<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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Cside 巨人伝説~目撃者は殺された~ 10

【自殺王】クリアント

 

「さて。いきなり2つのストックを使わされたわけだが……」

 

 3回目の肉体創造。

 これで残りは7回。

 

「咄嗟に武器を捨てて正解だったな。弾倉切れを待っている場合でも無いだろうから」

 

 眼前には鈍色のヘリコプター。

 細かく言えば、全長1m程の大きさのラジコン。

 

「十中八九エンブリオ。どこかに操縦士がいるのは間違いないだろうが……どこだ」

 

 周囲を警戒する間にも、闘技場の外から矢が、そしてヘリコプターの弾丸の嵐が犠牲者を生み出している。

 

「……矢の方は仕組みが分からない現状、耐性は作れそうにはないが」

 

 アイテムボックスから拳銃を取り出し、自身のこめかみに当てる。

 躊躇なく引き金を引き、自殺した。

 

「これでヘリに対してはアドバンテージが取れる」

 

 ラジコンヘリの武装は機関銃のみ。

 《自殺志願》で耐性を得たクリアントにとっては、豆鉄砲のような弾丸は文字通り威力も豆鉄砲以下となった。

 

「キシリーは……巨人たちに隠れて見えないな」

 

 どこから飛来する矢に対抗しようと武器を振り回す巨人。

 あるいは盾や鎧で身を固める巨人。

 混乱し、走り回る巨人。

 図体だけはデカい彼らにより、闘技場内は非情に慌ただしいものとなっている。

 

 ならば、ラジコンヘリだけでも倒すかと思うが、クリアントの武器はいずれも周囲を巻き込みかねないものばかり。

 マッドラップスを装着した状態でうっかり巨人に踏まれようものなら、どちらが巨人を襲撃しに来ているのかもわからなくなる。

 

「……巨人が倒れるペースが早いな」

 

 クリアントよりも遥かに巨大な巨人に、頭上から降り注ぐ矢がどれだけ命中しているのか分からない。

 だが、そう長くない間隔で巨人が地に倒れていることから、敵の命中精度は相当なものであると測り知れる。

 

『おいおいよぉ、どうなってんだよてめえの体はよぉ。死んだと思ったら生き返って。そんでもって攻撃が効かねえとかよぉ、“七死変貌”の親戚か何かかぁ?』

「生憎とそんな物騒な名前の親戚はいないが……それよりも何の意図があってこんなことをしている?」

 

 鈍色のラジコンヘリから男の機械音声が聞こえる。

 いや、スピーカーを通した声か。

 ともかく、生身の声ではないことだけは確かだ。

 

「巨人に恨みでもあるのか?」

『いいやぁ? 別に俺は巨人なんかどうだっていいぜ。俺がよぉ、そしてアイツが用があるのはよぉ、【巨人王】ただ一人だけだ。ああいや、別に個人はどうだっていいんだっけか。巨人どもを皆殺しにするからなぁ』

「……超級職目当てか」

『そうさぁ! 同じだろ? てめえらと俺らの目的は』

 

 アイツとラジコンヘリの声は言った。

 少なくとも2人以上が巨人を襲撃している。

 

「……同じなわけ」

『正式な手順とか、邪道だとかはよぉ、てめえの価値観でしか無えんだよ。じゃあ何だ。運悪く事故にでもあって空席になった超級職なら喜んで就けるのか? 前任者に少しでも悼むことはあるのか? 違えよなぁ。これは俺にとっての王道。正当なる真っすぐな道だ。アイツを【巨人王】にしてやるためなら、立ちはだかる壁は幾らだって取り除いてやるぜ』

 

 現【巨人王】も、巨人も障害物であると。 

 だから排すると。

 ラジコンヘリの声は言い切る。

 

「諦める気は無いということか」

『それはこっちの台詞だなぁ。……なあ、そっちこそ諦めてくれねえか? 見たところ、あの嬢ちゃんを【巨人王】にしたいんだろう?』

「……そうだ。そのためにここまで来た」

『もう十分に大きいじゃねえか。それに、強そうだ。【巨人王】なんて無くたって別に構わないだろ。そんならアイツがなったって――』

「キシリーは強くなろうとしている。彼女なりに必死に戦っている。だから俺はキシリー・キシシキを【巨人王】にする」

『……引く気は無えか。交渉決裂だな』

「端から交渉はしていないけどな」

 

 違いない、とラジコンヘリからくつくつと笑う声が聞こえる。

 不思議だ。

 旧友と久しぶりに会話したかのような気分になる。

 何故か。

 

 それは、

 

「そちらも事情があって必死なことは分かった。相容れないことも、な。だから全力で相手しよう」

『いいねぇ。漢らしいじゃねえか』

 

 ラジコンヘリが大きく旋回した。

 一度は見失うも、すぐにその姿はクリアントの目の前に現れる。

 

「機関銃はもう効かな、い……!?」

 

 再度見えたラジコンヘリにはもう機関銃は備わっていない。

 そこに見えたのは別の武装。

 

『武器が1つだけなんて言ってねえよなぁ。小さくたってこいつも威力は折り紙付きだ』

 

