<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する 作:そらからり
■【自殺王】クリアント
巨大であることは、即ち畏怖の対象となる。
古来より、巨大なものは神に等しいとされており、それは人知を超えた何かであった証だからであろう。
人とは違い、人よりも優れている。
だからこそ、恐ろしいのだ。
「……味方には見えないな」
思わず、そう呟いてしまう。
森を破壊しながら、ラジコンヘリの操縦者と弓使いを探すその様は、怪物が森で暴れているようにしか見えない。
というか、実際にそうなのだから、仕方ない。
怪物が元はモンスターであることも鑑みれば、余計である。
小さいながらも懸命に応戦しているラジコンヘリを応援したくなる気持ちすら芽生えてくる。
「だが……大きさで勝っている。このまま押し切れるか」
ラジコンヘリの攻撃も、矢も、当たってはいるものの怪物巨人にとっては痛くもかゆくもない様子だ。
体表が剥がれてはいるが、怪物巨人にとっては薄皮一枚剥がれたのと同じなのだろう。
肉にも血管にも届いていない。
致命傷どころか、擦過傷にすらなっていないのだ。
これでは勝ち目など無いだろう。
「……いや、ダメさ。すぐにやられてしまうさ」
だが、クリアントの手の中に座るゼロムスは首を横に振る。
「だが、奴らの攻撃は効いていないみたいだぞ。逆に巨人の攻撃は一度でも当たれば致命的だ」
「君達は狙って羽虫を叩き落とせるさ? それも、目に見えづらい程の小さな奴を」
そう言われると難しいのかもしれない。
「生まれたての巨人さ。知力もあまり高くない。高いのは……体力とENDくらいさ」
「なら……耐久戦に持ち込めばいいじゃないか」
「……高いといっても。せいぜいがENDは2000程度さ。HPが膨大だから辛うじて攻撃が通っていないように見えているだけ。すぐに威力の高い攻撃に切り替わられれば、それでおしまいさ」
「2000……?」
それはクリアントよりも低い防御力だ。
あれだけの巨体でありながら……。
「キシリーなんて一万近いはずだ……よな?」
「うん。MPとSPはあまり高くないけど、それ以外は一万くらいはあるかな」
キシリーは【魔法少女θ】により高いステータスを誇っている。
元はあまり高くないはずだから、あの怪物巨人は……
「あ、そうか。ジョブ補正……」
「そういうことさ」
「……どういうこと?」
キシリーのみが首を傾げる。
無理も無いだろう。
かつて様々なジョブを付け替え、ジョブによるステータス補正がどれだけの影響があるかを身を以て体験しているクリアントと違い、キシリーは【魔法少女θ】しか知らないはずだ。
否、サブジョブを含めて埋めてステータスの底上げをしているからこそ、ジョブに就いていることが当たり前であると思っている。
「生まれたてだから……」
「まだどのジョブにも就職していないのさ。僕達巨人にとって必要不可欠な【巨人】も【大巨人】にも就いていない。ついさっきまでただのエレメンタルだったから当たり前のことさ」
つまり怪物巨人は今、素のステータスのみで戦っている。
ジョブの補正を一切受けていない生身で。
「なら、さっさと就けないと……」
いや、先ほどからゼロムスの発言は、既に知っていたといった様子。
こうなるのが当たり前であると。
「そのままでいいのさ。彼は負ける。負けて、死ぬさ」
「……いいのか?」
「逆に、このまま世に放っても構わないと? 100mの巨人が世界を闊歩しても、何の影響も起こらないと、言えるさ?」
「……言えないな。絶対に混乱する」
既に、どこかしらの観測機関が発見し、動き出している可能性とてある。
大局的に考えれば、このまま、この場で消滅してもらった方が良いのは確かにと頷けてしまう。
鈍色のラジコンヘリの数が増える。
弾丸の掃射によって次第に動きが鈍り出した怪物巨人はやがて動かなくなり、特典武具か必殺スキルに近しい攻撃の連打を受けると、やがて完全にその身が消滅した。
ゼロムスの言葉通りであった。
必殺級の攻撃の前では、怪物巨人はただのでくの坊。
的が大きいだけの、大きな人間に過ぎなかった。
「だが……だったら何故、生み出した」
敵を倒す気が無いのなら。
端から負け試合と分かっているのなら。
何故、彼の怪物巨人を作り出したのか。
