<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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Dside 憧れの英雄 5

■ドリム村

 

「……っ、はは。全く、やってくれる」

 

 ステータスに状態異常は一切映らない。

 にも関わらず、ステータスは減少している。

 全てが1割ダウン。

 更には、バフの類が掛からないようになっている。

 これは、かなり高度な状態異常を掛けられている証拠だ。

 恐らく【衰弱】に近いものなのであろうが、効果はそちらほどではない。

 隠見に特化したスキル含まれている所以だろう。

 とはいえ、名も分からない状態異常にかかり続けるのは気持ちが悪い。

 

「妹妹、イテカ。2人とも大丈夫かい?」

「……参ったッスね」

「【魔法少女μ】で偽ってるステータスだけでなく、本来のステータスも下がっていますね」

 

 イテカは頭を掻きながら、妹妹は冷静に状況を察したようだ。

 バフどころかデバフを与えられ、神話級UBMの討伐どころではない。

 一刻も早く、最低でもステータスを取り戻さなければならない。

 

「ひとまずアイテムの類で……駄目か。エリクシルでもダメだと打つ手がないぞ」

「躊躇いも無く……お金持ってるッスね」

「ふっ。性格柄、状態異常に陥ることが多くてね。クャントルスカの不在時は回復アイテムを多めに持たされているんだ」

「得意げに語ることでは無いですね」

 

 ともあれ、回復アイテムの類は根本的な解決には至らない。

 たとえ回復できたとしても、再度ステータスを下げられる可能性とてあるのだ。

 

「幸い、1割程度なら私達は行動自体にさしたる影響はない。それに、私の戦闘はあくまでノーチラスでの砲撃がメインだからね」

「いや、それッスよ。自分には問題ないからって余裕あるの狡いッス」

 

 イテカの恨みがましい視線を受け流し、フィリップは窓から外を見る。

 村で何か騒ぎが起こっている気配は無い。

 怒声や悲鳴は無く、しかし無音では無い。

 生活の音が聞こえる。

 

「……どうやら異変は私達だけに起こっているみたいだ」

 

 村人とてステータスがある日いきなり下がっていれば騒ぎになるはず。

 それなのに、村人は変わらず生活の営みを送っている。

 

「私達が招かれざる客だからッスかね?」

「さて、どうだろうね。あるいは心の底から神様を信仰していないから罰が当たったのかな」

 

 だが、それはどうなのだろうとフィリップは今の発言を自身で否定する。

 

「(神を信仰するのが難しい赤子すらもステータスを下げるのか? ……赤子のステータスなど1割下がればそれだけで致命的だぞ)」

 

 故に信仰の有無がこの現象の答えにはならないと考える。

 それに、〈マスター〉の思考をどれだけ神とやらが読めるというのだろう。

 

「……ん?」

 

 だが、村の様子をうかがっていると村にどよめきが起こる。

 

「ステータスが下がっていることに誰か気づいたかな?」

「ここで考えてても仕方無いッス。朝になったら動く手筈だったんスから、さっさと動くッスよ」

 

 意外にもイテカの熱意が高く、彼女に引きずられるようにフィリップも飛び出していく。

 考察を重ねようとするのは、外に出るまでに自分の中である程度の解を作っておきたいというフィリップの悪癖が目立ってしまう。

 それに、イテカや妹妹に率先して動いてもらいたいという親心もある。

 

「(でも今日だけは私のために時間を作ってもらったんだ。年下に手を引かれている場合ではない!)」

 

 外に出て、悲鳴を上げる村人を探す。

 傷ついた者がいるのか、ステータスの減少で何かあったのか。

 あるいは、フィリップ達よりも深刻な何かが起きた者がいないか。

 

「だ、誰なんだアンタ達……!?」

 

 だが、起こっていたのは現象ではなく来訪。

 村の外から……村人たちが壁になっていると錯覚していた南側からの来訪者であった。

 

「……ハァ、ハァ……やっと撒けたか?」

「いや、まだだ。距離は離したようだがいつまでも追ってくるぜ」

 

 それは、3人の〈マスター〉であった。

 彼らは息も絶え絶えに村へ入ると、村人へ説明も挨拶も一切せずに後方を睨み返していた。

 

「徹夜でゲームなんてするもんじゃねえな。眠くて仕方ねえ」

「だがよ、それも社会人なら仕方ねえことだ」

「あら。高校生もここにいるんだけど?」

 

