<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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Dside 憧れの英雄 30

■【黒死夢葬 グランザルム】について

 

 始まりは小さな願いであった。

 神の願い。

 

 人は神の模造品だと言われるが、ならば神が願うことも時に人のソレに良く似通うこともあろう。

 否、人の願いが神に倣っているのだ。

 

 黒が死を誘う。

 死が夢を醒ます。

 夢を葬り去り、そしてグランザルムは完成する。

 

 原初の願望を完遂する。

 いいや、今もまだ願い続けている。

 生きたいという願いは、生き続ける限り、叶い続け、願い続ける。

 

 ならば何をすればその願いは叶うか。

 ただ、そこに在るだけではいずれ消えるだろう。

 力が無ければ力有る者に取り込まれる。

 

 故にグランザルムは幾つものセーフティー機能を作った。

 一つ目は黒の結界。

 これはグランザルムの本体にして胎内。

 この結界は、グランザルム以外の生物を1つまでしか通さない。

 1つまで、というのは餌が必要だから。

 全く胎内に入らないのならば、それは食事をしないまま生き続けることに等しい。

 それは、ひもじいだろう。

 1つ以外を全て弾く黒の結界。

 強固な結界を破ることは出来ない。

 

 二つ目は胎内から溢れ出るモンスター。

 無限に等しい数の黒いモンスターと、それらを統括、強化する水晶や面といったグランザルムの分体。

 侵入者を数と力で屠るにはこれで十分過ぎる。

 なにせ、これらはグランザルムにとって一切の消耗が無いから。

 一日でも二日でも何日だって、侵入者へと送り込むことが出来る。

 加えて、黒のモンスターは結界を自在に行き来出来る能力を有するため、結界に安易に近づいた生物すらグランザルムの餌とすることが出来た。

 

 残る二つのセーフティー機能。

 平常であれば使われることのない機能は、しかし今、使われることとなる。

 いや、四つ目に関しては常時発動されている。

 だからこそ、有り得ざる敵に対して使われる三つ目のセーフティー機能。

 それは――

 

 

 

 

■グランザルム胎内

 

 大剣、翁の面、水晶、目玉、頭蓋骨の計5つの分体に守られていた卵。

 強固な結界はそれを強化していた分体の撃破により次第に弱体化していき、最後にはワン・フー・ウーの剣により破壊された。

 

 もしも、これが卵でなかったら。

 王冠や金貨、あるいは生物でも何でも良い。

 中身という概念が存在しない物質であったら、ただ破壊して終わりという未来もあったかもしれない。

 

 だが、卵は中身が存在する物質である。

 中身を守るように殻があり、そして殻が割れれば中身が孵る。

 これは当たり前のことで、変えることのできない結果。

 

 パキリ、と音が鳴る。

 その正体が、卵が割れる音と最初に気づいたのはステルバだった。

 視力が低下し残された感覚が研ぎ澄まされる。

 鋭くなった聴覚が、小さな音を聞き逃さなかった。

 

「何か、中に――」

 

 だが、彼に言えた言葉はここまでだった。

 ステルバの真横を音速で突き抜ける。

 その風圧で彼の肉体はズタズタに裂かれる。

 

「――ッ!? ァッ」

 

 辛うじて命は取り留めているが、その灯は僅か。

 すぐに回復しなければ手遅れとなるだろう。

 

「ステルバさん!」

 

 駆け寄ろうとするイテカもその身に強い衝撃を受け吹き飛ばされる。

 力を隠しているとはいえ、彼女も準〈超級〉として相応しい能力を有している。

 だが、この時ばかりは手も足も出なかった。

 その辺の小鬼でも蹴るように、軽くあしらわれた。

 

『ハ――』

 

 ソレは、口を開く。

 

『ハハ。ハハハハハハハハハハハハハ――』

 

 まるで永劫に続くとも錯覚させるほど、ソレは長く笑う。

 額の角を撫で、巨大な眼をぎょろりと剥き、首に下げた水晶を掲げる。

 黒いモンスターの集合体。

 無理矢理に人間に形作ったような、その姿は、果たして神の如くどこまでも人ならざるナニカであった。

 

『良い。良いぞ。久しく忘れていたこの姿を取り戻せたこと、礼を言おう。人の子よ。可愛い人の子よ。まだ歓待が必要か』

 

 ソレは浮かんでいき、イテカ達を見下ろす。

 敵意は一切なく、むしろ言葉通りに慈しむかのような視線であった。

 

「……勘違いしないでくださ、い……。多分アレは全てを下に、平等に見ているだけ……」

 

 ああ、どこかで似たような目をみたことがあるなとイテカは気づく。

 犬猫がじゃれつくのを見る人の目だ。

 何をしようが、下等な生物が騒いでいるだけと、そう見下す傲慢な目。

 

「アンタがグランザルムの本体ってことで良いんスか?」

 

 イテカは立ち上がる。

 

――まだ、いけそうッスね

 

 これでも全身を覆うTYPE:テリトリー・アームズのエンブリオだ。

 耐久性には自信がある。

 

『言わなければ分からぬか?』

「言わずもがなってやつッスか」

 

 ソレは明らかに、卵の中身であったのは間違いないだろう。

 ならば卵から孵った。

 何故、孵った……?

