<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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Cside 巨人伝説~目撃者は殺された~ 20

■【自殺王】クリアント

 

「じ、じゃあ行くよ、オーナー」

「ああ。いつでも大丈夫だ」

 

 方角よし、角度よし。

 あちらが飛行機ならばこちらは射出機……カタパルトだ。

 とはいえ、そのような兵器が突如降って沸いてきたわけではない。

 人間射出機……キシリーがただ敵のいると思わしき場所目掛けて投げるだけ。

 だが、【巨人王】となったキシリーの膂力は馬鹿にできるものではないし、投げた瞬間に使われる彼女のスキルと、クリアントのスキルが組み合わされば、恐らくは敵を纏めて倒すことが出来る。

 

「……」

 

 キシリーは手の中のクリアントを見て微妙そうな顔をする。

 

「……なんだか他の人にこのスキルを使うのってもっと感動的なシチュエーションになる気がしていたんだけど」

「協力プレイなんだ。感動的だろう?」

 

 どうあれ、一寸法師のお話のようにはいかない。

 姫が打ち出の小づちを使って一寸法師を人と同じ大きさにしたように――

 

「行くよ……《姫の三振り》!」

 

 投げた瞬間、キシリー・キシシキはウチデノコヅチを使いクリアントを巨人のように巨大化させた。

 瞬間、出来上がったのは空を舞う巨大なクリアントだ。

 大きくなったため、滑空するのにも必要なSTR値は跳ね上がるが、【巨人王】のステータスがそれをクリアとする。

 それに、巨大になったのだ。

 それほど飛翔距離は必要としない。

 森を俯瞰できる程度舞えれば良い。

 

「先輩、先輩」

「どうした」

「そこは久しぶりって言ってくださいよ。何話ぶりだと思ってるんですか! ワンプちゃん、今回こそはメイン回かと思ってずっとスタンバっていたのに……全然出演機会が無いじゃないですか」

「相変わらず何を言ってるか分からないが……お前がキシリーを怖がって俺の中に引きこもっていたんだろ?」

 

 キシリーから離れたことをこれ幸いとしたのか。

 ワンプが念話を飛ばして来る。

 

「それでも今ではないだろ」

「今ですよ! だって絶対この後戦闘に入ってますますワンプちゃんの登場が難しくなるんですもん! 今だけでも先輩との二人っきりの時間を――」

「あ、見つけた」

 

 黄金は目立つ。

 たとえ深い緑に包み込まれていようとも。

 黄金の機体と、知らぬ弓を携える女性が森の中でこちらを呆けた顔で見上げていた。

 

「《死線は超えている》」

「先輩ぃぃぃぃ」

 

 ワンプの悲鳴を無視し、クリアントは【自殺王の】最終スキルを唱える。

 自身の命と引き換えに使用するは、やはり【魔法少女ω】の固有スキルである自爆。

 こちらもまた、当然ながら自爆し、死んでしまうため【自殺王】の最終スキルと相性が良いのだ。

 

 そして、この自爆であるが、普段はクリアントの周囲十数mを巻き込む程度の爆発しか起こらない。

 とはいえ、その数m以内であれば瀕死に追い込む程のダメージを与えるのだから十分な威力だ。

 ならば。

 今のクリアントが使えばどうだろう。

 

 2mにも足らないクリアントが十数mを巻き込む爆発を起こすのに対して。

 15m程のクリアントが爆発を起こせばどうなるか。

 そして、森の中には既に巨人はもう存在せず、いるのは敵とモンスターのみと知っているクリアントが、マッドラップスを装着していたら。

 

 森の一部を起点として周囲数百m規模の大爆発が起こる。

 そも、元が瀕死圏内が十数mなだけで、爆発自体の影響はそれ以上。

 爆風など、その数倍に及ぶ。

 それが、今のクリアントの巨体から繰り出されれば、森の一つや二つ、壊滅に容易い。

 マッドラップスの毒が撒き散らされていれば、より確実に。

 

「……」

 

 死んだことで、巨人化も解け、元の大きさで森の中に立つ。

 マッドラップスの毒に侵されたクリアントの血肉は周囲一帯に撒き散らされたようで、触れれば即死となる罠と化している。

 

「あっ」

 

 クリアントのように、倒れた巨木が邪魔であったからどかそうとし、うっかり触れようものなら、そう長く持たないだろう。

 

「……」

「いや、普通そこで死なないですよね?」

 

 ともあれ、毒に侵された瞬間にマッドラップスを再装着し、猛毒を重ね掛けすることで、猛毒での自殺を成り立たせ、毒態勢を得ることでとりあえず森の罠も無効化出来た。

 

「……これで森の中は安全地帯だろ?」

「まあ、良いですけどぉ」

 

 そう笑うクリアントの腹部に矢が刺さる。

 浅かったのだろう。

 ダメージはあるが、死に至るほどではない。

 そして矢が刺されば後は謎の爆発が……襲わない。

 

「ほら、な。爆破耐性もあるから」

 

 次の瞬間には五月雨のように矢が飛散し、ハリネズミのように矢が刺さりクリアントは死亡した。

 

「申し開きは?」

「油断した」

 

 刺さったら爆発していたから忘れていたが、矢は本来刺さるだけのものだ。

 爆発させるなら、させないことだってできるだろう。

 クリアントに爆発が効かないのならば、刺し殺せば良いと即座に判断できる。

 

