<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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もう23話ってマ?
パリドーネちゃんとレシーブちゃんだったらフト討伐2往復してるぞ
むしろあっちはもう少し伸ばすべきだったのか……?


Dside 憧れの英雄 23

■黒い結界の前

 

「――正しさを貫くには! 力が! 悪い奴らを黙らせる圧倒的な暴力が! 必要なんだ!」

 

 その声には、これまでのワン・フー・ウーのどの発言よりも感情が込められていた。

 ただの雄叫びではない。

 怒りが、嘆きが、どうしようもない程の後悔が。

 彼の声にはあった。

 

「――このまま俺が負けたら……あの日の正義を、俺自身が終わらせてしまった正義を、また俺が否定してしまうことになる。だから!」

 

 ワン・フー・ウーは再び全身をラショウモンでモンスターから作り出した装備品で整える。

 だが、その補正値は一万程度。

 前衛超級職並ではあるが、これまでの圧倒的なステータスでさえも敵わなかったのだ。

 もはや自暴自棄にでもなっているのだろうか。

 

「だから……俺は……」

「――だから貴方は弱いままでいいんです。認めなさい」

「……ぐゥっ!?」

 

 転がり、装備が破壊される。

 今のは亜竜級モンスターのみで構成された装備品。

 純竜級が出てこないのを見ると勿体ぶっているというよりも、品切れなのだろう。

 

「……あの方は、何なのですか」

「……さっきも言ったじゃないッスか。私にも分からないッス。でも……これだけは言える。彼女は……妹妹さんは魔法少女の中でも別格。狂気じみた強さを持つあの女、秀才であるプシュケーさんをも凌ぐかもしれない魔法少女……」

 

 イテカは一度だけ、妹妹と戦ったことがある。

 それは、プシュケーが彼女と戦い敗北したと知った時。

 プシュケーの強さは知っていた。

 真正面から打ち合えばイテカも勝てるか分からない相手だ。

 だが、妹妹といえば不意打ちを得意とする魔法少女……そう噂に聞いていた。

 要は、不意打ちさえ防げればいいのだろう。

 最初から戦う気であったならば、不意打ちなんて食らうことも無い。

 

 そう、決めてかかった。

 正面から挑戦状をたたきつけ、互いに得物を構えてPvPを行った。

 

 そして、負けた。

 

 何をされたかは分かる。

 どうして負けたのかも分かる。

 分からないのはただ一つ……何故こちらの攻撃を事前に見切っていたかのような動きが出来たのか。

 一度も攻撃は当たらなかった。

 トラの子も全て使い切らされた。

 だけど、負けた。

 

「あの人、自分を弱く見せることで本当に弱い人を守ろうとしていたんスよ。そのためにわざわざステータス偽造なんていう、戦闘が始まったら役に立つか分からない魔法少女なんか選んじゃうくらい生真面目というか愚直というか……そんな人なんス」

「……」

「だけど、それでもッスよ。自分を弱く見せるなんていうスタイルを貫き通しても尚、あの人が負けたっていう話はあんまり聞かないんスよ」

 

 それが妹妹。

 天才の魔法少女。

 

「……だけど不思議ッスね」

「不思議、とは?」

「何であんなのに入れ込んでいるんスか……? いつもならサクッと倒すはずなのに。説教? ……いや、授業? アイツの装備を全部壊してアイツがもう悪さ出来ないようにするつもり……とか?」

 

 イテカの推測は、ワン・フー・ウーの所業を見れば、決して間違ってはいない。

 ラショウモンの発動確率はモンスターを倒した時で、亜竜級程度で1パーセント、純竜級では0,1パーセントとかなり低い。

 今ここでワン・フー・ウーの装備を全て破壊すれば、当分の間、ワン・フー・ウーは弱体化するだろう。

 

「……もはや俺のエンブリオは装備化だけ。戦闘にはあまり役立たない。これが俺の弱さか、答えてみろ! 妹妹とやら!」

 

