<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する 作:そらからり
■グランザルム胎内
戦いを有利に進めるには噛み合うことが必要だ。
能力、性格、手段、人数――様々な要因が絡み合い、噛み合い、戦局を進めていく。
まず前提から挙げれば、一人では勝てなかった。
この場の誰一人として単独で挑んでいれば負けていたことだろう。
では、誰か一人でも欠けていたらどうだっただろうか。
それは、その時次第であろう。
いなかったらいなかったらで、誰かがその役割を補ったかもしれない。
今以上に無茶をすればどうにかなったかもしれない。
そして、次に貢献度の話だ。
ワン・フー・ウー。
彼がいなければグランザルムモドキの猛攻は防げなかっただろう。
数多の黒いモンスターを相手には出来なかっただろう。
分体を倒すことも出来なかっただろう。
だが、それだけだ。
イテカ。
彼女の役割はシンプルだ。
視力の落ちたステルバ・ステルスの代わりに視た。
そしてグランザルムの正体を見破った。
貢献度でいえば高いかもしれない。
だが、それだけだ。
妹妹。
彼女は味方を鼓舞した。
力の使い方を導いた。
だが、それだけだ。
ステルバ・ステルス。
彼は命を張った。
縁の無かった者達のために命を張って、神話級UBMの懐に入った。
結果として命を落としかけた。
だが、それだけだ。
何を言いたいかというと、皆、力の限り尽くしてはいる。
だが、神話級UBMを倒すのには不足していたのだ。
格も、力も。
膨大なHPを削らなければ倒せない。
単純な攻略法を前にして、削り切る力が無かった。
――彼女が現れるまでは。
「今まで何してたんスか! まさか美味しいところをもっていくために隠れていたり――」
「いやいや!? 違うよ!」
投射映像のようにノーチラスの真横に突如映し出されたフィリップは答える。
これはノーチラスが第七形態に至った際に発現した最終スキルである、《沈黙の潜水》。
フィリップ本人はノーチラスの中にいながら、実体のある分身を外で動かすことが出来るもの。
この分身への攻撃は効果が無いうえに、分身からの攻撃はダメージが発生するという優れたスキル。
フィリップ本人の攻撃力は低いのが欠点といえよう。
「これでも全力で戻ってきたのさ。いやー、後ろで戦闘音がするなぁと思っていたら見覚えのある竜巻がみえるし、これは妹妹達も来たんだなって」
「後ろってどこにいたんですか?」
「ん? それはこのグランザルムの中だよ。流石は神話級だね。ここは隔離空間のようだから空間には限界が無いみたいだ。試しに一日ばかりノーチラスを進めてみたのだけど黒いモンスターが出てくるだけで他には何もなかった」
「……一日?」
「ああ。一日」
そう答えるフィリップの眼は血走っていた。
徹夜明けの鏡に映る自分の顔によく似ているなとイテカは思った。
「それで、時は来たということかな。私ではみられなかったグランザルムの七変化をみられた、と」
「七回も変化はなかったッスけど……そうスね。どうすれば倒せるかは分かったッス」
イテカと妹妹は手短に、グランザルムの特性を伝える。
結界内の闇そのものがグランザルムであること、そして狙いを付けなければダメージにならないこと。
ただし、そちらに気を取られていては黒いモンスターやモドキが襲い掛かってきてしまうこと。
「ふうん。なるほど」
「……おい、アンタ……フィリップって言ったか。実力を疑うわけじゃないが……勝てるのか?」
「君は?」
「俺はワン・フー・ウー。姐姐の……妹妹ちゃんの弟子だ」
「弟子ではないです」
「複雑だね。まあ、いいさ。仲間という認識でいいかな? 勝てるかどうか、と問われれば……今の説明だけだったら可能だね。それは、私のノーチラスと相性が良すぎる」
「……は? 説明を聞いていたのか?」
「君こそ先ほどの砲撃を見ていたのかい?」
グランザルムモドキが20体、先行する。
それぞれに翼、爪を搭載しており、空を滑空しながら迫る。
それら全てが爆撃に包まれた。
炎があがり、煙が包み、視界が明けた時、そこには何もなかった。
「要は、HPが少しばかり高い接近戦しか能の無いモンスターだろう? だったら私のノーチラスの砲撃で倒せる。多少近づかれたところで頑丈だから痛くも痒くもないしね」
地中を掘り進めたのか、グランザルムがノーチラスの足元から飛び出す。
だが、飛び出したはいいものの、その巨体に圧倒されどうしたらいいのか分からずモドキは狼狽える。
そこをグラスコード達が一斉に食らいつく。
「ほらね」
「フィリップさんは〈超級〉です。実力は折り紙付きですよ」
「ちなみにうちのクランにはもう一人〈超級〉がいるッス」
ワン・フー・ウーは世界の広さを知りショックを受ける。
