<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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”綺羅星(はいぱーうるとらあるてぃめっと)”

■ノーチラス艦内

 

「ですわー」

「ですのー」

 

 きっかけは些細な一言であった。

 その言葉に意味があったのか、無かったのか。

 当人らは深く考えていなかっただろう。

 

 ただ、子供ながらに真似をし、そしてふと疑問を投げかけただけだった。

 

「ふふ。私の真似ですのね」

 

 美しければ模倣される。

 それは仕方なきことだ。

 むしろ模倣者が現れることでより一層自身の美が際立つだろうと考えたプシュケーは少女達の言動に笑む。

 

「ですわー」

「ですのー」

 

 そう、言いながら走り回る少女達――夢味とドッペルをノーチラスに残っていたメンバーは微笑ましそうに眺めている。

 

 しばらく走り回っていた2人だが、突如立ち止ると

 

「プシュケーさんは何でですわーですのーなんですのー?」

「ですわーですのーなんですわー?」

「……?」

 

 ですわですの?

 何を言っているのか分からなかったプシュケーは聞き返す。

 

「えっと、……何ですの?」

「何ですのー」

「何ですわー」

 

 オウム返しにされ、殊更意味が分からない。

 また、いつものようにただ遊んでいるだけかとプシュケーは嘆息と共に2人に背を向けようとする。

 

「ですわとですのっていつも言うよね」

「どんな意味があるのかな」

 

 そんな言葉が背後から投げられた。

 

「いつも言っているよね」

「昔から言っているよね」

 

 彼女たちと知り合った時にはプシュケーは今のプシュケーであったため、彼女達からすれば昔から、という印象なのだろう。

 

「私の、この高貴なる言葉遣いの秘密を知りたいというわけですのね!」

「高貴かは分からないけど」

「言葉遣いなのかも分からないけど」

「これは私が美しいことの現れですわ」

「うーん?」

「ふうん?」

 

 まあ幼子にはまだ美という芸術は分からないのだろう。

 そんなことを思うプシュケーであったが

 

「美しいとか分からないけどー」

「プシュケーさんってさー」

「……?」

「ですのしか言わないよね」

「ですわしか言わないよね」

「……え、あ」

 

 言い返そうとして、自身の言葉を振り返る。

 確かに記憶では、プシュケーの語彙は余りに少なかった。

 

「そ、そんなことありませんわ……」

「そうですのー」

「そうですわー」

 

 その日、プシュケーは何も言わずにログアウトした。

 

 

 

 

■プシュケー宅

 

 ドサリ、とベッドに倒れるように横になる。

 パラパラと行儀が悪いと分かりつつも枕元にあった漫画を開いていく。

 そこでは転生した貴族令嬢が現代でクラスメイトや不良たちを薙ぎ倒していく姿があった。

 

「……こんな風に活躍できたら」

 

 いやいや、と今の発言を撤回するように首を振る。

 暴力性は捨てたのだ。

 自分が憧れるべきはこの貴族令嬢の振る舞い、嗜みだけ。

 爽快に不良たちを教室の壁に埋め込む姿をみて口角を吊り上げてはならない。

 

「言葉遣い、か」

 

 本棚を埋め尽くすように置いてある漫画。

 いずれも、プシュケーがお嬢様言葉を学ぶためだけに買い漁ったものである。

 美しくあるために。

 美とは自然でいて、しかし人工的でなくてはならない。

 野生の美を目指しているわけではない。

 原石を磨いた先に作られた美しさ。

 それこそがプシュケーの目指すべきもの。

 

「仕方ないじゃない……日常会話なんてあまり載っていないんだもの」

 

 漫画に描かれているお嬢様たちは皆、同じような言葉しか喋らない。

 それこそ、夢味やドッペルに指摘された通り、語彙が少ない。

 漫画から学んだ語彙は漫画以上に多くはならない。

 だが、それを言い訳に出来る程、プシュケーは己を偽れない。

 

「いっそのこと開き直って……ううん、それは美しくないよね」

 

 毅然とした態度は良いだろうが、開き直るというのは過ちを認めないようなものだ。

 それにあの二人は本当に気になっただけだろう。

 プシュケーを糾弾しようなどとは考えてはいない。

 

 だからこそ、誠実に向き合わなければいけない。

 

「……良し」

 

 決めた。

 毅然とする。

 開き直らない。

 誠実でいる。

 美しくある。

 

 

 

 

■ノーチラス艦内

 

「ごめんなさいー」

「ごめんなさいー」

 

 翌日、ノーチラス艦内にログインし夢味達を探そうとした時、向こうからやってきた。

 そして頭を下げられる。

 

「あの後バウムさんに言われたんだ」

「ついでにオーナーにも言われたんだ」

 

 どうやらバウムとクリアントに窘められたようだ。

 

「バウムさんが、疑問に思ったことでもその人のアイデンティティに関することは口に出すべきではないって」

「オーナーが、安易に他人の真似をするものじゃないって。もっと自分らしさを出していこうって」

「そう、バウムさんが……」

 

 クリアントの言っていることはずれているうえにドッペルゲンガーである彼女たちにそれを言うのもまた皮肉な話であるため、こちらはプシュケーから彼に一言言わなければならないだろう。

 

「本当にごめんなさい」

「ごめんなさい」

 

 クリアントへの小言を考えていたためか表情が険しかったのだろう。

 謝る2人の表情は非情に申し訳ないとばかりに落ち込んだものであった。

 普段は明るかったり、あるいは道化のようにはしゃいでいるが、きちんと他人の機微を知ろうとはしていたのだろう。

 

「良いんですのよ」

 

 ふっとプシュケーの口元が緩む。

 

「言っていませんでしたわね。私は美しいですけれど、成長途中でもありますのよ。ですので、まだたくさんは言葉を知りませんの」

「それって」

「私達と同じ?」

 

 普段は学業に勤しむ夢味はプシュケーも学習途中にあるのかと尋ねる。

 プシュケーは2人の頭を優しく撫でると、

 

「ええ。みんな同じですわ。現実でもこちらの世界でもいろいろなことを学び成長する。だからこそ美しくなれるのですわ」

「そっか」

「そうなんだ」

「2人も今は可愛らしいですけど、きっと将来は美人さんですわね。そこはこの、“(ハイパーウルトラ)(アルティメットビューティフル)(スター)”が保証致しますわ」

「……うん!」

「……プシュケーさんのお墨付きだ!」

 

 長すぎるし、既に広まっている通り名よりも増えたダサい呼び名に思うところはありつつも、バウムの教え通りに口には出さないで頷く2人であった。

 




当然ながら本来は綺羅星と書いてビューティフルスターだけです
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