 ワン・フー・ウーが槍を構える。

 漆黒に染まった槍は陽の光を反射し、周囲の人間の眼を眩ませる。

 持ち主であるワン・フー・ウーは光への耐性があるのか、真っすぐに妹妹へと突進し、槍を突き出す。

 

「――いいえ」

 

 だが、妹妹は目を瞑ったまま、自身の腕を一本の槍に見立て、受け流した。

 

「くそっ……!」

「エンブリオが弱い? 違います。こんなものは、上辺です」

 

 どころか、自身の腕すらも【切断姫】によるスキル補正が入っていたのか、槍の先端部分はすれ違いざまに斬り落とされていた。

 

「……どうやら勝手にバフが入ってしまうみたいですね」

 

 自身の手を見て妹妹は呟く。

 カマイタチが無くとも、やはり爪自体に軽い切断力がかかっているようだ。

 

「邪魔ですね」

「……! 超級職か! ……そうか。やはり、ジョブが――」

「違います。この世界におけるジョブもまた上辺の強さ。私の言う、貴方の弱さとは程遠い」

「だが! 現実に、お前が俺よりも強いのは――」

「ですから、こんな邪魔なものは捨てます」

 

 あっさりと、妹妹はそう言い切った。

 アイテムボックスから取り出したクリスタル。

 【ジョブクリスタル】に酷似したそのアイテムの名は【リセットクリスタル】。

 要は、ジョブをリセット出来るアイテムである。

次の瞬間には彼女のレベルは500を下回っていた。

 大幅なレベルの低下。

 今の彼女は【切断姫】に非ず。

 メインジョブは【魔法少女μ】へと置き換わっている。

 

「は、ああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?」

「これで良し。私の爪も……うん、普通ですね」

 

 それが、どれだけ馬鹿げた行為であるか。

 その場の誰もが知っていた。

 超級職に就いたことのあるステルバも、現在超級職に就いているイテカも、そして超級職に就いたことのないワン・フー・ウーも。

 ステルバですら、幾度の葛藤の末に、都合の良い特典武具が手に入ったからリセットしたのだ。

 それをこんなにもあっさりと。

 ワン・フー・ウーという男との戦いの最中に……。

 

「お、おまおまお前ぇぇぇぇ! 自分のジョブを……それも超級職を! 捨てるなんて……!?」

「上辺だけの強さだと、言ったじゃないですか。これがあるから貴方は気づけないのでしょう? だったら、要りませんよ」

「……何が目的だ」

「だから、貴方に弱さを教える。それだけです」

 

 それだけのはずがあるか、とワン・フー・ウーは妹妹を睨む。

 他に目的があるはずだ。

 必殺スキルの兆候か?

 それとも【切断姫】とやらの最終奥義がジョブリセットを条件とするのか?

 分からない。

 分からないのだ。

 だって、自分でも分かっていたから。

 もう、目の前の少女には勝てないことを。

 ただの意地だけで、立ち向かっていることを。

 

「なんで……そこまでするんだよぉ……」

「認めなさい。貴方の弱さを。幾ら強さを纏おうとも。ジョブで補おうとも。貴方の本質は! 貴方の弱さは! 根底は変わらないことを!!」

「う、るさぁぁぁぁぁぁい!!」

 

 亜竜級装備も最後。

 後は、道中で狩った時に偶然手に入った雑魚モンスターと、先程まで戦っていたモンスターのものしかない。

 だが前者の補正などあってないようなもので、後者は一部のステータス補正と、後は大して役に立たないスキルを保有するのみ。

 ステータスを上げるならばこの亜竜級モンスターの装備がいい。

 

「《因果流転悪行応報(ラショウモン)》!」

 

 幸いとも言うべきか。

 ワン・フー・ウーの必殺スキルは装備品の寿命を削るという悪条件故か、ワン・フー・ウー自身が払うSPやMPの消費はかなり少ない。

 自然回復に任せてしまえば一日に何度も使うことも出来る程だ。

 

