<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する 作:そらからり
これでクラン強化編終わるぜ
■とある少年の話
男として強くあろうとした。
誰にも負けない強さが欲しかった。
英雄譚を読んだ。
紡がれた物語は、神や悪魔に果敢に挑んだ英雄の話。
そのいずれもが憧れに相応しい英雄の姿であった。
目をキラキラと輝かせ、自身もそうなりたいと願った。
けれど、そうはいかなかった。
所詮は物語。
空想上のお話だ。
人間は山を砕けないし。
空を割れないし。
神や悪魔にも勝てない。
それどころか。
自分は……ただの弱者に過ぎなかった。
弱者のまま強者のように驕る力すら無かった。
……。
そして、本物の強者に出会った。
その強者は山を砕くことも、空を割ることも、神や悪魔に勝つことも出来ないが。
ただ、正しかった。
正しく強かった。
そして、正しく、強いが故に。
足枷が出来てしまったのだ。
「あ、あ、あああああああああああああああああああ」
強者が、強者では無い者に嬲られる。
英雄が、ただの野盗に負けるように。
それは、弱者にとって絶望であった。
自らを守ろうとし、強者が倒される様は、自身の弱さに拍車を掛けられるようであった。
希望は捨てられ。
現実を見せられ。
そして、少しばかり時が過ぎ。
強者は弱者へと成り下がった。
誰のせいだ。
そう、自分のせいだ。
これは咎。
そして懺悔。
強者を目指し、しかし弱者に甘んじてしまった自分の罪。
強くなろう。
そう、再び願ったのは言うまでもない。
誰にも負けぬ強さを。
強者も弱者も関係なく打ち勝てる強さを。
■ノーチラス内部
移動という面に関しては他3つのチームに対し、このチームが圧倒的に勝っていた。
徒歩での移動であったクャントルスカやレシーブ、モンスターを人形化したクリアントらと違い、チャリオッツ系統のエンブリオがあるという点において、少なくとも彼らの移動は快適であった。
体力的にも精神的にも疲労は無く、むしろくつろいだまま目的地に到着するため、目的だけに意識を割くことが出来る。
だが、というか、だけども、というか、だからこそ、というか。
移動に集中しなくてはならない他チームと違い、移動時にくつろげるからこそ移動中にコミュニケーション能力を発揮しなければならなくなるのがこのチームであり。
クランの中でも関わり合いの少ない者同士だけで構成されてしまったこのチームがこの後チームアップをしていくにあたってどれだけ互いの特性を理解できるか、それに尽きるのであった。
「さて。私としては2人のことを知っておくのはやぶさかではないのだが。というか知りたいのだが」
3人の中でも、最も他の2人に興味を示したのは好奇心の塊であるフィリップであることは当然であろう。
ジョブ、エンブリオ、特典武具……彼女らのオンリーワンの性能を知ることはフィリップの趣味であり生き甲斐。
そして、後に控える戦いのことを思えば、この申し出を無視するわけにはいかない。
たとえ、こいつ趣味全開で聞いてきているなと頭でわかっていても。
むしろ歩み寄る第一歩を踏み出してくれてありがとうと礼を言わなければならないくらいである。
「んー。まあ私も別に良いッスよ。同じクランですし、敵対することも今後は無いでしょうし」
かつては魔法少女同士であればそれは敵同士であると同義であった。
【魔法☆少女】を目指すうえで他の魔法少女シリーズに就く少女達は殺しておかなければならない存在。
敵の手の内は知り尽くしておかなければならず、逆に自身の手の内は明かしたくない。
イテカもまた同様であり、数知れない程の手札を隠し持っている。
エンブリオと魔法少女の固有スキルの組み合わせで“人間武器庫”などという呼ばれ方もされている実力者だ。
「ジョブは基本的には【魔法少女χ】ッス。固有能力は所有アイテムの重量軽減。レベルが上がった今はほぼ重量無しで扱えるッスね。そしてエンブリオは【全身空虚 リビングアーマー】……まあ体の中にアイテムを仕舞えることが出来る能力ッス。ジョブとエンブリオのシナジーでほぼ無制限にアイテム仕舞えるんでアイテムボックス要らずの生活ッスよ」
「ふむ……ちなみにその出し入れのクールタイムは?」
「無いッス。《瞬間装着》も出来るんで、状況に応じて装備を整えられるのが強みッスかね」
プシュケーの話では更にもう一つか二つ。
特典武具を除き、隠しているはずの切り札もあるようだが、今はこれ以上は語る気がないようだ。
とはいえ、ジョブとエンブリオについて明かしてくれるということは少なくとも今回のクエストへの参加意欲はあると見ている。
「私ですかぁ? ええと、そうですねえ。とても弱いから逃げ出したいくらいなんですけどぉ……」
「いや、いいから。君の強さはもう十分このクラン内では知れ渡っているから」
