<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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26話 艦と蛸と泥

■【深潜水士】クリアント

 

 クリアントがグラスコードの下へと辿り着いた時、フィリップが明らかに苦戦していることは理解できた。

 遠目からでも見えた爆発。それは間違いなくノーチラス号による砲撃であろう。

 それにも関わらず、グラスコードに目立つ傷は無い。

 5発あると言っていた、グラスコードさえも傷を付ける特殊弾は不発に終わったのだろう。

 

「《進め、限りなく深く(ノーチラス)》!」

 

 だがフィリップは迷うことなく必殺スキルの名を唱えた。

 

「……いきなりか」

 

 だが悪くは無い。

 フィリップが無謀では無いと思い必殺スキルを使用したのであれば、そこに活路があると見込んでいるのだろう。

 

「先輩、速く移動しないと」

「……ああ、そうだな」

 

 グラスコードはフィリップに警戒の目を向けている。

 明らかに発する圧が変化したノーチラス号。

 触れれば火傷どころでは済まないとばかりに、周囲の海水が蒸発しているように見える。

 

 その隙にクリアントは移動を開始する。

 逃げるのではない。

 ノーチラス号に搭乗するのではない。

 向かうは現在交戦中の【千貶万花 グラスゴード】……その背後である。

 

 グラスコードは気が付かない。

 ちっぽけな人間は見えないし見ない。

 巨体故に、巨大故に、強大故に。

 クリアントがどこへ移動しようと、大勢には影響しないと考えてしまう。

 

「だから化け物はいつだって人間に倒されるんだ。弱いと侮ってしまうから」

 

 クリアントはグラスコードの真後ろに着く。

 巨大だ。

 フィリップの操るノーチラス号など見えない。

 向こうからもクリアントの姿は視認できないだろう。

 

 だが、フィリップにはクリアントの位置が特定できていた。

 

「オーケイ。さて、未知を探索しに行こう!」

 

 その言葉を合図にしてノーチラス号は動き出す。

 目的地はグラスコード……の後ろにいるクリアントである。

 

「FU?」

 

 その動きはグラスコードの目に決して追えないものではなかった。

 亜音速程度のもの。

 避けるには苦労するだろうが、それ以前に多数の手足、分離した【グラスコード】で十分守れるだろうと。

 

 だが、1匹目の【グラスコード】がノーチラス号に触れた時、その考えは間違いであったとグラスコードは理解した。

 

「――ッ!?」

 

 溶ける、といった表現は間違っているだろう。

 泡となって消えるや、海水の一部になって消えるとも違う。

 単純に、その場から消失したと現した方が良いと表すべきであろう。

 

「FU……uuuuuuu」

 

 ノーチラス号の横から、真上から、下から、次々と【グラスコード】がぶつかっていく。

 少しでも軌道を逸らすために、少しでもグラスコード本体が時間を稼ぐために、命と呼べるか分からない命を散らしていく。

 

 そして、ノーチラス号がグラスコード本体の眼前にまで迫った時。

 グラスコード本体は一つの結論に辿り着いていた。

 触れてはならないと。

 

 

 

 

 フィリップのエンブリオである【神秘探究 ノーチラス】の能力特性はフィリップ本人も言っていた通り、『未知への探求』であり『未知への到達』である。

 到達するために様々な環境下でも生存できる耐性をエンブリオ自身が獲得し、到達するために休憩できるよう生活空間や、果てはセーブポイントすら兼ね備えた。

 そして、第六形態に到達するころには、移動を阻害されないよう砲撃性能が加えられることとなっていた。

 

 だが、その能力特性は初めから『未知への探求と到達』。

 未知を探し、到達しなければならない。

 そのため、ノーチラスの最初のスキルは未知を探すものであった。

 第一スキルである《探求心(サーチ)》は自身の獲得していない特典武具やそれに相当するアイテムの位置が分かるというもの。

 これを知った時、フィリップはこのゲームが自身にとって容易な世界であると思った。

 特典武具が希少なものであり、それに相当するようなアイテムも同じく希少。

 ならばそれを集めれば、すぐに強くなり、金が必要になれば売ればいいのだと。

 冷めた考えになってしまった。

 

 それは1日も経たずに勘違いだと分かった。

 何故ならば、すぐに辿り着ける場所にあるのならば、最初から誰かに取られている。

 容易に辿り着けないから宝なのである。

 

 環境に適応しようとも、生活できるエンブリオであろうと、強大なモンスターが護っていたり、そもそもノーチラスでは狭くて入れない場所であったりと。

 フィリップでは辿り着けない場所にばかり宝はあったのだ。

 

 宝が欲しかったわけではない。

 どこか、知らない場所にある宝を見つけたかったのだ。

 そうして、冷めていた熱が再燃した。

 辿り着けないから、燃えることが出来た。

 

 そうした経緯もあってか、必殺スキル《進め、限りなく深く(ノーチラス)》は辿り着くための力となった。

 目的地を定め、そこに辿り着くまでに出会う妨害を全て排除する。

 地形も環境も、人間もモンスターも。

 硬い岩盤であっても、ノーチラス号に触れれば、即座に削り取られる。

 まるでその部位だけ別空間に飛ばされたかのような断面となる。

 何者も隔てることは出来ない。

 フィリップの冒険を止めることは出来ない。

 

 

 

 

「グラスコード! 君は退場するんだぁぁ!」

 

 フィリップの叫びが海中を震わせる。

 【グラスコード】は触れた先から削られ、消えていく。

 それはグラスコード本体であっても例外ではない。

 触れれば、触れた箇所から消し飛ぶ。

 

「Fuuuuuu……」

 

 グラスコードは考える。

 千年を超えた生の中で得た経験。

 百を超える死闘。

 十を超える成長。

 それら全てをつぎ込んで、グラスコードは思考を張り巡らせる。

 

