<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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アムニールがどんなところかは知りません。妄想もいいところなのでぼかしました


”切り札”

■レジェンダリア首都 〈アムニール〉

 

 異質だらけのレジェンダリアにおいても最大限の異質性と、そうであるが故の自然体。

 巨木でありエレメンタル種のモンスターであるという事実は、都に降り立った今も違和感を拭いきれない。

 慣れない者にとっては居心地が悪くなり、しかしながらその場から離れがたいという気を抱かせる。

 ともすれば、それは餌を集める習性に似ているのかもしれない。

 人間を集め逃がさぬ機構を備えているが故の。

 

「……三度目ですがまだ慣れませんわね」

 

 だが、〈アムニール〉はモンスターであると同時にレジェンダリアの首都であることに変わりはない。

 そのため数多くの行政施設や商業施設が存在する。

 今回プシュケーがこの都に降り立った目的は二つ。

 否、纏めてしまうことが出来るため一つだ。

 

 まず依頼達成とその顛末についての報告。

 流石にクランとして引き受けた依頼にしては規模が大きくなり過ぎたために地方の小さなギルドでの報告では済ませられなくなり、こうして首都にある大規模な冒険者ギルド、そしてある程度国家として地位のある者へ話をしなくてはならなくなった。

 クランとしてはオーナーであるクリアントを向かわせたかったが、彼本人だけでは不安が残り、なら誰が適任かと問われればほぼ全員が不適切であった。

 なのでやはり消去法で選ばれたプシュケー・アーチがクリアントのお供としてここにいるというわけだ。

 

「ふうん。よくある街並みだと思うが」

 

 どこの国のどこの街出身だったらそんな感想が出てくるんだと心の中でツッコミを入れつつもプシュケーは表面上はオーナーの戯言と流す。

 周囲の魔力が澄み澱み、空気が絶えず入れ替わり、街並み事態も自然と人工が混在したかのような景色。

 見ているだけで目が回りそうになる。

 これをよくあるなどとよく言えたものだ。

 

「ぐるぐるだー」

「くるくるだね」

 

 そして駆けまわる2人の少女。

 狂ヶ咲夢味と彼女のエンブリオであるドッペルゲンガー。

 彼女たちは暇だからという理由で付いてきた。

 まあ、実力はあるし護衛代わりと教育として付いてくるのも良いかと判断したプシュケーは頷いた。

 加えて、2人からオーナーであるクリアントへの印象はあまり良くない。

 どうにも例の森での一戦が後を引いているらしい。

 逆にプシュケーはドラゲイルから救ったことで好印象だとか。

 ここは自分が間を取り持つことで仲良くなってもらおうという寸法である。

 

「(まあ2人も気が変わりやすいですし、時間が解決してくれますわ)」

 

 良くも悪くも気の移ろいやすい性格というのがプシュケーからみた夢味という少女。

 

「夢味さん、ドッペルさん。こちらですわよ」

「でもオーナーがどこかに行っちゃったよ」

「オーナーがまず迷子の迷子の子猫ちゃんだよ」

「……あの男!」

 

 少し人ごみのある街道を歩けば早速クリアントが姿を消していた。

 自ら姿をくらましたわけではなく、単純に逸れただけだろう。

 だが、夢味たちに注意しようと思った矢先にオーナーに先を越されるように逸れられてしまうと大人の威厳やオーナーとしての信頼感に繋がる。

 

「……はぁ」

「プッシュケーさん。そんなため息つかないで」

「眉間に皺を寄せない――」

「寄せていませんけど?」

「――あ、はい」

 

 寄っていない。

 皺など作っていない。

 

 まあ、いなくなったのなら仕方ない。

 探すまでだ。

 

「プシュケーさん。先に行ってていいよ。ギルドってあっちでしょ?」

「ここは私達に任せて先に行って。後で追いつくから」

 

 元来た道を辿ろうと後ろを振り返ったプシュケーのそんな言葉がかかる。

 

「……大丈夫ですの?」

 

 能力的にも、心情的にも。

 どちらの意味でも心配になり尋ねる。

 

「平気だよー」

「へっちゃらさー」

 

 だが、心配ないと2人は胸を張る。

 

「たぶんだけどあっちの店か」

「こっちの店だよ」

 

 それぞれが建物を指さす。

 いずれも食品関係の商店。

 

「さっきからオーナー、ワンプちゃんへのお土産をぶつぶつ言ってたから」

「ワンプちゃんの声は聞こえなかったけど、オーナーの言葉だけだとあのお店のどっちかかなって」

 

 そこまで気を配っていられなかったプシュケーは己の未熟さを恥じる。

 なによりクリアントの供としてここにいるのにクリアントへと視線を向けていなかったのだ。

 2人の方がよほど見ていた。

 

「……助かりますわ」

 

 元より報告程度であればプシュケーだけでも何とかなる。

 もはやクリアントは何のために来たのか分からないが、面会の時間も迫っているため先に行かせてもらうとしよう。

 

「プシュケーさん」

 

 再び呼び止められる。

 

「なんでしょう?」

「私達、もう気にしていないよ」

「全然じゃないけど平気だよ」

 

 なにが、と尋ねるよりも先に言葉が続く。

 

「オーナーのことはね、もう吹っ切れているんだ。振り切れたって方が正解かな」

「だって、オーナー私達のこと覚えていなさそうなんだもん。腹が立つけど笑っちゃうよね」

 

 心情的に、というプシュケーの不安。

 2人はそれを察していたのだ。

 

「今回付いてきたのはそれを確認したかったから」

「我を忘れるくらい怒るかなって思ったけど、大丈夫だったよ」

 

 過去のことだと乗り切れた。

 そもそもあれは敵同士で会った時の戦い。

 同じクランの仲間として今は振る舞える。

 

