<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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Cside 巨人伝説~目撃者は殺された~ 13

■巨人の国 闘技場内

 

 たとえどのような急旋回であっても、バーバヤードの操るラジコンヘリ――エンブリオはそれを可能とする。

 現実世界では不可能な曲芸じみた宙返りも搭乗者に負担のかかる動きも、関係ない。

 加えて、《瞬間装備》にも似た武装の変更で状況に合わせた攻撃内容が彼の強み。

 これまで倒して来たUBMらがエンブリオに直接アジャストするタイプであったのは、エンブリオがチャリオッツの系統にあったからであろうことは間違いない。

 

 そう、これまで多くの旅をしてきたのだ。

 多くの冒険をしてきたのだ。

 アシスタと2人で。

 幾つもの壁を乗り越え、幾つもの障害を打ち壊し、2人はそれぞれ超級職の座に就き、準〈超級〉と呼ばれるに相応しい力を得た。

 

(チッ……分断は裂けるべきだったぜ。まずは〈マスター〉連中から殺した方が、アシスタを呼んでゆっくりと話を聞けたかもしれねえからなぁ)

 

 全てはアシスタの為。

 愛する人間の為に動くことは美しいことだ。

 そして、絶対に正しいことだ。

 どれだけの虐殺を挟もうとも、最後まで愛を貫けるのであれば、それは英雄の行い。

 

(俺の愛はまだ受け入れてもらねえからよぉ、だったらよぉ、せめて俺と同じ目線くらいにはなってもらわねえと困るよなぁ)

 

 アシスタがバーバヤードに対し負い目があることは気づいていた。

 その負い目は絶対に払拭することは出来ない。

 その時期はとうに過ぎた。

 バーバヤードが気にしていようがいまいが、アシスタにとっては別のことだ。

 

 だからこそ、アシスタは素直になれない。

 

『困るんだよなぁぁぁぁ。愛に障害は付き物だって知ってはいるけどよぉ、それでも、俺は早く結ばれて幸せになりたいんだからなぁ!』

 

 エンブリオを飛ばす。

 細かく言えば、分身のようなものだ。

 本体は黄金のヘリであり、鈍色は分身である証。

 だが、性能は十分。

 なにより、バーバヤードが直接操っている時点で最高の性能を発揮できるのだから。

 

「……まったく、ちょこまかと鬱陶しいさ。忘れかけていた感覚を取り戻させてくれて、ありがとうさ!」

 

 縦横無尽に駆けるラジコンヘリに対し、ゼロムスは特典武具により呼び出した巨大な手足と、彼自身の肉体で立ち向かう。

 

「やっぱり、真後ろには反応できないみたいさ」

 

 天から足がラジコンヘリを踏み潰そうと落下する。

 ヘリは直前まで回避行動をせず、明らかに無理な態勢で避けることしか出来ない。

 

 そこを、ゼロムスが蹴り飛ばす。

 

「体が軽いさ! 《臆せよ我が体躯》が発動されている! 久しぶりさ」

 

 ラジコンヘリを蹴飛ばした反動を使い宙で回転しながら着地する。

 それは彼自身の高いステータスがあってはじめてできる芸当。

 そして、本来は発動出来るはずの無かったスキルが発動されたことで行えた技術。

 

 ヘリの機体に大きくへこみが出来る。

 機体の歪みは性能を著しく低下させ、天から落ちる手が、足が、次々に埋め尽くす。

 

『な、なんなんだよこれはぁぁぁぁぁ』

 

 その断末魔の叫びを聞きながらゼロムスは次機の到着を警戒する。

 既にクリアントが応戦した1機が倒され、今ので2機目。

 これで終わりかは分からない。

 

「……」

『そろそろ街の巨人どもの駆逐が終わる。その時はアシスタと共にぶち殺してやるよ』

 

 3機目。

 変わらず鈍色。

 速度も遜色ない。

 

「……キリがないさ」

 

 だが、既に攻撃手段も、ヘリそのものの性能も底が知れた。

 今のゼロムスが負けることは無い。

 

『空のバケモンは何だ? 巨人の手足のようだがよぉ、ご先祖様でも大事に祀ってたら出来るもんなんかぁ?』

 

 特典武具としても明らかに異質なことにバーバヤードは疑問を持つ。

 召喚型のようだが、本体はおらず、手足が落ちてくるだけ。

 落下した手足は地面にスタンプを押すと消えていく。

 その繰り返し。

 見た目よりも攻撃の威力は低いが、その見た目に押されてしまう。

 