 ラジコンヘリがクリアントの頭上へと舞い上がる。

 途中でその武器は落とされる。

 

「……投下爆弾なんて卑怯だろ。……『――」

 

 周囲を巻き込まないようにと頭を巡らせていたクリアントを馬鹿にするかのように。

 あっさりと落とされた幾つもの自由落下爆弾は地面と接触した衝撃で爆発した。

 

 

 

 

『んー、これでも死なねえか』

 

 厳密には死んでいるのだが、殺しきれない。

 

『というか、随分と爆発の威力が跳ね上がったな』

 

 ラジコンヘリに搭載されたものはいずれも大きさの割には威力のある武装ばかりであるが、それでも対人がせいぜいで、対軍対城というわけではない。

 だが、今の爆弾により起こった爆風はラジコンヘリの操縦がままならぬ程揺らした。

 これほど威力があっただろうかと、操縦者であるバーバヤードは首を傾ける。

 

『で? お次はどうするんだ? どう対処してくれるんだ?』

 

 煙の中で影が動いた。

 何か来るな、とバーバヤードが爆弾の代わりの武装を展開した時には、ラジコンヘリに衝撃と共に金属音が響いた。

 

「……刀は効果が薄いな」

 

 妖刀【出涸らし】。

 生物に対しては脅威の武器であるが、相手はラジコンヘリ。

 出血の仕様がない。

 

『妖刀か。血塗れなのは反動か?』

 

 全身から血を垂れ流すクリアントを見てバーバヤードは考える。

 この場面で効果が薄いと分かりながら妖刀を取り出したこと。

 

『(俺に対して打つ手が無いということか……。じゃなけりゃ、火なり雷なり、さっさと攻撃してくるってもんだ)』

 

 とはいえ、バーバヤードとしてもクリアントに対して攻めあぐねている。

 時間をかけている場合では無いのだ。

 相棒が巨人を殲滅する前に相棒よりも大きな人間は皆殺さなければならない。

 

『(取り囲んで一掃射撃でもするか? ……いや、多分だが数で攻めても意味はない。こいつに対して有効なのは手数……!)』

 

 一発の威力が低い機関銃でなく、大口径であればどうだろう。

 新たな武装は機関砲。

 回転数も悪く、一度に撃てる数も少ないが、威力は人間であれば一発でミンチに変えてしまえる。

 

『ちと勿体ねえけどよぉ、死なないってんならよぉ、コイツで殺すしかねえよなぁ』

 

 対人に使うには躊躇する威力であるが、相手が死なないなら別だ。

 なにより、アシスタのためだと思えば引き金も軽くなる。

 

『っ射ァ!』

 

 かつてはこの機関砲の弾幕で逸話級UBMすら屠っている。

 だから、これならばとバーバヤードは勝利を確信し、

 

『……っっんで、効いてねえんだよ!?』

 

 遂には死ぬことさえしないクリアントに対し叫ぶのであった。

 

 

 

 

「(……不味いな。【自殺王】のカラクリが知られていないからこそ似たような武器で攻めてくれているが。どの程度の武器があるか分からない)」

 

 見た目だけはラジコンであるが、その実は攻撃用ヘリであるのだろう。

 爆弾、機関銃、機関砲。

 他に何の武装があったかと現実のヘリを思い出そうとする。

 

「(まだ弾丸と爆発に対してしか耐性が無いままの今、ローター・ブレードやヘリの特攻自体も危険だな)」

 

 爆弾の落下を見た瞬間、咄嗟に《死線は超えている》を使用できたのは運が良かった。

 ヘリを巻きこめはしなかったものの、爆弾の爆発に紛れたため、ヘリの操縦士はクリアントのスキル使用に気づかなかっただろう。

 自ら爆発するなどという、一見意味の無い行動は、耐性作りをしていると勘づかれやすい。

 

「……キシリーと合流が先決か」

 

 先程【出涸らし】で斬った感触から、ラジコンヘリ本体も見た目以上に頑丈であることは理解した。

 だが、キシリーの怪力であれば突破は出来るはずだ。

 

 闘技場に残った巨人も少ない。

 どこかにキシリーが――

 

「……いや、というか少なすぎるだろ。死んだ巨人は何処に……っ!?」

 

 巨大な影がクリアントを覆う。

 それが飛来物であると理解するまでに、時間がかかった。

 何故なら、巨人が宙を舞うとは思わなかったから。

 クリアントと、そしてラジコンヘリを巻き込み、投げ飛ばされた巨人は地面に叩き付けられた。

 

「なにが……」

 

 前日の時点でフォーカーから圧死耐性を得ていたことで死ぬことは免れたが、何が起こったか理解できない。

 巨人が消えていき、残されたクリアントの横には潰されたラジコンヘリがある。

 

 脅威は去ったか。

 否、未だ始まったばかり。

 

「や、やめ――」

「あ、ああああああああああああああああああああああああああ」

 

 まるで怪獣のように。

 まるで駄々っ子のように。

 

 そこには視界に入った巨人を次々に殴り攻撃するキシリーがいた。

 

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