<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する 作:そらからり
■グランザルム胎内
ワン・フー・ウーのエンブリオである【悪鬼螺摂 ラショウモン】。
その必殺スキルである《
最大火力と引き換えに、装備は瞬く間に消え行く。
であるならば、ワン・フー・ウーの得意とする戦闘は短期決戦であるのだろうか。
答えは、是であり否である。
確かに対個人戦闘での短期決戦も彼にとっては得意分野であろう。
趙火力、超高ステータスで押し切る戦闘は、相手に特殊な技能や能力が無ければ一方的に押し切ることが出来る。
あるいは、回避にこそ徹されれば、装備の限界が訪れ、ワン・フー・ウーのステータスは下がり、敗北の確率は上がるだろう。
だが、それよりも。
ワン・フー・ウーは対軍長期戦闘型でもあるのだ。
単純なギミック無しに、ただただ相手が無数に溢れかえる場合のみ、彼の神髄は発揮されることとなる。
何故ならば、相手が多ければ多い程、《
ラショウモンは装備を削る以前に装備を得る能力。
そして今、ワン・フー・ウーは新たにバフを得た。
原点の装備と引き換えに、グランザルムより多大な強化をされる。
「羅ァっ!」
黒い斧は砕け散る寸前に前方20m程に斬撃を残す。
巻き込まれたモンスターは一切の例外なく肉体を切断されて消えていく。
多くはそのままグランザルムの胎内へと再び溶けていくのだが、一部は光となりワン・フー・ウーの下へ向かう。
兜、手甲がモンスターからの被弾により消し飛ぶ。
だが、同時にモンスターを撃破したことで得た装備品は槍、兜、手甲の3つ。
装備可能枠のうち、非装備部分の装備品を優先して作成するというラショウモンの性質上、彼の装備品は常に埋まる。
「覇ッ!」
黒い槍で貫けぬものなどないかの如く、消し飛ばしながらワン・フー・ウーは進む。
時折薙ぐと視界を開けさせ、どの程度モンスターが減ったかを確認する。
「妹妹ちゃん!」
「……正直、助かりました」
疲弊しながらもモンスターを相手取る妹妹をなんとか救出すると、イテカ達のほうへと投げる。
「ここからは本気だ!」
両手にそれぞれ長剣を装備し、振り回す。
それだけでも高いステータスから繰り出される斬撃だ。
黒いモンスターは容易に散っていく。
「この感じ……本当にグランザルムとは相性が良いんだな」
攻撃の合間にモンスターの群れが途切れると、その隙に長剣を水晶へと投擲する。
水晶は砕け、
『やれい。やれい。仕上げは上々じゃ』
黒いモンスター達は強化される。
水晶が司るはスキル強化。
モンスター達のスキルなど結界の自在な移動が出来る程度。
故に、ワン・フー・ウーの眼には生産と同時に胎内を移動し眼前に出現するという、まるでモンスターの生産量が上がったとしか思えない状態となる。
「だが、好都合!」
出現率が上がったのならばそれだけ多くを倒せる。
今のワン・フー・ウーは広域制圧型。
相手が多い程真価を発揮する。
生産量が増加しても尚、減っていく数も増していく。
「次ィ!」
モンスターから手に入れた黒い弓を使い矢を放つ。
弓矢など扱ったことはないが、運良く命中し目玉を貫通する。
『まだ愉しみたかったが……これはこれで』
瞬間、モンスター達のステータスが全て向上する。
此れまでに倒してきたグランザルムの偽物と合わせれば、黒いモンスターのステータスは亜竜級を通り越して純竜級上位レベルとなる。
並の上級職……どころか前衛系超級職でも1体や2体はともかく数十数百を相手取ることは不可能なレベル。
「はーはっはっは! 俺には関係ない!」
だが、ワン・フー・ウーは違う。
自身の黒い装備を破壊しながら、新たな黒い装備を埋めていく。
そして、その度に彼のステータスは上がっていく。
そう、ステータスが上がるのだ。
