<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する 作:そらからり
あと計算したらクランメンバー15人もいるんだけど数え間違いではない……よね?
”沼地”
■ノーチラス艦内
「先輩! 先輩!」
それは何時の頃からだろう。
ずっと引っ付いていたワンプも、最近は単独での行動が可能となっていた。
第六形態に進化したことか、あるいは最初からそうであったのか。
ともあれ、ワンプがメイデン形態ではクリアントもエンブリオの能力は使えないため、安全地帯でも無ければ傍にいてもらわなければならない。
そんなワンプがクリアントの下へ叫びながら駆け寄ってくる。
ノーチラス号であちこち見て回っていたようだが飽きて帰ってきたのだろうか。
フィリップが〈超級〉となって久しい。
巨大潜水艦内部にあるクリアントとワンプの自室以外の……他クランメンバーの私室で迷惑をかけていなければいいがと嘆息するクリアント。
だが、それは杞憂であったようで、彼女は開口一番に
「先輩の通り名が発表されましたよ!」
そう告げたのであった。
「通り名、か」
目立った活躍をする〈マスター〉やティアンに与えられるもう一つの名。
いや、この世界では超級職に就く者はそのジョブの名でも呼ばれることがあるから第三の名かもしれない。
名が新しく与えられることが名誉かはともかく、実力を認められるということに違いはない。
だが、クリアントは首を傾げた。
「そんなに目立ったことをしたか……?」
そう、クリアントは自他共に印象が薄いと感じている。
クランを設立してはや数か月。
各パーティーに別れてクエストを解決したり、害悪モンスターの討伐に赴いたりもしたが、それは個性豊かなメンバーあってのこと。
彼らに与えられるなら分かるが、クリアント自身に目立った功績が無いことを彼自身が最も知っている。
「目立ったか目立っていないかで言えば、全然目立っていませんね」
「全然は余計だ。目立っていないだけでいいだろ」
「目立っていないことに違いはないじゃないですかー」
膨れツラをするワンプを見て、やはり自分だけがそう感じていなかったと再認識をする。
通り名を貰える程、どこで目立ったのか。
もはや、彼の頭の中は通り名よりも功績そのもので占められていた。
「クエストの達成数は……そこそこあるんだよな」
ウインドゥに表示されるクエスト達成数を見て感慨深げに唸る。
よくよく考えれば依頼とは金銭が発生するような、冒険者ギルドを通して発行された依頼だけに限らない。
個人の困りごとを承るだけでもクエスト受注となる。
とりわけクリアントはイベントクエストのクリア回数は多かった。
「困っている人を見過ごせない。先輩の人徳の賜物ですね」
「お前は誰目線なんだよ」
「ワンプちゃん目線ですっ!」
ならば旅行く中で自然と縁の通った者達が彼の通り名でも考えてくれたのだろう。
縁のあった……者達。
「……通過していった村のほとんどが死んでいないか?」
「先輩が来たから大打撃を受けたのか、大打撃を受けたから先輩がクエストを受けたのか。どっちですかねこれ」
縁ある人物とて今も生きている者が少なかった。
いやクリアントのせいではないが。
気にしなかったクリアントにも問題はあるが。
「……まあ。〈マスター〉とかは別だからな。うん、神殿とか魔法少女の森とか……」
「ほとんど敵対してたじゃないですか」
「通り名なんて戦ったことのある奴が付けるやつだろ」
ワンプの言葉に手をひらひらと振る。
もはやどうでもよくなった。
「ちなみに通り名はプシュケーさんが食堂で大々的に発表していましたよ。みんな自分のを見て喝采していたり頭を抱えてたりしていました」
「テストの合否結果みたいだな……って、俺いない間にそんなことをしていたのか!?」
かりにもクランオーナーなのに不在の間にそんな大事なことを……。
しかもずっと艦内にいたのに。
「人徳無いですねぇ」
「さっき人徳の賜物とか言ってただろ」
「まあ、ワンプちゃんがいたから代理ってことで伝えておいてって言われました」
相変わらず適当なことを、と睨むがワンプは知らぬ存ぜぬの顔で流す。
「……まあ、いいか。いつものことだ」
「流石、諦めることにはイテカさんも一目置く先輩です」
「最近は随分と頑張っているみたいだもんなぁ……」
最初は同じ怠慢同士と仲間意識を持っていたが遠くに行ってしまったものだと疎外感がある。
ゴール直前で置いていかれたマラソンの気分だ。
「先輩は一緒に走る友達もいないでしょ」
