<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する 作:そらからり
■【???】アシスタ
赤が嫌いだ。
あの事故を思い出すから。
白が好きだ。
あの雪原地を思い出すから。
好きと嫌いがはっきりと分かれている。
バーバヤードは好き。
世界で一番、何よりも。
だったら、私は……。
私は私をどう思っているのだろう。
いつまでもうじうじと悩む私を、私は果たして好きなのか嫌いなのか。
それすら定まっていない私は。
やはり、嫌いなのだろうか。
「……矢が効かない……訳じゃない! 刺さってはいる。爆発は小規模だけど起こっている。ならば! 私の攻撃を減衰させる何かしらのスキルが発動されていると見るべき」
バーバヤードが興奮すれば私が冷め。
私が焦ればバーバヤードが窘める。
そうやって、そんな関係で私達は成り立っている。
だけどもう私は独りだ。
一人ぼっちで戦うしかなくなった。
興奮も冷静さも持ち合わせる。
士気は高くし、敵の能力を見極める。
「……そう、情報。まずは振り返ることから」
矢による攻撃は最初こそ効果があった。
爆発し、死んでいる。
いつからか効果は薄れたが、それでも通用した時はあったのだ。
そして、単純な矢による刺突。
こちらも、何度か効果があったように思われた。
攻撃が通用しなくなった前後。
何をしたかは分からない。
だが、その間にきっと耐性を付けたに違いない。
「耐性……そう、耐性、ね」
聞いたことがある。
かの【殲滅王】もまたあえて攻撃を喰らい、耐性を得た上で敵を倒すタイプの戦い方をする〈マスター〉であると。
彼もまた、同じなのでは無いだろうか。
耐性を徐々に得ること、それが彼の持つスキル。
エンブリオなのかジョブ由来なのかは不明だが、これならば納得がいく。
最初は何の耐性も持ち合わせていなかった。
だが、こちらが攻撃を繰り返すうちに、爆発、刺突とそれぞれ耐性を得た。
恐らくはバーバヤードの攻撃にも耐性を得ていたのだろう。
同種の耐性……つまりは爆発系統はより効果が薄れていると考えるべき。
「読めれば、もう問題はないわね。撲殺殴殺圧殺絞殺斬殺轢殺焼殺溺殺……幾らでもあるわ」
勿論、私のメインジョブでは射殺がせいぜいであるが。
それでも、念のため幾つかの【ジェム】の持ち合わせはある。
接近された時の攪乱用のため、威力は低い。
だが、【殲滅王】と似たタイプならば、耐久性は低いだろう。
「……動きが止まった?」
望遠アイテムを通して見える男は突如横たわる。
死んだ?
手元の矢は未だ番えたままだ。
だが、他から攻撃されたようにも見えない。
「……」
男は動かない。
私を待つつもりか?
互いにこの戦いに付き合うメリットは少ない。
男は既に少女を【巨人王】にするという目的を達成しているし、私はただバーバヤードの弔い合戦に燃えているだけだ。
「……付き合ってあげようじゃないの」
弓矢が通じない現状、どちらにせよこれからは接近戦だ。
近づく必要があった。
だから、というわけではないが、少しだけこの男と会話してみたくなったのだ。
ジョブ補正によって視力が強化されているため、ある程度近づけば男がどうなっているか分かる。
アレは、死体だ。
何故死体が残っているのか、気になるところではあるが、それよりも問題は……
「これで終わり、ではないわね」
むしろ死体が残っているからこそ男がどこかで生きていることの何よりの証。
そして、あえて死体を残したというのなら、近づくべきではないだろう。
死体そのものか、あるいは周囲の地形か、罠が張られているはずだ。
しばらく死体を眺めていると、やがて消えていく。
時間制限のあるものだったのだろう。
やはり、何かしらのスキルの副産物。
「……次は何を」
身を潜め、敵の出方を伺う。
どこにいるか分からない。
潜伏系のスキルを持っているのか、あるいはただ動かないだけなのか。
「……」
しばしの沈黙が続いた後に、
「あーあー、どこにいるか分からない。近くで聞いていることを前提に話すぞ」
両手を挙げた男が茂みから出てきた。
《看破》で見える男の名はクリアント。
ステータスはEND高めの耐久寄り……手持ちの【ジェム】で倒せるか不安になってきた。
ジョブは見えないが、合計レベルから推察するに超級職は確定している。
厄介なことだが、予想の範疇だ。
「分かっていると思うが、俺はこれ以上戦いを継続する意思はない。ただ攻撃されたから反撃しただけだ。さっきのヘリコプターの奴には悪いが、先に手を出してきたのはそっちだからな」
分かっている。
敵討ちだとか弔い合戦だとか綺麗なことを言っているが、これは逆恨みだ。
どう見ても私達が悪い。
あちらは恐らくは合法な手段で超級職を得ようとしたのに、私達は抜け道を使おうとした。
それも結果失敗したのだから目も当てられない。
「だから一応だが聞いておく。これ以上こちらに手を出さないなら俺達も手を引く。逆に、まだ戦い足りないなら、俺はどこまで付き合うぞ。俺が死なないのはもう分かっているだろうからな」
男の能力のタネが分からないならば、確かにこれは何より効く言葉だ。
攻撃に耐性がある。
そして倒せても復活する。
2つの厄介な不死性があるからこそ、男の継戦能力の高さをより物語らせる。
「選択肢は3つ。1つはこのまま顔も合わせないまま別れる。2つ、どちらかが死ぬまで戦う」
クリアントは先程の言葉を選択肢として言い直した。
「3つ、少しだけ話をしないか? アンタ達の目的を教えて欲しい。【巨人王】はもう俺の仲間が取ってしまったが、超級職を目的とするなら、他のでも良いのなら、何か協力できることがあるかもしれない」
お人よしの言葉と受け取るべきか。
あるいは、何か裏があると読むべきか。
超級職の情報?