「時間稼ぎと、……後は最後の条件を満たすためさ」
「最後の条件……?」
「ああ――」
と、木々が揺れると共に聞き覚えのある声が聞こえた。
「王よ! 我らが王よ! どこにおられる!」
巨木を掻き分け、どしどしと足音を立ててやって来たのは、案内人であるフォーカーであった。
「む……資格ありしキシリー。それに能力ありしクリアントか。生き残っておったとは、やはり資格と能力を持つだけはある。……おお、そうだ。王を見なかったか?」
2人の生存に驚いた顔をするが、すぐにゼロムスの捜索を再開し始める。
それだけ、フォーカーら巨人にとってゼロムスの……いや、【巨人王】という存在は大事なのだろう。
「僕はここさ。フォーカー」
クリアントの手の中でゼロムスはフォーカーの名を呼ぶ。
フォーカーは最初、目を凝らす様子を見せたが、やがて
「おお! 斯様に小さくなられて……ということは、やはりあの巨人は王の最期の……」
「《巨人の国》で作った最後の巨人さ。……これで、キシリーに継承する準備は全て整った、さ」
「……どういうことだ」
「キシリーは闘技場内で力を示したことで10人以上の巨人に恐れられた。恐れるということは認めるということ。後は、僕が力を使い果たせば、強制的に次代への継承が行われる……」
「と、いうことだ。ゼロムス王はもう巨人の王としての力は一切無くなった。資格ありしキシリーよ。次なる【巨人王】の器として既に相応しいお前こそが、王に選ばれたのだ」
キシリーは無言でゼロムスを見つめる。
「……いいの、かな。私なんかで」
「良いさ。それに僕は最初から、一目見た時から思ったさ。最初から大きいだけの人間に巨人の王は務まらない。キシリーは大きくなりたいと、そう思っているさ?」
「何で……分かったの」
キシリーのエンブリオにも、彼女の過去にも、ゼロムスは知らないはずだ。
伝える程の会話をしていない。
「何でって……僕がそうだったから。今以上に大きくなりたいと願った末に【巨人王】となった僕の眼に……良く似ていたのさ」
「王よ。早く継承を! 貴方が力尽きてしまう前に!」
「……分かったさ。キシリーの心構えを聞きたかっただけさ。キシリー、君が何もかもを欲しているというのなら、まずは【巨人王】を欲するといいさ。ソレはすぐ手を伸ばせば届くところにある。届く程に、君は十分に大きくなったのさ」
ゼロムスの全身から力が抜けていくのを感じる。
それこそは、ゼロムスから【巨人王】が抜けていく証なのだろう。
そして、次代へと――
「分かった。なるよ。私は、今から【巨人王】だ」
――キシリーへと【巨人王】は継承された。
メインジョブが【魔法少女θ】から【巨人王】へと変化する。
幸いにも、ステータス補正しか無かったために、【魔法少女θ】がサブジョブとなっても特にステータスの下降は無いようだ。
どころか、【巨人王】となったことで膨大なステータス補正が彼女へと入っていく。
「……これまだレベル1なんだよな」
「うん、そうだよ……。あ、オーナーとゼロムスさんが小さいから《臆せよ我が体躯》のバフがかかってる」
既に元の二倍近いステータスとなっている。
HPに至っては30万を超えているのは流石巨人と言えるだろう。
「あと、スキルの説明さ。一時的に大きくなれる固有スキルの《
「うん。今あるのは《臆せよ我が体躯》と……《巨人の国》だけだね」
後者の最終奥義の名を嫌そうに口に出す。
ゼロムスから【巨人王】と巨人の国について聞けば、クリアントとてそう思う。
だが、使う必要は無いだろう。
ゼロムスも、キシリーが〈マスター〉であることを知りながら【巨人王】を渡した。
彼の言い分では彼自身も巨人の国について良く思っていない節がある。
このままこの国は敵の襲撃によって終わるのだ。
「おお! 【巨人王】は就職直後から《巨人の国》が使えるのか!」
苦々しい表情のキシリーとは対照に、フォーカーが喜ばしいと満面の笑みになる。
「ああ。だがキシリーは――」
「では、早速我に使うと良い。我もこの大きさではまだまだ満足しておらんのだ。ちょうど見上げる程の大きさの巨人がいただろう。まずはそのくらいで良いぞ。いずれは、アレを越すほどにしてもらうだろうがな」
王なのだから。
【巨人王】は生み出した巨人の奴隷なのだから、その程度は当たり前だろうと。
フォーカーはキシリーに欲望に染まった願いを告げた。