<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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Cside 巨人伝説~目撃者は殺された~ 18

■【自殺王】クリアント

 

「……!」

 

 ゼロムスの目論見は、凡そ達成していた。

 これ以上、巨人を安易に作り出さないように。

 そして、既に作り出された巨人たちへ復讐するために。

 

 〈マスター〉であるキシリー・キシシキへと【巨人王】の座を渡すことに成功した。

 

 巨人10名に認められなければならないという就職条件の特性上、〈マスター〉の性質を巨人たちが知ってしまえばそれで終わり。

 協力するはずもなく、就職のための試練を受けることも出来ず、【巨人王】という奴隷に相応しいティアンを見繕うことになっていただろう。

 

「ゼロムス! ゼロムス!」

 

 おそらく唯一の生き残りであるフォーカーは先代【巨人王】の名を何度も叫ぶ。

 怒りと、妄執が、彼の理性を消している。

 

「(物理耐性がある俺の傍にいればひとまずは問題無いと思うが……)」

 

 それでも衝撃自体は消せない。

 今も尚、巨木に埋もれるクリアントはゼロムスを抱えたまま考える。

 

 フォーカーはゆっくりとこちらに近づく。

 怒りのままに殴るか、あるいは蹴るか。

 どちらにせよクリアントが間に入り盾とならねばならぬ。

 

「は、はは! 愚かなものさ。誇りも尊厳もありゃしない。君たちに縫い付けられた偽りの怒りだけが突き動かす。僕を妖精種と笑ったさ? なら君たち巨人は、再び妖精に謀られたのさ」

「おい、それ以上は――」

 

 あまり煽るな、とクリアントは口にしようとする。

 企みが上手くいったことによる高揚感だろうか。

 それとも、自身が妖精と見紛う程の背丈となり、後がないために、どうでも良くなったか。

 

 不用意に煽る様は、ゼロムスが馬鹿にする巨人と何が違うのだろう。

 フォーカーはクリアントの埋もれる巨木に右手を突っ込む。

 メリメリと木が揺れ、穴が広がっていく。

 

「何か様子が――」

「笑ってやるさクリアント、キシリー! 問題無いさ。クリアントはフォーカーの攻撃は効かないんだろう? キシリーのステータスはフォーカーを超えている。僕達に手出しなんて出来ない――」

 

 だからこそ、だろう。

 企みが上手くいき、自暴自棄になり、命を粗末にするが如く、相手を煽り続けた。

 どうせフォーカーは何もできないと、高を括ったばかりに。

 

 怒り狂った者は何をしでかすか分からないという前提を忘れ去ったからこそ、

 

「貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 クリアントごと巨大な手で持ち上げられ、巨大な口の中に放り込まれることとなったのだ。

 

 咀嚼など必要ない。

 米一粒を飲み込むのに、わざわざ噛み砕く必要など無いのだから。

 それに、これは食事では無い。

 

 殴っても倒せないから、己が腹の中で消化してしまえという。

 理性を失っても尚、戦士としての勘が働いたフォーカーの長年の経験からくる対応策。

 

 それは見事に嵌り、

 

「……!」

 

 消化に対する耐性など無いクリアントは、フォーカーの腹からの脱出は叶わないと悟ると即座に自殺を図る。

 そして、後悔した。

 

「しまったな……ゼロムスを置いてきた」

 

 手の中にいるはずだった少年はいなくなっていた。

 

「は! はは! やったぞ! 能力ありしクリアントも我が腹の中では堪らぬとみた! 殺した! 我が殺したのだ! ゼロムスも! クリアントも! そして次は資格ありしキシリーを……」

 

 フォーカーは嗤う。

 嗤いながら、次代【巨人王】の殺害を宣告する。

 それをしてしまえば、今度こそ本当に巨人の繁栄など夢のまた夢であることなど、とうに失念しているのだろう。

 

 否、もはやフォーカーは巨人という枠組みを超えようとしていた。

 

「はははははははは――!」

 

 虚ろに嗤うフォーカーはぐるりと眼球を回す。

 顔も表情も動かさずに、次なる獲物を狙い定める。

 

 そして、

 

『嫌になるよなぁぁぁぁぁ。わざわざこんなところまで来てよぉ、大勢殺してよぉ、それでも目当てのものが手に入らないなんてよぉ』

 

 フォーカーの背後で黄金の機体が旋回する。

 

『八つ当たりされても文句は言えねえよなぁぁ』

 

 秒間200発の弾丸の嵐。

 5秒間……つまりは1000発の弾丸は残らずフォーカーに吸い込まれた。

 

「――ッ!?」

 

 倒れ、地面を揺らす。

 背部から夥しい血を流し、その目に生気は無い。

 

