<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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”友喰い”

■レジェンダリア中央部 森林地帯

 

 自身の通り名が広まり、クランメンバーは哀歓をはじめとする各々の反応をみせた。

 少なからず自身に関係することだ。

 無反応となる者はいないだろう。

 

「……ッ!」

 

 だが、ここに自分の通り名を一瞥しただけで、後は他のメンバーのものに対してだけ反応を見せた者がいる。

 彼女は『他者が自身に対してどう思っているか』をあまり深く考えない。

 大事なのは自分が相手を好きになれるかどうか。

 その一点に限るからだ。

 

「バウム君!」

「ああ!」

 

 彼女の――クャントルスカに合わせてバウムが右手のパズズの引き金を引く。

 23頭の狼の命を吸ったバウムのエンブリオは、その親玉である大狼へと猛毒の風を浴びせる。

 野生の勘か、あるいは風に乗って僅かに届いた死の臭いか、それとも単に知能の高さ所以か。

 

 大狼は飛び退くと唸りを上げる。

 パズズの風は大狼の鼻先寸前まで届くも、その直前で別の方角へと吹かれていく。

 これこそは大狼の風魔法の一つ。

 大気の流れを操作する術である。

 これを利用し、大狼とその群れは闇の中で気配を霧散させ奇襲をかけていた。

 

「悪い! 躱されたぞ」

「大丈夫。ジャミラちゃんがまだいる」

 

 消え行く死の風を馬鹿にするように鼻で笑う大狼は、笑ったまま倒れる。

 ピクピクと痙攣し、口からは血の混じった涎が垂れる。

 やがて、大狼は光へと消えていった。

 

「ふぅ……ミッションクリアだな」

 

 気密スーツの中で冷や汗をかきながらバウムは依頼を完遂したことを確認する。

 大狼も、群れの狼も一匹残らず殲滅されている。

 

「助かった。ジャミラ、クャントルスカ」

「ううん! これで森の人達も安心だね!」

「構わないわ。バウムさんのサポートでここにいるのだし」

 

 大狼の操る大気の内側に鏡を設置し、更にパズズの風を散った先から送り込む。

 更には森林全てへと鏡を通じて風を散布していく。

 これで森の民を夜な夜な苦しめていた狼の群れは全て死に絶えた。

 

「バウム君凄いね! 必殺スキルはまだ使っていないんだよね?」

「第五形態に進化したおかげだな。相変わらず遺伝子情報の取り込みとそれを基にした毒ガス生成以外に出来ることはないが……致死性能は断然に上がった」

 

 恐るべきはその殺傷性能。

 パズズは第五形態にして第四形態時の必殺スキルと同威力のガスを通常スキルだけで作り出せるようになっていた。

 だが、バウムの本体性能が低いがためにバウムは肩をすくめて苦笑する。

 

「ま、アンタやジャミラが俺を守って、本命と同種族の死体を用意してくれないと何も出来ないんだけどな」

 

 謙遜も過ぎれば嫌味となるが、バウムは本心からそう語る。

 その身の肉体は既に使い物にならず、武装で身を固めるしか彼に戦う術は残っていないというのが、バウム自身のパーソナリティであり認識であるから。

 

「ジャミラちゃんも凄かったね! 空間の認識能力に長けてるんだ!」

「え、ええ。そうよ! 舞台の上から客席を見渡せるようにね」

 

 手放しで褒められる経験が少ないジャミラは突然の言葉に戸惑いつつも受け入れる。

 プシュケーを通じて加入したクランのメンバーはいずれもジャミラの容姿に触れる者はいなかった。

 いや、プシュケーだけは『素材を活かしますわ!』と化粧を施し衣装を飾りジャミラを美しくさせようと躍起になっているが。

 

「……なんだかんだでこのパーティーも上手くいってるな」

 

 プシュケーの采配で組んだ即興パーティーであったが連携は取れている。

 

 前衛をこなせるクャントルスカとジャミラ、支援をこなせるジャミラとバウム、回復をこなせるバウムとクャントルスカ。

 各々が2つの役割を担っているために誰がミスをしてももう片方がカバーできる。

 性格面でも無用な荒事を好まない3人であるため、能力性格共にうまいこと噛み合ったパーティーである。

 バウムとジャミラが既に互いのことを知っていたのも大きかっただろう。

 バウムはジャミラの沸点を知っているし、ジャミラはバウムの強さを知っている。

 だから、敵であった時はあんなのに厄介、あるいは頼りないと感じていた彼ら彼女らであるが、今は頼もしさを感じていた。

 

「流石プシュケーさんね。私達のことをバッチリ理解しているわ」

「ああ。アンタの鏡は攻撃一辺倒と思っていたが、俺の風を送り込めるなら戦術の幅も広がる」

 

 戦術が広がり、絆も上がり、戦闘に勝利したことで士気も上がった。

 流石はプシュケーとバウムとジャミラはこの場にいない者を褒め称える。

 

「うんうん。依頼達成で貰える報酬もあるし、万々歳だね」

「ああ!」

「ええ!」

 

 笑顔だ。

 クャントルスカは笑顔でバウムは笑顔でジャミラは笑顔だ。

 

「私も、もっともっと2人のことを好きになっちゃったよ」

 

 笑顔で、クャントルスカは死の宣告を発した。

 

「《貴方を愛してもいいのかしら(モー・ショボー)》」

「ははは……ぁえ?」

「……え?」

 

 当然ながら愛を以て発動された必殺スキルは《殺気感知》に引っかかることなく、《危険察知》の警鐘は時すでに遅く。

 笑ったままクャントルスカに命を全て平らげられたバウムとジャミラは笑顔を固めたまま絶命したのであった。

 

 こうしてクラン加入に伴い洗礼を浴びた2人はクャントルスカという〈超級〉の恐ろしさを改めて思い知る。

 重要な場面で食べられるよりも遥かにマシだしとはプシュケー談。

 この後残りの加入メンバーも残らず食したクャントルスカはしばらく出合い頭に悲鳴をあげられるのであった。

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