<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する 作:そらからり
■とある森の外
山から見下ろす景色はきっと壮観なのだろう。
どんなに深い森であっても、高くそびえる山からは全てを一望し、見通す。
常人の立ち入ることのできない森、常人の昇ることのできない山。
それらが、恨めしい。
地に這うかのように拡がる森は媚びるかのようだ。
天を衝くかのように伸びる山は見下すようだ。
森が山を見下ろすことは無い。
山が森を見上げることも無い。
その上下関係が。
世界の常識として捉えられていることこそが。
最も恨めしい。
『おいおいおいおい……どこに巨人ってのはいるんだよなぁぁぁ? 俺はてっきりよぉ、巨人ってのはこの森を草原と勘違いして駆けまわっているのかと思っていたぜ』
声が聞こえた。
その声の主は見当たらない。
ただ、スピーカーのようなものを通して聞こえる男の声であることだけは確かである。
「……はぁ。話を微塵も聞いていなかったのかしら? まさか、鼓膜まで小さくなったからとか言い訳しないわよね?」
『ハハァ。俺がお前の声を聞き逃すかよ。話を聞き流すかよ。だけどよ、確実にいるんだろ? 巨人ってのはよ。だったらよ、何で見当たらないんだ?』
声に答えたのは1人の女〈マスター〉。
高台に座り込み、弓の手入れをしながらも、視線を森の奥に向けている。
どうやったら傍らの声の主を納得させたものか……思いつかず溜息をつく。
「……巨人が隠れきれるかって話でしょう? 隠れていたとしても隠れ続けることなんか出来やしない……というか、私達から隠れているというのも変な話。まだ何もしていないのだし」
『そうだ。噂に違わぬバカでかい図体ならよぉ、隠れることなんてよぉ、出来ねえよなぁ』
そう、確かにそうなのだ。
女は……否、それ以上に女に語り掛ける男は巨人を目的にしてこの場に来ている。
巨人が確実にいると確信した上で、目的を果たしに戦力を整えているのだ。
『【巨人王】ってのはよぉ、女が取ったらどう名前が変化するのかなぁ? やっぱ【巨人姫】とかかなぁ?』
「……あんまり可愛くないわね。【殺人姫】以上に」
彼女らの目的こそ巨人系統超級職【巨人王】。
巨人になるために、現【巨人王】を狙っている。
『それでもよぉ、遂に来たぜぇぇぇ。苦節何カ月だ? 北海道に旅行に行った時よりもワクワクするよなぁ?』
「いや、北海道旅行の方が楽しかったでしょ絶対に」
興奮する男の声に対し、女は感情の起伏を示さない返答をする。
「……というか、そんなに私との旅行が楽しくなかったってわけ?」
『あぁん? なんか言ったかぁ?』
小さく呟いた声を拾えなかったのか、男が尋ねる。
「いいえ。大したことでは無いわ」
『……』
大したことのありそうな表情ではあるが、男が見ているであろうモニターに映らぬよう女は顔を地面へと向ける。
男は何かを言いたげな様子を見せたが、女に悟られることなく、
『そうか? まあ、お前がそう言うならそうなんだろうけどよ。それでよぉ、答えは見つかったか?』
「……気づいていたのね」
『ま、付き合いは長いからな』
付き合いという言葉に対し多少嬉しく思う気持ちがあるが、女はそれ以上に思考を加速させるのに集中しなければならなかった。
何故ならば彼女も巨人が見当たらない理由が分からなかったから。
もしや場所を間違えた?と涙目になりかける程には焦っていた。
少しでも森に隠れているであろう巨人を探そうと目を凝らす。
だが、ジョブによる補正があるとはいえ、肉眼では限界があったのか、ただ目を細めているのと大して変わりは無かった。
森の前をモンスターが通ったのか、小さな何かが動く。
……違和感を覚えた。
「でも森は普通の森……ん? ねえ、ちょっと。アンタの方が拡大は得意でしょ? 森の手前、ズームして見れる?」
『お安い御用だぜ……って、なんじゃこりゃぁぁぁぁ!?』
かなり昔のテレビドラマの真似をしたのか。
かなりのオーバーリアクション、大声に女は耳を塞ぐ。
「次に大声出したら射抜くから」
『悪い悪い……というかよ、何だよアレ……』