 成人を既に迎えた男が2人――鎧の男とツナギの男――に学生の女が1人。

 3人でパーティーを組んでいるようだ。

 

「……ここはティアンの村か。おーい、どっかに〈マスター〉はいるか?」

「協力して欲しいことがあるんだが」

 

 ティアンを一瞥すると、男達は〈マスター〉を探し出す。

 じろじろと、村人の手や装備を見て、探しているようだが、無駄に彼らを怯えさせているだけだ。

 

「チッ……見てんじゃねーぞ。こっちは真剣に遊んでるんだ」

「そうそう。NPCはさっさと自分のお仕事に戻ってくださーい。はい、散った散った」

 

 女は鉄扇を取り出すと、周囲を仰ぐ。

 同時に、鉄扇から旋風が巻きおこり村人たちが軽く吹き飛ばされた。

 

「おい、あんましダメージ入れると指名手配になんぞ」

「はいはい。今のはそよ風起こしただけよ。それくらい調整できるわ」

 

 転がった村人を見てケタケタと笑う女と注意しながらも笑いを堪えきれない鎧の男。

 そして、もう一人のツナギの男は、

 

「今のうちに燃料入れておかねえと……」

 

 紋章から取り出したトラックに燃料を注いでいた。

 それが彼のエンブリオなのだろう。

 トラック……つまりはチャリオッツ系統なのだろうが、現代の乗物とは随分と珍しい。

 

「……どうするッスか?」

「村人のことを考えれば素直に出ていくのが良いかな」

 

 建物の影に隠れ出方を伺っている。

 村人に対してはあまり友好的では無い態度を取る彼らは、何の目的で〈マスター〉を探しているのか。

 

「……外れか。まあ、いいや。この人数なら時間稼ぎくらいにはなるだろ」

 

 鎧の男はチラリと村の外――南側を見る。

 何かを待っているのか、あるいは逃げていたのか。

 発言からして後者だろう。

 そして、彼らを追う存在とは――

 

「……! 不味いッスよ。あの方向……グランザルムがいる方ッス!」

 

 イテカの言葉にフィリップは写真にあったモンスターを思い出す。

 黒い立方体から生み出されたモンスター。

 立方体に触れれば触れるだけ生み出される――

 

「って、どんだけ来るんスか!?」

 

 それが数えるのも馬鹿馬鹿しくなるくらい大量に、来襲してきた。

 凡そでも100や200ではきかないだろう。

 それだけの数が一斉に村の南側から押し寄せてきたのだ。

 

「村の皆を逃がさないと……」

「いや。彼らは南を認識していない。逃がすには説明しようがない」

 

 理屈は不明だが、村の南側を認識できない彼らにとっては世界の外側からモンスターが来ると言うようなもの。

 逃げてくれる保証はない。

 

「だったら私達が――」

「だったら、私達で倒します」

 

 ステータスが下がっているとはいえ〈超級〉。

 そしてステータスの然程影響のないノーチラス号であれば蹴散らすのは容易だ。

 普段と比べれば鈍重に思える足で駆けだそうとしたフィリップよりも先に、妹妹が飛び出していった。

 

「ん? なんだあのガキ……」

「〈マスター〉じゃないか? 衣装が……なんつうか村の奴らとは違う」

「随分と可愛いわね。どこで手に入れたんだろ」

 

 来訪者たちは妹妹の登場に、身構えることはない。

 少なくともこの時点で彼らがPKという線は無くなった。

 それでも相当質の悪い存在であるが。

 

「……私達も続くぞ。彼女1人では突破される可能性がある」

「そうッスね!」

 

 続くフィリップとイテカであったが、2人が村の外に出た時には全てが終わっていた。

 

「《転倒も治癒もせぬ風(カマイタチ)》!」

 

 妹妹の必殺スキルである全てを切り刻む風が、モンスターを細切れにしていた。

 撃ち漏らしなど無い。

 1匹残らず、5つの風がモンスターの群れを取り囲むように舞い、倒したのだ。

 

「妹妹……」

「フィリップさん。イテカさん。村に戻りますよ。あの人たちに、話がありますよね」

 

 普段の彼女からは想像もつかないほど顔に怒りの表情を張り付けた、この場で最も歳幼い少女の言葉にイテカとフィリップは頷くしかなかった。

 

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