<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する 作:そらからり
■【自殺王】クリアント
その森は【巨人すら呑み込む森】と呼ばれていた。
本来の名は知られていない。
だが、巨人種をも容易に超えてみせる巨木が広がる森を見て、その名を否定する者はいない。
「遠近感狂うな。というか……この森を抜けるのに何日かかるんだ……?」
人間の足で踏み入ることのできる森ですら、抜けるのに数日かかるものも多い。
ましてや森は惑わし迷わす場所。
数日で済めば良いが、済まないことの方が多いだろう。
「この森。似てるね。【魔法☆少女】の儀式をやってたあの森と」
「似ている……のか? ああ、山を囲うように森が広がっているという点は同じか」
バーンマウントマウンテン。
その頂上にはドラゲイルという竜が棲んでいた。
森が餌場なら山は棲み処。
そのような生態をしている生物も多々ある。
「山を昇れば巨人がいるってことかもな」
近づけば近づく程に山頂が見えなくなる。
どころか、高さが増している気がする。
あるいは、土地由来の魔力によって実際に空間がねじ曲がっているのかもしれない。
「オーナーは巨人を見たことってある? ……私以外に」
「ん? ああ、あるぞ。巨人と……妖精種だったな」
「妖精って、巨人を全滅させたっていうあの妖精?」
妖精種によって巨人種は既に絶滅に追い込まれている。
それが世間一般の常識であり、体躯はジョブ由来のステータスに打ち勝てないという絶対的な常識の基となった話である。
「その妖精だな。とはいえ、俺が出会ったのはそんな物騒な奴じゃない。巨人と妖精……小人のカップルだったな」
「ふうん。そんなのもあるんだ……」
彼らもまた常識の範疇に存在しないツガイであった。
思考も在り方も、原動力も理解出来ないものであった。
互いへの感情だけがクリアントとワンプを動かした。
だからこそ、彼らと友情関係を結べたのだろう。
「……オーナーは、女の子は強いより弱い、大きいより小さい方が良いって思う?」
「そうだな……。俺自身が強くも無いし背も高い方ではない。精神もそうだ。おそらくほとんどの数値が平均的であり、だからこそ、俺のエンブリオはスワンプマンになったと思っている」
「平均的」
「キシリーの問いに答えるなら、強弱も大小もあまり俺の好みには関係無いな。それを求めるには俺自身が平均過ぎている」
「なら、オーナーはどんな女の子が好きなの?」
どんな女の子か、とクリアントは思案する。
あまり考えたことも無かった。
「ワンプちゃんが一番って答えてくださいよ。可愛い女の子が一番って」
「(別にいいが、キシリーを逆撫でする可能性もあるぞ)」
「うっ……それは……はい」
「俺か……。まあ外見よりも中身だな」
「……それ言う人はあまり信用するなってお母さんが言ってたよ」
まあ中身がどうとか言う人間は十中八九外見を重視しているであろうし、大概女好きだ。
「……俺に合わせられる人間。俺と並んで歩ける人間かな」
たとえ合っていなくても、並べずとも。
そうしようと、合わせようと、並ぼうと、他者を見ることの出来る人間が良いとクリアントは答える。
「外見でも中身でもなく、俺を見てくれる人が良いってのは、答えとしてはどうだ?」
「うん……そうだね。まあまあ、かな」
「手厳しいな」
「ふふ」
苦笑するクリアントを見てキシリーもくすくすと笑った。
まあまあというのは冗談も交えていたのだろう。
評価以上にクリアントに好意的になってくれたのが分かる。
「むー。良い雰囲気のところお邪魔しますけども! キシリーさんも小学生ってこと忘れていないですよね? 背が高くても、幼女枠ですからね」
「(分かっているさ。というか幼女枠って……)」
これからコンビを組むのだ。
仲は良好であることに越したことは無い。
