<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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Dside 憧れの英雄 14

■モージャについて

 

 ■■■■・■■■■、あるいは今はモージャと名乗る老人の過去のことだ。

 

 過去を清算し、そして残り僅かな寿命の中。

 余生を隠居生活とするか、それとも最後まで命を燃やし続けるか。

 

 モージャは神が嫌いであった。 

 もっと言えば、神を謳う化物を心底憎んでいた。

 

 彼がまだモージャという名では無かった頃。

 彼が最も愛した街は自称神を名乗るUBMに壊された。

 最も頼もしかった同僚も、街を治める領主も、平穏に暮らす民も。

 皆、一夜にして化物の腹の中に納まることになった。

 

 長い月日の研鑽を以てしても化物を倒すには至らなかった。

 だが、神の手先だけはモージャ自身の手で仕留めることが出来た。

 それ以上は望めない。

 自身の力量は他の誰でも無い、モージャ自身が見極めていた。

 

 だが、それで静かな余生へと転換するには、彼の憎しみは余りに深すぎた。

 そこで、直接街を滅ぼした化物––件のUBMを倒すには力及ばずであるが、他の神ならばあるいはと考えた。

 

 神を名乗るUBMなどこの世界には幾らでもいる。

 贄を望む者。

 支配する者。

 暴れる者。

 見下す者。

 そも眼中にない者。

 

 彼は片端から神を名乗るUBMを調査し、可能であれば討伐に赴いた。

 倒せずとも、能力を偵察……否、彼の就く超級職の力で暴き、倒せそうな者へと情報を渡した。

 その一環で彼は眼鏡の形をした特典武具を手に入れることとなった。

 銘は【生前遺産 フログラス】。

 能力はフログラスに一つだけジョブを登録できるというもの。

 つまりは、この特典武具があれば最大8職までという制限を超え、9つ目のジョブに就けるというわけだ。

 とはいっても、フログラスで登録されたジョブによるステータス補正は受けられず、スキルが使えるのみ。

 そして、登録するためには、登録するジョブに一度就き、破棄しなければならない。

 誰でも簡単に、空席の超級職に就けるわけではないのだ。

 むしろ、超級職であれば破棄する必要などないわけで、スキルに恵まれた適当な上級職でも登録するのがこの特典武具の落としどころであると言えた。

 

 だが、モージャはこの特典武具を手に入れた時、安堵したのだ。

 漸く、己が超級職を手放せるのだと。

 彼が就いていた超級職は身体への負担が大きく、使えば使う程衰弱していく。

 長命のモージャですら、既に視力は全盛期に比べほとんど低下していたのだ。

 このまま持て余すくらいなら、と何度も考えた。

 だが、ただ超級職を手放したところで、次代に就いた者がこの力をどう使うか分からない。

 そして、超級職の恩恵が無くなれば、いよいよモージャに戦う術は残されなくなるだろう。

 

 だからこそ、天恵であったのだ。

 フログラスは、モージャが超級職を手放すための後押しとなった。

 とある理由から……他者からみれば下らない私怨で無理してフログラスを倒した甲斐があったというもの。

 同時期に信頼できる〈マスター〉と出会えたのも僥倖であった。

 モージャはその〈マスター〉に就職条件を伝えると、フログラスを使い超級職のスキルを保持したまま、手放したのであった。

 

 

 

 

 さて、超級職による補正が無くなりステータスこそ下がったものの、数々の特典武具を所持しているおかげでまだ一線級の力を持つモージャは最後の戦いの場を選んでいた。

 寿命も残り数十年といったところだ。

 どこかで腰を下ろすのも良いかもしれないと考えを改めていた。

 それもフログラスを討伐したことが一因かもしれない。

 その名は……どこか似ていたからだ。

 彼が最も倒したかった相手に。

 

 

 神を名乗るUBMの情報を集め続け、グランザルムという名を耳にした。

 グランザルムは神と名乗りこそしなかったものの、黒い結界に閉じこもった奇怪なUBMであった。

 触れたらモンスターが湧き出てくる。

 祟りがある、と周囲からは恐れられていた。

 

 試しにと調査に赴き、そして結界を一目見て、これは自身には手に負えないと判断した。

 等級は神話級UBM。

 そして、黒い結界はグランザルムの能力の副産物によって生み出されたものに過ぎず、その能力の一端にすらなっていない。

 なのに、その一端だけで既に周囲へは多大な影響を与える程のものとなっていた。

 

 触らぬ神に祟りなしとばかりに、余計な刺激を与えないように、現れた黒いモンスター数匹を瞬時に倒すとその場を後にした。

 

 だが、これで少なからずグランザルムを刺激してしまったことは確かであろう。

 せめてもの償いとして、付近の村に注意勧告でもと回った。

 驚くことに、村々は慣れた対応であった。

 またか、と。

 あるいは、倒す程の実力者なのかと、逆にモージャを褒める者さえいた。

 

 最後に訪れた村はドリムという名であった。

 これまでと同様にグランザルムに要らぬ刺激を与えたと謝罪したところ、彼らは一様に不思議そうな顔をしたのだ。

 