「何があったの?」
声は震えていた。
興奮からでは無い。
未知を前にして、戸惑いからくる震え。
『でけえ……でけえモンスターのはずだろアレは……』
【フォレスト・イーター】と呟く声が聞こえた。
女はそのモンスターの詳細を思い出す。
その名の通り森喰らい。
単独で【フォレストギガス】すら屠り、餌にしている程の実力のある純竜級モンスターである。
たしか大きさは30mくらいだったかな……と思い出したところで
「はぁ? え、ちょっと、何? 私がさっき見たのは森の前を通過する黒い点よ。それが【フォレスト・イーター】って、そんなわけないじゃない。だって――」
冷静さを欠いた。
直後に失敗したと後悔するが、男もまた戸惑いから気づかないようで、女に言葉を補足する。
『……合ってるぜ。今も森の前をうろちょろしてる。どうやら逸れものらしいな。あの森を知らない様子だ』
しばらくし、黒い点は森に吸い込まれていくように消えた。
『喜々として入って行ったぜ。絶好の餌場とばかりにな。……いや、アイツからしてみれば目に入るもの全部がご馳走になるか』
男は戸惑いが冷め、そしてそのまま冷静さを取り戻していた。
女とは逆に。
いつもそうだ。
男が興奮すれば女が窘め、女が冷静さを欠けば男が支える。
幼少期からそうしてきた。
北海道にて女が雪に埋もれかけた時も、男は恵まれた肉体を遺憾なく発揮して救助してみせた。
「嘘、だって、30mが小さく見えるなんて、どれだけ巨木なの……あ、そっか。巨人は隠れていたわけじゃないんだ……。巨人が隠れる程に森の木が高かったんだ……」
納得した。
してしまった。
これから踏破するであろう地が、環境だけで既に化物じみていることを知ってしまった。
『……おいおい。出て来ちまったぜさっきのモンスター。全身を刻まれちまってるよ』
男は呆れたように呟く。
その視界の中では純竜級モンスターがあっさりと殺されていた。
「どどどうするの……。あんなの手に負えないかも……」
『ま、落ち着けよ。深呼吸だ。吸って吐いて、吸って吐いて。真っすぐ見ろ。森じゃなくて俺をな?』
声の聞こえる先を見る。
小さい。
誰が見ても玩具だ。
子供の遊ぶ玩具。
それが、誰よりも頼もしく見えた。
「敵は大きい」
『お前にとってはいつものことだろ? そして俺にとってもこの世界ではいつものことだ』
「森も広い」
『広くて結構じゃねえか。俺は隠れられるし、お前も闇討ちし放題だ』
「山が高い」
『ああ。山ってのは高いもんだ。そして乗り越えるためにあるもんだ』
「つまり」
『俺達なら大丈夫ってことだぜ』
落ち着いていた。
冷静さを取り戻していた。
森を再度眺める。
広大だ。
近づけば、きっとそれ以上に巨大だと思うのだろう。
だが、それがどうした。
今更それしきで臆することは無い。
『だからよぉぉぉ。とっとと巨人を蹴散らしてよぉぉ、お前を【巨人姫】にしてやらねえとなぁぁな』
「やっぱり可愛くないわねその名前……まだ【巨人王】のままであって欲しいわ」
弓の手入れもいつの間にか終わっていた。
元より必要のないものだ。
何故ならばその弓は特典武具。
常に最高の状態に仕上がっているのだから。
「バーバヤード。まずはアンタから仕掛けてちょうだい」
『ああ。分かったぜぇぇ。アシスタ。お前はそこで巨人どもの出方を見ていろ』
バーバヤードと呼ばれたスピーカーから聞こえる男の声の主。
アシスタと呼ばれた弓を構える女。
共にフリーの準〈超級〉。
ちなみに恋愛関係においても未だフリーなままである。
いつもの敵になる奴等の紹介です
幼馴染の両片想いです
北海道は2人で行きましたがアシスタが雪に埋もれたため、バーバヤードにはあまり良い思い出のない旅行となってしまいました。雪上3倍効果も虚しく終わりました
沖縄の方がアシスタの水着が見れただけ楽しかったと思っています
逆にアシスタはスタイルに自信が無いし他の水着の女と比べられそうだしで沖縄はイマイチでした。
北海道の方がバーバヤードに助けられてカッコいいところ見れたので最高の思い出になっています
以上、本編になんの関係も(多分)ない情報でした