 そして、到達した。

 

 この目の前の脅威は自身を殺す力があるだろうが、決して自身を狙ったものではないことに。

 

「Fu――」

 

 いつの間にか真後ろにいたちっぽけな人間……の身に着ける防具。

 それは自身に通ずる力を持っていると理解した。

 その力は自身に届くことは無いが、自身と似たナニかを感じ取った。

 

 少しだけ右に逸れる。

 すると、後ろの人間も僅かに右に寄る。

 正面から来る脅威は、それに呼応するかのように軌道を右に――グラスコードの後ろにいる人間に向かうようにずらす。

 

「Fu……Fu……Fu……」

 

 グラスコードから漏れる声。

 それは奇しくも人間の笑い声に似ていた。

 

 もはや正面の脅威は止められない。

 真後ろの人間目掛けて、自身を殺すのだろう。

 多少動いて避けようとしたところで、真後ろの人間が更に移動すれば意味がなくなる。

 

 【グラスコード】、あるいは自身の手足で真後ろの人間を殺しても良かっただろう。

 だが、それを避けられては厄介だ。

 その時間を無駄にしてしまえば、確実に自身は死ぬ。

 

 だから、グラスコードは奥の手を使用する。

 数多のドラゴンが密集した球形のモンスターは、窮地を脱するために攻撃を一度捨てた。

 

「Fuuuuuuuuuuuuuu」

 

 グラスコードは内心称えていた。

 ここまで自身を追い詰めた存在を。

 そして確信していた。

 このままでは死を免れることは出来ないと。

 

「……fu」

 

 その声はとても弱弱しいものであった。

 いくつもの強さに固められたグラスコードの内なる姿。

 その真の姿を見せることでグラスコードはノーチラス号の必殺スキルを回避する。

 

 自身を覆う全ての触腕の破棄。

 八百年前に見た1人の人間が使ったスキルにそれはよく似ていた。

 あえて似せたのかもしれない。

 全てを捨てることで強くなった人間に敬意を抱いたのかもしれない。

 

 当然ながらグラスコードの強みとは【グラスコード】を始めとしたドラゴンの数である。

 自身と繋がったドラゴン全てを破棄すれば強さは無くなる。

 だが、強いが故に死ぬのであれば。

 強大で巨大が故に死ぬのであれば。

 グラスコードは一時的にでもそれを捨て去る。

 

「……なにっ!?」

 

 ノーチラス号に乗るフィリップはその目で見えたものが信じられずに思わず叫ぶ。

 

 必殺スキルは文字通りの必殺技。

 特に、フィリップの必殺スキルは一度使えば二度目は使えないものだ。

 その理由は使用後の反動。

 移動時に追突し、消し飛ばしたモンスターや物体のエネルギー。

 それら全てを目的地到達時にフィリップが背負うからである。

 

 故に、決め時に決めなければならない。

 目的地に……クリアントの纏うマッドラップスという未知に辿り着けばフィリップは反動で死ぬだろう。

 

「……君のほうが上手だったということか」

 

 触腕を全て破棄したグラスコードの本体はフィリップの掌大程のガラス玉であった。

 破棄された先から【グラスコード】となり、消えていく触腕の中、その1つの球体だけがそこに鎮座している。

 

「……ああ、惜しかったな」

 

 真の姿であるガラス玉だけが残されたグラスコードのHPの最大値は大きく減少する。

 だが、それは別に致命的なものではない。

 最大値の中でHPは1たりとも減っていないのだから。

 

 僅かでも衝撃を喰らえばガラス玉は割れることだろう。

 だが、全てを消し去るノーチラス号はグラスコードの本体の真横をすり抜けていく。

 

「……fu」

 

 弱弱しく、それでいて勝ち誇った声。

 それがノーチラス号の中にいるフィリップの耳には届いた。




この話には全然関係ないですが、オリジナルジョブの解説でもしておこうかなと

まずは【潜水王】と【深海王】から
【潜水王】はすでに原作様に出ているようですが、詳細は分からなかったのでオリジナル要素をいくつか……
【潜水王】は地上から海底に潜るためのジョブであり、浮上と潜水(縦移動)を得意とする。
【深海王】は海底に生きるためのジョブであり、海底内の移動(横移動)を得意とする。
その他は水中会話や水圧耐性、水中呼吸、水中内の視界補正のスキル関連がEXとなっている。海流の流れを操ったり、海水に姿を透過したりと便利なスキルが満載。しかし、直接戦闘に関わるスキルは少ない。

【巫女】と【神子】
こちらはwikiに名前が載っているだけだったので、好き勝手やらせてもらいました。
【巫女】
転職条件は緩い
モンスターを鎮める力を持つ
対象とするモンスターの数の制限はないが、巫女がその場にいないと効果は発動しない
奥義では鎮めたモンスターと心を通わせると力の一部を借りることが出来る
【神子】
転職条件は1人以上の人間模範生物の殺害とモンスターの救命
モンスターや人間の力を抑えつけ、かつモンスターを神格化することで強化する力を持つ。
モンスターをテイムしたわけではないので格納は不可能
対象とするモンスターの数は神子1人につき1体まで。しかし、モンスターの死によって新たなモンスターを神格化させることは可能。
奥義ではモンスターから力を流し込まれることでモンスターの力を使え、寿命すらも人間から外れる。


神子は転職条件があれなため、神子であることが発覚した時点で普通に指名手配されますね。あと、モンスターを連れ歩くことになる。エンブリオが怪物の姿をしている<マスター>が増えてからは神子はより世界に紛れ活動することになったーみたいな
感想で頂いた質問にはあらかた答えられたかな
【深海王】に関してはただ自分が語りたかっただけである
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