<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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Cside 巨人伝説~目撃者は殺された~ 25

■巨人の国 森林部

 

 必殺スキルである《黒渦たる私は全てを呑み込む(コラプサー)》は、通常であれば10秒経過時点で基点となるアシスタの周囲20m以内100㎏以内の地面に固定されていない物質は凡そ吸い込まれることとなる。

 20秒時点で同距離内の木々ですら引き抜かれ、30秒を以てして100m以内のあらゆる物質がアシスタの重力に引かれることになる。

 故に、この必殺スキルは発動したが最後、100m以内に留まることは愚策であり、まだ動けるうちに、逃げられるうちに遠距離まで逃げて必殺スキルが解かれるのを待つ他無い。

 

 しかしながら逃げ遅れることもある。

 もしくは出方を伺っているうちに動けなくなることもある。

 

 その時にはどうするか。

 

 諦めるしかないだろう。

 

「踏ん張ってください、サードルさん! 貴方ならできますよ! なんたって貴方は巨人の……えーと、えりーと?……でしたっけ」

「宰相だったから、膂力よりも知略に長けていそうだな。……まあ巨人には変わりはない」

「そう! 宰相さんですから踏ん張れます!」

「宰相を何だと思っているんだ」

 

 発動20秒を経過しても尚、周囲の木々は揺られこそすれ、地面に固定されている。

 その理由はひとえに巨木であるから。

 根が太く長く地面に張っているため、必殺スキルの出力が上がろうとも留まることが出来ている。

 

 だが、次第に根は抜かれていき、どころか幹が折れていきそうになっており、時間の問題であることは分かり切っている。

 

 だからこそ、クリアントは決断する。

 膠着状態は自ら解かなければならないと。

 

「サードル。手を離せ。その幹からな」

 

 クリアントの命令通りに、クレハドールによって人形化されたサードルはクリアントを掴んでいるのとは反対の手を––吸い込まれないために巨木を掴んでいた手を離す。

 

「え!? 何やってんです先輩!」

「いいんだ。こうしなければならないんだ」

 

 すぐにアシスタから最も近い存在であるクリアントが、サードルごと吸い込まれそうになる。

 

「多少の犠牲を払わなければ、こいつには勝てない」

 

 サードルが地面を踏みしめる。

 だが、巨人の力を以てしても尚、抗うことなど一瞬に過ぎず、サードルもまたアシスタへと吸い込まれていく。

 

「うわわわわわ! もう無理ですぅぅぅ」

「……いいや。サードル、その離した手をアシスタに向けて伸ばせ!」

 

 だが、吸い込まれそうになるクリアントを追い越してサードルの手が伸びていく。

 クリアントを掴み重力に抗う右手と、自ら吸い込まれる左手。

 そのどちらが先にアシスタへと到達するかは、位置関係からして際どいものであった。

 

「あああああああああああああ……へぁ?」

 

 ジェットコースターに乗せられた女児のような悲鳴を上げるワンプであったが、突如としてその身に受けていた吸引が無くなり間の抜けた声を出す。

 

「あれ……? って、サードルさんがおかしな姿に!?」

 

 左手からその半身にかけてアシスタに吸い込まれていくサードル。

 だが、その身体の大きさがアシスタを覆ってしまい、吸い込むには時間がかかっていた。

 身体をくの字に曲げ、少しずつサードルの面積が小さくなっていく。

 恐らく彼が生きていたら全身に多大なる激痛が襲っていただろう。

 人形化してる今、苦痛を感じないことがどれだけ救いだろうか。

 

「アシスタの体は小さい。一度にどれだけ吸い込むか。そこに賭けてみた」

「確かに……掃除機もビニールとか詰まりますもんね」

 

 それでもまだ、時間稼ぎに過ぎない。

 サードルの全身が吸い込まれれば再び周囲へと強大な重力を向けるだろう。

 

 だが、賭けに勝ったのはクリアントだ。

 サードルという犠牲を出しながら時間を稼いだ。

 その稼いだ時間はイコールで……

 

「必殺スキルの効果時間は30秒だったか……」

 

 《黒渦たる私は全てを呑み込む》が解ける瞬間であった。

 

 サードルの全身がアシスタに吸い込まれる。

 同時に、アシスタの全身が黒から、光を取り戻していく。

 

「……え」

 

 必殺スキルが解け、周囲の状況を理解したアシスタが信じられないといった顔をする。

 まさか至近距離で生き延びるとは思わなかったのだろう。

 

「……一回くらいは殺せたのかしら?」

「手駒は犠牲になったが俺自身は一度も死んでいない。恐ろしくはあったがな。もう一度発動出来るなら俺はもう手は無いけど、どうする?」

「無理よ。自爆スキルじゃなかったのが奇跡なくらい高性能な必殺スキルなのよ。日に一度発動するのがやっと」

「なら、降参するか? 今ならお互い大した傷も無く痛み分けに出来る」

「そうね……。いえ、手は無いのだったかしら。なら、あと一手くらいは――」

 

