<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する 作:そらからり
■【自殺王】クリアント
此度のクリアントの役割としてはキシリーの相談役兼セラピスト兼セコンド兼護衛兼交渉役……等々、兎に角キシリーが【巨人王】の儀に集中できるようにそれ以外の一切を取り仕切ることである。
そのため必然的に彼女の傍に要ることが求められ、当たり前のように寝室さえ共にしているという聞く者が聞けば視線が冷たくなるような事態も招いてしまっている。
ともあれ、クリアントにもキシリーにも互いへのその手の感情は無く、年齢が離れているが故のある種の父性すら芽生えかねないクリアントであったが、だからこそ、一層にキシリーを【巨人王】に就かせたいという気持ちは強くなった。
それはクャントルスカを【魔法☆少女】に、フィリップを【探検王】に就くための手伝いをしていた時よりも上である。
なによりも今回は保護者の意味合いもあったために、そしてあの時よりもクリアントが強くなっているがために、芽生えた気持ちだ。
「(俺も【自殺王】に就けたことで余裕が出来たんだろうな……)」
自身が超級職に就き、数々の強敵と渡り合い、死んできたことで強くなったと実感している。
それに、キシリーはクランの幼女組の中でも、面識が少ないからこそ互いの苦手意識や悪感情も少ない。
これが夢味であったならばクリアントを常に睨んでいただろうし、妹妹ならばクリアントは気が休まらなかったであろう。
事前にプシュケーからキシリーの負の面を聞かされていたとはいえ、ここまでの会話が上々であったこともクリアントに自信を持たせていた。
キシリーとは仲良くなれたし、このまま巨人達との決闘で勝ち抜けば順当に【巨人王】に就けるであろう、と。
そしてキシリーは心の闇が晴れ、なんやかんやで今後は楽しくデンドロをプレイし、現実世界でも明るい人生を送ることが出来るはずだ。
そんな、他者どころか自分のことであっても、どうみても楽観的過ぎる思考が過ぎるクリアントの予想は……やはり裏切られることとなる。
「オーナー、行ってくるね」
さて、決闘当日。
巨人10人との決闘に勝利するという就職条件はどうやら闘技場の中においても有効なようだ。
此れまでの超級職の就職条件としては易しい。
あるいは、巨人であることが前提な故であろうか。
「ああ……思う存分力を振るって来い」
キシリーは闘技場の結界内に入り、クリアントは【巨人王】ゼロムスの座る王座の横に置かれた簡素な折り畳み椅子に案内される。
とはいえ、王への献上品でもあるのだろうか、用意された食事や飲み物は最上位のもの。
なにより、ゼロムスに合わせたサイズであるのが嬉しいことであった。
闘技場には国中の巨人が集まっているのだろう。
街路を歩いた際に見かけた巨人も中にはいた。
「やあ。昨日ぶりだね。良く眠れたかい?」
「キシリーの護衛だからな。良く眠るわけにはいかない。元々徹夜は得意な方だ。多少眠りが浅くとも数日くらいは活動できる」
「そう。それなら何よりさ。今日はキシリーの晴れ舞台、さ。良く見て上げるといいさ」
おかしなことを言うものだとクリアントは眉を潜めた。
まるでキシリーが勝ち続けることが当たり前だという言葉。
クリアントはキシリーのことを知っているが、ゼロムスは昨日会ったばかり。
よく分からない外部の人間に【巨人王】の座を明け渡すことになるが……それでも良いのだろうか。
「……再度聞くが、【巨人王】というのは何なんだ? 巨人の王……それだけではないだろう。王が巨人で無い時点で破綻している。それに、種族単位での超級職に外の人間を普通は受け入れない……余程切迫していなければ、な」
吸血鬼系統超級職である【鮮血帝】は吸血種の減少により一時ロストジョブとなり、〈マスター〉の増加によって再び転職の試練が解禁となった。
巨人族も同様か?
