<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する 作:そらからり
しかも登場人物の名前間違いとかいうポカ
もう君たちが編集者だ
今話も頼むぜ
■ノーチラス内部
「最初の目的地はここ。件のUBMの棲み処から約10㎞離れた地点にあるドリムという村だ」
ノーチラスに搭載された機能の一つ。
スクリーンモニターに映し出されたレジェンダリアの地図の一部を拡大していく。
そこには現在進行形で進んでいくノーチラスの姿があった。
ちなみに進路はレジェンダリアを南下している。
「便利ですね、これ。衛星カメラでも打ち上げているんですか?」
「さて、どうなんだろう。分からないな」
そこには興味持たないのかよ、と心の中でツッコミをしながら妹妹はノーチラスの進む先を見る。
そこにはポツンと十数棟の見るからに簡素で脆そうな建造物が集まっており、これがドリムという村のようだ。
限界集落というかほぼ終わりかけの村のようだ。
「……本当に人が住んでいるんです?」
「の、はずだけど……。あ、ちなみにこっちがUBMだね」
その村から更に南に進んだところに黒い立方体のようなものがあった。
とはいえ正方形ではなく歪んだ四角形だ。
その周囲には人工物はおろか生物の棲んでいる気配は無く、最も近い何かこそドリム村である。
「黒いですね……何でしょうかこれは」
「ふうむ。拡大は出来ないんスか?」
黒い何かを更に良く見ようと拡大を試みるも、流石にこれ以上は無理である。
ノーチラスの探索機能を以てしても、リソースが追いつかない。
「これ以上精査を試みるならもっと近くないと無理かな。まあ、そうしたら自分の眼で見る方が早くなりそうだけどね」
「この中にいた方が安全って気はしそうですよ。肉眼で見て大丈夫なんでしょうか」
周囲に何も無いということは、近づけば何かが起きるかもしれないということ。
生身で迂闊に近づきでもしたらUBMの能力に晒される可能性とてある。
「それもまた調査の一つということで。……そうだね。ここはハードルを下げておこうか。討伐は依頼達成の条件ではあるけど、私達においては違う。死んでもいいから敵の能力を暴く。最低でも戦って、どんな力を持っているか見極めるという目標で挑むとしよう」
「そんなんで良いんスか? フィリップさん的には……あー、確かにそのUBMを見られればそれで良いのかもしれないスけど」
やはりそういう目でみられているかとフィリップは苦笑する。
興味でしか動かないと。
間違いではないが、フィリップにしても今回の相手は神話級であるため、少しばかり慎重に動かざるを得ない。
だが、それでも最悪討伐出来なくても問題は無いという確信はあったのだ。
「半端にちょっかい出して、暴れ出す危険は無いのでしょうか? それこそドリム村の皆さんが避難せざるを得ない状況になる可能性だって」
「それも含めて問題はないんだ。実は過去に何度か討伐に挑戦した〈マスター〉がいた。……でもね、彼らは戦うことすら敵わなかったらしい」
「ふうん? どういうことでしょうか?」
次にモニターに映し出されたのは〈マスター〉がスクリーンショットで撮ったと思わしき画像だ。
映りは悪いが、黒い立方体の間近で撮ったものらしい。
何枚かの写真が流れていく。
一枚目は立方体を背景に数人でポーズを取ったもの。
呑気なものだが、敵がすぐさま攻撃してこないから記念代わりに撮ったらしい。
ちなみに、ここにUBMの名前も出ていた。
「【黒死夢葬 グランザルム】、ですか。随分と格好いい名前ですね」
名に黒が混じっている。
この立方体を表したものなのだろうか。
次の写真には、撮影者の傍らから仲間が魔法を放つエフェクトが映っていた。
必殺スキルか、あるいは魔法上級職の奥義にも近しい威力がありそうだ。
防御特化でも無ければ無傷では済まないだろう。
「撮影者曰く、手持ちのアイテムとバフでブーストを全力にして放ったようだよ」
そして最後の写真。
揺るぎなく、傷一つ無く、代わりの無い姿で佇む黒があった。
「だけど、この立方体は全く変わらない姿でそこにあったようだ」
