<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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Cside 巨人伝説~目撃者は殺された~ 17

■■【自殺王】クリアント

 

「……おい」

 

 堪らず口を挿む。

 あまりに不躾で自分勝手な願望を口にするフォーカーに対し、そして此れまでの会話から少なからずの信用をしていた相手への失望があった。

 

「これは我ら巨人の話だ、能力ありしクリアント。お前には関係がない。お前には資格がない。巨人に非ずは人に非ず。そこで黙り、我らの行く末を見ているだけで良い」

 

 違う。

 彼らは巨人族以外を同種として見ていない。

 それは自身らが巨大であるという驕りからくるもの。

 巨大という優越感こそが、彼らの最大の自負である。

 

「いや。黙っているだと? そんなこと、できるわけがないだろ。俺は――」

 

 瞬間、クリアントの視界が回った。

 何が起こったか分かるまでは、彼の視界が漸く固定された後であった。

 

「……!?」

 

 身体が何かに埋もれている。

 動くことはできるが、動きづらい。

 パラパラと、周囲から降り注ぐ感触がある。

 

「やはり、死なぬか。能力ありしクリアント。お前は面倒だ。そこで、埋もれているが良い」

 

 血走った目でフォーカーはこちらを睨む。

 彼は何かを殴った後のような態勢であった。

 ……殴られたのはクリアントだ。

 ダメージこそ耐性で軽減出来たが、衝撃までは無効化出来ずに巨木まで吹き飛ばされ、そして幹に埋もれる形で漸く止まれたのだろう。

 

 フォーカーの息は荒い。

 全力でクリアントを殴ったから……だけでは無かろう。

 まるで興奮薬を与えられたかのようだ。

 

「(これがこいつらの本性か……!)」

 

 巨大であることから逃れられない。

 忘れられない。

 もはや巨大に憑りつかれたモンスターとすら言っても良いのかもしれない。

 

 これまではきっかけが無かっただけなのだろう。

 キシリーと同様だ。

 怒るだけの、巨大になれるだけの、きっかけが無かった。

 ゼロムスの最終奥義はもはや使うことは出来ず、ゼロムス自身も弱っていた。

 だから、巨人たちはゼロムスは使い物にならないと判断し、次代の王を選んでいたということだ。

 

 巨人だから【巨人王】になれる。

 当然のようなことであるが、そも、それ自体怪しい。

 巨大であればあるほどに、最終奥義を使える回数が増えるから。

 だから、普通の大きさであるティアンよりも、クリアントよりも、巨人であるキシリーが望ましかったのではないかとさえ、今のフォーカーを見ていると思えてしまう。

 

「……フォーカー」

「何だ。先代の王ゼロムス。お前はもう終わった。王では無くなった。見よ、まるで妖精のようだ。我らが憎き妖精種。我ら巨人を追い詰めた妖精種。王の末路が斯様なザマとは、笑えるものだ」

 

 歯を剥き出しにし笑うフォーカーは、獣のようであった。

 醜き、己が欲望に従うケダモノの如き。

 

「……君らは元はエレメント。妖精種が憎いだって? そんな遺伝子すら刻まれていないくせによく言うさ」

「……何だと?」

「追い詰められた? 違うさ。知らないだろうから教えてやるさ。僕達原始の巨人は、死ぬべくして死んだのさ。大きいことだけを誇りにし、目に見えた強さだけを信じ、技量もスキルも磨くことなく戦った。だから、妖精種に負けた! 小さくとも巨大な存在に勝つために技を磨いた妖精種にさ!」

 

 同じステータスであるが大きさが違う。

 それは、巨人が当たり判定が大きいから不利であるということだけではない。

 体重差も加わるならば、妖精とて巨人の攻撃に当たれば致命打と成り得てしまうのだ。

 

 だが、妖精は勝った。

 回避を磨いた。

 威力を高めるためにスキルを磨いた。

 負けないために、勝つために、妖精は強く在ろうとした。

 

「……戯言は終いか? 先代の王にもはや価値など無し。巨大で無い王に生きる資格など無し。我らは再興する。次代の王と共に、巨人の国をやり直すのだ」

 

 どこにそのような根拠があるのだろう。

 何故、キシリーが協力するという前提なのだろう。

 

