<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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Dside 憧れの英雄 8

【撮影家】ジョーダン

 

 弱いということは悪いことでは無い。

 弱いということは悪では無い。

 この世には強い者以上に弱者が存在する。

 弱者の中にも強弱はあり、弱者はより弱い者を虐げることで強者を演じる。

 

 俺は弱者だ。

 そして、弱者を虐げる弱者だ。

 

 だが、それは本当に悪いことか?

 強者が弱者を虐げることは悪いことだが、弱者が弱者を虐げることは権利だろう?

 だって、自分よりも弱い奴らが少ないのだから。

 弱さを正当化するためには強さを見せつけなければいけないのだから。

 

 俺は、正しく弱者でいたいのだ。

 

 そのためには切り捨てるし、裏切る。

 拾い上げることもあるし、信じる。

 

 暴行未遂の被害者であるカザリーナ。

 望まぬ交通事故の末に全国的に名が報道されてしまったベクト。

 

 2人は絶対的な弱者だ。

 それも、社会がそうであると決めつけてしまった。

 

 本来であれば強者の中にいたかもしれない2人を、弱者として扱ってしまった。

 

 だから俺はそんな世の中を捻じ曲げてやりたい。

 

 弱者は弱者らしく。

 強者は強者らしく。

 

 俺が弱者として振る舞ってもいい世の中でありたい。

 

「その表情、怒りの顔、分かっちゃいるさ。嬢ちゃん達はこいつらティアンの為に動いている。弱者の為に怒っている。強いよなぁ! 楽しいだろうなぁ! 俺という弱い悪を懲らしめるために振るう拳ってのは、さぞかし気持ちがいいもんなんだろうな!」

 

 俺はアイテムボックスからビデオカメラを取る。

 こんなものはブラフに過ぎない。

 弱者が弱者らしく戦うためには必要な道具であり、ブラフ。

 

「ほら、カメラに向かって笑ってみせろよ。楽しい楽しい悪党退治だ。ご満悦な表情してよぉ、殴って蹴って、空高く吹き飛ばしてみせろや!」

「何を言っているか、言いたいのかさっぱりわからないッスけど」

 

 少女……イテカは手持ちの斧を仕舞う。

 アレはやばい。

 特典武具であることはすぐに分かる。

 

 ……特典武具保持者、か。

 やっぱり強者じゃねえか。

 

 ああ、強くていいよなぁ。

 

「でも倒すってのは間違いないッスね。魔法少女として、悪を見過ごせないってのもあるッス」

「魔法少女、か。いいねぇ。正しく強そうだ。俺はなんだ? 戦闘怪人か? 悪性物質を取り込んだ人間か?」

「今どきの魔法少女ものは人間を悪くしないものっスよ。コンプライアンスがどうとかで」

「けっ。時代かよ、つまんねーな。改心の余地が無いくらい嬲って殴ってやりゃーいいと思うんだがよ」

 

 まあ、そんなんじゃ夢がねえか。

 夢をみるのは弱者の権利だが、叶えるのは強者の特権だ。

 

「で? お次はどんな得物で悪人を懲らしめてくれるんだ?」

「最近の魔法少女は剣も使うんスよ」

 

 イテカが取り出したのは氷のように透き通った大剣。

 見た目だけじゃねえな。

 

「物騒だなぁ。両断とかしないでくれ、よ!」

 

 イテカが大剣を振るう。

 俺に向けて、ではあるが距離はある。

 ただ空振りしただけ、か……?

 

「って、見た目通りじゃねえか!」

 

 一振りに合わせて周囲の空気が凍り、氷塊がつくられていく。

 氷塊はイテカの頭上で形成されると、

 

「氷の雨に当たったことはあるッスか?」

 

 氷塊は割れ、俺へと降り注ぐ。

 

「なんで一度塊になったんだよ!?」

 

 俺のステータスでは避けきれない。

 全て避けきれたところで、イテカが距離を詰め、大剣で俺を切り殺すだろう。

 

 だから俺は、避けずにその場に立つ。

 

「……?」

 

 イテカは俺の行動を不可思議に思いつつも距離を詰めてくる。

 万が一にも生き延びた俺を確実に殺す為に。

 

 だが、意味は無いぜ。

 

「ああ、楽しいなあ! 強い奴を後ろから蹴るのはよぉ!」

 

 氷の礫に晒される俺の行く末を睨むイテカを、俺は後ろから蹴り飛ばす。

 これもまたダメージは然程入らない。

 

 ……やはりステータスの差が歴然だな。

 

