<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する 作:そらからり
なんか一気に増えた
ありがとうございます
■巨人の国 闘技場内
壊す。
手当たり次第に破壊していく。
腕を薙いだだけで原型を留められずに崩れていく。
脚が当たっただけで生命でいられなくなる。
ソレはまさしく暴力の塊であった。
正気はとっくに消え失せ狂気を迎える。
子供の癇癪か。
駄々をこねているだけか。
違う。
打算も駆け引きも、ましてや策略も無い。
キシリー・キシシキはキシリー・キシシキであるが故に暴れていた。
無いものを強請り、失ったものを取り戻すかのように。
足りないものを繕うかのように。
いくら必死にかき集めても手に入らないことを知らないがために。
巨人を殺し、仲間を殺し、敵を殺し、そして自身を殺す。
彼女を知らない者にはただの虐殺に映るだろう。
彼女を少しだけ知る者には何か羨むだけのきっかけがあったのだと察するのだろう。
彼女を真に知る者はこう思う。
『ああ、またか』と。
『こうなっては仕方ない。収まるまで待つ他無いだろう』と。
それは乗り越えたり、克服したりするようなことではない。
嵐のように、ただ過ぎ去るのを待つことこそが上策。
決して抗ってはならぬのだ。
抗うような強さを持ってはいけないのだ。
それもまた、キシリー・キシシキを羨ませてしまう発端になりかねないのだから。
「ひ、い――こっちに来るなぁ!」
巨人の斧がキシリーの肉体を打つ。
だが、高い耐久力を持つ彼女にとって、自身の半分以下のATKから繰り出される斬撃など、ましてや恐怖に染まりろくに芯を狙っていない攻撃など通用しない。
斧が欠ける。
武器の耐久度すら、劣っている。
「あ――」
「あああああああああああああああ」
失った武器を見て、泣いたような笑ったような顔をしながら巨人はキシリーの攻撃で命を落とした。
不思議なことに、巨人の死体が残らない。
キシリーに殺された巨人も、アシスタの矢により殺された巨人も、等しく死体は姿を消していた。
まるで幻影であったかのように死体が姿をくらます。
だが、その死する直前。
死にたくないと懇願する必死の表情は、巨人が確かに確固たる生命であることを何よりも物語っている。
「うん。まずいさ。あれを止める手立てが見つからない」
キシリーを見る瞳があった。
他が恐怖で逸らそうとしながらも視界の隅に入れてしまうのとは違い、彼女自身をしかと見つめる視線。
逃げるでなく、恐怖に駆られて反撃するでもなく、彼女自身に何が起こったかを観察するは、まさに堂々たる王の威容。
否、彼にとっては巨人がどうなろうとも構わないからこそ、であった。
キシリーに何が起こったかを観察するための時間稼ぎの駒。
「僕はキシリーを知らないさ。だからこそ、あの状態が普通でないと認識しているけど、君はどう思う?」
王は、ゼロムスは問う。
少なくとも、己よりも彼女を知る者に。
「話には聞いていた。時折暴れることがあると。……だが、きっかけは分からない。止め方も分からない」
巨人の死体に潰されたため、ラジコンヘリとの戦闘が終了し、キシリーと向かい合える時間が出来た。
だが、今のクリアントが向かったところでただ潰されるだけだろう。
耐性はあるだろうが、潰されないだけ。
吹き飛ばされてしまえば、それで終いだ。
「殺せば止まるさ?」
「止まるだろうが……解決にはならない」
何も克服できていない。
果たして、克服で済ませていいのかもわからないが。
「というか、倒せるのか?」
近づくことすらままならない。
こうしている間にも巨人が殺されていく。
逃げる巨人も追いつかれ、無惨に潰される。
「今の僕には無理さ。王は王でも座っているしか出来ない無能な王が僕さ」
「……【巨人王】はステータスの上がるスキルがあるんじゃなかったのか?」
「それも今となっては使い物にならないさ。だって、今の僕はこんなに小さいのだから」
その時であった。
再び、プロペラ音が頭上から聞こえる。
「――ッ!?」
鈍色のヘリに取りつけられしは機関銃。
回転と同時に、中身がばら撒かれる。
「ゼロムス!」
機関銃はゼロムスを狙っていた。
咄嗟に彼との間に割り込み、砲撃を受ける。
『デカいのに紛れてたけどよぉ、何だソイツは? 普通のティアンか? だけどまあ、いられたら困るんだよなぁ。アイツより大きな人間はよぉ』
「……生きてたか」
無論、そのラジコンヘリが何者かに操縦されている時点で、他に操縦者がいる時点で、代替機がある可能性も考えられた。
だが……ラジコンヘリの強さからして規格は落ちるはずが――
「……性能は全く同じか」
『ちっ。鬱陶しい野郎だぜ』
いつの間にか、矢の襲撃は止まっていた。
だが、闘技場の外から聞こえる絶叫が、単に獲物の位置が変わっただけであることを伝える。
「キシリーにラジコンヘリに……」
どちらから対処するか。
否、どちらも対応せねばならない。
「クリアント。君はキシリーのところに行くさ。行くべきさ」
と、ゼロムスはクリアントを押しのけて前へと出る。
死ねばそれまでのティアンが、自信を殺そうとしている〈マスター〉の前へと。
「ゼロムス……だが――」