打ち解けたところでクリアントは此度の任務の再確認を行う。
「キシリー。【巨人王】への就職条件は理解しているな?」
「うん……条件は2つあって……今回はちゃんと継承したいから穏便な方……。【巨人王】配下の巨人種10人との決闘の勝利後、【巨人王】に認められるってことだよね」
「加えて長身10m以上だ。キシリーは今、何mにまでなれるんだ?」
「えっと、30mかな」
であれば、問題は無いだろう。
【巨人王】自身の強さは未知数であるが、配下10人ならば、まだ勝ちようはあるはずだ。
何故ならばキシリーはステータスに特化した〈マスター〉。
純粋な殴り合いにおいては前衛系超級職にすら引けを取らない。
「十分だな。それで、決闘というルールなら俺はセコンドに努めよう。クランオーナーとして面倒な交渉事は請け負う。キシリーはただ戦いに集中していればいい」
「う、うん……頑張るよ」
キシリーの任務が【巨人王】になることならば、クリアントの任務はキシリーを【巨人王】にすることだ。
可能な限りの支援はしてあげたい。
自身も【自殺王】に至るまで多くの人間が関わってきた。
今度は自分の番だ。
「手順としてはまずこの森の中から巨人種を見つけ出す。話をして【巨人王】就職条件である決闘に持ち込む。そして現【巨人王】に認められる、だな」
「分かった。……でも譲ってくれるのかな?」
「うん?」
「超級職って1つにつき1人までだから。それに今の【巨人王】さんってティアンだよね。いきなり森に入ってきた私なんかに大切な超級職をくれるのかなって」
確かに。
【巨人王】は超級職にしては珍しく世襲可能なタイプだ。
決闘という点も踏まえて【超闘士】や【闘神】に近い性質を持っているのかもしれない。
武人気質が集まる可能性もあり、そこに女子供を飛び込ませていいものか……。
「ま、不安ならそれはそれでいいだろうさ」
「オーナー?」
「もしも文句を言う奴がいたら……いや、いると思う。そしたら、とりあえず戦ってみるといい」
「……いいの?」
「危なくなったら俺が止める。キシリーを止める力くらいはあるさ。これでもクランオーナーだからな。だから、巨人だ何だって偉そうなのがいたら殴って黙らせてやれ。キシリーの力はきっと通用する。俺が保証するぞ」
尤も、それ以上にクリアントが危惧しているのは巨人種の矛先がクリアント自身に向くことだ。
キシリーは同じ巨人ということもあり、受け入れられる可能性もある。
だが、クリアントは普通の人間の大きさ……巨人からすれば小人だ。
妖精によって迫害され淘汰された過去を踏まえれば、クリアントもまた同様に狙われることもあると予想していなければならない。
「……オーナー? どうしたの、難しい顔して」
「何でもない……わけでもないけどな。……もしも巨人が俺を殺そうとしたら守ってくれるか?」
「……先輩。それは無いです。幼女に守ってもらうとか、マジでないです」
「強く、なりたかったんだろう? 強いってのは弱い奴を守れるってことだ」
「魔法少女と同じだね」
「ああ。だから、キシリーの知ってる魔法少女はみんな強いだろう?」
「うん。1人を除いたらみんな強いよ」
クリアントとキシリーの頭には1人の魔法少女が浮かんだ。
どうしようもなく弱く卑怯で逃げ回ることが得意な魔法少女の姿が。
「キシリーも魔法少女だ」
そして、クリアントの知る中で最も強い魔法少女を苦戦させた魔法少女、キシリー・キシシキの名を呼ぶ。
「魔法少女は諦めない、だろ?」
「うん。そうだね。諦めないでみるよ。強くても、大きくても、それは私も一緒だ」
森へと一歩踏み出す。
その歩みは巨大な森の入り口にも満たない小さなもの。
だけど確かに踏み入れたのだ。
覚悟と決意の入り混じる、確かな一歩を。
クリアントさん、ビビった結果、森に入る前からメンタルカウンセリングを始めてしまう
とりあえず肯定しとけば大丈夫だろうと楽観的に背中を押し、案外いけてしまう