<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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はい、連続投降です


Dside 憧れの英雄 20

■【剛剣士】ワン・フー・ウー

 

 負けられない戦いというものがある。

 彼にとっては、それは彼の戦い全てであった。

 あの時から、彼はもう負けないと誓った。

 

 彼のせいで恩人は負けた。

 恩人は強さを捨てるはめになった。

 だから、彼は、彼女のために負けないと誓ったのだ。

 そのためにはどんな手も使う。 

 どれだけ罵られようとも、屈しないと決めた。

 弱いままではいられないのだ。

 誰にも負けない強さを纏わなければならないのだ。

 

「――あ、あああああああああああああああ!!!」

 

 絶叫と共にワン・フー・ウーは両腕を振り回す。

 まるで子供の喧嘩のようだ。

 だが、それは間違ってはいない。

 彼はまだ10にも満たない年齢。

 多少の格闘術を習おうとも、追い詰められれば、必然とこのような戦い方となってしまう。

 

「――ふっ」

 

 短い呼気と共に妹妹はワン・フー・ウーの懐へと入る。

 鳩尾へと一打入れるとワン・フー・ウーはまたもぐらりと倒れる。

 ダメージは無い……にも関わらず彼の肉体は強い衝撃があった。

 

「あ、あ、――」

 

 自信が、培った強さが、剥がれていく。

 駄目だ。

 このままでは負ける。

 負けてはいけない。

 

「ど、どけ……!」

 

 がむしゃらに走った。

 妹妹は動かない。

 彼の行動をただ見送る。

 

 走った先には黒い結界に受け止められた斧が一丁。

 それを手に取ると、

 

「は、はははは! 肉弾戦では貴様が一枚上手のようだが! こうして武器を手に取ってしまえば近づけまい!」

 

 斧をぶん回し、妹妹へと近づいていく。

 地面が抉られ、走った斬撃の先で雲が割れ、彼を中心として大気が歪むように裂けていく。

 

「教えてやろう。この斧の元となったモンスターの名は【アズマクダシ】という切断力に特化した化け蛙! そのまま俺のエンブリオで斧となったこいつの切断力は生前の能力そのもの! 貴様に防げるはずもない!」

 

 そう、語る。

 よりにもよって【切断姫】の前で切断力を誇ってしまう。

 

「そうですか」

「……何を澄ました顔で! その余裕は避けられると踏んでか? だが、それは残念だったな! もう外さん!」

 

 ワン・フー・ウーは兜を被る。

 通常であれば視界が狭まり命中精度が落ちてしまうが、彼の兜は別だ。

 

「この兜の元は【ヒャクガン】というトンボだ。付与されるスキルは命中補正! 貴様が逃げようと、【ヒャクガン】が自動的に【アズマクダシ】を……」

 

 妹妹は既にワン・フー・ウーの話を聞いていなかった。

 否、別のことを考えていた。

 即ち、彼の力の源について。

 【ヒャクガン】と【アズマクダシ】。

 エンブリオによって作り出された2つの装備のコンボにより回避不可能な圧倒的切断力の斧が妹妹へと振り下ろされようとする。

 

「どれだけ罠を張り巡らせようとも、小細工を、策を弄しようとも、俺の圧倒的な力の前では無力に等しい! 俺は負けない俺は勝ち続ける俺は俺は俺は俺は俺は――」

「《その斬撃が上回るのならば(キングリッパー)》」

 

 パキン、と軽い音が響く。

 くるくると切断された斧の刃が回転し、地面へと落ちた。

 

「……は?」

「大きな武器も形無しですね。こうして私の小さな爪に切断されてしまうのですから」

 

 【斬風爪 カマイタチ】。

 こうして向かい合い戦っているため固有スキルすら発動出来ていない。

 ただ、【切断姫】の奥義だけが乗っかっているカマイタチ――彼女の爪をワン・フー・ウーに見せる。

 《その斬撃が上回るのならば(キングリッパー)》という、相手の斬撃力を自身の武器に上乗せする奥義によって、今の彼女の爪は見かけ以上の切断力を誇る。

 

「そんな小さなものに……」

「ええ、小さいですよ。小さくて、弱そうに見えますか?」

 

 見えなかった。

 今の彼女の爪は、【アズマクダシ】を容易に切断した彼女の武器は、死神の鎌のようだ。

 

「さて。貴方の力……そのカラクリをそろそろ解かせてもらいましょう」

「ひっ……」

 

 【アズマクダシ】の切断力を上乗せした妹妹の爪が数度、ワン・フー・ウーに繰り出される。

 それを防ぐ術など彼には無い。

 下手に防ごうとすれば、それだけ彼の死期を早める。

 ただ、後ろに身を引くのが精いっぱいであった。

 

