<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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Dside 憧れの英雄 7

■【探検王】フィリップ・ノッツ

 

「……!?」

 

 空中に放り出されたフィリップは、状況を冷静に確認しつつ、しかし同時に2つの理解不能に目を輝かせていた。

 

 1つ目はトラックが村を出たにも関わらず、誰の眼にも止まることなくフィリップを轢いてみせたこと。

 眼前に接近……否、触れるまで気づけないなど、普通では有り得ない話だ。

 

「(……有り得ないが起こるということはエンブリオかジョブだろう。彼らのジョブはそこまで奇をてらったものではない。【幻術師】がいるわけでもなかった……であればエンブリオで確定だ)」

 

 トラックあるいは仲間であるジョーダンかカザリーナのエンブリオが該当するのだろう。

 カザリーナは既に鉄扇を見せている。

 まだ見せていないのはジョーダンであり、フィリップはこの男こそがその能力を有したエンブリオの持ち主であろうと推測していた。

 

「(さて……彼のトラックの能力は恐らく、今の私自身が示しているが……どうしてこのような能力となったのか実に興味深いね。武器や彼自身、他の何でもなくトラック……車両を媒介にした能力……事故でも起こしたことがあるのかな)」

 

 ここまでフィリップは全て空中に撥ね上げられてから思考を深めていた。

 3人のエンブリオ、ジョブ、果てはパーソナリティまで。

 カザリーナは見た目通りのアームズ、ジョーダンは幻術の類、ベクトはチャリオッツ。

 それぞれのエンブリオのタイプや能力が異なることから、パーティとしての役割や構成をきちんと考え抜かれているのだろうと推測できる。

 リーダーはジョーダン。

 彼が後方から支援をしつつベクトが遊撃、カザリーナが本命だろうか。

 否、今のフィリップの状況からベクトとカザリーナが逆である可能性もある。

 

「(……そろそろ思考を止めないと危ないか)」

 

 いくらフィリップの思考速度がスキルなどで早くなっていようと、空中では限界がある。

 僅か数m空中に撥ね飛ばされた程度では、ここまで思考に身をゆだねることは出来なかっただろう。

 

 出来た理由は単純。

 フィリップの肉体が数十mの高さまで舞っていたからである。

 滞空時間が長ければ、必然考えるだけの時間も得られる。

 ジョーダン達も、フィリップがこの高度から生き延びられるとは考えていないのか、追撃をする気配は無い。

 ベクトに至ってはトラックから出ずにいる。

 ハンドルを握り俯き、肩を震わせているのがフロントガラス越しにみえる。

 

「触れた対象を空高く撥ね上げる、か。トラックに轢かれた時点でのダメージが一切無いことを条件に得た能力なのだろうけど……」

 

 ベクトがかつて交通事故でも起こしたから得た能力なのだろうが、いくら何でも――

 

「身勝手なものだね。さしずめ罪悪感から逃れるためなのだろうけど……」

 

 トラックで轢いたから死んだのではない。

 空から落ちてきた落下による衝撃で死んだのだ。

 

 そんな、状況を作り出したいのだろう。

 

「あいにくと私はこの程度で死んではやれないのさ」

 

 左手の紋章が輝きを放つ。

 それこそは彼女の持つエンブリオの解放。

 

 〈超級エンブリオ〉の顕現。

 

「ノーチラス!」

 

 空中に巨大潜水艦が出現する。

 そして即座に艦から機械式のアームが伸びるとフィリップを掴み、そのまま艦内へと保護する。

 

「落下程度で私が死ぬと思わないでほしいね。その程度の環境の変化。とっくに適応済みだ」

 

 とはいえ、このままでは村へとノーチラスが落下することになる。

 呆けた顔で見る3人の〈マスター〉はともかくとして、村人や仲間2人を巻き込むわけにはいかない。

 

「ノーチラスは格納。代わりに脱出ポットを使おうか」

 

 グラスコードの1匹がノーチラスを模倣し潜水艦となる。

 そちらにフィリップは乗り込みなおすと、艦内から地面へと射出された。

 グラスコードもまた、ノーチラスと同様に地面すら泳ぐ機能を持ち合わせているため、落下の勢いままにフィリップごと地面の中へと吸い込まれていく。

 ノーチラスは落下前に再び紋章へと仕舞われたため村への被害は無い。

 

