<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する 作:そらからり
■レジェンダリア 集合墓地
レジェンダリアでの埋葬の方法は多岐にわたる。
それは、多種多様な種族、部族が存在しており、各々の慣例が存在するからである。
土葬、火葬、水葬、鳥葬、風葬。
中にはモンスターに食べさせるというものまである。
いずれも共通しているのは司祭系統に就く者が遺体を埋葬した場所を定期的に訪れているということだ。
放っておけば死体は地形から魔力を吸いアンデッドと化す。
故に、浄化あるいは成仏させるため司祭の手が回らない際は依頼が出回る。
此度、ワン・フー・ウーと妹妹が訪れたのもそういった地の一つ。
村単位で壊滅した土地の数多の死体が見逃されてしまいゾンビやスケルトン、レイスとなり起き上がる。
数こそ多いもののまだ起き上がった直後であるためそう強くはない。
だが、アンデッドというモンスターに対して〈マスター〉が思うことはおおよそ共通している。
それは、『倒しても旨みがない』というもの。
経験値は少なく大したアイテムも落とさず。
加えてアンデッド特有の聖属性以外への高い抵抗。
通常武器では余程攻撃力が高くなければ倒すのは容易ではなくなる。
効率よく倒すためには専用の武器を用意しなければならなくなる。
「さて。ではまずおさらいからです」
妹妹はどこから取り出したのか小さな眼鏡をかける。
度は入っておらずただのオシャレ眼鏡以上の意味を成さない。
「ワン君は何のためにここに来たか覚えていますか」
「……強くなるため」
硬く決意した表情で頷いた。
グランザルムとの戦いで装備の大半を失い大幅な弱体化を招いたワン・フー・ウー。
だが、装備でなくもっと本質的なところから強くなりたいと願った彼は師である妹妹に頼み込んだのだ。
「んー。良いですよ。せっかく通り名も貰えたみたいですし、それに見合った方法を試してみましょう」
ワン・フー・ウーの通り名は“
この名を見た時、跳びあがるほど喜んだ。
昔からシリーズが続くゲームと同じ名前。
今もその人気は衰えない。
「見合った方法?」
「はい。まず二つの段階を経ることになります。そうですね……そろそろ時期でしょうし細かな場所をプシュケーさんに聞いておきましょうか」
と、何の説明もないまま準備を進めていく。
「えっと、俺は何をするの? というか妹妹ちゃんが修行してくれるんじゃ……」
「私が手合わせしてもいいですけど、それだと対人での経験しか積めませんし。なによりワン君には心の強さを獲得してほしいです」
憧れの年上幼馴染と手合わせ出来るならそれでいいんだけどという言葉を呑み込む。
そんなことを言えばまただから弱いのだと諭されるだろう。
だけど甘酸っぱい青春みたいな感じで妹妹とひたすら修行に明け暮れる毎日も悪くはない。
「少しだけ辛いかもしれないですけど。絶対にワン君に必要なことです」
だから、と妹妹は人差し指を立てるとこれからワン・フー・ウーに課される地獄を提案する。
「第一段階。ひたすらアンデッドと格闘です」
「……へ?」
ゾンビの群れ、群れ、群れ。
見渡す限りゾンビのパーティー。
彼らは先日、カズアキによってゾンビにされた村人……の末路。
カズアキの死亡によって一度はゾンビ化は解除されたのだが、既に死んでいる村人が生き返るわけではない。
そこには死体が残るだけ。
スキルによってゾンビとなった村人の死体が、今度は正式な手順でアンデッドと化したのだ。
「今からワン君には徒手空拳であのアンデッドと対峙してもらいます」
「……マジか」
「それだけでは簡単に思えるでしょう?」
「思えないけど!?」
耐久性が高い代わりに攻撃力はそこまで高くないアンデッドは、時間さえかければ倒せなくはない。
だけど数が多いため果てしない作業へとなるだろう。
「全部倒さなくていいです」
「本当!」
「はい。レイスだけ狙って倒してください」
「……え」
アンデッドの中にふよふよと浮き上がる軽量の布切れのようなモンスター。
死体が残らなかった、もしくは損壊が酷かった場合にそれでもアンデッドと化すと悪霊となる。
それがレイスである。
「あの、幽体のモンスターって物理攻撃効かないんじゃないっけ」
「ですので、こちらをどうぞ」
渡されたのは包帯。
しっとりとしている。
「聖水を滲ませたバンテージです。手と足に巻けばレイスにも攻撃が通じるでしょう」
なるほど、これならば戦いにはなるだろう。
それに聖水があるのならばアンデッドに有利になる。
だが、問題があった。
「ラショウモンのデメリットがあって……他の装備付けられないんだよね」
ワン・フー・ウーのエンブリオであるラショウモンには幾つかの制限が存在するが、これもまたその一つ。
ラショウモンで作られた装備品以外の装備禁止である。
「では聖水を直接振りかけておきますか」
と、聖水をぶちまけられた。
冷たい。
「……」
「ではおさらいです。第一段階はあのアンデッドの群れからレイスのみを狙って倒してください。他のを倒したら減点です」
口調も表情を優しいが、隣に立つワン・フー・ウーは有無を言わさない圧を感じ取る。
減点を重ねたらかなり不味いことになると。
「では頑張ってくださいね」
「っうおおおおおおおおお」
軽く肩を押し激励され……たように感じたはずが気づけばアンデッドの群れのど真ん中まで押し込まれていた。
そうして3時間ほどアンデッドの群れと対峙することとなった。
「……ぜぇ、はぁ……見える範囲でもうレイスはいなくなった」
「お疲れ様です」
残ったアンデッドは妹妹が必殺スキルで片付ける。
