<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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Dside 憧れの英雄 32

■【魔法少女χ】イテカ

 

 6体のグランザルムモドキの猛攻。

 その全てを耐え凌ぐワン・フー・ウーの背後でイテカは起死回生の一手を探る。

 目の前の6体をどうにかしたところで、恐らくまた次があるだろう。

 重要なのはグランザルムモドキではない。

 グランザルム本体がどこにいるか、だ。

 

「ステルバさん。さっきアイツが……モドキがグランザルムと視ていたッスよね。今はどうなんスか?」

「……すいません。もう残された視力は残り僅か。なので確たることは言えません。ですが、あの時、私の眼は確かにあの卵こそがグランザルムと視ていた。詐称系スキルの類ではない」

「(だったら……)」

 

 それが意味することはただ一つ。

 卵の中身を指してグランザルムとしたのではない。

 卵の外側……殻こそがグランザルムだったのではないか。

 

「(あれだけの力あるモンスターを生み出すならリソースの流れはあるはず。卵を介してグランザルムが中身に力を注ぎこんでいたのであれば……)」

 

 その途中経路もまグランザルムであるとステルバの眼は見抜いたのだろう。

 

「(いや、だったら余計に分からなくなるッスね。果たして、グランザルムとは何なのか)」

「イテカさん」

 

 と、妹妹がイテカの名を呼ぶ。

 唐突な呼びかけに思わず固まりながら応える。

 

「何スか?」

「この状況です。ステルバさんの命も危うい。なので、持てる力は使い切るべきです。私も切り札はほとんど切り終えています。後は、貴女の番ではないでしょうか」

「……いやだなぁ。私だって力の限り――」

「超級職、就いているのでしょう? メインジョブは【魔法少女χ】のままなようですが」

「――ッ!」

「別に手の内を明かさないことが悪いとは言いません。私だってそういうスタイルで戦っています。ですが――」

 

 妹妹はイテカを見る。

 悪意も敵意も、友好的な視線も、何もかもが含まれていない。

 ただ、真っすぐな目だった。

 

「私達は魔法少女でしょう。貴女は、何を守りたかったのですか?」

「私は――」

 

 何を守りたかったのか。

 何で魔法少女になったのか。

 

 すっかり忘れていた。

 いや、考えないようにしていた。

 

 だって、そんなの――

 

「何も、無かったから……」

 

 様々なジョブに就いた。

 でも、いずれも大成しなかった。

 レベルを半端に上げ、そして自分に合わないなとリセットを繰り返す。

 戦闘職も生産職も。

 前衛も後衛も。

 物理も魔法も。

 いずれも、しっくりこなかった。

 

 何でだろう。

 何で、自分はこんなにも駄目なのだろう。

 みんな、自分という主役を務めているのに。

 己が道を究めているのに。

 

 それなのに、自分だけはすぐに諦めてしまう。

 

「魔法少女になれば……【魔法☆少女】だったら……」

 

 幼い頃にテレビでよくみた主人公は決して諦めなかった。

 前向きに、ひたむきに、自分のやりたいことをし、そして通しきった。

 そんな、主人公になりたかった。

 

「はは……でもなれなかったんスよ。あんな凄いのになれるのはやっぱり凄いひとだけで……。私は半端者で……」

 

 【魔法☆少女】になったのはクャントルスカだった。

 苦手だ。

 ああまでして自信に満ち溢れ、自分のやりたいことをしている人間は。

 きっと、悩みなんてないのだろう。

 自分のことが大好きで、他人のことも好きなんだろう。

 

「イテカさん」

 

 妹妹は再度イテカの名を呼ぶ。

 優しい声。

 顔をあげると、その目も今度はイテカを温かく包むようであった。

 

「何も、ないわけじゃありません」

「でも、だって、私のエンブリオはリビングアーマー。空っぽであることを証明して――」

「色々と詰めることが出来る。そう捉えることは出来ませんか?」

 

 妹妹はイテカの手を握る。

 小さな手だ。

 小さいが、こんな状況でもちっとも震えてはいない。

 

「硬い鎧はきっとイテカさんの強さです。その強い中に、好きなものをたくさん入れておける。きっと、イテカさんだって好きなものはあるはずです。そして、好きなように取り出せて、力になってくれる」

 

 驚かせるのが好きだ。

 他人の知らない顔を見れるから。

 いつもは見せてくれない。

 だけど時折覗かせる。

 そんな顔を見たくて、リビングアーマーの力で手品じみた悪戯をする。

 

