<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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Dside 憧れの英雄 18

■黒い結界の前

 

 男の装備はよく見れば奇妙なものであった。

 いずれもがモンスターを象ったようなデザインであり、元となったモンスターの牙や爪が直接植え付けられている。

 製作者が如何なる意図を以て作り上げたのか。

 いや……果たしてアレは装備品なのだろうか。

 

「あの人はティアンですよ」

 

 妹妹の言葉に一瞬、男は――ワン・フー・ウーは何を言われたのか分からないといった顔をした。

 あの人がステルバを指していることは妹妹の視線から確かなことであるし、まさかティアンという意味を知らぬわけではあるまい。

 だからこそ、ワンは笑った。

 ステルバという老人はティアンである。

 そんな、当たり前のことを何故言われなければならないのかと。

 

「だから、どうした」

「分からないんスか……!? ティアンは私達〈マスター〉と違って――」

「殺したら本当に死ぬ、か? ハハハ! 何度だって言ってやろう。だから、どうしたというのだ」

 

 遊戯派の中でもティアンは人ではないと考える連中か、とイテカは辟易する。

 まただ。

 この手の連中は星の数ほど存在する。

 精巧であれどゲームはゲーム。

 精巧なNPCは現実では殺せない人間を殺すのにうってつけの存在。

 

 何人も見てきた。

 何人も倒して来た。

 

 だが、目の前の男が違うのはその圧倒的なまでのオーラ。

 纏う強さが異質だ。

 まるで幾つものの魔物を押し固めたかのような――

 

「俺よりも弱い奴がどうなろうと知ったことではない! 弱さこそは罪だ。罪こそは弱さだ。それにその爺さん……特典武具持ちだろう?」

 

 ワン・フー・ウーの視線がステルバの眼鏡を捉える。

 

「ティアンを殺すのは初めてだ。そして特典武具を持った奴を殺すのもな。俺が纏えるかは分からないが……」

 

 背負っていた斧を手に取ると――

 

「試してみる価値はありそうだ」

 

 地面に向けて振り下ろした。

 

「【スピン・ドラグナー】!」

 

 広い地域で生息する亜竜級モンスターの名を叫びながら、振り下ろされた斧は地面に突き立つ。

 同時に斧からは突風が吹き、ワン・フー・ウーの周囲を巻き上げる。

 彼を中心として起こった風は妹妹、イテカ、ステルバを浮き上がらせ、転ばせた。

 

「(これは……風属性の一部のモンスターが使うとされるスキルっスか。モンスターのスキルを使えるエンブリオ? ……手数が武器とかなら中々厄介な相手ッスね)」

 

 先程の名は今の突風を起こすスキルを持つモンスターのものだったのだろう。

 

「(だけどその程度でやられる程、ヤワじゃないッスよ)」

 

 イテカは宙で態勢を整えつつ、右手に風を無効化する盾を持つ。

 真正面からのみの制限付きであるが、如何なる凶悪な風も通すことはない一品。

 これで風を受け流しつつ、地面に着地した。

 

「妹妹さん、ステルバさん……無事みたいスね」

 

 隣ではそれぞれが地面に転がることなく2本の脚で着地していた。

 

 既にステルバは2本の短剣を手に装備している。

 相手が生半可な相手ではなく、そして敵意剥き出しであるために戦闘は免れないと判断したのだろう。

 

「申し訳ないッス。こちら側の人間が迷惑をかけてしまって」

「いえ。偶にあることです。彼ら〈マスター〉は……いえ、この言い方では妹妹さんとイテカさんに失礼ですね。彼らのような人を殺すことに抵抗感の少ない人間は、一定数います。それはティアンも〈マスター〉も関係ない……人の心の問題です」

 

 ステルバの眼はワン・フー・ウーに向けられている。

 既に彼の能力の解析に入っているのだろう。

 それを待ちつつ、イテカは盾を自身の肉体に収納すると新たな装備を取り出す。

 

「行くッスよ!」

「こちらも……ただでやられるわけにはいきません」

 

 イテカに続くようにステルバも駆けだす。

 年齢を感じさせない走りで一気にワン・フー・ウーとの距離を詰める。

 イテカは右から大太刀を、ステルバは左から短剣をそれぞれ突き出す。

 

「(……この間合いなら確実にやれるッス!)」

 