 

 イテカがその疑問に解を見つけようとするも、その前にやることがあった。

 

「……! 妹妹さん。ステルバさんの回復を頼めるッスか? 私とワン・フー・ウーさんでアイツを――」

「いいや! 俺一人で十分だ。妹妹ちゃんもイテカさんも休んでいてくれ!」

 

 ワン・フー・ウーは全身を黒い装備で固めたまま走り出す。

 黒いモンスターの波は途切れたようだ。

 あるいは、本体の出現で収まったのだろうか。

 

 ともあれ、単一の相手をするということはワン・フー・ウーは短期決戦で戦いを終わらせなくてはならない。

 そうでなくては、彼の全身の装備は破壊され、途端にステータスが大きく下がってしまう。

 

「《因果流転悪行応報(ラショウモン)》!!」

 

 全身の装備が軋んでいく。

 少しずつ綻びながらも最後の力を振り絞るかのようにワン・フー・ウーのステータスを引き上げる。

 

「お、おおおおおおおおおおお!」

『下らぬ』

 

 だが、グランザルムは一笑に付した。

 

「これで終わり――」

 

 高く跳び、再び振るわれた大剣はグランザルムの素手で受け止められ、握り砕かれる。

 所詮は畜生のやることとばかりに、軽く手を払う。

 たったそれだけでワン・フー・ウーの全身の装備は砕かれ、彼は地面へと落下する。

 

「なっ……!?」

 

 有り得ない、とワン・フー・ウーは目を見開く。

 それもそのはずだ。

 今の彼はグランザルムのバフと、バフを受けたモンスターを纏い、ステータスは純竜級だけで構成されていた際とほとんど一緒なのだ。

 力も速度も硬さも、これまでで一番かもしれないと思った程で、そのステータスでさえ容易くあしらわれる。

 

「これが神話級、だと……!」

 

 単純な力負け。

 ステータスが負けている。

 それだけで武力を語っていたワン・フー・ウーだから分かる。

 アレは奇怪な能力も複雑な能力も有していない。

 

 【魔将軍】が召喚する悪魔に神話級に匹敵する存在がいると聞いたことがある。

 更に強化された【ゼロオーバー】という名の怪物は確かステータスが全て10万を超えているとか。

 

「まさに怪物……これが神か……!」

 

 単純なスペックのみ。

 だからこそ、強い。

 

 それこそがグランザルム第三のセーフティー機能。

 胎内に侵入した者のデータを分析、蓄積し、卵へと集める。

 そして、全ての分体を倒した時、そのデータを元にし、侵入者を倒すためのグランザルムを生み出すのだ。

 今のグランザルムは対ワン・フー・ウーのための力を得ている。

 つまりは、彼のステータスを超えたステータスを得たというわけだ。

 

『ハ、ハハハハハ! 愉快! 痛快! 我を引き出した英雄と思いここまで来たが、やはり人間止まりであったな! 超級職を持つ人間、超級職並の力を持つ人間、そしてそこそこ強い人間』

 

 イテカを。

 ステルバを。

 ワン・フー・ウーを順に指さす。

 

『あとはこそこそと逃げ回る弱い人間か』

 

 取るに足らない。

 圧倒的なまでのステータスの前では、些細なスキルなどあって無いようなものとグランザルムは笑う。

 

『さて。ここまで力を得たのだ。命有るうちに愉しめるだけ愉しむと――』

「いいえ。貴方が楽しむことなどありません」

 

 グランザルムの喉元が光った。

 否、それはあてがわれた刃の光。

 

「ワン君。貴方がいて助かりました。おかげで私の強さはまた、隠すことが出来た」

『なんだ? おい、貴様は何だ――』

 

 突如現れ、そして急所へと刃を突きつける少女にグランザルムは問う。

 その刃は小さく、そしてそれ故にグランザルムの命へ到達すると、グランザルムの勘が告げていた。

 

『やめ――』

「《爪研ぎ》」

 

 既に研がれた刃はグランザルムの喉を穿つ。

 急所部位へと当てられた攻撃はカマイタチのダメージ補正を受け、グランザルムのHPを全て消し飛ばした。




ステルバさんは応急処置だけしてもらったと信じたい
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