<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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Cside 巨人伝説~目撃者は殺された~ 7

■【自殺王】クリアント

 

 脂の焼ける臭い。

 油が漂い臭う。

 

 そのどちらもが、この巨人の国が如何に発展した文明的な場所であるかを示す。

 アルター王国や黄河帝国さながらに食文化が豊かであり。

 ドライフ皇国さながらに機械文明が発達しており。

 カルディナやグランバロアさながらに商売に活気が溢れている。

 残念ながらレジェンダリアに学ぶところが無かったというのがクリアントの感想だが、まあ自由であることに違いは無いだろう。

 森の中にありながら自然を感じさせないのだから、ここが本当にレジェンダリアなのか疑わしくもなる。

 

「……この国の広さなら歩いた方が早いんじゃないか?」

「はっはっは。まあ言うな。何事も娯楽だ。運転をしたい。その欲求に素直な奴が乗っているのだ」

「……お店だけどお金は払わなくていいんだね」

「生憎と通貨の価値を決めていないものでな。払っても払わなくても物を買うことが出来るのだ。お前達の文化ではチップというのだろう?」

 

 微妙に違うが、訂正はしないでおいた。

 金銭が気持ちというのならば間違ってはいない。

 問題は、

 

「金銭が必要無いのなら働かない者も出るんじゃないのか?」

 

 金銭が必要なのは仕事に対する報酬が必要となるから。

 働けば働く程に報いは生じ、働かない者は何も得ることは出来ない。

 働かざる者食うべからずとはまさに。

 

「それはない」

 

 だが、フォーカーは断言する。

 

「我ら巨人は常にこの国の為に動き、働き続ける。そうでなければ……――でいられないからだ」

「……ん?」

 

 当然ながら40mのフォーカーとクリアント達の間には距離がある。

 フォーカーが声を張り上げてくれているおかげで会話は成立しているが、呟くように声を伏せてしまえば届かない。

 

「今、なんて――」

 

 聞き返そうとしたクリアントの身体が持ち上げられる。

 キシリーも。

 

「さて、おしゃべりはここまでだ。まずは資格ありしキシリーを王に会わせる。資格は条件に過ぎない。条件を満たしたならば、次は手続きだ」

 

 王……巨人王は、つまりはこの国を統べる存在であり、次代につなぐために此度の儀を取り行おうとしている者。

 

「……現王は寿命なのか? まだ生きているにもかかわらず次代を選定しようだなんて」

「まあ、そうだな。王としては寿命というべきか。限界なのだ」

 

 寿命、限界。

 生物としてではなく王として。

 その意味は――

 

 

 

 

 ほどなくして案内されたのは、王の座というにはみすぼらしい場所であった。

 暗幕の張った、あるいはテントのような造り。

 すぐにでも片付けられ、すぐにでも造ることのできる建造物とも言えない場所。

 これまでこの国の発達した文明からしてみれば違和感を覚えるものであり、更には、

 

「……小さいな」

 

 最たる特徴として、普通の人間サイズであることであった。

 

 今の14mの大きさのキシリーですら中に入ることは叶わず、クリアントのみが通されそうな程度の大きさ。

 巨人の国に似つかわしくない……そも、その全てが巨人の王がいるには相応しくないものである。

 

「ああ、そうか。資格ありしキシリーにも小さかったな。ふむ。どうもサイズ感が合わない」

 

 フォーカーは顎に手をやり、しばし悩む。

 

「……まあ、良いか。王に出てきてもらえばすむ話だ」

 

 と、テントの外にある鈴を鳴らす。

 鈴もまた巨人サイズであり、ガランガランと大きな音が鳴る。

 涼やかでもなく和やかでもない。

 

「はいはーい」

 

 と、テントの中から声が聞こえた。

 ……子供のような中性的な声であった。

 

「今行くよー」

 

 その言葉の後に出てきたのは、やはり声の印象通りの人物。

 10代半ば程だろうか。

 ようやく大人になりかけてきたかという程の少年。

 クリアントよりも目線は下の、普通のティアンがテントから出てきた。

 

「ん……、ああ。そうか。森の外から来たんだね。巨人と、それに普通サイズの〈マスター〉さんか。ということはそちらのお嬢さんが巨人王選定の儀に挑むってことでいいのかな? 君は付き添い?」

「ああ。合ってる……が、俺達の予想は外れていてな」

「【巨人王】なのにどうして小さいの?」

 

 名乗るよりも先に疑問が口に出た。

 

「……ま、そうだよね。気になるよね」

「王よ。……資格ありしキシリーは旅で疲れた様子。まずは挨拶のみに」

「ああ、そうだね。君たちはそうだよね」

 

 フォーカーの言葉に少年は頷いた。

 

「ようこそお客人。僕こそが現【巨人王】ゼロムス、さ。安心して欲しい。これでも巨人。これでも巨人の王なのさ」

「俺はクリアント。ワンプという相棒がいるが今は俺の中に隠れている。機会があれば挨拶させよう」

「私はキシリー・キシシキ、です。えっと、【巨人王】になりにきました」

「クリアントにキシリーだね。うんうん。それにまだ姿は見えないけどワンプか。えーと、そうだね。巨人達の目も口も五月蠅いし、今日は挨拶だけでいいかな? 僕の今の身長も、【巨人王】も巨人の国についても、どうせ次代が決まれば分かることだ。明日、君が儀で勝ち抜けばいいだけさ。うん、じゃあね」

「……それでは納得できないな」

 

 早口でまくし立て、テントの中に戻ろうとするゼロムス。

 クリアントは当然引き留めた。

 

