<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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Dside 憧れの英雄 25

■【魔法少女χ】イテカ

 

「入……れた?」

 

 押し出されるように黒い結界へと触れたイテカはそのまま結界内部へと入り込む。

 これまで幾ら押しても引いても何をしようともうんともすんとも言わない――黒いモンスターを生み出すという反応は示していたが――結界を漸く潜り抜けることが出来た。

 

「つまりはですね」

 

 ぴょこんと、そう擬音が付きそうな勢いとポージングでイテカに続いてこちら側へと入ってきた妹妹は両足でふわりと着地する。

 足音は響かない。

 結界がそういうものなのか、それとも妹妹の技術なのか。

 残念ながらイテカには判別付かなかった。

 

 そして、ステルバとワン・フー・ウーも同様に結界へと入る。

 

「ワン君のこの指輪が認証キーだったようです」

「そういうことだ」

 

 自身のエンブリオが結界攻略のきっかけに繋がったことが余程嬉しいのだろう。

 ワン・フー・ウーは胸を張り、妹妹の言葉に頷いている。

 

「まあ、認証キーは認証キーでも不正アクセスに近い類ですけどね。多分、正攻法で入れたわけではないでしょう」

「……そういうことだ」

 

 それが褒められていないことが分かったのか肩を落とすワン・フー・ウー。

 

「ええと、つまりは指輪そのものではなく、黒いモンスターがそもそも結界の内外を行き来出来る能力を有していて、指輪がそれを引き継いでるって感じっスか?」

「恐らくは。そしてその仮説が成り立つとしたら……」

 

 ステルバは結界の内部を見渡す。

 低下した彼の視力でも……いや、視力に頼らなくとも気配で分かる。

 あちこちで蠢くモンスターの殺気を。

 

「結界の外側でモンスターが生まれてるんじゃなくて――」

「結界の中で生まれたモンスターが外に送り出されているということだ!」

 

 飛び出して来た犬型のモンスターをワン・フー・ウーが抑え込む。

 頭部さえ確保してしまえば、攻撃は出来ないようで、ワン・フー・ウーはそのまま絞め落とす。

 

「なんだ。やればできるじゃないですか。やっぱり、少しは習っていたようですね」

「……だって。強くなりたかったんだもん」

 

 その横で妹妹は2体のゴーレム型モンスターの攻撃の軌道をずらし、互いに相打ちにさせている。

 

「良かった。今の私のSTRでも倒せそうですね」

「いや……それは妹妹さんだからじゃないッスかね」

 

 今の妹妹と同じステータスであれだけの動きは出来ないなとイテカは素直に引いていた。

 何をどう経験を積んできたらあのような技術を身に着けられるのだろう。

 

「ワン君。この中のことは貴方が一番詳しいです。何を見てきたか、教えてください」

「何をというか……何も無かったよ。ずっとこの黒いモンスターと戦わせられてたんだ。装備もこいつらからしか落ちないし、じり貧だったから抜け出したんだけど」

「移動は?」

「かなり走ったけど、行き止まりは無かったかな。あ、でも、帰ろうと思ったらすぐに後ろに結界の壁が出てきたんだ」

 

 迷宮じみた特性も持ち合わせているのだろうか。

 内部の空間は外の大きさそのものと考えない方が良さそうだ。

 

「……そうだ! 一回だけ黒いモンスター以外が出てきたことがあった。骸骨みたいなのが宙に浮かんでて……俺に尋ねてきたんだ」

「尋ねた。何と?」

「確か――」

『望む力を示せ。富も、命も、名声も。思いがままだ。さあ、託せ。望みを。さあ、捧げよ。対価を』

「そう、こんな感じ……のぉ!?」

 

 老人とも赤子とも。

 男とも女とも取れぬ声が突如降り注いだ。

 

 見上げれば、そこには刀身が暗く染まった大剣が一振り、浮かんでいた。

 

『ヒヒ。ヒーヒッヒッヒ』

「骸骨じゃないじゃないですか」

「あれ……おかしいな。俺が見た時は確かに骸骨だったのに」

 

 あるいは、それ自体は何でも良かったのかもしれない。

 

 神ならば、その姿は誰にも映せない。

 ただ、人間が勝手に像を抱くだけだ。

 

 故にこそ、そのUBMは骸骨であり剣。

 そして、それ以外でもある。

 

 【黒死夢葬 グランザルム】。

 その名がはっきりとイテカ達の眼に刻まれる。

 

 

 

 

■結界内部

 

『示せ。示せ』

「要らないッスよ。対価とか言うんだ。どうせ、デバフのオマケが付くに決まっているッス」

「同意ですね。それにこちらは貴方を討伐しに来た身。敵の力を借りる道理などありません」

 