「いつまでも子供じゃいられないよ」

「私達も成長するんだよ」

「頼もしいですわね。ええ、本当に」

 

 どこかに行ったオーナーよりも本当に頼りになる。

 辛うじてその言葉は呑み込めたプシュケー。

 

「なんてたって切り札だからね」

「ジョーカーだよ。ワイルドカードだよ」

 

 “切り札(ジョーカー)”、それは狂ヶ咲夢味の通り名。

 まさしく彼女達を表す言葉である。

 クランにとっても最大級の相手にぶつけるべき戦力が夢味なのだから。

 

「クリアントさんと合流出来ましたら付近で遊んでいても良いですわよ。こちらのカフスを渡しておきますから」

 

 逸れると思っていなかったクリアントに【テレパシーカフス】を渡していなかったのは失敗だった。

 同じ失敗は繰り返さないとプシュケーはしかと夢味に渡す。

 

「(どんな時も前向きですわ。1人の方が気楽に行けると考えましょう)」

 

 クリアントがどんな失言をするか気にしなくていいのだ。

 淡々と報告を終えて依頼達成としよう。

 そんなことを考えるプシュケーであった。

 

 

 

 

「んー!」

 

 堅苦しい挨拶と報告を終え、ギルドから出る。

 まだ日は高い。

 このまま何かもう一つくらいこなす時間がありそうだ。

 プシュケーは身体を伸ばすと共に街道を見渡す。

 夢味は無事にクリアントと合流出来ただろうか。

 

「あ、プシュケーさん!」

「オーナーいたよー!」

 

 2人に左右の手を引かれてクリアントがこちらへ歩いてくる。

 その顔はなんだか満足げな顔で、先程まで自分が迷子であった自覚は無さそうだ。

 

「あのねオーナーがね、マフィアに絡まれていたんだ」

「ヤクザだよ。暴力団だよ」

「ん? どういうことですわ?」

 

 顔に疑問符を浮かべる。

 何を言っているか分からなかった。

 

「そんな危なっかしいものじゃない。諜報部隊……とか言ってたかな。だけど人間じゃなかった。手や足が動物のような異形化していた」

「異形化……。エンブリオか何かの仕業ですわね。ティアンを改造する犯罪者がいるとか」

「とりあえず敵意を向けられているのは分かったからな。応戦しようと思ったんだが……武具にへそを曲げられた」

「ち、ちょっと待って!? まずなんで敵意を? 知り合いでしたの?」

「いや、初対面だ。肩をぶつけられただとか何とかで。因縁を付けられた」

 

 それは本当に夢味たちが言っていたようにチンピラまがいな連中の可能性もあるのだが。

 だが、彼らが異形と化していたならば、どこか国家と敵対している陣営の所属の線が濃厚である。

 

「……で、武具にへそを曲げられたというのは?」

「ああ。最近マッドラップスばかり使っていたからな。他の武具が自分を使えって言うんだ。というか死んで生き返るまでの短い時間で幽閉される」

「幽閉……ああ、あの空間ですわね」

 

 【気絶】などの際に置かれる空間のことだろう。

 そのタイミングで意志ある武具が語り掛けてくるという話は聞く。

 

「最近は特に酷くてな。それでしばらくストライキだって、マッドラップス以外はスキルがロックされているんだ」

 

 困ったような顔を見せるクリアント。

 

「まあ本当に必要な時は呼べば出てきてくれるさ」

「今さっき出てきてくれなかったのに?」

「……多分な。まあ、街中でマッドラップスは危険だし、打つ手が無いなととりあえず耐性だけ付けて奴らの攻撃を傍観してたら2人が助けてくれたってわけだ」

「切り札なので」

「ワイルドカードなので」

 

 えっへんと胸を張る2人。

 その手には小さな小瓶があった。

 

「それは?」

「ああ。何か奴らが去り際に落としていったな。異形だったからか分からないが随分しぶとかった」

「……クリアントさんにそれを言われたくはありませんわよ」

 

 ともあれ小瓶の中身を覗き込む。

 そこには錠剤が幾つも入っていた。

 

「なんだろうねこれ」

「薬だね。ドラッグだね」

 

 《鑑定》でも不明。

 薬関係は成分を分析しないと詳細は分からないだろう。

 とりあえず詳しい者がクランにいるから彼に頼めば何とかはしてくれるだろう……が、

 

「落としたのがその異形のティアンなんですわね」

 

 そして浮かび上がる新たなイベントクエスト。

 難易度7と中々の難易度だ。

 内容は【万能整薬 ジ・オールマイティ】を指定した場所に届けよというもの。

 ジ・オールマイティというのはこの錠剤のことなのだろう。

 

「……受けるか?」

 

 指定場所はレジェンダリア内にあるとある部族が管理する地。

 

「期限は……明日ですの!?」

 

 急げば間に合うかもしれない。

 いや急いだならば確実に間に合う。

 難易度と合わせていやらしさのあるクエストだ。

 

「大丈夫!」

「私達がいるから!」

 

 夢味とドッペルは変わらず笑顔をみせる。

 先程までとなんら変わりなく、屈託のない笑顔。

 

「ゲームはみんなで楽しまなくちゃ」

「みんながいるから楽しいんだよ!」

 

 かつては1人であり2人きりであった少女。

 だけど今は頼りにされる。

 切り札と呼ぶ仲間がいる。

 それがなにより嬉しいのだ。

 

 それが分かって、プシュケーとクリアントはクエストを受注したのであった。




クエストに関してはこの後無事に達成しました
いつも通り夢味とドッペルが敵の最大戦力を圧倒しクリアントがうっかりミスをしながら敵味方ともに被害を拡大しプシュケーがフォローに努めました
報酬はプライスレス(みんなで眺めた焼け野原の光景)
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