 ワン・フー・ウーの装備していた兜が、鎧が、手甲が、グリーブが切断され破壊される。

 

「や、やめてくれ……それは俺の……俺の力がぁぁぁぁぁ」

 

 そして破壊されるたびに彼の抵抗は弱くなっていく。

 無我夢中で振り回される彼の両腕両足が地面を砕くことも無い。

 

「……解析が終わりました。なるほど……これが彼の力でしたか」

 

 同時に、ステルバがワン・フー・ウーの解析を終えたようだ。

 いや、これは彼が弱体化したからこそ、解析が完成したのだ。

 

 ステルバの眼はワン・フー・ウー……ではなく、彼が装備し、そして破壊され光へと消えていく彼の装備の破片へと向けられていた。

 

「大した力です……その装備の補正……モンスターそのものだ」

「でしょうね。モンスターの力を纏い、暴れる。恐らくは必殺スキルで補正力の倍率を強化しているのではないでしょうか」

 

 ワン・フー・ウーは答えない。

 だが、彼の表情はそれを肯定していた。

 

 

 

 

■【悪鬼螺摂 ラショウモン】について

 

 ワン・フー・ウーのエンブリオであるラショウモンの能力は、一言でいえば装備化である。

 自身の力のみで倒したモンスターを一定の確率で自身の空いている装備枠に当てはまる装備へと変換する。

 たとえば彼の鎧の元となった純竜級モンスター【ダーククリスタル・ゴーレム】。

 このモンスターは全身をクリスタルで覆い、身を固めるゴーレムであった。

 彼が倒した時、このモンスターはそのまま鎧と化した。

 彼の斧の元となった【スピン・ドラグナー】や【ヒャクガン】はスキルを保有したまま装備へと化している。

 そう、この能力の最も恐ろしい点は、装備化した際のその補正ステータスや保有スキルだ。

 第一形態では元のモンスターの10パーセントのステータス補正、そして第一スキルのみの保有であった。

 それでも全ステータスへの補正なのだから、全身をラショウモンで作り出した装備で固めてしまえばそれなりの強さとなる。

 

 問題はデザインくらいだな、とデンドロを始めたばかりのワン・フー・ウーは考えていた。

 

 だが、第六形態まで進化を進めた時、そして必殺スキルを覚えた時、彼は自身がどれだけの強さを得たか実感した。

 

 まず補正ステータスは元のモンスターと同値。

 たとえば純竜級モンスターはSTR・END・AGIが5~6000程度。

 それを全身に複数装備出来れば超級職を軽く超えるステータスを得ることが出来る。

 とはいえ、変換できる確率はそう高くない。

 一昔前のゲームでいえば、鱗や宝玉のドロップ率くらいの変換率だ。

 地道に装備を整えていくしか、強さを得る他無かった。

 

 とはいえ、ラショウモンはその破格の能力の代償として、モンスターからの経験値半減とアイテムのドロップ率をゼロパーセントへと固定する。

 つまりへジョブレベルはろくに上がらないし、モンスターからアイテムを得ることが出来ない。 

 第四形態……上級エンブリオへと進化した際に強制的に発現するパッシブスキルとしてステータスに表記された時は肩を落としたものだ。

 

 そして、もう一つの代償……というか、モンスターから直接装備へと変換したが故にかれの装備は個別にHPが存在していた。

 不可逆的に少しずつ減っていくそのHPは、装備の寿命のようなものだ。

 強い装備を整えても安心はできない。

 いずれは壊れ、彼は丸裸となってしまう。

 

 そして必殺スキルである《因果流転悪行応報(ラショウモン)》は装備の寿命の減少を速める代わりに補正ステータスを数倍に引き上げる。

 どのステータスをどれだけ引き上げるかによって寿命の減少は変わる。

 純竜級モンスターから得た装備はともかくとして、大量討伐が可能となる亜竜級以下なら一度の戦闘で使い潰しても良いため、STRとENDを中心に必殺スキルで引き上げ、今の彼の強さは完成していた。

 

 とはいえ、彼の弱点は明確だ。

 装備によって得た強さであるならば、装備を潰してしまえばいい。

 一部のジョブやエンブリオにはそういった能力を有しているものもある。

 所詮は、上辺だけの強さなのだ。




うそだろワン・フー・ウー君……あれだけイキっておいて、もう君は負けてしまうのかい?
立ち上がってくれ! 君が負けたら誰が奴を止めるというのだ!
せめて…せめて……妹妹の弱体化だけでも……
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