「この立方体が盾の役割をしているってことッスかね。あるいは鎧? 中に本体がいるんだとしたらッスけど」
「名前が出ているのだから間違いはないだろうけど……。盾、鎧か。私は少し違うと思うんだ」
「というと?」
だが、フィリップはこの写真を見てこの立方体は別の役割があるのではないかと推察していた。
攻撃を弾いたのは立方体の防御力が高かったからではない。
それは、結果的に起きたことであり、本質は別にあると。
「結界に近いと。私は考えている。アルター王国に出現したとされるグローリアというUBM。その能力の一つが結界の外からの攻撃を断絶するというものだったらしい」
「なるほど……似ているッスね」
傷一つ無いのが、攻撃を無効化しているからだとしたら。
理解は出来るし納得もしてしまう。
「でもそれなら、グランザルムに会うためにはこの立方体の中に入るってことッスよね。この撮影者さん達は入ったってことッスか?」
中に入り、戦って負けたのだろうか。
だが、イテカの予想に反してフィリップは首を横に振る。
「入れなかったそうだ。触れても弾力のあるゴム質に弾かれ、終ぞグランザルムには出会えなかったと」
「え、なら結局グランザルムってのがどういう奴なのか分からないままじゃないッスか」
「あれ? でも前話のフィリップさん、グランザルムはステータス強化型の能力を持っているって言っていませんでしたっけ?」
「前話……? ああ、言ったね。とはいえ実のところ、それも推察に近いところだ」
「推察って、何か他に材料あるんスか?」
写真はもう無い。
故にここからは挑戦した〈マスター〉が掲示板に書き込んだ証言だけ。
「黒い立方体に触れた彼はそれ以上何もできないと分かると離れようとしたんだ。だけど……彼は、グランザルムは挑戦者を許さなかった」
「何怖いこと言ってんスか」
掲示板に書き込まれた内容は、グランザルムの配下に襲われたという内容だ。
触れたところから黒い生物が数匹這い出てきた。
タールのように黒く粘性の生物で、形状は定まっていない。
獣型もあればゴーレム型、人型もあったらしい。
生物の名は【???】と詳細不明。
ちょうど触れた〈マスター〉の位置から出てきたため、触れれば触れるだけその生物が出現するようで、それは戦闘後の〈マスター〉が確かめている。
生物の強さはいずれも亜竜級程度。
そして特筆すべきは、戦闘中に自己バフをかけてくるということ。
攻撃力であったり防御力であったり、体力であったり。
彼らの親玉であるからグランザルムもまた自己強化型であろうという予測を立てる。
そんな内容であった。
「シュヴァーゲルと似ている点もある。だけど異なる点もある。一つは、その黒い生物は倒すと消えるという点」
「え、モンスターなら当たり前じゃないッスか」
「その消えるではないんだよ。何て言うのかな……役割を終えたというか、立方体に還るみたいなんだ」
「ああ……非実体の分身タイプみたいなもんスか。倒してもキリがないから面倒なんスよねぇ」
エネルギーの一部が形を成しているということだ。
故にエネルギーが切れない限りは生み出され続ける。
「ともあれ、立方体に触れなければ危険は少ないし、触れた以上の敵は生み出されないしで。追撃も無く彼ら〈マスター〉は離脱に成功した」
その後も幾人かの〈マスター〉が挑戦したらしいが結果は大して変わりなかったらしい。
死人も出ているが、余程実力を違えなければ敵の強さは大したことはない。
「そのうち、アイテムも経験値も落とさないから挑戦はデメリットしかないって放っておかれたというわけだ」
「つまり今回の依頼は塩漬け依頼ってことッスね。だから調査だけでも大丈夫ってこと」
「そういうこと。挑戦だけなら問題ないことは過去の挑戦者が太鼓判を押してくれている。後は好きなだけ舐めるなり抱き着くなりすればいい」
「そんなことする人はフィリップさんだけッスよ……」
他にもいるのだが、それはイテカが知る由もないことだ。
「さて。話をしていたところでまずはドリムに到着だ。下船準備をしてくれたまえ」
フィリップの言葉と同時にノーチラスはゆっくりと停船した。