 そうか、そうか、と剣は楽しそうに傾く。

 大剣であるからその表情は分からない。

 にも関わらず、楽しそうに映ったのは、刀身の闇がより濃くなったからであった。

 

『ならばこの願いの行き着く先。それは我が手足であろう』

 

 犬型、そしてゴーレム型のモンスターが飛び出す。

 それをワン・フー・ウーと妹妹がそれぞれいなす。

 

「……っ!?」

「先程よりも重い……」

 

 黒いモンスターの指輪を装備したワン・フー・ウーの力でも、卓越した技術を持つ妹妹でも、黒いモンスターの攻撃を流すのは容易では無かった。

 先のモンスターとは明らかに別格。

 力が急激に上昇していた。

 

『我が願いが司るは力! 全てを薙ぎ倒す龍虎の如き剛力を我が手足に与えた!』

「……まーた、厄介なバフばらまき型ッスか。そういうのはもう飽きたんスよ!」

「力を得ようと、弱点そのものは変わっていませんね」

 

 妹妹とワン・フー・ウーが足止めする間にイテカとステルバが黒いモンスターを仕留める。

 確かに攻撃そのものは上がっているようだが、耐久性は変わらずのようで、一撃で倒せた。

 

「どうやら見かけが剣なだけあって、STRか攻撃自体にバフを与える類みたいスね」

「このまま放っておけば、直にモンスターに囲まれるぞ。俺の時はそうだった」

「……ちなみに、ワン・フー・ウーさんはどうやって切り抜けたんスか」

「俺か? 俺は奴から力を貰ったからな。代わりに装備していた槍が折れたが、些細な問題だ。すぐに別のに取り換えたから、そのまま上昇したステータスで薙ぎ払った」

「……なるほど。対価は武器スか」

 

 武器破壊も厄介だが、ワン・フー・ウーも武器の数が手札の一つだ。

 そのためそこまで脅威には映らなかったようだが、断ってしまった今、ただ攻撃力の上昇したモンスターが押し寄せるだけとなる。

 

「さて……どう切り抜けるスかね」

「俺が思うに……」

 

 ワン・フー・ウーは剣の切っ先を宙で笑う大剣へ向ける。

 切っ先からは何も出ない。

 ただの武器のようだ。

 

「アレを倒せばいいんじゃないだろうか」

「……だから。この大群を切り抜けてあの剣をぶっ叩く策をッスね」

「問題無い。俺と姐姐なら。ね?」

「……はぁ」

 

 

 

 

「俺が考える策は全部姐姐に何とかしてもらおう作戦だ」

「つまりは考え無しじゃないッスか」

「私のことは妹妹ちゃんと呼びなさい」

 

 ワン・フー・ウーが妹妹を担ぎ上げる。

 小さな体躯は見た目通りの体重だ。

 持ち上げるのにさほどの苦労も無い。

 

「あの剣まで向かって俺が姐……妹妹ちゃ……んを投げる。そしてすかさず妹妹ちゃ……んが仕留めるって作戦だ」

 

 妹妹のひと睨みでワン・フー・ウーが呼び方を変えるが、かなり呼び辛そうだ。

 まあ年上をちゃん付で呼び辛いのは気持ちが分からないでも無いとイテカは同情の視線を送りながら、異を唱える。

 

「その前にアイツらに邪魔されないスか? それに、あの剣が避けないとも限らないスよ。空中で避けられたら幾ら妹妹さんでもどうしようも無い……スよね?」

 

 いや、どうにでもしてしまいそうな雰囲気もあるが、流石にそこまで人間やめていないよねとイテカは妹妹に同意を求める。

 妹妹は何も答えずに笑うのみだ。

 代わりに、ステルバが口を開く。

 

「剣に関しては私にお任せを。一瞬であればどうにかします」

「なら、ステルバさんに頼もう。モンスターの大群は……アンタどうにかできないのか?」

「私スか?」

「ああ。数合だけ打ち合ったが、アンタは広域型と予想したが……違ったか?」

 

 流石は妹妹の知人と褒めるべきだろうか。

 それとも勘のいいガキと難癖付けるべきか。

 

「……まあ、当たりッスよ。手加減の効かない広域殲滅が得意ッス」

「だったら」

「ま、仕方無いスね。本当は手の内を見せないままで終わらせたかったスけど」

 

 イテカは大剣を再度見上げる。

 神は万能感を謳う。

 故に、奴は何でも出来る気でいるのだろう。

 こんな結界を作り出し、モンスターを好き放題に生み出し、力を与えている。

 

 そんなグランザルムが少しだけ羨ましく、激しく嫌悪する。

 

「神殺し。この間は混ざれなかったスけど、今度こそ一枚噛ませてもらうスよ」

 




とっととグランザルム君倒して年末までにはこの章を終わらせるんだ
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