否、そのような情報は聞かされていない。
巨人族10人との決闘という、11人以上の巨人族がいれば満たされる就職条件。
この国でみてきた巨人族は普通の国程多く無いにしろ、100は超えているはずだ。
巨人の国の中だけで完結できる話であり、キシリーをその輪の中に入れる必要はない。
むしろ、入れることこそが危険要素足りえる。
「……クリアントは【巨人王】の就職条件は知っているさ?」
「巨人族10人との決闘に勝つと聞いている。キシリーならそれも容易いだろうと――」
「違うさ。巨人族10人との決闘の後に認められる。勝敗なんて大した価値じゃないのさ。要は、巨人達が自分の王に相応しいか見極める。そんな、茶番めいた儀式なのさ」
随分と卑下する言い方である。
まるで、ゼロムス自身が【巨人王】や巨人の国を認めていないような物言いだ。
「だから、キシリーが強いとか弱いとか別にどうだっていいのさ。勝つというならそれでもいい。要は、巨人であるかどうか……大きいかどうかだけなのさ。彼ら巨人たちにとって重要なのはそれだけさ」
「大きいかどうか……」
おや、とクリアントはゼロムスの言葉に違和感を覚える。
『彼ら巨人たちにとって』という、自分は関係無いという言葉。
これは王とその配下という括りであるからというのは些かニュアンスが違う気がした。
もっとそれ以外の……
「ほら、もうすぐ決闘が始まるさ。巨人たちはそれぞれ認め方がある。さっきは強さがどうでもいいなんて言ったけど、やっぱり強さが無いと認めないなんて考え方もいるさ。彼もその1人」
キシリーの前に立つ巨人は、キシリーよりも一回り大きな男であった。
全身に金属鎧を纏い、巨大な盾を構えている。
「いきなり面倒な奴に当たっちゃったさ。彼の名前はキューナイン。自身を勇敢と謳う巨人の戦士さ。ま、得意なのは盾を使っての防御なんだけど」
「ふむ……」
自分であればあの巨人をどう攻略するかクリアントは考える。
爆発も毒も妖刀もあの鎧や盾を貫けるとは思えない。
パルペテノンや【褥】での持久戦に持ち込めば勝てるかもしれないが、その間に何回殺されるだろう。
「安心して欲しいさ。キューナインが対戦者を認める条件は彼をあの場から動かすこと。……重量増加のアイテムも使っているからそれなりの力が必要になるけど」
「それってどのくらいの力が必要なんだ?」
「そうだね……STRでいえば6000~7000くらい? 少なくとも純竜級は必要だね」
クリアントのSTRは漸く3000といったところ。
かりに挑んでいたら全く動かなかっただろう。
「そうか――」
キシリーがキューナインの前に立つ。
そして、拳を振り上げ、
「――なら簡単だな」
キューナインを闘技場結界まで吹き飛ばした。
「……は?」
キューナインの盾と鎧が形を崩していく。
耐久値を超えてダメージを算出したのだろう。
持ち主自身も盾と鎧の残骸に埋もれ、立ち上がることは無い。
「そういえば巨人族というのはステータス自体は普通のティアンの範疇で、【大巨人】などでステータスを上げているんだったな。だいたい平均としてどのくらいのステータスなんだ?」
「……STRとEND、それにHPに偏って5000くらいさ。他は2000程度」
やはり、とクリアントは納得する。
多少はステータスが高い傾向にあるが、それでも上級職の域を出ない。
ならば【魔法少女】シリーズの中でも屈指のステータスを誇る【魔法少女θ】を据えているキシリーが負けるはずが無かった。
「ステータスは見えなかったのか?」
「……巨人族もまたジョブに恵まれない種族さ。《看破》が付くようなジョブに就ける者すら一握り。だから、僕はキシリーが見た目通りの強さしかないと踏んでいたのさ」
子供で、女。
だから弱いと判断した。
「だけど、それなら好都合さ。これなら間違いなく巨人族全員に認められる。強さ弱さは関係なくとも、強いというだけで認められることもある。巨人なんてそんな単純なものなのさ」
程なくして2人目の相手もキシリーは下した。
認める条件は多々あるが、ステータスのごり押しでいけるものばかりのようだ。
「だから、今なら言えるさ。クリアント、君は【巨人王】が何なのか知りたがっていたね。キシリーにとって害あるものなのか。そして、巨人族との関係性を」
「……ああ」
2人目の巨人族の相手が結界の外に出され、3人目が入る。
……おかしい。
先程から、キシリーの相手ばかりが結界内に入る。
何故だ。
何故、キシリー以外の儀に参加する者が結界の中に入らない。
いや、他の試練に参加する者はどこにいるのだ。
「探しても見つかるはずないさ。今回の決闘はキシリーだけ。10人の決闘相手は儀の為だけに用意された巨人族。彼らは【巨人王】を目指してはいない」
クリアントの視線に気づいたのか、ゼロムスはそう教えてくる。
「キシリーがこの森に入った時点で巨人族は歓喜したさ。なにせ、この国の誰もが【巨人王】にならなくて済むのだから」
「……巨人の王なのにか。必要なんだろう、巨人が存続するのに」
「ああ、そうさ。だけど必要だからといって成りたいわけじゃないさ。だって――」
ひゅん、と風を切る音が聞こえる。
どこかから、あいたっという声がした。
巨人族の1人だろうか。
首を抑えて首を傾げている。
「――【巨人王】は巨人の奴隷なのさ。巨人が巨人で在るために必要な生贄。そんな存在に誰も成りたがらないさ」
その言葉の直後であった。
ぽん、というやや間の抜けた破裂音と共に、首を抑えていた巨人が爆発したのは。
決闘は速攻で終わらせる
なにせ今章においてほとんど関係の無いことだから
どうでもいいけど、幼女組に囲まれて目隠ししてるバウム君の図が浮かんだので、どこかで出したい