「心を読むな。漫画で読んだんだ」
「なんでそれを自分の体験みたく独白しているんですか。意味わかんないですよ」
「意味が分かりたければ漫画を読むんだ」
絶対に漫画を読んだところでクリアントの言葉の意味など理解は出来ないが。
それはさておき、
「そろそろ教えてくれよ。俺の通り名を」
ずっと勿体ぶっているためにクリアントもそろそろ限界だった。
流石に興味の無い振りを続けてはいられない。
「ふっふー。先輩も欲しがりさんですねぇ」
「分かった。今から食堂に行って聞いてくる」
「待って! 待ってください!」
思わせぶりな態度をするワンプに背を向けて歩き出そうとするクリアント。
彼の背へとワンプは必死に抱き着いた。
「だって! たまにしか無いんですもん! 先輩が私に求めてくるの! だからちょっとくらい意地悪しちゃったって、許してくださいよ」
「おい、人聞き悪いこと言うなよ。誰かに聞かれたら誤解されるだろ」
思わずきょろきょろと周囲を探るが誰の気配も無かった。
安堵の溜息と共にクリアントは座りなおす。
「分かったよ。じゃあそろそろ教えてくれ」
「はーい!」
ワンプは懐から一枚の封書を取り出す。
黄金色の蜜で封をされており、実はかなりの重要案件じゃないのかと疑わせる。
「……泥塗れなんだが」
だが、その重要書類もワンプの懐に仕舞われていたと事実で汚されている。物理的に。
「仕方ないじゃないですか」
「いやまあそれはその通りなんだが」
これを渡した者の責任でもある。
泥被りの少女に紙など渡すものではない。
「あ、中身は無事だ。水を弾く素材だったか」
案外、拭いてみれば泥は綺麗に拭い取れた。
なので、中身は問題なく読むことが出来た。
「なになに、俺の通り名は――」
そこに書かれている二文字を読む。
「“沼地”」
デカデカと、綺麗な文字で書かれているのが逆にその文字の意味の虚しさを物語る。
沼地。
沼の地。
「……」
「ちなみに他の候補もあったらしいですよ」
「どんなだ!」
思いのほかパッとしないものであったため他の候補に期待せざるを得ない。
ちなみにそちらの方が良かったら交換可能だろうか。
「“ロリコン”、“【呪術王】の弟子”、“〈YLNT倶楽部〉の申し子”……です」
「おいそれほとんど同じ意味じゃないか」
身に覚えのない、謂れのない誹謗中傷に泣きそうになる。
「なんでそんなことに……」
「あれじゃないですか? 最近は妹妹さんやキシリーさん、夢味さんとのクエストが多かったから」
幼女と行動を共にすることが多かったから、というわけだ。
「今の通り名のほとんどは〈YLNT倶楽部〉が吹聴しているらしいです」
「クランの総力を挙げて戦争を仕掛けよう」
「やめてください! 最初のクラン戦の発端がそんな下らないことなんて笑われちゃいます!」
クリアントにとっては決して下らなくはないのだが。
「あー。プシュケーさんを通じてその件の〈YLNT倶楽部〉さんからお便りが届いていました」
「あ?」
どのツラを下げて手紙を寄越した、まさか本当に戦争か?とワンプが新たに取り出した手紙を受け取る。
こちらも防水使用のようで難なく読むことが出来た。
内容は、『くたばれ! さもなくば我がクランに入ってどうやってそんな可愛い子達と知り合えたか伝授しやがってください』と書かれていた。
「……一応、名前からノータッチ、つまりは触らないことを信条にしているクランだよな」
「ですねぇ。下っ端連中が嫉妬丸出しで書いたのでしょうか」
それはそれでクランの秩序としての問題もあろうが。
一クランのオーナーとしては見なかったことにするべきだろうか。
「それで、どうします?」
「……“沼地”でいいや」
「やっぱりそこで妥協すると思いましたよ」
ぷぷぷと見た目の年齢相応に笑うワンプを見てふと思う。
もしかして魔法少女連中じゃなくて、こいつが原因じゃね?と。
誰よりも近くにいるこの幼女こそがクリアントロリコン疑惑の真相なのでは。
「……まあ、いいか」
「何ですかー?」
ワンプの頭を強引に撫でる。
手には泥が付くが、それも時間と共に消えてなくなるだろう。
「沼地、か。スワンプマンにはお似合いの通り名だ」
「はい。先輩らしいお名前かと!」
敵対した者を泥のような罠で絡めとり、ついには沈めてしまう。
そんな物騒な由来があるとは知らずに今日も笑い合う二人であった。
文字数はその時のノリ次第なので3000以上縛りではないかも~
もう350話ってマジか
登場人物紹介とかあるから正確にはもう少し少ないだろうけど、よくやるわ(他人事)