「ジョブ自体にデメリットのあるものならキシリーは辞退させなければならない。今のお前のその伸長が【巨人王】になったからなのだとすると、キシリーが望まずとも強制的に縮小するのだろう?」

「……んー。答えにくいことを真正面から聞くね」

 

 ゼロムスは頭を掻く。

 その視線は常にフォーカーへと向けられていた。

 何かを警戒するかのような視線。

 表情こそ苦笑しているが、その目は全く笑っていなかった。

 

「王よ」

「分かっているよ。分かっているさ。だけど、このままだとキシリーは帰ってしまうさ。君らとしてもそれではいけないだろう?」

「……」

「ま、僕だって君たちの王だ。だからあんまり威厳の無いことは出来ないさ。たまには王らしく君たちよりも僕の方が立場が上だってことを示させてもらおう」

 

 そう、前置きをし、

 

「フォーカー。下がるんだ」

「……」

「二度は、言わないよ?」

「ならばこちらからも忠言を。伝えすぎて資格ありしキシリーを帰らせぬように」

「それこそ愚かな忠言さ。分かり切ったことを言うなよ。そも、このままだと君たちの中から【巨人王】を選ばなければならなくなるんだぜ?」

 

 フォーカーは驚くほどに静かな足音で去って行った。

 

「全く、五月蠅くて敵わないよ。まだ僕が王になった時は静かだったのに、この大きさになった途端にあの態度だ。やっぱりある程度は残しておけば良かった」

「……やはり小さくなったのか」

 

 それこそが【巨人王】のデメリットというのか。

 巨人なのに。王なのに。

 

「安心して欲しい。これ自体は【巨人王】のデメリットというよりも、厳密にはスキルのデメリットだ。アクティブスキルだからね、使わなければいい話だし――」

 

 ふと、ゼロムスはクリアントとキシリーの左手の紋章を交互に見やる。

 

「多分、君たち〈マスター〉は死んだら元に戻る。……全てね。これは他の巨人たちは知らないことだろうし、知ろうともしないことだろうけど。でも、ああ、そうか。それなら余計に好都合だ。胸がすく思いだ」

 

 フォーカーが去ってからのゼロムスは年相応の明るい表情へと戻っていた。

 

「……巨人と仲が悪いのか?」

「仲が悪い。……そんな関係ではないよ。良いとか悪いとか。ま、単純に彼らは僕無くしては存在できないから奉る他無いだろうけどね」

 

 そのわりにはテントだ。

 神殿や城のような建造物でなく。

 

「……ああ、これ? はは、まあしょっちゅう大きさが変わっていたからね。その度に家を建て直すのは非効率だったから、いっそのこと簡略化したんだ。資源の無駄遣いはいけないことさ」

 

 その通りであるのだろうが、それで良いのだろうか。

 王になるからには素質と技量、努力が必要であろう。

 それなのにこのような立場に甘んじている。

 

「さ、話を戻そうか。【巨人王】について語れることは少ないさ。でも、決してキシリーに不利益に成ることは無い。それは保証しよう。……それだけは保証出来るさ。どっちか《真偽判定》は?」

「俺は無いな」

「私ももっていない」

「……ま、僕の言葉を信じて欲しいさ」

 

 気になることを全て尋ねた。

 巨人たちが【巨人王】無くしては存在できないとはどういうことか。

 【巨人王】は何故小さくなったのか。

 国の成り立ちについて。

 

 ゼロムスは全てに対して同じ解答をする。

 

「うん、ごめん。まだ答えられない」

 

 幾つかの質問を重ねるが返答は同じく。

 

 ようやく答えてもらったのは、

 

「【巨人王】になったら強くなれるの?」

「うん。大きさに合わせてステータスが上昇するパッシブスキル《臆せよ我が体躯》がある。……過去の記録に似たようなUBMがいたらしいけど、それを参考にしたのかな。相対する敵よりも大きい程にステータスが上がるのさ。ちなみに下がることは無いよ」

 

 この答えに辿り着くまでにも百に近い質問をしており、クリアントもキシリーもやや疲れていた。

 フォーカーが言うように長旅でもある。

 徐々に、『まあ【巨人王】に就けばわかるって言ってるんだからさっさと明日を迎えればいいか』という気持ちになっていた。

 実際に既に夕暮れとなっており、ゼロムスも目を擦っている。

 

「……悪いね。明日の為に幾つか作業をしていたから僕も疲れてきたさ」

「いや、こちらも悪かった。考えてみれば他のジョブなんて就かないと分からないことも多いんだ。ロストジョブなんてその最たるもの」

「はは、【巨人王】はロストしていないけどね」

「教えてくれて、ありがとう。強くなれるって分かっただけで十分だよ」

「うん。キシリー。明日は是非とも頑張って」

 

 去った後にフォーカーが手配していたのだろう。

 ゼロムスが呼び鈴を再び鳴らすと、やや小さめの女巨人が数人現れ、宿屋らしき建物へと案内してくれる。

 クリアントには大きすぎるベッドであり、枕が標準のベッドサイズだ。

 

「同室で悪いな」

「ううん。オーナーは私の護衛代わりでもあるから。えっと、ワンプちゃんはまだオーナーの中?」

「……巨人ばかりで落ち着かないんだとさ。俺のことは気にしなくていい。明日の為にゆっくり休むんだ」

 

 少しばかりの仮眠となるだろう。

 ログアウトするなら食事とトイレの時間程度か。

 

 交代でリアルの用事を済まし、クリアント達は翌日を迎えた。

 

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