「クャントルスカさんが凄い人。それは当たり前のことです。同時に、私からすればイテカさんだって凄い人です」

「……私が?」

「はい。だって、色々なことに挑戦したんですよね。私だったら疲れてしまうからやらないだろうなってことも、きっと。イテカさんが半端者? 違います。貴女はたくさんの経験をしてきた人です。究めることも難しいですが、多くの経験を積むこともまた難しい。だからそれはイテカさんの欠点なんかではなく、美点です」

 

 多くのジョブに就いてきた。

 多くのジョブのレベルを上げてきた。

 多くのジョブのスキルを使ってきた。

 

 多くの、多くの、道を辿ってきた。

 

 それらは全てが行き止まりだったかもしれない。

 だけど、歩んだ足跡は確かに刻まれる。

 

「……!」

 

 だからこそ、そんなイテカだからこそ。

 このジョブの道は開けたのかもしれない。

 

 【ジョブクリスタル】でメインジョブを入れ替える。

 大丈夫、【魔法少女χ】の固有スキルは入れ替えた先の超級職でだって使うことは出来るのだから。

 

「ワン・フー・ウーさん、もう少しだけ待っててほしいッス」

 

 何ができるかは分からない。

 だけど、何かは出来る気がする。

 

 だって、イテカは諦めるまでは成し遂げるのだから。

 諦めれば出来なくなる。

 でも、そこまでは歩けるのだ。

 

「行くッスよグランザルム。私が全て暴いてみせる」

 

 【自由人】イテカ。

 彼女はその奥義である《天衣無縫》を発動する。

 

「……っ。情報処理が半端なく難しいスね。でも、やれる!」

 

 頭が痛くなるほどの情報が入ってくる。

 目の前のワン・フー・ウー、その装備品である黒い盾や鎧。

 隣のステルバ、妹妹、持ち物である武具やエンブリオ。

 イテカ自身のこと。

 そして、グランザルムの情報。

 

「これが……【眼王】の視界」

 

 系統無し超級職が一つ、【自由人】。

 このジョブは、現存する下級職及び上級職の全てのレベルを5割以上上げることが条件の超級職である。

 如何様にでもなれる、が如何物でもない。

 奥義である《天衣無縫》もそれに見合ったものであり、24時間以内に発動を視認したジョブのスキルを2倍のコストを払うことで使用することが出来るというもの。

 

 ステルバが【眼王】のスキルを特典武具越しであるが使用しているのは幾度も見ている。

 使い方は……類似したジョブに就いたことがあるから何となく分かる。

 

 きっと、使いこなすことは出来ないだろう。

 でも、使うことくらいはできる。

 

「だからこそ。ステルバさんの穴埋めくらいは……!」

 

 さて、2倍のコストを支払う。

 【眼王】のスキルの多くは視力をコストとして使用するものだ。

 ステルバは長年の鍛錬と経験から限りなくコストを減らしていた。

 また、視力を取り戻すべく当時の【聖女】や【教皇】の力を借りたこともある。

 

 だが、イテカは決してスキルを使いこなすことはない。

 各段に増えた視覚情報量に潰される可能性だってある。

 

「――ッ!」

 

 グランザルムグランザルムグランザルムグランザルムグランザルムグランザルムグランザルムグランザルム――。

 

 視界いっぱいに広がる、グランザルムという文字。

 闇全てにグランザルムというステータスが浮かび上がってくる。

 

 ステルバはこれをどう見ていたのか。

 きっと、不必要な情報と、切り捨てたのだろう。

 最低限の情報を最良に使わなければ、ステルバの視力はすぐに潰れてしまっただろうから。

 

 だが、イテカはそれが出来ない。

 情報の取捨選択までは難しい。

 

 だからこそ、辿り着く。

 

「――視えた」

 

 グランザルムの正体に。

 

 視界いっぱいのグランザルムの文字。

 闇全てに見えるグランザルム。

 

「グランザルム。アンタは――」

 

 イテカは闇を叩く。

 拳で力いっぱいに。

 どこだろうと構わない。

 遠くの闇も、近くの闇も。

 手の届く範囲の闇であっても変わらない。

 

「この闇全てッス」

 

 叩く先のグランザルム、という表示が変わる。

 いや、増える。

 そこに現れたのはステータスの一部。

 膨大なまでのHP表示が、闇全てに浮かび上がってきたのだ。

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