「グランザルム……? 聞いたことも無い名前だな。おい、知ってるか?」

「いや。ここ最近出現したモンスターか? 悪いが、俺らは何も知らないな」

 

 知らないと、あれだけ強大な存在を放つUBMが近くにいてもそう返したのであった。

 

 そんなはずがない。

 有り得るわけがない。

 

 そしてすぐに思い至った。

 彼らは何かしらの精神系状態異常に陥っているのだと。

 

 モージャの推測は当たっていた。

 この村は【願細胞 プラマイナス】というUBMの支配下にあったのだ。

 村の民らはプラマイナスという存在すら知らない。

 ただ平穏に暮らしていると信じていた。

 

 だが、現実はそうではない。

 プラマイナスは村の影に潜み、神を演じていた。

 神に希った村人の願いを叶えるふりをして、村人から生気を吸収していた。

 死なない程度に弱らせ、抗えない程に弱らせ、そして生き永らえさせていた。

 付近に彼らでは対処できない強いモンスターの出現や、あるいは備蓄の残量が無くなりかけた時、困難が立ちはだかった時だけ、ほんの少し生気を村人に返した。

 村人はソレを神からの祝福だと喜び、返ってきた力を以て困難を打ち破った。

 

――ああ、これなら倒せる

 

 モージャの心は村に巣食うプラマイナスという、エレメンタルが元となった逸話級UBMの正体を知った時、歓喜に満ち溢れていた。

 要は通常時にデバフをかける。

 それだけのUBM。

 たったそれだけ対処すれば、倒せる程度のUBMであったのだ。

 フログラスでかつての超級職のスキルを使うまでも無い。

 手持ちの、二刀一対の特典武具がデバフを相殺出来るし、所詮はエレメンタル。

 ステータスはそう高くはない。

 分体は村中に散布していたが、本体を見つけると、即座に討伐した。

 

 

  

 

 【<UBM>【願細胞 プラマイナス】が討伐されました】

 【MVPを選出します】

 【【■■■■・■■■■】がMVPに選出されました】

 【【■■■■・■■■■】にMVP特典【願災防 プラマイナス】を贈与します】

 

 新たに手に入れた特典武具。

 特別嬉しさも薄れてきていた。

 

「……あれ? なんだか頭がスッキリしたような」

「体も軽いぞ」

「神様が今日だけは特別に奮発してくれてるんじゃないか?」

 

 村人らはプラマイナスの支配から解かれ、本来の生気……ステータスを取り戻していた。

 

「ん? 何だあれは」

「黒い……良く見えないな」

 

 そして同時に、グランザルムを初めて認識したのだ。

その光景を見た時に、モージャは久しぶりに己が失敗に焦りを感じていた。

 

 【願災防 プラマイナス】は元のプラマイナス同様に弱体化の能力を持っている。

 だが、【願細胞プラマイナス】は本来、それ以上に支配下の存在へと精神への干渉を行っていたのだ。

 その干渉とは、プラマイナスと支配下にある者同士以外への認識が薄くなるというもの。

 これはつまり、村人はグランザルムに対しては意識を向けないし、グランザルムもまたドリム村があるということ自体への認識が薄れるというもの。

 結果的にプラマイナスはグランザルムからドリム村を守っていた形にあった。

 

 フログラスを通じて見たプラマイナスというUBMの能力を改めて確認し、安易に倒してしまったことを震える。

 

 神とは良く言ったものだ。

 本当に無辜の民を守っていたのだから。

 

「不味い……この特典武具にはそこまでの力は無い。せいぜいがステータスへの弱体化のみ。しかも時間をかける遅行型……。グランザルムをどうこうする力なんて……ッ!」

 

 このままではドリム村は初めてみる神話級UBMに脅かされることとなるだろう。

 グランザルムもまた、突如現れたドリム村を警戒するかもしれない。

 攻撃するかもしれない。

 モンスターが大量に押し寄せてくるかもしれない。

 

「なにか……なにか……」

 

 あった。

 

 ああ、そうだ、とモージャは思い出した。

 自身の目の前に……文字通り眼前にかけていたものがあるではないか。

 

 フログラスを手に取る。

 

「……きっと、これが最後になるでしょう。最終奥義を発動すれば、きっと私は二度と光を見ることは叶わなくなるでしょう」

 

 だけど。

 償いには十分だ。

 このままここで余生を過ごす。

 きっと村人たちから自身の記憶も薄れるだろう。

 だけど、同時にグランザルムからの干渉も防げる。

 

「《神の見えざる一手》」

 

 それは直接的な視界による認識と、精神的な認識のどちらをも薄れさせる結界を作り出すスキル。

 生涯に一度しか使うことが出来ず、代償として発動者の視力を著しく低下させる。

 こうしてモージャは村をグランザルムから、グランザルムを村から隠した。

 プラマイナスや他の特典武具を使い分け、村人らが何の代わりなく生活できるよう、プラマイナスの後釜として村の外れに住み続けたのであった。

 




よし、何とか1話で現代へ戻ってくることができた
また妹妹ちゃんに戻れる
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