<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する 作:そらからり
■【自由人】イテカ
何もない人生であった。
無茶をせず。
無理を通さず。
無謀な夢を抱かず。
平穏で平和で無色な毎日であった。
無色というのが何色を指すのか分からない。
だけど澄み渡る空色や情熱の赤色でないことは確かだろう。
そして何色にも染まる白でないことも。
きっと灰色の人生だったのだ。
白に非ず黒にも染まり切らず。
どっちつかずで中途半端な黒白混合。
それが私、
――だった。
「面白そうな依頼受けてきたんスけど、誰か一緒に行かないスか? あと3人くらいは欲しいッス」
一枚の依頼書を手に、食堂にいるクランメンバーから同行者を募る。
【天使が舞い降りた村】と書かれた依頼書を読んだ限りでは、単純な戦力だけでなく交渉力を求められるように感じた。
過剰な戦力だけでは解決できない依頼。
時間も多少はかかりそうだが、それだけにやりがいもありそうだ。
「私、手が空いてるし行こうかな」
真っ先に手を挙げたのはクャントルスカ。
苦手な部類だが仕方ない。
……というか私が勝手に苦手意識を抱いているだけで、あちらは何とも思っていないのだろう。
キラキラと輝くような笑顔が苦手、というわけではない。
何に対しても前向きでひたむきで、後ろ暗いところが無いのが苦手なのだ。
正直、仲間を殺した時くらいは反省してもいいと思う。
「なら私も」
「切り札として動こう」
続いては夢味とドッペル。
こちらも戦力としては申し分ない。
だけど交渉力イズ何処?
……いや、幼い子供がいるだけで空気が和やかになることもあるか。
ならばむしろ良いかもしれない、うん。
「……私も行こうかな。クャントルスカさんとはお話したいこともあるし」
個人的にこの依頼は3~4人程度が動きやすいと思っている。
なのであと1人、手を挙げる者がいればそこで打ち切ろうと思っていた。
そして最後の1人はアシスタという新たなメンバー。
凄腕の弓使いらしいが……アンタ確か口数少なかったような。
「その、たまには暑苦しい奴と離れて涼しみたいし」
チラチラと小さな飛行機乗りへと視線を送る。
あ、これ、ただ惚気に利用されているだけだと気づいたのは依頼を受けるメンバーが確定してからであった。
「応! たまには女同士気兼ねなく行って来いよ!」
「……うぐっ」
呑気に手を振る飛行機乗りの笑顔を見て勝手にダメージを受けている弓使い。
多分引き留めて欲しかったんだろうなぁ。
とはいえこれだけの人数の前で手を挙げてしまったのだ。
下げることも、こちらから下ろさせることも出来ない。
「えっと、じゃあ4人集まったので……このメンバーで……」
気に入った相手を文字通り喰ってしまうクャントルスカ。
狂人のようなよく分からない夢味。
バーバヤード以外では口数が少ない印象のアシスタ。
そして私ことチャレンジ精神皆無のイテカ。
……どーすんだこれ。
交渉力必要って言ったのに。
ええい、こうなれば今から急用を思い出して……あ、だめだ。
妹妹さんがこっちを見てる。
ものすごい無表情で見てる。
可愛さのカケラもないけど、良いのかあれ。
もっと可愛い顔しててほしい。
「……ごほん。行くスか」
「イテカちゃん。久しぶりに組めるし楽しみだね」
最後にアンタと組んだ記憶はイコールで食われた記憶なんだが。
「切り札としていつでも頼っていいからね」
「イテカさんのこともコピーしちゃうよ」
それやったら倒されるの私なんだけど。
「イテカさん……だったわね。不安だと思うけど安心して。ティアンとの会話はあまり得意ではないけど戦闘の支援ならできるから」
だからそれは求めていないんだよ。
そして会話中はせめてこっちを見ろ。
バーバヤードに視線を送りながら『年下から頼りにされる私』を演じるんじゃない。
「……ちなみに目的地までは馬車かそれに準ずる乗物が必要なんスけど、それの当てがある人いるスか?」
「「「?」」」
「ッスよねぇ!」
空を飛べるクャントルスカは元より、夢味もアシスタも自分で足を探すこととは無縁そうだ。
全て私が手配した。
「アイテムの補充は……バウムさんは不在スか」
「私がいるから何とでもなるよ!」
「いや、クャントルスカさんが機能しなくなった時に備えた方が良いスね。ノーチラスにある備蓄を分けてもらうとして……あとで【魔法☆少女】の回復スキルを見せてくれるスか? 【自由人】で覚えられるだけ覚えるんで」
他にも色々と準備しなくてはならないことがあるが、いずれも私が担うこととなった。
駄目だこの人達、戦闘以外何も出来ない。
「イテカちゃんありがとう! 惚れなおしちゃったよ」
「マジで遠慮するッス。それにこんなのただの器用貧乏スよ。一芸特化の方が良くないスか?」
「そんなことないよ! それにイテカちゃんのは万能! とびきり強いしとびきり万能だからね!」
そんな褒められたところで何もでない。
せいぜい私のやる気が上がるだけだ。
「……ま、私が受けた依頼ですし、私に任せてほしいッス。何か困ったら頼るんでそん時はよろしくスよ!」
「「「おー」」」
この時ばかり後悔したことはない。
アシスタは依頼のあった村に辿り着いてもほぼ無言。
天使の振りをしたモンスターと戦闘に入った瞬間にクャントルスカはアシスタを殺し、それをみた夢味がクャントルスカの偽物を作り出しその場全員のHPが急下降。
危うく全滅寸前でアシスタが死亡直前に空に放った矢が雨のように降り注いでクャントルスカの偽物とモンスターを射抜き殺せたが夢味も巻き込まれて死亡。
残ったクャントルスカと私で天使を殺したと激怒する村人を鎮めようとするのだが、敵味方関係なく殺しているように村人から見えてしまったクャントルスカが幾ら言葉を重ねようと聞く耳持たれることはなく、仕方なく彼女は村周辺の警備をすることとなった。
そして私だけとなり、2日間かけて村人の信頼を得て、再度襲撃してきた天使型モンスター100匹を1人で殲滅することとなった。
「……うん」
翼をもがれ地に落とされたモンスターを見て、村人たちはようやくソレが天使で無かったことを理解する。
クャントルスカは何処に行ったのだろう。
まさか死んだわけではないだろうが、戦闘から逃げるタイプでもない。
……あ、違う。
落ちたモンスターの中に紛れて倒れてる。
同じく翼が生えているから多分私が間違えて攻撃対象の中に入れてしまったのか。
……見なかったことにしよう。死んではなさそうだ。
「ありがとうございます!」
「流石は〈マスター〉の御方だ。イテカさん、この名は絶対に忘れねえ!」
称賛してくれるのは嬉しい。
けど、ここまでにあった犠牲を忘れてはいけない。
……依頼を振り返り、私がしたこと、仲間がしてくれたことを思い出す。
「最初から私1人でも行けたスね」
こうして依頼は無事に達成された。
そして私に妙な達成感を歪な自信を植え付けたのであった。
自分からクエストを誘う時点で成長してるイテカちゃん