「八つ当たりか。ソイツを殺してすっきりしたか?」

『するわけねえよなぁぁぁぁ! この場にいるやつ全員ぶっ殺さねえとよぉ、俺はよぉ、アシスタにどんな顔していりゃいいか分からなくなるからよぉ!』

 

 此れまでの鈍色の機体では無く黄金。

 これこそがエンブリオの本体かとクリアントは察する。

 これさえ倒してしまえば、〈マスター〉が何処にいようと、無力化できるだろう。

 

「キシリー。とりあえずこの黄金を叩く! 弓使いはその後だ」

「う、うん! 分かった」

 

 展開の速さについてこられているか分からないが、明確な敵勢力の登場にとりあえずは戦うべきであると理解したのだろう。

 拳を握りしめ、宙を舞う黄金の機体へと振るう。

 

『――遅ぇ遅ぇ遅ぇ! 当たらなければよぉ、どうってことねえぜぇ』

 

 だが、機動力においては黄金の機体が一枚も二枚も上手だ。

 キシリーの拳をすり抜けるように回避し、後頭部から弾丸を浴びせる。

 

「……っ!」

 

 ダメージは薄皮一枚削られた程度。

 だが、頭部への被弾というものの衝撃はそれ以上に大きい。

 なによりも、怖い。

 

『ちっ。やっぱあのデカブツと同じ戦法じゃねえと倒せねえか? だったらよぉ、こっちに呼ぶだけだよなぁ!』

 

 黄金の機体の後方から鈍色の機体が八機、飛来する。

 先の怪物との戦いで一機も落とすことなく潜り抜けたのは、ひとえにパイロットの腕前。

 

 だが、そのうちの一機は即座に落ちることとなる。

 

 ガシリ、と鈍色の機体が掴まれる。

 

『あん?』

 

 すぐに反応できなかったのは、鈍色の機体に彼が搭乗していないから。

 反応が消えて漸く、異変に気付くこととなった。

 

 まるでというか、実際にプラモデル程度の大きさではあるのだが。

 その頑丈性は見た目以上のものであるにも関わらず、機体の半ばからへし折られる。

 

『ZEROZEROZERO』

 

 地を揺るがす声。

 ソレは、かつて最も自身を憤らせた相手の名を呼んでいた。

 

『AAAAAAAAAAAAAAAAAAA』

 

 ソレが死んだ姿を見た者はいた。

 だが、果たして本当に死んだのか。

 死んだのならば、他のと同様に法則に従って消えるはずであった。

 

 モンスターならば、そうなるはずであった。

 

 だが、そうなることはなく。

 死体は消えることなく、立ち上がる。

 

『ZEZEROROROROMUUUUUSUUUUUUUUUUUUUUU』

 

 ソレは手を振る。

 宙を掴むように、しかし掌には何も無い。

 

 だが、次の瞬間には、まるで瞬間移動したかのように鈍色の機体がその手の中に納まっていた。

 

『OOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO』

 

 今度こそ、鈍色の機体の主であるバーバヤードは警戒していた。

 攻撃の為に近づくことはあっても、掴まらぬために細かく軌道を変えながら旋回していた。

 

 だが、気づけば掴まっていた。

 黄金の機体を繰りながら、焦る。

 どうにかして脱出させなければと、鈍色は暴れ、他の鈍色も応戦し、黄金は高空から観察する。

 

 幾ら暴れようと、巨人以上のステータスであるソレの前では羽虫が小さく這いずるようなもの。

 ぐしゃり、と手の中で機体は握りつぶされた。

 

『……どうなってやがる』

 

 ソレは手の……ではなく、腹の中に入れていた。

 かつての【巨人王】、そして彼が身に着けていたとある特典武具を。

 そのどちらも、巨人の怒りが込められていた。

 怒りが彼を突き動かす。

 怒りが彼を立ち上がらせる。

 怒りが、彼を、モンスターを次なる段階へと押し上がらせる。

 

 

 

 

 ※プレイヤー非通知アナウンス

【(〈UBM〉)認定条件をクリアしたモンスターが発生)】

【(履歴に類似個体なしと確認。〈UBM〉担当管理AIに通知)】

【(〈UBM〉担当管理AIより承諾通知)】

【(対象を〈UBM〉に認定)】

【(対象に能力増強・死後特典化機能を付与)】

 

【(対象を逸話級――【貪瞋痴 フォーカー】と命名します)】

 




感想で即落ち怪物くんがUBM予想されてたので、せっかくだからフォーカーくんには犠牲になってもらいました
流石に1話くらいはもつだろ

行けフォーカー、君が巨人の最期の希望だ
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