「……昔いたUBM。巨人の怨霊……その残骸の成れの果てさ。呆れるだろう? 怨霊は倒されても、その破片だけでUBM足り得てしまう。巨人の怨念が如何に巨大であったか伺えるってものさ」

『いいじゃねえか。巨人だったらよぉ、何もかも巨大でいいじゃねえか』

「だけどこれも所詮は見掛け倒しさ。僕の作った君の機体の歪みを狙い打たないとまともに攻撃が入らない。巨人の弱さがこれ以上なく浮き彫りになる特典武具さ」

 

 ゼロムスはクリアントとキシリーの動向を見る。

 時間は十分に稼いだ。

 キシリーは正気に戻っている。

 

「……さて。キシリーに使おうかと思っていたけど、どうやら温存も出来たみたいさ」

『ああん?』

「あれだろう? 君みたいなのって、本体は別のところにいるんだろう? まあ森の中だとは思うけどさ」

『それがどうした』

 

 森は広大だ。

 そして何の理由があってか、巨人サイズの森へと、森自体も巨大化している。

 

『お前ら巨人にとってもでけえだろうがよ、俺らにとってはそれ以上にもってこいの隠れ場だ! 見つけられっこねえ!』

「二代目」

『……?』

「この森を巨大にしたのは二代目の【巨人王】。初代は巨人を作った。三代目以降は、それらを引き継いだ」

『何を言って……やがる……!?』

 

 クリアントは死なない。

 キシリーはあの様子では巨人に対しての感情を克服した。

 そして……

 

「僕自身も後継者が現れた。僕自身としては寂しいさ。けど、【巨人王】としては最後の仕事を全うできること、嬉しく思うさ」

 

 此れまで柵に囚われ続けてきた。

 巨人の奴隷として働かされてきた。

 巨人が滅亡してもいいのか。

 巨人の国が終わっても良いのか。

 

 そう、良心につけ込まれた。

 

「感謝するさ。もうこの国に巨人は存在しない。偽りの巨人(・・・・・)たちは君たちの手で終わった。国の外に少しでも巨人がいるのなら! 僕はそちらの可能性に賭けるさ!」

 

 故にゼロムスは最終奥義を発動する。

 巨人を、巨大な森を、作り出して来た【巨人王】最終奥義を。

 

『……何をする気か分からねえけどよぉ。だが【巨人王】の力を見せてくれるって言うならよぉ。それはアシスタが【巨人王】になった後のレクチャーってことでいいんだよなぁ!』

 

 ラジコンヘリに逃げる素振りは無い。

 元より、偵察機。

 分身が幾ら傷ついたところで本体は痛くもかゆくもないのだろう。

 

「クリアント! キシリー! 此れより闘技場は……闘技場を形作っていた彼ら(・・)は巨人になるさ! だから! 自分の身は自分で守るさ!」

 

 瞬間、地面が揺れ出した。

 否、地面だけでなく壁が動き出した。

 

 それは、まるで意志を持つ怪物のようであった。

 

 レンガで作られた闘技場は徐々に崩れ、復元するように別のナニカへと組み立て直されていく。

 その隙間で何かが動きているのを確認出来た者はゼロムス以外にはいない。

 皆、それどころではなく、地面に足を付けるクリアントとキシリーは脱出口へと向かい、バーバヤードもまたヘリを上昇させて闘技場であった怪物から逃げていく。

 

「これが僕の正真正銘最後の最終奥義……《巨人の国》さ」

 

 それはまさしく巨人。

 巨大な人であった。

 かつては闘技場であったソレは、高さを予想するのも馬鹿らしくなるほどの大きさとなり動き出す。

 

 巨人が一歩踏み出す。

 地面が大きく揺れ、足元の巨木は薙ぎ倒されていく。

 

 その巨人にとって広大な森は庭よりも狭い。

 数十歩も歩けば森の外に出てしまうだろう。

 

「命じるさ。森を壊しても良い。だから、侵入者を殺すさ」

 

 巨人が腕を振り上げる。

 それは命令所以か、それとも怒りが混じっているのか。

 感情を表に出すための器官が与えられていないかのように、巨人は暴れ出した。

 

 そして、巨人に命じたゼロムスの姿は……まるで、かつて巨人を倒した妖精の如く酷く矮小な大きさであった。

 

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