確かに、持っている者は持っているだろう。
大規模なクランならば多くの情報を握っているところもある。
ティアンが就いている場合、空席になり次第、次代をすぐに取るために、条件だけ満たさせておくと聞いたこともある。
「30秒待つ。それ以上過ぎたら……俺は帰る。何もされなかったら、だけどな」
どうするか。
……メリットとデメリットを秤にかけるか。
あるいは激情に身を任せるか。
……私はクール。
冷徹に、冷静に、冷酷に。
自分にそう言い聞かせる。
超級職の情報は必要ない。
既に私は超級職に就いている身だ。
バーバヤードもまた【航空王】というエンブリオとベストな組み合わせの超級職を得ている。
だが……だからこそ、ここは、乗るべきだ。
「……ここよ」
クリアントの前に出る。
30秒も過ぎようとした頃合いであった。
すぐに出てしまっては軽い女と思われるかもしれない。
熟考を重ねた末の判断と捉えてもらうために時間を少しだけ稼がせてもらった。
「……女だったのか」
「意外かしら?」
「いや、納得だ。あのヘリコプターの男は、だからあそこまで必死になっていたんだな」
へえ、必死だったんだ。
と、嬉しくなっている場合ではないのだ。
「アシスタよ。既に名前くらいは見えているかしら?」
「ああ。他のステータスは見えないけどな。俺はクリアント。【自殺王】だ」
「……何よその不吉な超級職。いえ、でもそのしぶとさは納得したわ。名前からして他殺を許さないのでしょう?」
「似たようなところだ」
クリアントは苦笑する。
「それで、出てきたってことは俺の話に乗るってことで良いんだな?」
「……そうね。話次第ね。別に私の目的なんて大したものじゃないわ。バーバヤードは違うかもしれないけど。でも、本当に私は……少なくとも私自身は【巨人王】へのモチベーションはそう高いものでもなかったの」
「……そうなのか」
意外そうな顔をする。
まあ、あれだけ相方が必死になっていたのだから、そう思うだろう。
「……私の背が小さいことを気にしていたからよ」
「ん?」
「現実の方ね。私は周りより背が小さいの。それを少しだけバーバヤードに愚痴ったことがあったわ。それで、彼はなら俺が小さければ良いんだなってアバターを小人にした。馬鹿よね」
「……まあ人それぞれだろ」
「でも、小さいのはアンタだけじゃないって言ってしまったわ。それで今度は大きくなるには【巨人王】だって、彼は言ったわ。私を【巨人王】に就かせるって、そうすれば背が伸びるだろうって」
「伸びるというか、サイズが大きくなるだけだろ」
「ええ、だから馬鹿なのよ根本的に。私がそれで喜ぶと思っているの。本当に……馬鹿よね」
「分かります!」
「……え!?」
クリアントの横に小さな女の子が出てきた。
エンブリオ……なのかしら。
想像もしていなかったが、エンブリオはまさかのメイデン?
「男って本当に馬鹿ですよねー。先輩も私が喜ぶことを本当に理解してるの?ってことばっかりするんですよ」
「分かる。バーバヤードもそう。一緒にいてくれたらそれでいいのに。何で違うところでそんなことし始めるのって思うことあるわ」
「分かりみしかないです」
そっか。
彼女が隣のクリアントを見る目はきっと私と同じなのだろう。
「あの大きな女の子は貴方の仲間なのよね? パーティメンバー? まさか幼い女の子を囲っているわけでは……ないでしょう?」
「そんなわけないだろ……。クランメンバーだよ。男女比は確かに偏ってるけど……俺以外にも男はいるし」
そっか。
クランか。
2人きりも楽しかった。
でも、大勢だったら、もっと楽しかったのかな。
私はバーバヤードと一緒だったけど。
たくさんの友人に囲まれる。
そんな学校生活を送ることも出来たのかな。
「私の目的は以上よ。もう終わりも終わり。【巨人王】に就けないなら、これ以上戦う理由はないわ」
「そうか、だったら――」
「だけど少しだけ、興味が出た。クランというものに」
クリアントの隣の女の子。
彼女ともう少しだけ話をしたい。
恋バナというやつをしてみたい。
大きな女の子とも、話をしてみたい。
自身よりも巨大な巨人を相手に奮闘してみせたあの強さを私も欲しい。
「そうか。俺としては別に良いが――」
「だからここからは入団試験よ。私の実力を存分に試してみなさい」
右手に矢を、左手に【ジェム】を構える。
「……ん? 何でそんなことに」
「ああ、死んだら連絡を取れないわね。これ、私の連絡先。合格だったら連絡ちょうだい」
メールアドレスを伝える。
これで私がクリアントを殺しきっても、クランに入れるだろう。
「行くわ……【
「やっぱり超級職か……。まあ良い。クラン〈パルプンテ〉オーナー……【自殺王】クリアントがアンタの実力を見せてもらおう」
アシスタさんが欲しかったもの
・バーバヤード君
・お友達との青春
あと、はい、超級職です
弓(射撃系)特化派生超級職【射神】
技術に関しては一切の補正スキル無しのやべえ超級職です
【弓神】はきっと補正スキルあるはず!
あとクラン名ようやく出しました
〈パルプンテ〉です。きっとどこかで見覚えがあるでしょう。200話以上前に