<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する 作:そらからり
■【航空王】バーバヤード
『UBMってのはよぉ、ボーナスイベントかと思っていたけどよぉ、こうも噛み合わねえと、とんだクソゲーに成り下がるんだよなぁ』
巨人の成れの果て。
死した巨人の妄執。
眼前にて誕生した新たなUBMは、己が戦闘スタイルには余りにも相性が悪いと、バーバヤードは攻めあぐねていた。
近づけば分身機を潰される。
近づかねば、射程圏内に収まらず当たらない。
『(奴の能力の正体は予想がついた……が、俺の射程距離は奴よりも短い。このまま特攻するだけだと無駄に予備機を失っちまうな。否、本体すらもやられちまう)』
本体である黄金の機体。
鈍色と比べ、性能差は無い。
あるのは、操縦が直接かどうかであるだけだ。
だが、それでもフォーカーというUBMは近づけばあっさりと黄金の機体すらも掴まえてみせるだろう。
『(必殺スキルなら削り切れるか……?)』
時間制限はあるとはいえ、己が最大火力をぶつければ、あるいは倒せるかもしれない。
だが、その旨みがあるかどうかは……
『(倒したとして、あの性能は俺向きじゃねえな。アシスタも微妙なラインだ。つまりは、特典武具を持てあます可能性が出てくる)』
必殺スキルを切るだけの価値があのUBMには無いと、バーバヤードは判断する。
倒し、特典武具として組み込まれるのはこの黄金の機体であろう。
だが、フォーカーの能力から推察できる特典武具は、バーバヤードからしてみれば使い道は少ないように思えた。
全く、では無いだろう。
無いよりはマシ程度。
だったら、
『(……ま、それならあの巨人の嬢ちゃんにプレゼントしちまうのも手だな。これはあくまでゲームだ。そのくらいの協力プレイってやつは必要であろう)』
先程まで【巨人王】を巡り対立していた相手。
今は先んじて取られてしまったことで八つ当たり気味に攻撃していたが、それはそれだ。
特典武具が明確にアジャストするならば、フォーカーと同様の巨人の少女が向いている。
バーバヤードにとってはアシスタの存在が第一だ。
だからといって、他を蔑ろにしているわけではない。
彼は高みに昇る。
そして、他の誰をも連れていく。
故に、彼のエンブリオはこの黄金の機体となったのだろうと、自身で予想していた。
この、神の台座に。
『……仕方ねえ。一度戻るか』
自身の性分に苦笑しながらバーバヤードは操縦桿を握りなおす。
黄金の機体と、それに追随して鈍色の機体も旋回し森の中へと消えていく。
アシスタの下へ戻り、態勢を整えるために。
■【自殺王】クリアント
「……ひとまずこいつに集中しろってことか」
黄金と鈍色の機体が消えていき、クリアントはフォーカーに向き直る。
迷いのない飛翔から、弓使いの下まで戻ったのだと推察する。
方向も、先ほどから矢が飛ばされてきたのと一致する。
「オーナー」
「どうした?」
一歩前に出ようとしたクリアントをキシリーの巨大な手が制した。
「お願いが、あるんだけど、いいかな?」
「言ってみろ。俺はオーナーだからな。それに今はキシリーのセコンドだ。……この対決に集中したいなら、大抵のことは叶えてやるぞ」
「……!」
なんとなくキシリーの言いたいことが理解出来た。
恐らくは自身の力を試したいのだ。
フォーカーというUBM……巨人のある意味では頂点の一つに、【巨人王】として挑みたいのだろう。
「ありがとう……それで、あっちの方をお願いしてもいいかな?」
あっちの方とは、黄金の機体とその主、それに弓使いのことであろう。
確かに、いつ不意打ちを受けるか分からないままではフォーカーとの戦い以上に周囲へと注意を向けなければならなくなる。
ましてや、黄金の機体は速度と精密さ、それに火力において無視できない性能だ。
弓使いもまた、爆発という謎の攻撃を攻略できていないまま。
今はまだ、攻撃に晒されていないだけ。
だからキシリーもクリアントもここに無事にいるというだけなのだ。
