<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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Dside 憧れの英雄 33

■【黒死夢葬 グランザルム】について

 

 グランザルムに備わった4つのセーフティー機能。

 結界、無限のモンスター生成、侵入者に対する特攻モンスターの生成。

 これら3つは、グランザルム本体の居場所を隠すためのミスリードに過ぎない。

 結界の中にいるに違いない。

 モンスターを倒し続けた先に出現する分体のいずれかが本体に違いない。

 分体を倒した先に産まれたモドキこそが本体に違いない。

 

 だが、これら全てがグランザルムの計略。

 いくら倒したところで彼のモンスターの掌の上で踊っているに過ぎない。

 

 何故ならば、グランザルムの正体は結界の中に漂う闇そのものなのだから。

 内側に入ったときに感じたぬるりとした感触。

 纏わりつく闇そのものがグランザルムである。

 

 故にこそ、結界の内側はグランザルムの胎内。

 仮に、人として例えてみよう。

 結界は皮膚。

 モンスターは免疫細胞。

 分体はそんな細胞たちを取り留める役割だろうか。

 モドキもまた、強力な免疫細胞の一つといえる。

 

 どこか似ている。

 グランザルムは人と。

 否、グランザルムが神であるならば、人こそがグランザルムを模倣したのだ。

 

 で、あるならば。

 グランザルムが結界内に溢れんばかりに存在する闇そのものであるならば。

 胎内にいつまでも留まるのは危険だろう。

 黒いモンスターやモドキ以前に、グランザルムが隣にいるようなものなのだから。

 

 否、それだけでは危険ではない。

 人間が体内に入り込んだウイルスや細菌を直接攻撃出来るだろうか?

 不可能だ。

 薬品を使えば免疫力を強化したり、細菌そのものを抑制することは出来る。

 だが、手足を使って直接触れることは出来やしない。

 

 グランザルムもまた同じだ。

 結界の内側に入り込んだとしても、グランザルム本体は侵入者へ手出しできない。

 故に強力なセーフティー機能を使って排除を試みる。

 

 だが、ここからはグランザルムが神である証。

 ウイルスや細菌は人間を攻撃できる。

 免疫細胞を逆に殺し、人間の細胞を次々と破壊していく。

 繰り返すことで人間本体も死ぬ。

 ならば内側へ侵入した者も同様にグランザルムを攻撃できるのか。

 答えは否。

 最後のピースを埋めなければグランザルムへは手出しできない。

 それこそが最後のセーフティー機能である。

 

 

 

 

■グランザルム胎内

 

「この闇そのものがグランザルムってことッス」

 

 イテカの掌打により明かされていくグランザルムの膨大なHP。

 幾つも幾つも、視界に出現するHPバーは正解を引き当てたくせに絶望を煽る。

 救いは、それらが共有されたHPであったことだろうか。

 僅か1ドットにも満たないが、イテカの攻撃に合わせてHPが減る。

 減るならば、倒せるだろう。

 

「そうか!」

 

 応えたのはワン・フー・ウー。

 強固な盾でモドキの猛攻を凌ぎ、攻撃系スキルで一掃していたが、繰り返す程に彼の装備は剥がれていく。

 だから、ここが限界だったのかもしれない。

 

 次のモドキを産むための卵が落とされる。

 その数は先の比ではない。

 ようやく、グランザルムが本気で侵入者を排除しようとしたのか。

 あるいは段階を踏んでいかなければならないのか。

 数えるのも馬鹿らしくなる数の卵。

 それらが一斉に孵ろうとしていた。

 

「……! 孵るまでの時間も短くなってるッス!」

「学習……いや成長か!」

 

 モドキの途切れ目をただ黙っていることは出来ない。

 アレら全てが一斉に訪れた時。

 今度こそイテカ達の全滅は確定するだろう。

 

 だからその前に、

 

「俺が終わらせる!」

 

 黒い大剣を構える。

 ワン・フー・ウー、最後の武器だ。

 

「お、おおおおおおお!」

 

 この一撃で砕けていい。

 最後の一振りであり、最高の一振りに仕上げる。

 

「《因果流転悪行応報(ラショウモン)》!!」

 

 振り下ろすと同時に大剣は消えていく。

 仕事をやり遂げたとばかりに、周囲一帯への傷跡を残して。

 

「……どうだ!」

 

 周りがグランザルムであるならば狙いを定めずとも勝手に当たる。

 むしろ範囲攻撃こそがグランザルムを倒すに最適。

 武器を全て失った代償として出した最高の一撃は、

 

「嘘だろ!? まるでダメージが無いぞ!」

 

 しかし、無駄に終わる。

 

「やばいッス! 来てるッスよ!」

 

 モドキを包む殻が砕け散る。

 ワン・フー・ウーを上回るステータスの怪物が、数十体と襲ってくる。

 

「ご、ごめん妹妹ちゃん。やっぱり俺は……」

「いいえ! おかげで分かりました。グランザルムへの狙いの定め方が」

 

