<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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Cside 巨人伝説~目撃者は殺された~ 5

■【自殺王】クリアント

 

 いくらクリアントであっても。

 いくらキシリーであっても。

 戦闘を繰り返せば摩耗する。

 精神を消耗し、体力を消耗し、時間を消耗する。

 

「……休むか」

「……そうだね」

 

 巨木に背を預けて座り込む。

 いつの間にかキシリーは元の大きさであり14mへとなっていた。

 周囲の環境が余りにも異なるため、気にならなくなったのだろうか。

 あるいは、気にしなくなったのか。

 

「(これもまた成長であると嬉しいのだけどな)」

「(ここにワンプちゃん登場したらどうなっちゃうんでしょう)」

「(……やめてくれ。ただでさえ戦闘地だ。巻き添えで俺が死んだら目も当てられない)」

 

 そういえば、打撃に関しての耐性はまだ獲得していなかったなと思い出す。

 いっそのこと、キシリーに一度殺されておくのも良いのかもしれないなと。

 

「(いや……この状況で先輩を殺せるメンタルがキシリーさんにあると思います?)」

「(あると思うんだが。……違うか。殺さないための精神を育みに来ているんだったな)」

 

 味方殺しを止めさせるためにもクリアントはキシリーを見守っていなければならない。

 ……癇癪に近い何かの正体を掴むために、死ぬことのできるクリアントが同行しているのだ。

 

「ただ歩いているだけだね」

「……? まあそうだな。ハイキングとか遠足とか……小学校だと授業の一環であったな。今もあるのか?」

「あるよ。私は不参加だったけど」

 

 キシリーは空を眺めている。

 枝葉が空を覆っている。

 さながら気分は小動物や昆虫のようだ。

 木のてっぺんまでが遠い。

 落ちている葉も冗談のような大きさだ。

 

「体力が無かったから」

 

 キシリーは会話を続けていた。

 つられて空に目をやる。

 空は青く澄んでおり、こんな状況で無ければ呑気に寝転がりたくなるほどに晴れ渡っていた。

 

「肌が弱かったから。眩暈がするから。お腹が痛くなるから。呼吸がすぐに苦しくなるから。心臓がすぐに痛くなるから。脚がすぐに痛くなるから。長く立っていられなかったから。……たくさん、たくさん理由があったんだ。出来ない理由だけがあって、出来る理由は……1つも無かった」

 

 キシリー・キシシキは現実では小さく、弱いと聞く。

 その弱さを克服するために、巨人アバターになったのだと。

 

「それに、苦しくて、痛くて、辛くなっても続けるだけの心の強さも無かった。多分、すぐに諦めちゃう。すぐに助けを呼んじゃう。私は、支えられないと何も出来なかった。要介護者だったんだ」

 

 ふふ、と自嘲するかのように笑っていた。

 乾いた笑いだ。

 何が面白くて笑っているのか。

 

 ……きっと笑うしか無かったのだろう。

 そうすることでしか自分を保てなかったのだろう。

 

「……要介護者ってのは飯を食べるのも、トレイに行くのも手助けが必要な人間のことだ」

 

 だから、その笑顔は否定しなければならない。

 心の内にある感情と同じものを引き出さなければならない。

 

「キシリーは違うだろ?」

「う、うん。流石に出来るよ。お箸もお椀も持てるし、トイレだって、夜は怖いけど1人で行ける」

「だろ? だったら違うな」

「……あの、要介護者ってのは別に言葉そのままじゃなくて――」

「誰かに言われたのか? クラスメイトか誰かに」

「――ッ。……そう、だよ。聞いちゃった。普段は色んなお話を聞き分けるのも難しいのに変だよね。その時だけははっきりと聞こえちゃったんだ」

 

 陰口がキシリーの自信を更に損なわせたか。

 本来は出来るはずのことも出来なくさせた。

 

 無理、不可能、出来ない。

 その言葉がキシリーに似合うからと。

 要介護者であると、キシリーの実力をそこに押し込めてしまった。

 

「俺も似たようなものだ。平均的って話をしたよな。何をやっても特別になれない。可もなく不可もなし。いないのと同じなんだ。いたところで特別なことを成し遂げられないんだからな」