自分がいかに井の中の蛙であったかも。
ちなみに同時刻で〈超級〉は更に増えていたりする。
「さて。憂いは取れたかな」
「……」
「そこのご老人。言いたいことはあるだろうけど、今は休んでおきたまえ。そうだね、ノーチラスの中でゆっくりと見物するのが良いだろう」
今のステルバの状態を知ってか知らずか、『見物』という言葉を選ぶフィリップ。
それは彼女なりのやさしさか、あるいは本当にただの言葉の綾だったのか。
「……分かりました。この先はもう私に出来ることはないでしょう」
ノーチラスから伸びるアームに掴まれ、ステルバは最も安全な艦内へと収納されていく。
「皆さん。申し訳ありませんが先に休ませてもらいます」
「はい。ここまでありがとうございました」
「ッス! もうひと踏ん張り! 頑張るッスよ」
「再度言おう。迷惑をかけた」
三者三様に親指を立ててステルバを見送る。
「私はグランザルムの手下を担当しよう。君たちはグランザルムを、任せられるかな?」
ノーチラスの砲撃と同時に3人はそれぞれ駆けだす。
じっと留まっていても黒いモンスターやモドキは生み出されていく。
遠方からであればノーチラスが対応してくれるが至近距離では砲撃は巻き込む恐れがある。
そのため、常に動き続け、グランザルムへと攻撃を仕掛けていく。
そうして長いこと時間が過ぎた。
少しずつ少しずつグランザルムのHPの総量が減っていく。
同時に、モンスターやモドキの生成速度も増していく。
やがてノーチラスだけでは撃ち漏らすことが出てきて、
「……ここまでか」
グランザルムのHPが残り2割程度となった時、ワン・フーウーがまず落ちた。
元から装備が欠けていたこともあり、モドキに囲まれればどうしようもなかったのだ。
それでも善戦したのは、彼なりに戦闘を積んでいった結果だろう。
「妹妹ちゃん。後は頼む」
「ええ。私達で倒します」
「あとでクランへの招待状も送るッスよ」
消えゆく彼の顔は満足げであった。
もう足りない自分を強さで補うことも無いだろう。
次に倒れたのはイテカ。
グランザルムのHPは1割を切ったところだ。
彼女も【眼王】のスキルを酷使したために次第に視力が低下していき、被弾が増えていった。
持ち前の耐久力でなんとか耐えていたが、やはり数の前には抗えない。
最後は【眼王】の最終奥義と、持ち得る限りの特典武具のスキルを使い周囲のモドキとモンスターを巻き込みながら自滅した。
「ふむ。それでも神話級。一筋縄ではいかないね」
眼前には数百のモドキ。
いずれもノーチラスを破壊するためだけに特化したのか、全身が螺旋状に回転している。
あれらが一斉に襲い掛かって来れば、ノーチラスとてひとたまりもない。
「回避に専念するには数が多すぎるね」
かといって、必殺スキルを使えばノーチラス艦内のステルバの命も危うい。
故に出来る限りの砲弾を放ち弾幕を張り続けるしかない。
「さあ、撃て撃て撃て撃て」
それでも減らない。
モドキの生成に全力を注いでいるのだろう。
ここが最終局面であると、グランザルムも悟っていた。
『貴様が最後だ。その船を壊せば貴様の旅も終わるのだろう』
「いいや終わらないさ。舩も車も、乗物なんてのはただの手段さ。人は自分の足で進める。止まらない限り、冒険は終わらないのさ」
「――そして、ここで立ち止った貴方を私達で終わらせます」
風が吹いた。
小さな風だった。
2つの小さな小さなつむじ風は、爆風に紛れながら育ち、やがて暴風へと変化する。
グランザルムは途中から見落としていた。
巨体であるノーチラスがモドキを殲滅していたから。
そしてイテカが死に際に【眼王】の最終奥義で隠したから。
だが、彼女に偽装系のスキルは通じない。
互いに隠された状態であっても看破してしまう。
故に、グランザルムから一方的に隠れられる状態となる。
「ここに辿り着くまでに数度、試しました。大量の敵へ拡散し、そしてここでは重ねた。だから、使い方はもうバッチリです」
風は、正確にグランザルムを捉える。
範囲攻撃であるのにどうやってか、直接狙っているのだ。
その風はグランザルムを挫き、傷付け、しかし一切の回復を許さない。
ましてや砲弾による爆風に紛れて発動されたソレは認識外からの攻撃。
普段であれば乗らないはずの固有スキルすらもふんだんに乗せられた、
「《転倒も治癒もせぬ風》
少女の必殺スキルはグランザルムを今度こそ終わらせた。
【<UBM>【黒死夢葬 グランザルム】が討伐されました】
【MVPを選出します】
【【妹妹】がMVPに選出されました】
【【妹妹】にMVP特典【刻四無想 グランザルム】を贈与します】
あと一話で今章も終わりかな
そしたら恒例の登場人物紹介と幕間話いくつか(通り名関係)、次章でクラン対抗戦といこう