<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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Cside 巨人伝説~目撃者は殺された~ 6

■【自殺王】

 

「(先輩。私、思うんですよ)」

「(唐突にどうした)」

 

 背丈が違えば歩幅も違う。

 大きいということはAGIに関係なく、大きく踏み出すことが出来る。

 流れていく景色を見ていると、ふとワンプが思念を送ってきた。

 

「(前の2つのお話が思った以上に長くなってしまったから今回は短くすべきだと思うんですよね。特に回想とか)」

「(お前は何を言っているんだ?)」

「(私と先輩の会話パートだけで十分じゃないですか? 後ろでキシリーさんが【巨人王】になるのをダイジェストでお送りしましょうよ)」

「(急に【巨人王】になられたら俺も驚くわ。というか俺が付いてきた意味がないだろ)」

 

 いつもの如くメタが織り交ぜられた会話をしながらキシリーの様子をうかがう。

 呆けた表情でクリアントと同様に景色を眺めているように見えるが、その内情はどうなのだろう。

 いったい何を思い、何を想い、何を背負っているのか。

 小学生程度の年齢の少女がウチデノコヅチに願わなければならなかったものとは何なのだろう。

 

「(ウチデノコヅチ、か)」

 

 うちでのこづち。

 キシリーのエンブリオであるこの小づちのモチーフは一寸法師に出てくる宝物である。

 いわゆる願いを叶える魔法のアイテムであるが、『猿の手』や『大きくて重いつづら』のような代償やリスクのある代物ではない。

 願いを叶えるだけのものであり、善悪の思念は関係ない。

 元の持ち主が鬼であったことも含め、願いを叶えるだけのものなのだろう。

 

「(だからこそ……このエンブリオにキシリーの心の内が隠されているんだろうな)」

 

 エンブリオからパーソナリティを推測することは褒められたことではない。

 だが、心理的に彼女を成長させるのであれば決して無視できる要素ではない。

 

「(そうだ……何故キシリーは一寸法師自身でなくウチデノコヅチをエンブリオのモチーフとした? 他にもサイズを変えるだけならば幾らでもモチーフとなりえる逸話はある。一寸法師が大きく成ることだけを願ったから? ……違うな。一寸法師の傍には――)」

「オーナー」

 

 思考に身を置いていたクリアントを呼ぶ声があった。

 

「着いたみたいだよ」

「……ん。そうか。随分と早かったな」

 

 巨人フォーカーが走り始めてそれほど時間は経っていないはずだ。

 だが、マップ上では森の中央付近にまで進んでいた。

 山も先ほどまでよりも近くなっている気がする。

 

「資格ありしキシリーよ。未だ尋ねていなかったな。お前は王になりたいか?」

「……」

 

 ふとフォーカーは立ち止まる。

 眼前にはフォーカーら巨人の棲み処と思わしき建築物が並んでいる。

 これらが森に隠れて見えていなかったのか。

 ……いや、これまで巨人自体があまり発見されていなかったことを鑑みるに秘匿性が高いのか。

 

 と、のんびりと踏み入れてもいない巨人族の棲み処を眺めている間にもフォーカーの言葉は続く。

 

「我ら巨人は王あってのもの。お前が【巨人王】になるのであれば、我らはお前の下に生きねばならない。資格はあれど覚悟の有無は別だ。……さて、その表情からは覚悟は有ると見ていいのだな?」

 

 クリアントは思わず振り向いていた。

 会話の流れからキシリーは覚悟が決まっていないものかと思っていた。

 なにせ、キシリーだ。

 このような時、気後れしてしまうのが彼女のはずだ。

 

「……キシリー」

 

 彼女は笑っていた。

 何が面白いのか。

 いや、そのような笑い方ではない。

 自然と零れてしまった笑みのような、感情が漏れ出た笑い方だ。

 

「……良し。ならば通そう。資格と覚悟ありしキシリーよ。試練は明日。お前と同じく試練を受けるべく巨人族の精鋭が闘技場にて待っている。そして能力ありしクリアント……」

「俺か。俺はセコンドというか立会人みたいなものだ。同席させてもらえると助かるんだが」

「無論だ。森の外から来たキシリーは精神面において巨人族の精鋭に劣るであろう。ありはしないと思うが、対戦前に圧をかけてくる者もいるやもしれぬ。しかと、守るのだ」

 

 初対面の印象からがさつな男だと思われたが、中々どうして気配りも出来るようだ。

 

「っと、待ってくれ。流してしまいかけたが【巨人王】ってのは巨人族に縛られるのか? 時間と場所両方?」

「……これ以上は言えぬ。全てが明らかになるのは資格と覚悟ありしキシリーが【巨人王】となった暁だ」

 