「で、でも……出来たんでしょ? 普通のことが」

「出来た。出来てしまったんだ。だからこそ、俺は絶望したんだ。出来なければ諦めることが出来たのに。出来るからこそ、上がいることをはっきりと見させられてしまう。自分が一番にも二番にも三番にもなれないことを自覚させられた」

 

 キシリーにとってはそれでも羨ましいのだろうか。

 完全に出来ないことと、不完全に出来てしまうこと。

 そのどちらが優れているのだろうか。

 

「だから俺は諦めるしか無かった。そうすれば落胆しないからな。上を見ることを止めて下を見ることも無くて、何もしないことを選択した」

「……オーナー」

「キシリーは一度はやろうと挑戦したんだろ? 俺以上だ。もう実力を超えたことは何も成す気の無い俺と違って、何かをやろうとはしているキシリーの方が特別だ」

 

 雲が陽光を閉ざしていた。

 雨の降る気配は無いが、このままだと周囲が暗くなるのも早いかもしれない。

 

「そのままでいい。そのまま自分にないものを掴み取れるように、キシリーは頑張れ」

 

 また歩こうか。

 そう言いだそうとした時であった。

 

 震動が起こる。

 地面が揺れ、木々が揺れ、そして、

 

「――おお。ここにおったか。小さくて探すのに苦労したぞ」

 

 ソレは現れた。

 

 待ち侘びていたソレはどたどたと足音を鳴らしながら、まるで草の根を掻き分けるように巨大な樹木を曲げ、その下に座る2人を見下ろす。

 

「……巨人」

「はっはっは。それを言うならお前は小人だな。まあ良い。客人を我々は歓迎しよう。小人と、そちらのお嬢さんを歓待する準備が出来ている」

 

 巨人がクリアントに手を伸ばす。

 握手を求められているのだろうかと手を返すと――潰された。

 

「――っ!?」

「おっと。悪いな。加減をミスっちまった。いかんな。小人は脆くていかん」

 

 はっはっはと先ほどまでと同じように巨人は笑う。

 まるで悪びれていない。

 相手を間違えれば……否、誰であろうと戦いに発展しかねない言動であるが、

 

「そうか。なら悪いがそのまま叩き潰してもらえないか? このままだと何時同じように殺されるか分からないからな」

 

 相手も相手であった。

 

「……は?」

 

 潰された腕をぷらぷらと垂らしながら自分を殺せと言う男に対し、巨人は固まる。

 

「聞こえなかったか? 会話は出来ているから俺の声はそこまで小さくは無いと思うんだが」

「いや……聞こえてはいるが……叩き潰せというのは。殺せということか?」

「ああ。俺は死ぬことで死因に対する耐性が出来るんだ。問題無い、すぐに生き返るから」

 

 巨人は数秒の逡巡の後に拳を振り上げる。

 

「本当にいいんだな? そっちのお嬢ちゃんも後で文句言うなよ……」

「言わないさ。もう腕を潰したんだ。同じことだろ」

「お、オーナーだから大丈夫。えっと、ごめんなさい」

 

 クリアントは装備を外し、どうぞと折れていない腕で示す。

 巨人はまだ躊躇う様子があったが、覚悟を決めたのか、拳を振り下ろした。

 高い位置から振り下ろされた拳は多大なエネルギーを秘め、瞬時にクリアントを肉塊へと変える。

 

「……ああ、やっちまった。なんてことだ……王に何て言えば……」

「客人を連れてきたと言えばいい。目的通りだろ?」

 

 頭を抱える巨人の足にクリアントは手を置く。

 

「っ! ほ、本当に生き返ったのか!?」

「ああ。それが俺の能力だ。耐性も付いたし、これでしばらくは潰される心配も無くなる。……ああ、名乗るのを忘れていたな。俺はクリアントだ」

「キシリー・キシシキです」

 

 潰れた腕すらも復元していることに巨人は目を丸くしている。

 ぱちぱちと瞬きをし、それが幻覚の類でないことを理解したのか、

 

「……我はフォーカー。クリアントとキシリーだな。資格ありしキシリーと、実力ありしクリアント。お前達を改めて歓迎する。そして案内しよう。我らが王……【巨人王】の下へ」

 

 巨人フォーカー。

 40mの巨人はクリアントとキシリーを抱えて歩き出した。

 

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