「……キシリーがそんなことするわけが無いさ」

「いいや、するさ! 我は知っている! 【巨人王】となった者は巨人に尽くすための指向操作が施されることを。ゼロムス、貴様はそのためにここまで成り下がったのだ。身を以て、知っているのだろう?」

「……ああ、そうさ。僕はそうやって、失敗した」

「キシリーもまた、我らが国の為にその身を捧げてもらおう! 森を広げ国を広げ、いずれはこの地を巨人で埋め尽くすのだ! 妖精種を、滅ぼし返すのだ!」

「(……何だ?)」

 

 フォーカーの顔に靄がかかる。

 何かが全身を覆っているが、その顔面付近が特に濃い。

 

 それは、精神系状態異常に近いのだろう。

 種類までは分からない。

 だが、巨大であることに固執する。

 巨人の妄執に憑りつかれていると形容するに相応しい、そのような状態。

 

「やれやれ……クリアント。これが現実さ。長年、巨人を作り出してきた反動。……いや、副作用さ」

 

 今も笑うフォーカーは既にゼロムスの現在地を見失っているのだろう。

 いつの間にかゼロムスがクリアントの懐にまで来ていたが、フォーカーがそれに対して反応する様子は無い。

 

「代々継承してきた【巨人王】は、そう在るべしとされた思考が染みついてしまっているのさ。それは巨人を作り出す時も同じ。巨人は巨大で無くてはならない、【巨人王】は巨人を作り続けなければならない……そんな考えしか出来なくなってしまっているのさ」

「そんなことが……」

「あるのさ。僕の実体験なのだから、僕が保証するさ」

 

 ゼロムスは苦笑する。

 今は【巨人王】から解放されているが、それまでに失ってしまった彼の大きさは、計り知れない。

 

「さあキシリーよ! 我を更に巨大とせよ! あの怪物の如き、神の如き大きさを我に与えるのだ!」

  

 相手が【巨人王】であるから当たり前に口にできる願望を話すフォーカーに対し、

 

「……いやだけど。なんで私がそんなことする前提で話をしているの?」

 

 キシリーはきっぱりと拒絶した。

 

「……な」

「ゼロムスさんはそうしたかもしれないけど、今は私が【巨人王】なんだよね? でも、もう巨人さんもフォーカーさんしかいないみたいだし……えっと、今の大きさでいいんじゃない?」

「な、な、なななななななな……」

 

 わなわなと震え、フォーカーは口の端を吊り下げる。

 

「ゼロムスさん。私は私の好きなように生きて、良いんだよね?」

「ああ! 構わないさ! よく言ったさ、キシリー」

 

 クリアントの懐でゼロムスが喜ばし気に叫ぶ。

 そこでゼロムスが移動したのだと気づいたのだろう。

 フォーカーはギラリとクリアントごと睨みつける。

 

「何故だ! お前は、【巨人王】に! なったのだろう! だったら、我ら巨人に従うべきだと! 思考が染まるはずなのに!」

「……ああ、そうか」

 

 知らなかったのか、とクリアントは納得した。

 何故、フォーカーはあれほどまでに自信ありげにキシリーの協力を得られるかのように話していたのか。

 それは、キシリーもまた【巨人王】の呪いに、妄執に憑りつかれるだろうと思い込んでいたから。

 

 〈マスター〉に対して適応される精神保護が、【巨人王】の妄執からキシリーを守っていた。

 ゼロムスは知っていたようだが、そこまでは伝えていなかったのか。

 あるいは……

 

「ゼロムス! 貴様、わざと我に……」

「ああ、そうさ。これは僕から君たち巨人への仕返しさ! 【巨人王】を奴隷としか見ない君たちに対する、ね」

 

 あえて教えなかった。

 知っていれば、誰もキシリーを、〈マスター〉を【巨人王】にしようとはしなかっただろう。

 適当なティアンを見繕い、再び使い捨てていただろう。

 

 だが、もう遅い。

 既にキシリーの手に渡った超級職は、キシリーが望まなければ手放せない。

 フォーカーを始めとした巨人は、もう大きくなれない。

 

「もう過ちは繰り返させないさ」

「……っ! ゼロムス、貴様……」

「フォーカー。これも教えなかったことさ。いいかい? 奴隷ってのは叛逆するものなのさ。偉ぶっている奴の足元をすくうのは、地に這い蹲った小さい奴なのさ!」

 

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