<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する 作:そらからり
なので、読み飛ばした方は是非そちらも
■【巨人王】キシリー・キシシキ
「Aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa」
その大きさはかつてのものと同じ。
如何ほども大きさは変化しておらず、しかしそこに詰まった力は、かつて以上のもの。
だが、巨人はその大きさ故に、当たり判定が大きいという理由で、いくら力に優れていようとも、ただの的であるために滅びかけた。
「……ッ。これも、当たるんだね」
フォーカーの拳が顔面に迫る。
AGIは僅かに勝るキシリーが紙一重で避ける……はずが、顔面に衝撃を受けて後方へと吹き飛ばされる。
ダメージは大きいが、【巨人王】となり得た膨大なHPが支えてくれるおかげでまだまだ戦える。
しかしながら、その攻撃の正体を掴めぬままでは反撃も難しく、掴めたとしても、果たして攻略法があるかどうか。
何故ならば、
「いち、に……幾つあるんだろう」
いわゆる、見えざる手というものがフォーカーの周囲を漂っていた。
否、正確には手だけではないのだろう。
フォーカーが蹴りを使えば、同様に複数の脚が本体の周囲で真似、頭突きも他の行動もまた同様にであろう。
攻撃範囲の拡大。
詳細には、『命中判定の拡大化』であろうか。
キシリーがそのことに気づいたのは、避けたはずなのに腕を掴まれたから。
掴んだ手の大きさと、次の瞬間にはフォーカーの手の中に自身の腕が収まっていたことから、フォーカーには見えない複数の手があるのだろうと推測していた。
そして、他の攻撃にも似たような感触があったことから、腕だけでなくフォーカーの行動そのものが見えない何かが追随していることまで考え付いた。
これも、フォーカーが能力を出し渋らなかったこと、そして事前にゼロムスが特典武具を見せてくれていたことが後押ししていた。
バーバーヤードを捉えた瞬間。
ゼロムスの特典武具で召喚された空から降る手足。
これらが組み合わさったものが、今のフォーカーの能力。
「O、Ooooooooooo」
「フォーカーさん」
40mの巨人は嘆く。
かつての王、そして今の王の残酷さに。
自分を巨人として更なる高みへと昇らせてくれないという非道性に。
何故。
王だろう。
巨人の王は巨人の奴隷だろう。
「Ooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooo」
「……」
その気持ちが、キシリーには全く理解できなかった。
「私、嬉しかったんだよ。フォーカーさんは優しかった。森で迷った私達を案内してくれたし。他の巨人さん達に注意しろって教えてくれたし。初めて出会った巨人がフォーカーさんで良かったって本当に思っていたんだ」
だからこそ、このような姿は見たくなかった。
否、その本性はゼロムスとの邂逅時に現れていたのだろう。
だが、見ぬふりをした。
ゼロムスとの関係性所以なのだろう、と。
大人の会話に口出しするべきではないだろう、と。
「ZEぜ零ゼロムムムすすス」
「だけど、本当は自分のためだったんだね」
キシリーを招いたのは次代の王とするべく。
他の巨人に注意しろと言ったのは、逃がさぬため。
巨人を増やし巨人を大きくし巨人の国を発展するべく。
皆、等しく巨人たちはその思想に染まっていた。
「A、あ、きょ巨人巨人巨人」
「私から大きさを奪うために。自分たちだけが大きくなるために。そんなことのために、私とオーナーを利用しようと、だましていたんだ」
ウチデノコヅチを握る手に力が入る。
これは怒りではない。
哀しみだ。
失望故の。
信じようとした人間が、信じるべきでない者であった時に感じる哀しみ。
「《姫の三振り》」
キシリーの大きさが変わる。
かつては、人の大きさになろうとした。
小さい姿を取り戻すべく、幾度も振るった。
結果として、歪な大きさの魔法少女が出来上がった。
今は違う。
大きいことは強さだ。
強さは誇りだ。
何も無かったキシリーの、一つ目の誇りである。
「私を大きくして」
二つ目の願いをウチデノコヅチが叶える。
14mの少女が、30近い巨人となる。
【パス・ヘラクレス】との戦いで見せた自身の巨大化。
「お、おおおおおおおおおお。王! 王! その力で! 我も!」
だが、足りない。
40mのフォーカーに対して、30mではまだ足りていない。
そして、キシリーが巨大化したことがフォーカーを刺激する。
「それは何度使えるのだ! 一度では無いだろう? 二度か? 三度か! 永遠に使えるのであれば我を永遠に! 天を衝く程の巨大な姿を我に寄越せ。これは悲願である。我ら巨人の祖先が願いし、大願を! 今こそ成就すべく!」
「違うよ。ゼロムスさんから聞いた。貴方たちは偽りの巨人だって。モンスターだった皆が巨人になった時に植え付けられた偽物の記憶。それがフォーカーさんたちを支配している。妖精を嫌って、殺したくて、そして大きいことだけが誇りだった、過去の巨人の人達の呪いが、込められているだけなんだ」
「巨大! 巨大! 巨大‼」
会話は成り立たぬ。
フォーカーの言葉は、ただの願望を口にするだけ。
キシリーの言葉を聞く耳など元から持っていなかった。
「……ウチデノコヅチのスキルはまだ《姫の三振り》ただ一つだけ。そして、使用回数も三回のまま。私のエンブリオが成長しても、そこは変わらなかった。ステータスへのバフも無いまま」
第四形態から第五形態への進化によるエンブリオの性能の変化。
それは、小さくなることへの幅が広がったこと。
ようやく、普通の少女としての活動が可能となったことは喜ばしいことだ。
14mが1m半ばの少女へと。
大きな躍進だ。
だが、それだけではなかった。
小さくなることに関しては確かにそのような成長性を見せたが、それ以上に、ウチデノコヅチは大きくなることを目的としたモチーフを持つエンブリオ。
小さくなることがそれだけ大きな幅を持たせられるのに、大きくなることが2倍程度なわけがない。
すなわち、
「これが最後の一回」
クリアントに一回。
そして先ほど自分に一回。
だが、それだけで留まらない。
最後の一回を、再度自分に。
「《姫の三振り》」
14mが30mに。
その倍率がおおよそ二倍。
ならば、果たして最大倍率も同値であろうか?