 一部の超級職には関連する種族全体の王として扱われるものもあると聞く。

 実力や性格次第では収まるのだろう。

 だが、キシリーには無理だ。

 クランの一員として、ここに留まるようなことになれば【巨人王】を辞退せねばならなくなる。

 

「……だが、まあ。そう不安がるな。決してお前達が危惧するようなことにはなるまい。ああ、そうだ。きっと時代は変わるのだ」

 

 それきり無言となったフォーカーはクリアントとキシリーを抱えて再び進みだした。

 

「直に門を潜る。頭を……おっと、ぶつける心配は無かったな」

 

 はっはっはとフォーカーは笑う。

 それが無理しているのはクリアントにも分かった。

 先程の彼の言葉の真意はともかく、この【巨人王】の試練は巨人族にとっても分岐路に等しいのだろう。

 

「フォーカー……。悪いが下ろしてくれないか?」

「どうした。運び心地が悪かったか? 悪いな。許してくれ。小さい人間を運ぶのは久しぶりなのだ」

 

 岩門に着き、そのまま潜ろうとしたフォーカーを止める。

 

「そうじゃない。せっかくの入国だ。自分の足で踏み入れたいんだ」

「……そうか」

 

 ニヤリと笑い、フォーカーは2人をそっと地面に下ろす。

 そう時間は経っていないはずなのにやけに地を踏む感覚が懐かしい。

 

「能力ありしクリアントよ。お前、分かっているじゃないか」

「仲間にそういう奴がいたからな。多少は影響を受けたんだろう」

 

 巨人の国に行くと決まった時、かなり羨ましがられた。

 自分も行くと言ってきかなかった。

 

「(……まあアイツはアイツで訳の分からない行き先だからな。納得したあたり、プシュケーの采配も大したものだ)」

「……高い」

 

 岩門を見上げるキシリー。

 フォーカーは冗談めいて頭をぶつけるなと忠告していたが、クリアントはもとより、キシリーももとより、40mもあるフォーカーすらも届きそうにない。

 

「俺が生まれた頃よりあったものだ。先代【巨人王】様が元は大工系統の人間でな。【巨人王】となった記念に己が身丈に合わせて作られたという話だ」

「……ということは、50m以上はあったのか」

 

 何とも巨大であったようだ。

 流石は巨人の王。

 

「……まあ、先代様も今代様も、そして次代以降も。いずれは歴史の中の一項だ。我ら巨人がそうであったようにな」

 

 よく目を凝らすと、岩門には小さく欠けた箇所があった。

 もしかすると先代はこの門に頭をぶつけていたのかもしれない。

 先程のフォーカーの冗談はそれをもとにして話していたのだろうか。

 

「これから先、俺達が踏み入れる巨人の国もそうだ。いや、どの街や国だってな。歴史と先人が作り上げてきてそこにある。だから知って残しておかないといけないんだろう」

「……能力ありしクリアント」

「だから、早く見せてくれよ。勿体ぶらないでな」

「……ふはっ。そうだな! ああ、案内しよう。今からお前達が歩くのは【巨人王】が作り上げ、巨人が培った誇らしき国である。小人がこの国を訪れるのは中々あることではない。存分に楽しんでいってくれ」

 

 分厚い岩門を潜り抜け、少しの木々が視界を阻むのをフォーカーが押しのける。

 そうしてクリアント達の目に飛び込んできたのは――

 

「文明の発達が過ぎるだろ。こんな森の中で」

 

 魔導式四輪車が走り、露天商の主が声を張り上げ、整備された道路を歩く人がいる。

 やけに美味そうな臭いが鼻腔をくすぐった。

 味覚は大して変わらなそうだから安心だ……などと感想を思い浮かんでいる場合ではない。

 

「……もっと、こう、世界と隔絶されたとか、隠遁生活をしていると」

「ふむ……まあ気にするな。サイズが違うだけで、我らとて同じなのだ」

 

 言われてみれば当たり前のことをフォーカーが返す。

 

「小人は小さいだけ。巨人は大きいだけ。文明も文化も、取り入れるだけの感性はそこに差等無いのだ。差が出るとすれば地域制なのだからな」

 

 露天商から肉串を買い、フォーカーはクリアント達に渡す。

 サイズは巨人規格であり、肉の一片で十分なので残りはアイテムボックスに仕舞う。

 

「……闘技場と言っていたな。ということは」

「ああ。機能としても十全だ。怪我をしても問題なく治る。死ぬ心配もないぞ」

 

 もう森なんか取っ払ってしまえばいいんじゃないかと。

 思ったが流石に口には出さなかった。

 

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