<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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Dside 憧れの英雄 13

■【魔法少女χ】イテカ

 

 隠された家屋を見つけたイテカと妹妹。

 ドアを開け、出てきたのは耳長の老人であった。

 

 耳長とはつまりはエルフ––妖精種のことである。

 それでも見る限り老体であることからかなりの高齢であることは伺えた。

 

「(この人……かなりやるッスね)」

 

 だが、玄関ドアを開ける時点で既におぼつかない足取りであるはずなのに、イテカは老体が脆弱ではなく老練のソレであるように見えた。

 おぼつかないのではない。

 無駄が無いのだ。

 およそ残された筋力で理想的な動きをする。

 

 それは、様々なものを諦めてきたイテカであるからこそ。

理想を捨てて現実を選択してきたイテカだからこそ、分かったことだ。

 

「ええと……」

 

 老人は困ったような表情をしながら2人の少女へと視線を向ける。

 分厚い眼鏡のレンズの奥から見える瞳は光を反射していない。

 

「(……?)」

 

 それに違和感を覚えながらイテカは、

 

「すいませんッス。少しお話を聞きたいんスけど。聞きたいことは……分かるッスよね?」

 

 その言葉に老人は柔和な表情を硬くし、

 

「……さて。皆目見当もつきませんが。それでも来客は非情に嬉しいものです。どうぞ。中へ」

 

 イテカは妹妹へ目配せをする。

 妹妹は頷き、イテカを先導するかのように、老人が大きく開けたドアの先へと進む。

 

 罠は無いだろうと考える。

 といっても、イテカも妹妹も危機察知能力に長けている。

 逃れられない状況にでもならない限り遅れはとらない。

 

「皆目見当もつかないだなんて、謙遜ッスか? それとも嫌味? 私には心当たりが多すぎてどれを聞きたいのか分からないって意味に聞こえたッスよ」

「……ふふ」

 

 通された居間は簡素なテーブルと、椅子が数脚置かれただけであった。

 人が住めるが生活感が無い。

 キッチンらしき空間も調理器具は置かれているがあまり使われた形跡が無かった。

 

「最近は旅が趣味でしてね。この家には月に一度程度しか帰っていないのですよ。ええ、それで十分ですので」

「十分?」

「ああ、満足という意味ですよ」

 

 恐らくは遠回しに聞いたところで曖昧に流されるだろうなとイテカは真正面から尋ねることにした。

 

「私達がここに来たのは――」

「おや。お茶も出さないとは。申し訳ありません。本当に来客に久しくて。ええと、茶菓子なんてあったかな……」

 

 イテカの声を遮るように老人は座った瞬間に再び立ち上がる。

 そしてキッチンをがさごそと漁り、

 

「……すいません。お茶もお茶菓子も切らしておりまして。用意するのでまた後日お越し頂いてもよろしいでしょうか」

「私達はここに茶を飲みに来たわけじゃないッス。近くのドリム村。そしてグランザルムについて聞きに来たんスよ」

 

 そのまま2人に再度来訪を促そうとする老人を制した。

 

「流石に全く関りが無いなんて言わないッスよね。こんなに近くに住んでるのに、村の連中はアンタのことは一言も話さなかった。というか、村から見て南側は全く認識していなかった。その南側に、認識を阻害する能力のかかった家に住んでいるアンタがいる」

 

 まくし立てるように。

 老人が言葉を挟む余地が無いように。

 流れるようにイテカは一息に言い切る。

 

「それは――」

「まさか、アンタが村の連中の言う神様ってやつッスか?」

「――ッ!」

 

 神様。

 その言葉に、老人は顔を赤くし立ち上がる。

 

「……失礼」

 

 すぐに冷静になったのか、静かに座ると、老人は頭を下げた。

 