 カマイタチの爪で闇を裂く。

 それは一見、先程のワン・フー・ウーの攻撃と大差無いように思えた。

 爪と大剣、武器の違いこそあれど同じ闇への攻撃。

 

 結果は……

 

「……おお! 減ったぞ! だけどどうしてだ」

 

 グランザルムのHPの減少。

 見事に攻撃を当てたのだ。

 

「恐らくは条件を満たしていない攻撃は無効化されます。私達はこの結界の内側に入ってから幾度も攻撃行動をしました。黒いモンスターや分体、モドキへと。その中でグランザルム本体へ攻撃が当たっていないわけがなかったんです。当てようと思っていなくとも、必然当たってしまう」

 

 だが、これまではそんな気配は無かった。

 闇そのものがグランザルムと気づいたから?

 いや、それではワン・フー・ウーの先の一撃の答えには辿り着かない。

 

「この闇にはそれぞれ当たり判定があります。そしてその判定は、狙わないと無効化される」

 

 それこそが最後のセーフティー機能。

 狙っていない攻撃に対してはたとえ命中していようともダメージを無効化するというもの。

 

「……ん? つまりはどういうことだ?」

「この闇の中一つ一つがグランザルムの集合体ということです。そして、私はその中に一つに対して攻撃をしました。目の前の闇に対して、です。対してワン君はそこらの闇にとりあえず攻撃をしましたね。それでは駄目なのです。狙いを定めて、照準を定めて、グランザルムがそこにいると定めなくてはダメージは発生しないのです」

「……なるほど!」

 

 妹妹の説明を聞いてワン・フー・ウーはひとまず目の前の闇を殴ってみる。 

 ダメージは微量だが発生した。

 

 理解した。

 これでグランザルムへの突破口は――

 

「だが……これを削り切るのか……?」

 

 しかし開くことはできない。

 何故ならば、HPが膨大過ぎるからだ。

 

 グランザルムの本質は生存特化。

 能力もそのように振り分けられているし、ステータスはHPとMP以外は存在していない。

 故に、そも振り分けられるべきステータスの値はその2つに偏っていることとなる。

 

 果たしてこの4人で削り切れるものなのか。

 

「……無理だ! 俺の装備もガス欠。妹妹ちゃんに対して油断していないグランザルムへのダメージは少ない。イテカさんやステルバさんだって、既にかなりのダメージを負っている。オマケに……」

 

 モドキが迫っている。

 彼らを相手しながらグランザルムへの攻撃をすることが出来るのだろうか。

 モドキへ攻撃するということはグランザルム本体への攻撃は外れる。

 かといって、本体ばかり狙っていてはモドキの攻撃の前に沈むこととなる。

 

「ようやく分かったのに……グランザルムの謎が解けたってのに……全部無駄になっちまうのか……」

 

 ワン・フー・ウーは嘆く。

 誰よりも。

 既に諦めようとしていた。

 

 そう、諦めることに関しては誰よりも早いはずのイテカよりも。

 

「……?」

 

 おかしい。

 何故、誰も悲観的ではないのか。

 イテカも妹妹も、この謎が解けた今、もう恐れることは無いとばかりの表情をしていた。

 

「ワン君。この結界の中に入って、パーティーメンバーのステータス表示を見ましたか?」

「……? いや」

 

 パーティーなんて久しく組んでいなかった。

 だから、とりわけ気になんてしていなかった。

 ネーム表示が結界の内側に入った瞬間に一瞬だけ光が消えたことも、そういうこともあるんだなと流した。

 そこにどのような恩恵があるかなど知らないから、その後は一切見なかった。

 

「私とイテカさんはワン君やステルバさんと出会う前に1人の〈マスター〉とパーティーを組んでいました。だけど結界に入るまではその名前は消えたままだったんです」

 

 今思えば、結界の外と内側では全く別の空間だったからであろう。

 封印状態、などと予想したが近しいものだ。

 結界の内側なんて封印されているに等しいのだから。

 

「だけど、この中に入ったら復活したんスよ。その消えた名前が」

 

 派手な戦闘を繰り返した。

 叫んだし、叫ばせた。

 必殺スキルを発動し風を巻き起こし、黒いモンスターを空高くで切り刻んだりもした。

 

 モドキが迫る。

 数十体が一斉に4人へと飛び掛かろうと爪や牙を剥く。

 その、眼前に一門の大砲が浮上した。

 

『狙いよーし』

「――遅かったスね。フィリップさん」

『発射ァ!』

 

 次々に大砲が、ドラゴンが闇の中から生まれ、そしてモドキへと襲い掛かる。

 砕け、食われ、裂かれ、モドキの群れは瓦解していく。

 

『やあやあ。待たせたようだね。そして、私も待った甲斐があるというものだよ』

 

 その〈超級〉の名は【探検王】フィリップ・ノッツ。

 彼女の冒険もまた、終わっていなかった。

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