グランザルムの候補を倒せば、モンスターのステータスやスキルが上がる。
では、その上がったモンスターから得る装備品はどうなるだろう。
ラショウモンは、倒したモンスターのステータスとスキルを参照する。
故に、ワン・フー・ウーはグランザルムの偽物を倒し、モンスターの力が増すことがデメリットへと繋がらない。
逆に彼の力を高めることとなる。
「盾も少なくなって来たなぁ! お前も前に出てきたらどうだ!」
逆棘の付いた槍を卵へと投げる。
刺されば最後、引き抜くことが致命的となる形状の槍は、しかし弾かれた。
よく見れば卵を覆うオーラのようなものが見える。
「……なんだあれは」
足を止め、観察しようとした隙にモンスターが鎧を破壊する。
「チッ……!」
直にそのモンスターを倒すが、鎧は作られない。
外れを引いたようだ。
鎧はその占める面積から防具の中では最も重要。
急所の多くを守っている。
だから、それを失うということは――
「しまっ」
「油断しすぎですよ」
「油断しすぎですね」
「油断しすぎッスよ」
押し寄せるモンスターの波。
ワン・フー・ウーに出来た弱点となる胴部分へと突撃する黒いモンスターらは爪に、短剣に、斧に叩き伏せられる。
「みんな……!」
「お待たせしました。手持ちのアイテムではどうも時間がかかってしまって」
「20分も良く戦い続けられたッスね。私なら絶対逃げてたッス」
妹妹が笑みを見せ、イテカはワン・フー・ウーへと親指を立てる。
「良くぞ持ち応えてくれました。おかげで少ない消耗でグランザルムを見ることが出来ました」
ステルバの眼は更に光を失っていた。
恐らくはもう明暗程度しか分からないだろう。
音を頼りに仲間達を見分けている。
「あの卵の周囲には更に結界が張られています。張っているのは卵自身ですが、それを強固にしているのは周囲に浮かんでいた水晶や目玉たち。貴方のおかげで頭蓋骨しか残っていませんが」
「ならそれを全部倒せば……!」
「ええ。卵だけとなる。そして私の眼が、卵こそがグランザルム本体であると、看破しました」
何度も何度も誤った道を歩いた。
その先に正解があると信じて。
ようやく。
道の先に光が見えた。
「私が必殺スキルで黒いモンスターを全て倒します。ワン君。貴方はその隙に」
「ああ。結界ごと俺が倒す」
イテカはステルバの護衛だ。
ここまで無理をさせたのだ。
黒いモンスターが幾匹も接敵すればステルバでは勝ち目がない。
「行きます……《
風が巻き起こる。
つむじ風はあっという間に暴風へと変化し、乗せられた斬撃が片端から黒いモンスターを裂いていく。
威力はやはり【切断姫】を失い落ちている。
だが、妹妹は持ち前のセンスで《
3重の風はその威力を数倍に高めると、以前のと変わらない切れ味を取り戻す。
「うわひゃぁ!? 隙間から零れてるッスよ!」
だが、重ねたことで風の範囲は狭くなり、必然とモンスターを取りこぼすこととなる。
イテカは悲鳴をあげながらモンスターへと斧を振り回していく。
「……」
ワン・フー・ウーは大剣を構える。
やはり大剣が最も手に馴染むと実感する。
恐らくは両手で握るからだろう。
安心感があるし、安定感が違う。
「行くぞ!」
黒いモンスターを踏み台とし、高く飛び上がる。
頭蓋骨は相変わらず嗤うかのようにカタカタと揺れる。
口蓋が開き何かを唱えようとしたその瞬間、
「もう戯言は聞き飽きたぞ!」
頭蓋骨を大剣で叩き割った。
『――』
そして空中で大剣ごと身体を翻すと、
「お前の仲間はもういない。そして今度こそ!」
その身を守る結界ごと卵へと回転切りを叩き込むのであった。
結界が砕け散る。
手ごたえは……有る!
「……どうだ!」
着地し、卵を見上げる。
ワン・フー・ウーを始めとした4人が睨む中……
『――』
卵はゆっくりと、割れていく。