「ああ……任せろ。あの2人だか3人だか分からないが、纏めて俺が倒してきてやる。だから……」
クリアントはキシリーを見上げる。
巨大な少女だ。
だが、これだけ自信に満ち溢れた表情をしていたであろうか。
誰をも羨んだ少女は、誰からも羨まれない存在であった少女は、今や確たる強者として堂々と立っている。
「勝ってくるよオーナー。そして、特典武具も手に入れてくる」
「……ああ」
そっちも欲しかったんだと思いながらクリアントは、
「だがキシリー。俺からも一つだけ。力を貸して欲しいことがある」
「……?」
その提案は否定されるだろうか。
恐らくは、自身にしか使ったことがないだろう力。
他者を小さくこそすれ、自身を小さくこそすれ、他者を大きくすることまではしたことがないだろう。
《巨人の国》のような不可逆的なものではない。
ただ一時的に、体を大きくするスキルを……
「ウチデノコヅチを俺に使って欲しい」
ただ一度だけ。
まるでおとぎ話の一寸法師のように、クリアントは策を伝えた。
■【???】アシスタ
黄金の機体が帰ってくる。
彼が自分の下へと帰ってこなかったことはない。
それに安堵しつつ、自身が彼を縛り付けていることに再度嫌気がさした。
「……それで?」
『【巨人王】はよぉぉぉ、残念ながらよぉぉぉ、あいつらに取られちまったからよぉぉぉ』
彼特有の間延びした喋り方。
それは彼が気長な性格をしているからではない。
逆だ。
このように喋っていないと、周囲を置いていきかねないからだ。
話したいように話してしまえば、誰をも置いて自分だけ先にどこかへと行ってしまう。
だからこそ、彼はゆっくりと、言い聞かせるように話す。
「……分かった。別にいいよ」
本当によかった。
いや、【巨人王】になりたくないわけではなかった。
なれればそれでよし。
なれなくても、まあ彼との冒険が楽しかったからそれでよし、だ。
だけど彼は心底申し訳なさそうにする。
いつだったか、私がふと呟いてしまったばかりに。
『お前がよぉぉ、【巨人王】になりてえって望みをよぉぉぉ、叶えてやりたかったのによぉぉ……それなのに、あいつらに邪魔されちまった』
「……別に、いいから。もう」
それよりも、彼が持ち帰った情報。
【巨人王】が巨人を生み出していた。
【巨人王】は巨人アバターの〈マスター〉の少女が新たに就任した。
そこまでは良い。
【巨人王】によって生み出された……恐らくは最後の生き残りの巨人がUBMとなった。
有り得ない話では無いのだろう。
何がきっかけでUBMとなるか、逸話級程度であればきっかけはそれぞれなのだから。
問題はその辺に転がっている程度の逸話かどうか。
いや、それ以上の問題がある。
「え? 倒すの諦めちゃったの?」
『だがよぉぉぉ、あの手の能力はよぉぉぉ、俺もお前も別に必要ねえだろう? 攻撃範囲の拡大なんて能力はよぉぉ』
……確かにそれはそうなのだが。
下手に命中率に補正がかかれば、アシスタの場合は外してしまいかねないし、バーバヤードもまた攻撃範囲は自身のジョブでカバーしている。
だから……倒さなくても良いのだろうが。
それはそれとしてアシスタは腹が立った。
「あっちの巨人の女の子に倒すのを譲ったってこと?」
『ああ! その方が公平だろう? 見たところ、特典武具を一つも持っていないようだからよぉぉ。俺からの就任祝いって奴だぜ』
「……さっき邪魔されたって怒っていなかった?」
『……だけどよぉ、せっかくのめでたいことに誰も祝わねえってのは』
「あっちには保護者みたいな奴がいたんでしょう? だったらそいつが……」
待て、と《危険察知》が警鐘を鳴らす。
直ちに回避行動を取らねば、死にかねない危険が迫っていると……
「バーバヤード……」
『……! 《我、黄金の乗り手にし――》』
咄嗟に彼が必殺スキルを発動する声が聞こえた。
果たして間に合ったかどうか。
分からない。
分からないまま、視界は爆風に包まれた。
バーバヤード「【巨人王】取られた! それはそれとして新たな門出を祝ってUBM譲ってあげる!」
クリアント「よくわからないけど不意打ち受ける可能性あるし、とりあえず反撃しておくか」