否、最大値はもう少しだけある。
ほんの、5倍だけ。
そう、《姫の三振り》は5倍の大きさになれるスキルではない。
5倍までの大きさになれるスキルであった。
だが、本来は使えない倍率であった。
70m近くになると……どころか50mを超えた時点でキシリーは上手く立っていることすら出来なくなるのだ。
何故ならば、ステータスが大きさに釣り合わないから。
一万程度のステータスでは全く足りない。
50mサイズを支えることは出来ない。
――それも過去の話だ。
【巨人王】となったキシリーに足りないなんて言葉は似合わない。
「何故貴様がががががが。我に寄越せ! 狡い、だろう! 何故貴様だけが!」
フォーカーの声が遥か下から聞こえてくる。
100mとなったキシリーの腰元から。
時折、ガンガンと衝撃がキシリーの脚部に響くが、もう動じることは無い。
今のキシリーのステータスならばフォーカーの攻撃程度、ENDだけで防げてしまうから。
「ゼロムスさんの言った通りだ。私のエンブリオと相性が凄く良い……」
【巨人王】の固有スキルである《臆せよ我が体躯》がキシリーと敵であるフォーカーの高低差からステータスを底上げしてくれる。
100mと40mの差が生み出すステータスバフ。
これにより、キシリーのステータスはオール4万超え。
【パス・ヘラクレス】ですら優に超えるステータスとなる。
「我が巨人だ! 見下ろすな! 我が見下ろすのだ! 王であるならば! 我を見上げ我の言葉に従え――」
「……あのね。フォーカーさんは大人、なんだよね。偽りであったとしても。モンスターだったとしても」
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
「だから、知っているはずだよ。他の人が持っているものが幾ら羨ましくても――」
もはやフォーカーの攻撃はキシリーに通じない。
当たろうと、防御力を突破出来ない。
「――、羨んで暴れて、そんなことをしても手に入ることなんて無いんだよ」
「――ッ!?」
フォーカーの頭部を直撃する拳。
それはまさしく、悪人を懲らしめる拳骨の如く。
ただし、懲らしめるだなんて生易しい威力には収まらず、フォーカーの頭蓋骨を粉砕し、胴まで食い込み、地面を割る勢いで振り下ろされた拳はフォーカーの絶命と同時にようやく止まる。
「……ウチデノコヅチ解除」
敵対者がいなくなったことで《臆せよ我が体躯》のバフが無くなり体を支えるだけの力が無くなる。
すぐにウチデノコヅチを解除し、14mのサイズへと戻る。
変わらない大きさだ。
このゲームを始めた時の、希望に溢れた、絶望を知らぬ時と変わらない大きさ。
だけど、少しだけ違う。
今のキシリーには、希望と絶望、そして勝利を知るその手には、新たな武器が握られていた。
【<UBM>【貪瞋痴 フォーカー】が討伐されました】
【MVPを選出します】
【【キシリー・キシシキ】がMVPに選出されました】
【【キシリー・キシシキ】にMVP特典【欲断拳 フォーカー】を贈与します】
おまいう
【欲断拳 フォーカー】
元のUBMの能力を拳にのみ反映したメリケンサックです。
つまりは、キシリーの拳の命中判定が上がってます。
とはいえ、スロータリスのように射程距離は伸ばせず、あくまでキシリーの手の届く範囲に限り、当てやすくしてくれる補助輪のようなものです。
補助輪が必要なキシリー、可愛いね