「食らいつけ」

 

 そして、地中から次々に生み出されたグラスコード達はトラックの車体の下からベクトごと食い殺したのであった。

 

 

 

■ドリム村

 

「……は? なんだ今の馬鹿でけえ船は」

 

 その異質さにジョーダンは口を塞ぐことが出来ない。

 ベクトと同様にチャリオッツ系統のエンブリオなのだろうが、規模が違う。

 

「嘘だろ……こんなところに…………ッ!?」

 

 真下からの殺気。

 ジョーダンは急ぎトラックから下りる。

 ついでに横で状況を理解出来ていなかったカザリーナも引きずりおろす。

 ベクトは仕方がない。

 手が届かなかったし、どのみち攻略されてしまった能力はもう使い物にならないだろう。

 

 仲間を冷静に切り捨てたジョーダンは地面をカザリーナと転がりながらトラックとベクトの結末を確認する。

 

「えげつねえな……」

 

 無数のドラゴンがベクトごとトラックに喰らいついていた。

 もう中の人間は生きていないだろう。

 トラックも消えていく。

 

「弁明はあるッスか? 聞いても別に許したりはしないッスけど」

「大人しく村を出ていけば良かったのに。私達を弱いと見くびってくれたんですね」

「チッ……」

 

 地中に消えていったフィリップ。

 そして、ジョーダンを見下ろす2人の少女。

 

「(ああ、不味いぜ……カザリーナはともかく俺は弱いからなぁ。何をされても死んじまうんだろうなぁ)」

 

 殴打も斬撃も魔法も。

 如何なる手段でもきっと自身は簡単に死んでしまうだろうと、ジョーダンは己の弱さを自覚していた。

 

「弱い? はは、冗談は言っちゃいけねえぜ。散々見せてくれたあの竜巻だ。嬢ちゃん達が弱いだなんて思わねえさ」

「だったらどうして――」

「相手が強いからって戦うのを諦める馬鹿がどこにいる? 可能性はいつだってゼロパーセントじゃねえんだ。俺は諦めるかよ。騙し討ち上等。卑怯と言われようが、これが俺なりの戦い方だ」

 

 使えるものはなんだって使う。

 そうやって生き延びてきた。

 そうやって勝ってきた。

 

「そうッスか。それならそれで別に構わないッスよ」

 

 イテカはどこからか斧を取り出す。

 断罪の処刑道具のようだとジョーダンは感じた。

 村人を犠牲にしようとし、フィリップ達を不意を突いて殺そうとした。

 

 だから――

 

「だから、このままでは終わってやれねえなぁ!」

 

 イテカが斧を振り下ろす。

 その武具の銘は【博心致 トゥゲザー】。

 逸話級武具であるその斧の能力は、急所に当たった際の算出ダメージを5倍にするというもの。

 代わりに、急所以外の部位では一切のダメージが出ない、持ち主の技術が試される武具である。

 

 イテカのステータス、技術、そしてトゥゲザーの能力でジョーダンの首は確実に刎ね飛ばされる……はずであった。

 

 戦闘向けでは無いジョブ。

 しかも奇をてらったわけではない構成であり、真っ当に後衛の支援タイプ。

 

 だが、トゥゲザーが振り下ろされた先は……地面であった。

 血は一滴も流れない。

 ただ、その場で空振りしただけ。

 

「……あれ?」

 

 トゥゲザーの手ごたえが無かったことに驚くイテカの身体に衝撃が入る。

 イテカのHPを僅かに削ったそれは、胴への渾身の一打ち。

 

「……やっぱり俺の攻撃じゃその程度か」

 

 地面に伏していたジョーダンの姿がぶれる。

 まるで一昔、二昔以上前のゲームがバグった際の挙動のように、ノイズが走っていき、遂には消えた。

 そして、イテカの真横……彼女に向けて正拳突きのポーズで現れた。

 

「なるほど……。そっちは幻影っスか」

「有り得た俺の未来とでも言ってくれ」

 

 ジョーダンはちらりと地面をみる。

 未だ地中に潜り続けるフィリップを警戒してのことだろう。

 

「油断は出来ない相手みたいッスね」

「してくれていいんだぜ? その方が俺もやりやすい」

 

 【魔法少女χ】イテカvs【撮影家】ジョーダン。

 両者は一切の油断なく笑う。

 

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