 特典武具でこそ無いが、イテカの大太刀は業物に分類されるほどの切れ味を持つ。

 そして付随された効果は大太刀の攻撃力以下の防御力の相手を切る際に相手の防御力を半減させるというもの。

 ステルバの短剣は既に知っている。

 刺した相手にかけられたバフを剥がす効果だ。

 ステルバの攻撃の直後に大太刀がワン・フー・ウーを袈裟切りに出来るよう、イテカは絶妙なタイミングでステルバに続く。

 

「(ジョブは【剛剣士】……ステータス上昇値が高く、スキルもバフメインのはず……。エンブリオがスキル模倣なら、ステータスメインのジョブとスキルメインのエンブリオの組み合わせ。どちらにせよ通る……ッスよ)」

 

 ステルバがワン・フー・ウーの剥き出しの右手首に傷を付ける。

 

「……チッ」

 

 ほんのわずかに付けられた傷から赤い液体が点々と垂れる。

 煩わしさを隠そうともせずにステルバを斧で払おうとした隙をイテカは見逃さない。

 斧を振り上げたタイミングで懐に入り込むと、

 

「切り捨て御免……ス」

 

 バフデバフが剥がれ、ジョブと装備、エンブリオ補正のみのステータスとなったワン・フー・ウーの肉体に大太刀が振り下ろされた。

 

 

 

 

 違和感は始めからあった。

 何故彼は結界から出てこられたのか。

 何故彼の装備はちぐはぐなのか。

 何故彼の装備は奇怪なデザインなのか。

 何故彼のステータスは……これほどまでに高いのか。

 

「……?」

 

 大太刀を振り下ろしたイテカであったが、その手ごたえが余りにも硬すぎたことに首を傾げ――る前に咄嗟に身を捻る。

 

「憤ッ!」

 

 斧がイテカの右大腿部を抉る。

 多量の出血と共にイテカのHPが大きく削られ、イテカは地面に倒れた。

 

「な、んで……」

 

 バフデバフとしてかかっていた補正は消えたはず。

 素のステータスもそこまで高くないことは、ステルバがワン・フー・ウーの手首を切れたことで証明されていた。

 残るは装備補正くらいだが、幾ら何でも馬鹿げている。

 だって、装備補正が軽く10000は無いと防げないはずなのだ。

 それだけの補正を持つ装備は少ない。

 だが、

 

「その防具は純竜級モンスターの【ダーククリスタル・ゴーレム】から作られた装備……。でも防御補正はせいぜい2000がいいところなのに」

 

 ワン・フー・ウーの装備は特徴があり過ぎた。

 元のモンスターを色濃く残しているおかげで、どのモンスターを素体にしているか、見れば瞬時にわかる程に。

 故に、素材となったモンスターから作られる装備のランクも凡そで分かる。

 合計で4000、ジョブのバフスキルで5000に届けば良い程度……そう見積もっていた。

 

「まさかステルバさんに切られた後に即座にバフスキルを……」

「何を言っている」

 

 ワン・フー・ウーがイテカを仕留めるべく斧を彼女の首目掛けて振るう。

 

「……ッ! 違いますっ! イテカさん……前提から間違っています」

 

 その斧をステルバが両手の短剣で受け止めた。

 だが、両者のステータスの差からステルバは徐々に押されていく。

 

「はは、はははは! 今度は貴様が庇うか。貴様を狙う、この俺の攻撃から」

 

 ワン・フー・ウーは笑う。

 彼の表情は、未だ彼が余力を残していると物語る。

 

「どれだけ続く。この最強である俺の力に、どれだけ対抗できる?」

「……イテカさん。この男は……この、ワン・フー・ウーという〈マスター〉の力は……余りにも非常識ッ! STR、ENDは10万を超えたものになっている……!」

「……は?」

「他も軒並み高い……何だこれは……これが、同じ人間のステータスなのか……」

 

 言いながら、その数値にステルバ自身も驚いている。

 口に出して漸く実感したのだ。

 

 その数字こそが彼が自身を最強と言わしめる根拠であり事実であるということを。

 

「さあ、続きを始めようでは無いか」

 

 軽く斧を捻る。

 ステルバの両腕は軋みを上げ、彼の肉体は弾き飛ばされた。

 

「俺は最強だ! 俺が絶対。俺こそが正しい。だから、もう誰も俺を守ることなんて出来ない」

 




ワン・フー・ウー君の今のステータス
HP:20万以上
MP:1万以上
SP:1万以上
STR:10万以上
AGI:2万以上
END:10万以上
DEX:1万以上
LUC:5千以上


【MGD】に負けそう(笑)
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