「(あの女のステータスは【切断姫】を失ってかなり低くなっている。今の俺の装備でも勝機は――)」

 

 トン、と軽い音がワン・フー・ウーの胸部に響いた。

 その音が、妹妹の拳との衝突によって起こされたものと気づくまでに時間はかからなかった。

 なのに、気づいた時にはワン・フー・ウーの肉体には既に10発の殴打が当たっていた。

 

 妹妹の貧弱なステータスでは必殺スキルによって底上げされた装備は壊れない。

 装備の耐久度もこの戦闘では自壊しないよう注意した。

 

「くそ……くそっ!」

 

 手を振り回そうと、蹴り払おうと、妹妹の姿は捕まらない。

 煙のようにするりと逃げてしまう。

 

「認めなさい。弱さを。エンブリオもジョブも。ステータスすらも、上辺の強さ。貴方は、何故この世界で強さを求めたのですか?」

「……それは、正しさを」

「今の貴方が正しいと?」

「うる……さい! 正しさを貫くには俺の力では弱すぎたんだ……強くならなきゃ……あの人を守れるくらいに強い力を手に入れなきゃ……」

「だったら何故!」

 

 妹妹の拳が止まった。

 

「何故、そうまでして貴方は……自分が弱いと知りながら認められないのですか……? 独りで戦うのですか……?」

「……ッ!?」

「あの時私は言いましたよね……。行くなと。行ってはいけないと。きっと傷ついてしまうから。まだ弱い貴方が行ってしまえば……死んじゃうかもしれなかったんですよ?」

「……姐姐なのか?」

 

 妹妹は泣いていた。

 構えは解かれ、今の間合いなら確実にワン・フー・ウーの攻撃は当てられるだろう。

 だが、彼女の顔を、言葉を、そして涙を。

 ワン・フー・ウーは……あの時、憧れた正義を失った少年は妹妹を見て膝から崩れ落ちた。

 

「もっと自分の弱さを認めてください。傷つかなくていい時は傷つかないでください。でなくては……じゃなかったら私は……強さを隠すことなんて……」

「あ、ああああああああああああああ」

 

 理解した。

 ワン・フー・ウーは妹妹が、何故かつて天才少女と謳われた幼馴染が強さを捨て、最弱とまで言われるようになったのかを、理解してしまった。

 あの時以降も、少年は不良たちに目を付けられることは無かった。

 都市で大きい顔をする者も何故か弱い人間をカモにはしなかった。

 代わりに、幼馴染が毎日、生傷が絶えない姿を見せつけられた。

 

「あの時からずっと俺を守って……何でそこまで……」

「だって……もう失いたくないですから。大事な弟が傷付けられるのを見たくはないですから」

 

 傷つけば歪む。

 歪めば最後、元の形には戻らない。

 ワン・フー・ウーは、少年は漸く自覚した。

 あの時歪んだのは天才少女だけではない。

 自分もまた、大きく歪んだのだ。

 

 弱いまま、歪なまま、ただ鋭利になろうと曲がったのだ。

 

「……負けました。俺が、僕が、悪かったです。弱い僕が、貴女という正義を……英雄を傷付けてしまった」

「良いんです。強くなるためには自分の弱さを自覚するところから。貴方は自分が弱いことを自覚した。強い相手に勝つには、強さで覆うのではなく、根幹から強くならなければなりません。大丈夫、きっと強くなれますよ。だって、私の弟ですから」

「……っ……ぐすっ……姐姐……」

 

 小さな少女が大男の肩に手を置き慰める。

 だけど今だけは、この場にいる者だけは、弟と、彼を慰める姉の2人に見えていただろう。




よし中ボス倒した
ぶっちゃけ、この展開をやりたくて今章あるくらいだから、もうグランザルムとかオマケもオマケ
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