「……というか見られているな」

「ですねぇ。余程視力に優れているか、探知器を持っているか、あるいは――」

 

 黄金の機体がクリアントの頭上を飛び、同時に機体からレーザーを発射する。

 

「観測手がいるか、だな!」

 

 予想出来ていたのが大きかった。

 今度こそ、レーザーを回避しつつ、

 

「マッドラップス。《処死貫鉄》」

 

 マッドラップスが鎧から細剣へと形を変えていく。

 細剣を装備したクリアントは、

 

『てめぇぇぇぇぇ! よくも、よくもぉぉぉぉ』

「悪いが……先に手を出したのはそっちだろう」

 

 レーザーを、機関銃を、機関砲を、続けざまに放ち続ける機体の攻撃に身を晒しながら、高いENDと得た耐性で受けながら接敵し、交錯するようにマッドラップスで黄金の機体を串刺しに――

 

「貫けない!?」

『……だったなぁ。てめえらから見たら、悪者は俺達だよなぁ。だけどよぉ、それでも割り切れねえのが感情ってやつだぜぇ』

 

 《処死貫鉄》のスキルを以てしても尚、黄金の機体は細剣をその身で受け止めた。

 

『アシスタ! こっちだぜ!』

 

 そして、相棒――アシスタの名を叫ぶ。

 

「……ッ」

 

 マッドラップスで自身の心臓を貫く。

 死亡するが、これで貫通への耐性を付けられる。

 矢がいくら降り注ごうと、雨粒以下のダメージとなる。

 

 次の瞬間、クリアントの死体へと矢が降り注ぎ、死体を更に凄惨な姿へと変えた。

 

 

 

 

■【航空王】バーバヤード

 

 そのエンブリオの名は【黄金艇 ヴィマーナ】。

 モチーフは神々の乗物とされる、黄金の空飛ぶ船である。

 それが何故ラジコン程の大きさのヘリコプターであるかは、まあバーバヤードが最も馴染みがあったからであろう。

 それに、船よりは飛行機の方が空を操縦するのに向いている。

 

 TYPE:ギア・アームズであり、戦闘機よろしく多彩な攻撃用の兵器を搭載した小さな乗物は、乗り手が小さいが故の大きさだ。

 

 〈マスター〉であるバーバヤード。

 黄金の機体の操縦者。

 乗り手にして、操縦者である彼が今まで姿を見せなかったのは、森の中に隠れていたからではない。

 1m程の黄金の機体に乗れるから、そこに乗っていただけだ。

 その正体は小人アバター。

 体躯は僅か30㎝にも満たない。

 エンブリオであるヴィマーナに合わせたのか、あるいは合わせた結果ヴィマーナが1m程になったかは不明だが、ともかくとして、彼は小人アバターとしてこのゲームを始めていた。

 

 理由はただ一つ。

 愛する人のため。

 

 そして、彼が必殺スキルを唱えていた理由も同様。

 愛する人を守るため。

 絶対に守るために、切るべき時に切り札を切っていただけだ。

 

 『我、黄金の乗り手にして(ヴィマ)それはまさしく遊戯場なり(ーナ)

 

 その効果は二つある。

 一つ目は30秒間の無敵状態。

 如何なる攻撃の前でも機体は傷つくことはない。

 【航空王】の奥義である《十二編隊》で作り出された分身も同様であり、これでアシスタの前で壁を作って守り切った。

 

 そして、二つ目の効果。

 一つ目が防御ならば二つ目は攻撃。

 否、本来であれば特攻用のための二つの効果だ。

 

 それは、残弾数を30秒間だけ無限にするというもの。

 弾丸、リロード不要。

 レーザー、常に発射。

 核ミサイル、30秒間に限り打ち放題。

 

 特典武具であろうと、ヴィマーナに搭載された兵器であれば補充を気にせずとも使用し続けることが出来る。

 尤も、威力が高すぎるものはアシスタを巻き込みかねないために使用できないが。

 それでも、対人武器を気にせずに使い続けられるのは単純に強い。

 たとえ効かずとも、目くらましにしかならずとも。

 どうせ30秒だけだ。

 いずれは削り切れるのならば、ここで少しでも削るしかあるまい。

 

『……どうだ』

 

 30秒の無敵化が解け、死体となったクリアントの周囲を旋回するバーバヤードはクリアントがどこから、新たな肉体で登場するか警戒する。

 油断はしない。

 何度でも生き返ることが出来ることは理解している。

 

 だからこそ、見落とした。

 死体は死体であると。

 もう、これ以上は攻撃してこないと。

 

 周囲を警戒するあまり、死体への警戒を怠る。

 無敵化が解け、鈍色の機体も他の場所へ索敵させていたがために、もう後がない黄金の機体だけがクリアントの死体の傍に――十数m圏内で飛んでしまっていた。

 

「《異身伝心 儀ノ四》、《死線は超えている》……」

 

 その爆発は確実に、今度こそ黄金の機体を仕留めるには十分過ぎる距離と威力であった。

 

『……あ』

 

 爆発はヴィマーナを吹き飛ばす前に機体をずたずたに引き裂く。

 機体の窓ガラスが割れ、コックピットの中から傷だらけの……致命傷のバーバヤードが放り出される。

 地面に触れる前に彼の肉体は解け、完全に消えていった。

 

「ふうん……中にいたのか」

「操縦者をこれから探すところでしたが、これはこれでグッジョブです!」

 

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