「最初に言っておきます。私は決して神ではありません。そして、神と呼ばれる存在になど、なりたくはありません。これだけは、ご理解頂きたい」

「……」

「そして、貴女……」

「あ、名乗り遅れたッスね。イテカって名前ッス」

「私は妹妹です」

「イテカさん。妹妹さんですね。私はもう名前は捨てた身です。どうぞ、モージャとお呼びください」

「モージャ?」

「色々と、なくしていますので」

 

 モージャ……亡者という意味だろうか。

 まさか自身を亡霊などと評しているわけでもあるまい。

 

「ではモージャさん。まずはアンタとグランザルムの関係を。敵か味方か。そこからはっきりさせておきたいッス」

「敵味方……少なくとも味方ではありません。ですが、敵と言う程、私は驕るような力を残していません。せめてあの村が巻き込まれないよう、尽力しているだけ」

「……つまりはグランザルムからあの村を守っていると?」

「結果的には。そして経過的には、といったところでしょうか」

 

 まるで正反対の言葉を老人は……モージャは併せて答えた。

 

「私の立場は言いました。次はお二人です。イテカさん、妹妹さん……貴女たちはグランザルムを倒しに来られたのでしょうか?」

「まあ、可能であればッスかね」

「近くの村が困っているのであれば、ですね」

 

 その答えに老人は2人の性格を見抜いたのだろう。

 ふっ、と力が抜けたように笑った。

 

「どうやら嘘は言っていないようですね」

「高レベルの《真偽判定》でもあるんスか?」

「これでも、みる(・・)力はあるんですよ」

「……ッスか」

 

 まあ、長く生きる種族だ。

 それだけ数多くの人間の嘘を見てきたのだろう。

 スキル頼りではなく、長年の経験と勘からイテカと妹妹に敵意や悪意が無いことを察したのか。

 

「倒す算段はついているのですか? アレは相当手強いですよ」

「ってことは戦ったことが?」

「いえ、残念ながら」

 

 その表情が本当に残念そうであるのかそうでないのか、イテカには分からなかった。

 

「私は入り口で阻まれました。あの黒い結界……のようなものは知っていますか?」

「触れるとモンスターが出てくるっていうやつッスね」

「そうです。私もまた触れる以上のことは出来ませんでした。グランザルムはあの中にいます。恐らくは断絶された世界。世界の理を超える力が無ければ、中には入れないのでしょう」

「……なるほど」

 

 あの黒い結界。

 そのものがグランザルムの世界とこちらの世界とを隔てるものであったということか。

 

「ものすごい衝撃を与えれば壊して中に入れるッスかね」

「私にはどうにも。それこそ【破壊王】の最終奥義であれば可能でしょうが」

 

 最終奥義クラスの威力や能力が必要になるのであれば、イテカや妹妹には難しい。

 ……いや、イテカの必殺スキルであればあるいは、だが。

 

「さて。再度尋ねましょうか。お二人はグランザルムを倒す算段がおありですか?」

「……まだ、何ともッス。グランザルムに関しても知らないことが多いので情報収集も兼ねて動いている段階スから」

「……なるほど」

 

 モージャはグランザルムについて何か知っている。

 イテカにもそれは分かった。

 だが、出し渋っているのはイテカと妹妹が信用に足る人物であるのか……グランザルムを倒すのに相応しいかを見極めている最中だからであろう。

 

「(駄目ッスね……こんな時でも私は諦めてしまう……。このお爺ちゃんは私達には話してくれないという可能性があるから、さっさと他の場所をあたるべきだと、そう諦めてしまいそうになる……)」

 

 辛抱強く、粘り強く、我慢強く、モージャに向き合えば信頼も勝ち取れるだろう。

 だが、それが失敗してしまったら?

 労力に見合う情報を得られなかったら?