「ちと勿体ねえが、【ジェム】を使うか……?」

「……チャチな手品ッスね」

「あ?」

 

 礫が降り注いだ後に立ち続ける俺が消えていく。

 代わりに、イテカの後ろにいた俺に色が付いていく。

 

「幻影……違うッスね。過去の自分でも映し出す能力ッスか? そのビデオカメラが露骨に能力の正体を明かしているッスけど。制限が厳しくて泣けるッスね。見た目でバレるなんて」

「……」

 

 ま、そうだろうよ。

 ビデオカメラなんて戦闘に役立たないのに持っているなら、何かしらの能力に関するものだと予測されるなんて当たり前だ。

 

「……お察しの通り。俺のエンブリオ、チャップリンは撮った映像を現実化する能力だ。早送り一時停止巻き戻し……そのほか色々出来るが、こうも早く見抜かれるとはな」

「……まあ、これでも戦闘経験はそれなりにあるんで」

 

 戦闘経験、ね。

 そりゃ強くてなにより。

 

「ちなみに負けたことは?」

「あんましないッスね」

「やっぱり……強くていいなぁ!」

 

 手持ちの【ジェム】全てをイテカへと投げる。

 一部目眩まし程度の安物も混じっちゃいるが、それはそれでありだ。

 イテカの動きを止められりゃ、それで結構。

 

 その隙に――

 

「はは! 強者と渡り合うのは楽しいなぁ!」

「そうッスか。私は特に楽しくないッスよ」

 

 イテカはずっと冷静だ。

 あるいは冷酷と、言い換えてもいいだろうか。

 

 なんでだ。

 楽しくしろよ。

 俺という弱者を嬲れるんだぞ。

 弱者で悪人の俺を、悪者退治っていう正当な理由で殴れるんだぞ。

 

「……なんで、そんなにつまらなさそうな顔をしているんだよ!」

 

 動きの止まったイテカへと、俺は能力を使用するために準備をする。

 ……連続で10枚。

 これが限度か。

 

 だが、十分。

 

「《高速現像》!」

 

 イテカが映った写真が100枚、俺の手に出現する。

 ははっ、モデルが良いからか、いつもより写りが悪いし、多くなるな。

 

「100枚全部だ。必殺スキル……《■■■■》!」

 

 早口で必殺スキルをまくし立てる。

 同時に、写真を破り捨てる。

 ……100枚全部破るってかなり力いるな。

 

「何を……」

「喜べよ魔法少女。お前の強さは俺の予想以上だ。……だからよ、俺は卑怯にも、お前とは戦ってやらねえさ」

 

 100枚の写真の破棄の後に現れたのは、100人のイテカ……その偽物だ。

 写りも悪いし100人も出てくるのは……骨が折れるぜ。

 

「HPのリンクってあるだろう? 一部のボスモンスターが持っているような、配下にダメージを転換するようなスキルさ」

「……?」

「喜べよ、こいつらは嬢ちゃんの正しく分身。HPは共有されているぜ……尤も」

 

 真横にいるイテカの偶像を叩く。

 ……一発じゃ壊れねえな。

 やっぱり、写りが悪いだけはある。

 二度、三度殴ることで漸く壊れたその偶像は消えていき、

 

「……なるほど。そいつらが消えると私にダメージが入るってわけッスか」

「ああ、そうさ。最大で100体のHPをリンクさせた偶像を作り出す俺の必殺スキル。直接嬢ちゃんを倒す力が無い、俺なりの数少ない対抗手段ってわけだ」

 

 そしてこいつらが、イテカに比べれば遥かに脆い。

 俺の攻撃力が低いだけで、イテカ自身の攻撃が被弾してしまえば容易に崩れるだろう。

 

「……ふうん」

「なに……余裕ぶっこいてんだ! 死ぬぞ! こいつら全て壊れたらてめえも絶対に死ぬんだぞ! 幾らてめえが強くてもよ、この偶像っつう弱者を抱えたままどうやって俺を――」

「アンタを見つけるってことッスか?」

「……あ?」

 

 イテカは変わらず大剣を振るう。

 作り出された氷塊を再び割り、礫をそこら中に降り注がせる。

 偶像は次々と砕けていき、その度にイテカへと1パーセントずつダメージが入っていく。

 

 20、30、40……次々にイテカの偶像が破壊されていく。

 

 イテカは自身へとダメージが入るも、構わずに氷塊を作り続け、俺目掛けて礫を降らせ続ける。

 

「……チッ」

 

 危ない危ない。

 このままじゃ、俺も巻き添えになっちまうぜ。

 