 手持ちの【ジェム】全てを投げてやろうかとアイテムボックスを操作しようとしたアシスタだったが、急に体から力が抜けていく。

 そして立っていられなくなり、座り込んだ。

 

 《黒渦たる私は全てを呑み込む》の反動ではない。

 アレは、発動中の操作性と五感を犠牲にして形にしたものであり、発動時以外のアシスタへの負担は一切ない。

 故に、今アシスタが何かしらの不調があるのだとしたらその原因は――

 

「漸く、効果が現れたようだな」

 

 懐から菓子を取り出し、口に含んだクリアントが笑う。

 その身体に巻きつけられた腹帯が一瞬だけ輝きを放つ。

 

「特典武具の一つだ。周囲の生物の腹を強制的に空かせる。時間が経つと【飢餓】になる程の強力な空腹だ」

「なに、よ……それ」

「睨むなよ。無傷で痛み分けって言っただろ。多少の状態異常くらいは見逃してくれ。食べれば、マシにはなるから」

「……」

 

 アイテムボックスから食料を取り出す。

 その操作する手すらおぼつかなくなる。

 眼が霞み、指が震え、視界が揺れる。

 これが【飢餓】の症状なのだろうか。

 

 なんとか取り出した食料を口に運び、飲み込む。

 なるほど確かに症状はマシになった。

 だが、完全に治ったわけではない。

 

「どうすれば完全回復するのかしら」

「俺が発動を解けば、少なくともアンタは解けるだろうな」

「……少なくとも?」

「ああ。俺は駄目だ。死ぬまで解けなくなるんだ」

 

 なんだそれは。

 ならば、自爆覚悟でその特典武具を発動したのか。

 否、食べていればマシにはなる。

 食べ続けていれば……。

 

「共倒れするか、貴方だけ死ぬか。選べってこと?」

「共倒れになるか、降参するか選べってことだ」

 

 どのみち戦えない。

 食べる手を止められない。

 

「……」

 

 しばしの沈黙の後に、

 

「分かったわ。降参よ。でもこれ、試験よね。私はお眼鏡に叶ったのかしら?」

「ん? ああ。そうだな。十分強さは見せてもらった。アンタとバーバヤード、だったか? 2人をクランに迎え入れたい。というか、戦力強化としてはこちらから頼みたいくらいだ」

 

 空戦特化と射撃特化。

 どちらもクランに欠けているものである。

 

「……ちなみに。私達って貴方のクランの中ではどのくらいの強さなのかしら」

「そうだな。〈超級〉2人はさておいてそれ以外となると……」

「はぁ!? 〈超級〉がいるの!? え、クランの名前って〈パルプンテ〉よね。聞いたことも無いわ」

 

 ちなみに3人目が誕生している頃合いである。

 

「発足してまだ時間がそれほど経っていないからな。あいつら2人にしてもこの間進化したばかりだし」

 

 未だ無名に近いクランである。

 認知度の低さに関してクランオーナーは特に問題視していない。

 

「アンタ達の強さだったな。単純な戦闘能力ならかなり上だと思うぞ。たぶん」

「多分? バトルスタイルの違いとかで測れないってこと?」

「いや、俺がまだあいつらの強さを測れていないからな。手札隠す奴等が多いせいで」

 

 それは仕方ないことか、とアシスタは納得する。

 いくらクランであろうとも全てを見せびらかすことはしないだろう。

 というか、この目の前のクランオーナーは先ほどから特典武具の能力を開示していたが、それはそれで良いのだろうかと心配になってくる。

 

「改めてよろしく頼む。俺はクリアントだ」

「アシスタよ」

 

 クリアントはメモ用紙を取り出し、さらさらと字を書くと、

 

「悪いがこれをキシリーに渡しておいてくれ。今回の顛末とアンタ達の加入に関して書いてある」

「貴方が直接言えばいいじゃない」

「そうしたいのは山々なんだが……パルペテノンを解除したから俺に空腹が重くのしかかってきて……食べても追いつかなくなってきた。だから、死ぬ――」

 

 メモをアシスタに渡すと同時に、クリアントは倒れ、そして【飢餓】によって死んだ。

 蘇生のストックも尽きてしまったのか、それ以降死体も残らずに塵となり消えていく。

 

「えぇ……」

 

 これを勝利と呼べるのか引き分けと呼ぶのか敗北と言わざるを得ないのか。

 締まりのない結末にアシスタは少しばかり口の端を引きつらせた。

 




対生物であればかなり強いパルペテノンちゃん。
ただし主が確実に死ぬ。
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