「そうですか……まあそれなら仕方ありませんけど。……あまり私の強さを吹聴しないでくださいよ?」
そしてイテカ以上に気分のムラがある人物。
妹妹は促すことで素直に己が力を明かす。
メインジョブである【魔法少女μ】とサブの【切断姫】、エンブリオである【斬風爪 カマイタチ】の能力を。
「うん。頼もしい限りだね」
直接戦闘系が2人もいる。
それに【切断姫】の強さはプシュケーが太鼓判を押している。
なんでも【切断王】の能力を持つ敵と戦ったことがあるのだとか。
実に厄介であり、戦闘スタイルは異なるだろうが、殺傷力においては超級職の中でも上澄みらしい。
「頼もしいならこっちの言葉ッスよ」
「そうですよ。フィリップさんは〈超級〉なんですから。私よりも強いってことをもっとアピールしてくださいよ」
「いや私は広域型だから……2人のような個人型とはまた違うからね」
それを言うならイテカも妹妹もまたそれぞれで広域型の面を持ち合わせているのだが。
そこまではフィリップも知らない。
「ともかくとして、この戦力は私を抜きにしても他の依頼に向かったチームにも引けを取らないだろう。私も可能な限りバックアップをするつもりだ」
「いや前に出て戦ってくださいよ。フィリップさん、そういうタイプッスよね」
そうしたいのは山々だ。
だが、今回のフィリップはクリアントやクャントルスカと同じく支援の立場にいる。
即ち、依頼の達成と共にクランメンバーを出来る限り強化したいという方針である。
「まあ壁にくらいはなれるかもしれないが……そもそも私は直接戦闘出来るジョブでもエンブリオでもないからね。生存に偏ったといっても過言ではない」
「あー……確かに。前に出て戦いを眺めていたいって感じっスか。それなら後ろで砲撃してくれていた方がいいかも……」
AGIが特段高いわけでもないため、肉壁にしかならないこともある。
むしろ戦闘を邪魔してしまう可能性だってあるのだ。
ならば後ろで控えておいた方が良いこともあるだろう。
「だろう? それに此度の相手は神話級UBMなんだ。シュヴァーゲルは運良く私でも眼で追える程度の速さだったから何とかなったけど、戦闘型のUBMだったら話にならないぞ私は」
「……それなら耐久方の私と攻撃全振りの妹妹さんの方が良いかもッスね」
「私は弱――」
3人の戦力云々はさておいて。
此度の依頼を振り返る。
プシュケーがどこからか拾ってきた依頼。
内容は、可能であれば倒せ。
とはいえ、多少の手出しをしても暴れまわらないタイプのUBMらしい。
棲み処を作り、そこに居座る縄張り型。
周囲に人間の集落は在るが、戦闘に巻き込む程近い場所にはいない。
「問題は神話級。予想も知れない能力。そして高いステータスを誇るという点だ」
「何が起きても神話級なら当たり前みたいなことあるッスからねぇ。というかそこのところ、実際に対峙したことのあるフィリップさんはどうなんスか?」
「……そうだね。〈超級〉に進化して一時は優位に立てたこともあったけど、やはり恐ろしいよ。軍団指揮型で軍団を蹴散らした上で挑んで、それで漸く互角の戦いになったのだから」
「はー。それで今回のUBMってどんな能力持ってるんでしたっけ?」
「強化型だね。自身のステータスを状況に合わせて強化する能力を持っているみたいだ」
「……じゃ、お疲れさまッスぅぅぅぅぅ!?」
ウィンドウを開きログアウトボタンを押そうとしたイテカをフィリップと妹妹が取り押さえる。
「無理ッスよ! 分かってるんスよね? 敵う敵じゃないッス! プシュケーさんも無理は禁物って――」
「言ってないよ。無理は承知って言ったんだ」
「似たようなもんス。どのみち負けるなら諦めて帰りましょう!」
なるほど、これがイテカの特性か、とフィリップは観察する。
彼女は諦める人間だ。
勝算が無いものは何でも諦め、挑戦しようとしない。
故に勝率は高いが、そこに格上との戦いが含まれないのだ。
「……能力も噂程度。まずは聞き込みをしてからでも話は遅くはないと思うよ。それでも勝てないと思うなら……」
「思うなら?」
「君達の急激なパワーアップを願うしかあるまい」
ニコリと笑う。
ただしその笑みはイテカを凍り付かせる類のものであったが。
「それよりは付近の〈マスター〉さんを探しましょうよ。応援願えば助けてくれるかもですよ」
「それはそれで手段としては有りだけど……今回の依頼の意味、分かっているよね?」
君たちの戦力強化だよ、と内心訴えるもイテカも妹妹も気づかないふりをしている。
「(いやはや……敵が強ければ強い程、燃えてくれるものではないのだね。だけどいざとなれば戦ってくれるのだろう?)」
それでも期待せざるを得ないのだ。
彼女たちは魔法少女。
時には殺し合い、時には裏切り、時には騙す。
だけども心の内に秘める熱は、確かにあるのだ。
まだ、灯された火を起こす風がないだけで。