 そんな可能性を考えてしまえば途端にやる気が損なわれてしまう。

 

「ドリム村に数人の〈マスター〉が来ました」

「……?」

「妹妹さん?」

 

 そんなイテカに代わり、妹妹が切り出した。

 

「彼らはグランザルムの下からモンスターを何体も何体も引き連れて、モンスタートレインを仕掛けようとしていました。理由は、モンスターを倒すのに都合が良さそうだったから」

「な――ッ」

「ご安心ください。そんな悪者はもう倒されていますので。だけど、おかしいんです。村の人たち、いくら南側からモンスターがやってくるって言っても信じてくれなくて。全く危機感が無いんですよ」

「それは」

「分かっています。余計な心配をしないように誰かが配慮した結果だっていうのは。守られる側が守られているって意識をする必要なんてありません。弱いからこそ、考えても解決できないことはあります。そして、その心配事はそのまま負担としてのしかかってきます」

「……でしょうね」

 

 だから、と妹妹は続ける。

 彼女は弱者を守るために戦う。

 結果的に弱者へと偽り、弱者の心情すら己へと偽ることもあった。

 

「心配で押しつぶされること。不安で眠れなくなること。それがきっと、その人にとっては余分なことだと思ったのでしょう」

「それが分かっているなら――」

「――ですが、悪はその考えすら利用してきます。警戒心を失った弱者は格好の餌です。時には非力な人間を守ろうとした強者を倒すために……そのためだけに利用されます」

 

 それが妹妹の過去の話であることは、妹妹の顔を見れば分かることだった。

 どちら側であったのかは……言うまでも無いだろう。

 

「この先もグランザルムを倒そうとする人はたくさん訪れるでしょう。その全てが善意であるとは残念ながら限りません。いえ、むしろ力を求める者の大半が自己の為……他の全てを犠牲にしてでもという考えを持っています」

「では……どうしろと」

 

 村へ害を為す者全てを追い払うか?

 現実的な話ではない。

 そんなことは、不可能に近い。

 

「モージャさん。貴方の素性も、理由も、力も、私は知りません。ですが、一つだけ。決して村の人たちから感謝を受けることもせずに静かに村の人たちをグランザルムへと意識を向けないようにしてきたことだけは知っています。きっと、それ以上にも村の為にしてきたのでしょう」

「……」

「話してくれませんか? グランザルムだけのことではなく、モージャさんのことも。貴方の善を。貴方の強さを。何を守ろうとし、何を……守れなかったのかを」

 

 妹妹の最期の言葉にモージャは驚いたような顔をした。

 

「推測です。たぶん……私と同じかなと思いましたから。私と同じ、個の強さだけでは守り切れなかったんですよね」

「……分かりました」

 

 老人は観念したかのように口を開く。

 元よりそのつもりだったのか。

 あるいは妹妹に絆されたのか。

 

 ともあれ語り出す。

 

「確かに、私は過去に一度、私が守るべき場所を守れなかったことがありました。恐るべきUBMに……神と呼ばれたUBMによって。一夜にして滅ぼされました」

 

 それはモージャがまだ若く力があった時代。

 才に溢れ超級職の身であった。

 だが、それでも。

 力は及ばずに同僚を上司を部下を守るべき民を街を。

 全て殺されたのだ。

 そして一人だけ生き延びてしまった。

 

「幸いにして元凶への復讐を叶うことは出来ました。最近では噂でUBMも倒されたと聞きました」

 

 だが復讐は成し遂げられたのだ。

 モージャはUBMこそ倒せなかったが、元凶を倒すことは出来た。

 そして、隠居生活に身を置こうとしていた矢先のこと。

 

「あれはまだUBMの討伐の噂も聞いていない頃でしたね……一年程前でしょうか」

 

 出会ってしまったのだ。

 ドリム村と、村を取り囲むUBMの存在に。

 

「【願細胞 プラマイナス】。それがドリム村の支配者であるUBMで――」

 

 モージャは懐から水晶を取り出した。

 透き通った水晶だが、不思議と向こう側が見えない。

 まるで何かを映し出すためだけに作り上げられたような――

 

「今はこの特典武具の名です」

 




投降ペースあげていかないと目標の今年中に終わらん模様
なんでモージャの過去編に突入しようとしてるんですかね……
そんな予定ないぞ
なんだったらもうグランザルム戦やってる予定だったゾ
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