「僕は弱いさ。キシリーを止める手立てすら見つからないくらいに、今の僕は巨人に対して弱い。だけど――」
鈍色のラジコンヘリを見る。
次弾を装填しているのか、それとも出方を伺っているのか。
ホバリングし、高度を維持している。
「それでも僕は【巨人王】。自分より小さな相手には負けないさ」
クリアントは未だ【巨人王】について知らないことが多い。
だからこそ、ゼロムスが勝てるというのであれば、信じる他無い。
『……チッ。どうなってやがんだよ。……分かった。こっちで尋問しておく。……おい、てめえ今何つった? 【巨人王】だと? だったらよぉ、これもてめえの仕業ってことでいいんだよなぁ!?』
「行くさ、クリアント」
「……ああ、分かった」
クリアントはゼロムスに背を向け、キシリーへと走り出す。
ラジコンヘリの機関銃が回転する。
放たれた弾丸は牽制程度だったのか、あるいは狙いを外したのか。
ゼロムスの足元を削っていく。
危なげもなく跳躍しながら躱すゼロムスは着地と同時に、懐から取り出した指輪を右手の人差し指へと嵌めた。
暗雲が立ちこみ始める。
雲を突き破るように、天から巨大な手が、足が、降り注ぐ。
「さあさあ! お出ましの時間さ! たまには活躍して欲しいさ」
『殺すわけにはいかねえからなぁ。巨人どもを皆殺しにするまでせいぜい弱らせておくぜ』
【???】アシスタ
黄金の機体を見上げる。
どこまでも彼は飛翔していくのだろう。
地を這う私を置いてどこまでも。
……否、私を見下ろしどこまでも。
決して私から目を離さないことは分かっている。
だけど、目線はいつも違う。
彼が思うことと私が思うことは違う。
だから食い違う。
どこまでも決裂的に。
「ティアンを殺したのって初めてだけど……そんなに実感湧かないわね」
通報されれば指名手配犯となり、死んだ瞬間に監獄行きだ。
超級職という目的が無ければ喜々として殺すわけがないし、きっと【巨人王】に就いたら二度とこんなことはしないだろう。
そういえば、と思い出す。
バーバヤードは何度かティアンを殺したことがあった。
とはいえ、アシスタに絡んできた野盗の類か。
先に手を出したのは向こうであり、殺傷目的であったため、むしろ報奨金を貰ったのだったか。
そんなことを思い出しながら、ふと気づく。
「……巨人の死体が見当たらない?」
闘技場内に倒れる巨人が少ないなとは思っていた。
だが、今、それは確信へと至った。
転がっていた死体が、消えていたのだ。
闘技場の出入り口を塞ぐように殺した巨人。
その死体さえあれば、逃げることすら難しくなるだろうと、そう思っていたのに。
闘技場から逃げる巨人を発見したアシスタはすぐさま塞いでいた死体を確認し、そして消失していることに気づいた。
「どういうこと……」
巨人は幻であった?
倒したと思っていたが、幻を攻撃したから、死体は消えた?
「でも経験値は入ってる……」
そうだ、と思い出す。
自身のエンブリオの第一能力は、アシスタが倒したモンスターのドロップアイテムをどれだけ遠方からであっても自動的にアイテムボックスに引き寄せるというもの。
巨人の武器でも防具でも、リルでも何でもいい。
確かに巨人がそこにいたのだという証拠があれば――
「……ねえ、バーバヤード」
『っと、どうした? こっちもやべえぞ。一機、落とされた』
黄金の機体から鈍色の機体が分離していく。
つまりは、先ほど出した偵察機が破壊されたということ。
破壊できるだけの実力者があの場にいるということ。
だが、それ以上にアシスタの心の内を占めていることは、
「あ、あそこにいるのって巨人……なのよね? 他のナニカじゃなくて」
『ああ? どこからどう見ても巨人じゃねえか。なんだ? 幻影だとでも?』
「そ、そうじゃない。そうじゃないのよ……確かに、あそこに巨人はいる……いたの。でも、私のアイテムボックスに入ってきたアイテムは巨人の痕跡なんか微塵もない……」
幾つものアイテムをアイテムボックスから地面に落とす。
いずれも巨人を倒した際に得たアイテムばかりだ。
『これは……っ』
バーバヤードもまた絶句している。
それもそのはずだ。
武器や防具、またはティアンを倒した時に手に入るはずの特有のアイテム。
人が人として生活をするはずで必ず持っているであろうアイテムはたった一つも無く。
代わりに得たのは、ただの素材アイテムだけなのだから。
『【固め剤】に、【ジェム】の素材に使われる属性魔法の元素……これを落とすのって確か……』
「ねえ、何なのよ、あいつら一体……巨人って、【巨人王】って何なのよ!?」
それこそはとある種族のモンスターが良く落とすアイテム。
珍しいわけではなく、良く落とすからこそ。
そして、アシスタのアイテムボックスに多量に入ってきたからこそ、巨人の正体が伺えてしまう。
『落ち着けアシスタ。分かった。どうやら俺の目の前にいるのが【巨人王】のようだ。話を聞いてみる。だから、な、落ち着け。お前は静々と、粛々と、巨人どもを殺していればいい』
「……分かった」
納得したわけではない。
先程までは大した覚悟も無く射ていた巨人も、今はどこか恐ろしい。
だが、黄金の機体が傍にある。
それだけがアシスタにとっての救いであった。