「これで終わりっスよ」

 

 イテカが大剣を振り下ろす。

 氷塊から生み出された礫が何もない空間へと降り……そして俺の全身が切り裂かれた。

 

「……」

 

 エンブリオで動かしていた、俺を投射した偽物ではない。

 本物の俺を捉えた攻撃だ。

 俺に抗うことなんて出来やしない。

 

「……何で分かった」

「私、探知系の特典武具も持ってるんで。アンタの偽物、足音も気配も本物でしたけど、それでもアンタ自身が消えていなくなるわけじゃないッスね。見えないだけなら、範囲攻撃に変えて正解でした」

「だがよ……一歩間違えば自滅するだろ」

「そんなの簡単スよ。100体のうち1,2体にだけ攻撃を当てなければいいだけス。100体全部壊したら駄目なら、裏を返せば99体までは私は確実に無事なんスから」

「はは。イカレてら」

 

 ……ああ、それで正解だ。

 正しく、俺という悪党を殺すのに正しい解答だ。

 

 俺のエンブリオは、カメラを必要としない。

 スクリーンショットでも何だっていい。

 とにかく記録媒体さえあれば、それで能力が発動される。

 

 ベクトのトラックが走る映像を撮っていれば、その偽物を作り出せるし、俺が直立不動している写真を撮れば、そのままが作り上げられる。

 そして、同一の存在は同時にこの世界において否定される。

 片方は姿が見えなくなってしまう。

 副作用的なものだが、わりと便利な能力だろう?

 

 あーあ、こいつを使えばもっと楽に強いやつと渡り合えると思ったんだけどな。

 どうやらここまでのようだ。

 先にベクトも死んじまったし……残るはカザリーナだけか。

 

「ちなみにチャップリンってエンブリオ、名前も能力も嘘ッスよね」

「なんでそう思った」

「アンタはそういう人かなって」

「……」

 

 何も答えず笑った。

 だが、イテカへの返答なんてそれで十分だった。

 

「うざったらしい敵をようやく倒した気分はどうだ?」

「これといって。最初から勝つと分かっていた戦いに勝っても達成感なんて無いスから」

「……チッ。強者の驕りかよ」

「ま……アンタから見れば私も強者かもしれないスけどね。でも、違うんスよ。私は勝てる相手とだけ戦っているだけ。本当に強い奴には挑まないんス。勝率100パーセントは負ける戦いから逃げたから成り立ってるだけ。私は諦めの早い奴なんスよ」

 

 イテカの見せる顔は果たして強さを偽っていただけの弱者か。

 あるいは、強者がたまにみせる弱い部分か。

 

「というかどうしてアンタら、あのモンスターから逃げてきたんスか? うちの妹妹が全部倒しちゃったけど、別にアンタらだって倒せる相手ッスよね。後れを取らなければ……」

「……まあ、そうだな。あの黒い奴等だけなら倒せはしたさ」

 

 あんな雑魚だけなら、ベクトのトラックも、カザリーナの鉄扇も、俺のエンブリオだって通用しただろうな。

 数で押そうと雑魚は雑魚だ。

 時間はかかるだろうが、逃げかえることなんてなかった。

 

「もっと強い奴がいたんだ。黒を纏った奴が、な」

「それは……黒いモンスターのボスッスか? グランザルム本体が……」

「違う。奴は〈マスター〉だった。だが……あれはまるで……」

 

 俺はイテカに咄嗟にスクショした写真をみせる。

 職業柄、こういうのは早いのさ。

 

「これは……黒いモンスターを纏って……」

「訳の分からねえくらい強かったぜ。ま、せいぜい気を付けることだな」

 

 【出血】で減っていた俺のHP残量もそろそろゼロだ。

 

「反省はしねえ。俺は変わらず使える手段は全部使って勝ちに行く。それが気に食わねえってんなら……また止めることだな」

「何度でも、止めるッスよ。悪は何度復活しても魔法少女に止められるさだめッスから」

 

 ふん。

 知ってるか?

 悪党ってのは最後には負けるものだがよ、途中で何度か勝つこともあるんだぜ?

 せいぜいその何度か目に当たらねえことだな。

 俺は弱いからよ。

 抜け目なく狙っていくぜ。

 




ジョーダンの本当のエンブリオの名前?
なんでしょうね

能力は出た通りで
固有能力が何でもいいので撮影したものを現実に反映するというものです。本物はその間見えなくなります。
必殺スキルが撮影した対象とHPがリンクした偶像を作り出します。数と強度は本物に左右されます。
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