人に名が付けられていたのは、そのためであろう。
さて、では何故ワルキューレというエンブリオがプシュケーに芽生えたか。
理由は唯一つ。
彼女が戦っていたからだ。
戦い、傷つき、それでも倒れない。
休息が取れない戦士。
彼女を休ませるために、ワルキューレは生まれた。
彼女の代わりに戦うために、ワルキューレは在った。
だが、現実はどうだろう。
プシュケーは指揮こそ取るが、戦う機会が減るということは無い。
身体を張り、時にワルキューレを庇うことすらある。
ワルキューレがいるのだから休まないのか。
その問いに対しプシュケーは既に答えを出していた。
『知っておりますこと? 実は私もワルキューレの一員なのですよ』
自身もまた誰かのために戦うワルキューレなのであると。
倒れた戦士を天上の神殿ヴァルハラへと送るために自らの身を投げうつ。
楽な道は選ばない。
正しくない道を、汚れた道を、歩くことは無い。
だからこそ彼女はプシュケー・アーチなのだ。
だからこそ彼女は美しいのだ。
■【魔法少女β】プシュケー・アーチ
「……見た目はそう変わりありませんわね」
超級進化を終えた彼女の感想は、言葉以上に不満な様子は無かった。
既に美しいのだから、変化してしまっては困るという思いもあったのだろう。
目の前の少女――ブリュンヒルドも野蛮であるが美しいことに変わりはない。
装飾も過多に過ぎれば素材を殺してしまう。
余計な進化はむしろ必要無い。
「ですが……ステータスはなんですのこれ」
思わず二度見してしまうくらい、ワルキューレ達のステータスは上昇していた。
此れまではプシュケーよりも一段劣る数値であったのが、プシュケーと同値となっている。
ステータスの共有……というよりも同期といったところか。
技能までは確認出来ないが、ステータスだけでも高いのは御の字といったところだろう。
だが、それだけで終わらない。
なにせ超級。
敵が神話級UBMであるならば、こちらは第七形態エンブリオ。
破格の敵に対して破格の力が必要だ。
「ちんたらと確認しているところ悪いけどよぉ。俺達は別に待ってやらねえぜ」
と、絶賛スキル閲覧中であったプシュケーを置いていくようにしてブリュンヒルドが走り出した。
その手には、いつの間にか掠め取ったのかスウェーコンが握られていた。
「なっ、何ですのあいつ……!?」
一歩どころかだいぶ出遅れたプシュケーだが、それはそれで戦場を俯瞰する余裕が出来たということだ。
「減ったワルキューレの数は……そのままですのね」
先程のガスで死んでいったワルキューレ2名が戻ったわけではない。
今もまだ左手の紋章の中で眠っている。
ならば戦力としては万全というわけではない。
そこにプシュケーが加わっているかいないかで、大きく戦局は左右されるだろう。
『スウェーコン。なあ、黄金の猿よ。貴様が託した新芽は……中々に美味であるな』
「けっ。だったらロートルはボケた頭のまま逝っちまいな。それでも俺達が連れて行ってやるよ。あの世に……ああん?」
走るワルキューレ達の速度が急激に落ちた。
スキルなのか徐々に加速までし、亜音速の域でドラグロットへと迫っていた彼女達は、徐々に速度を落としやがては歩き始める。
自身の足を見て首を傾げ、しかしドラグロットへと吸い寄せられるように歩を進める。
『腐るとは時間を進めること。老いとは若さが奪われるということ。何もできない。若い時に出来たことは老いさらばえたら何も出来なくなる』
ドラグロットの足元だけまるで数百年も時間が経過したかのように朽ちていく。
なるほど、腐るだけでなく、強制的に時間を奪うスキルを使ったのだろう。
〈マスター〉やエンブリオに対しては意味の無いようなスキルに思えるが、それは外見に限っただけの話。
プシュケーのウィンドウにはワルキューレ達に対してスキルが使えないという警告が鳴っていた。
「(スキル封じ……いえ、言葉通りに受け止めるなら行動すら封じる類ですわね)」
ドラグロットからガスやデバフを与えるようなスキルを放った様子は無い。
ならば、一定範囲内に効果を及ぼすスキルだろう。
近づけばスキルを始めとした行動を封じられる。
腐るだけではない。
「神話級に成り、得た力ということですわね」
「ちっ……おい、そこで分析していないで手伝え! 頭数が足りねえんだよ」
「勝手に置いていったのはそちらでしょうに……お待ちくださいまし。すぐに行きますわ」
とは言ったものの、近づけばワルキューレ達同様に動けなくなってしまう。
それは避けたい。
「スウェーコンは……奪われたままでしたわ」
本当に嫌になりますわねと内心毒づきながら、プシュケーは考える。
今も歩き続けるワルキューレ達の肉体は近づくごとに腐り始めていた。
今のところ進行速度は大したことは無いが、ドラグロットがその気になれば一気に腐り果てるだろう。
近づくことは出来ない。
だが、遠くからどうすることも出来ない。
「……はぁ。とんだしりぬぐいですわね」
「思いついたか?」
「ブリュンヒルド。貴女の手の中にあるもの。それが何かお忘れになって?」
「あん? そりゃ、スウェーコンだろ。てめえの武器ぐらい覚えてるっての」
「ねえ、その言葉遣いはいったいどこから……ああもういいですわ……。はぁ……スウェーコンをこちらに伸ばしてちょうだい」
「ん? ああ、そういうことか」
ブリュンヒルドは躊躇いも無くプシュケーに向かってスウェーコンを伸ばす。
その切っ先をプシュケーが受け止めるのを確認すると、
「良し、戻れ」
長さを戻し、プシュケーが引く力ままに、ブリュンヒルドの身体はスウェーコンと共にプシュケーの手元へと引き戻される。
「っと……軽いですわね。本当に私の幼少時代ままですわ」
「……本当にどうやってこれで喧嘩に明け暮れていたんだよ。下手すりゃ同年代よりも非力だろこの身体……」
「それはまあ知恵と勇気と美しさで」
実際は駆け引きと蛮勇と美しさであるが。
それはさておき、同様にワルキューレ全員を救出したプシュケーは一度ブリュンヒルド以外を紋章の中に戻す。
「いいのか?」
「ええ。いくらステータスが上がったとはいえ、ドラグロット相手に数が多くても有利にはなりませんもの。それに……」
ブリュンヒルドを見る。
首を傾げるその表情はまさに自分の子供の頃。
美しいと、愛でたくなる。
「貴女と二人の方が戦いに集中出来る気がしますの」
「へぇ……そりゃ嬉しいね。勝算あっての話だよな?」
「勿論ですわ。せっかく3つもスキルが芽生えたんですもの。活用させて頂きますわよ」
対個人、対軍と第一スキル、第二スキルは並んでいる。
だが、今は使うべき時では無い。
使うべきは第三スキル――対モンスター用スキル。
「一度に3つもだなんて……ここまでスキルが無かった反動かしら?」
「祝いってやつだな。ま、存分に使ってくれや……。なんせどれも――」
ブリュンヒルドの口を人差し指で塞ぐ。
ニコリと笑うと、指を離す。
「……悪い」
その笑みにどのような意味が込められていたのか。
臆した様子のブリュンヒルドだけが正解を知っている。
「私、分かりましたわ。貴女の扱いが。妹みたいなものだと思えばいいんですのね」
「誰が妹――」
ぐるんとスウェーコンを回す。
地面に打ち付け、
「『
そのスキルの名を告げた。