あれだけ苦戦していた敵をあっさりと倒されるのは複雑な気分である。
「装備は集まりましたか?」
「……うん。レベルとステータス差があるからドロップ率は高かったな。とはいえ……これステータスの補正全然無いよ?」
下級モンスターであるためろくにステータスの補正が無い。
倒した甲斐が全くなく、手に入れた装備の数々をみて疲労がより濃くなる。
「そうですか。では次、行きましょう」
殲滅され綺麗な荒野となった地を残し妹妹は歩き出した。
「ちょっと待ってよ」
それから、幾つかの森や草原といったアンデッドが出現し始めた地を巡り、やはりレイスに絞りワン・フー・ウーに倒させていく。
「……ねえ、なんでレイスばっかりなの?」
「あとでのお楽しみです」
理由を尋ねても教えてくれない。
だが、アンデッドとの戦闘を繰り返すうちに確実に己の技量が上がっているとワン・フー・ウーは自覚し始めていた。
幾体ものアンデッドとの立ち回りで被弾を避けるため、常に周囲を警戒し続ける眼。
聖水とて無限にあるわけではない。故にレイスの弱点となる魔力の流れの中心を一撃で仕留める技。
そして数時間戦い続ける精神力。
ワン・フー・ウーが言った通りレイスを倒したところで得られる装備は大した補正はなく、それらを装備したところで大して戦闘を有利に進めることはできない。
ほとんど開始時と変わらないステータスで戦い続けたワン・フー・ウーは消耗しながらも何とか立ち上がる。
「こ、これで……終わりか」
終わってみれば強くなったと実感できる。
やはり妹妹は凄い。偉大だ。
彼女についていけばきっと自分も……などと思いかつての眼差しを向けた。
「はい。第一段階終了です」
しかし返ってきたのは非情な言葉。
第一段階終了……つまりは第二段階が待っている。
「それって……」
「鉄は熱いうちに打てです。このまま進みましょう」
異を唱えることなど出来なかった。
項垂れたまま、ワン・フー・ウーは妹妹の後を追う。
妹妹の言葉通りならば、この修行は第二段階で終わるらしい。
ならばこれは最後の修行となるのだろう。
「……あの妹妹」
「はい、なんでしょう」
だが、耐久性以外はステータスの低い下級アンデッドモンスターとは違い、今目の前にいるのは圧倒的なまでの強者。
「こいつら……竜だぞ」
亜竜級から純竜級程の強さを誇る【ダイアドラゴン】。
最たる特徴は高いステータスであるくせに群れること。
ブレスや飛行能力、その他の特殊能力は無いのだが、2000~3000ほどのステータスのモンスターが群れて襲ってくるのだ。
これをさっきと同じやり方で?と恐る恐る妹妹の方を振り向く。
1体や2体ならまだ戦いにはなるだろうが、レイス装備でこれらを相手にしては圧殺されることは間違いない。
今はまだ気づかれていない位置にいるが、こちらから少しでも仕掛ければ即座に群れが襲ってくるだろう。
「ここまでワン君は心・技・体のうち心と技を磨いてきました。最後のピースは彼らです」
「あいつらを倒して装備を整えるってことだよね。でもドロップする程倒せるかな……」
「安心してください。あのモンスターを倒すのにさほど技術は要りません。まずはこれを使います」
取り出したのは【ジョブクリスタル】。
「ここに来る前に転職をしてきましたよね」
「う、うん。レイスとのステータス差を埋めるために下級職に置いてあった前衛系のジョブを【魔術師】とか【呪術師】にしてあるよ」
多彩なスキルを得たが、メインが【剛剣士】であるためMPタンク以上の役割を成していない。
更には【剛剣士】がステータス特化でほとんどスキルを習得しないこともあり、完全にジョブ同士のシナジーが失われていた。
「ではメインを【魔術師】に変更しましょう」
「は? そんなことしたら本当に戦いにならなくなるぞ!」
「いえ。こうしないと戦いにならないんです」
言っている意味が分からない。
だが、妹妹の言葉に従う他無かった。
渋々と渡されたクリスタルでメインジョブを切り替える。
これで【剛剣士】が使える数少ないスキルも完全に使えなくなった。
使えるのは幾つかの下級魔法だけ。
「使える魔法スキルの中で範囲魔法はありますか?」
「……あるよ。でも全然通用しないでしょ」
そういえば、とワン・フー・ウーはふと思う。
魔法ってどのステータスを参考にしてダメージを算出していたんだったっけ、と。
このゲームに知力というステータスの概念はない。
魔法スキル自体にダメージが予め決められていたんだったかと首を傾げる。
「では必殺スキルを使って、あの群れに魔法スキルを放ってください」
「は? えっと、下級職の魔法を、だよね」
「はい。勿論、必殺スキル込みですよ? 倍率は最大値で」
えぇ―と思いながら発動する。
「《因果流転悪行応報》」
最大倍率で発動すると攻撃を一度だけ行った後に装備は破壊される。
だが、その見返りにしても上昇したステータスは低い。
これでようやくステータスが5000に届いた程度だ。
MPだけが異様に高いくらい。
「……ん? なんでMPはこんなに高いんだろ」
「レイスとかゴースト系のモンスターって直接戦闘をしない代わりに状態異常とか魔法を使ってくるんですよ。だから必然と彼らのMPは多い傾向にあるんです」
「へー」
それらの装備だからMPへの補正は高くなっているというわけか。
だが、50万ほどに増えたMPがどうというのだ。
「えーと、とりあえず《ファイアーボール》を使ってみるか。へぇ、MPを込める量でダメージ量が増えるんだ……ってことは」
「はい。全部注ぎ込んじゃってくださいね」
震える指で下級魔法スキルに50万ものMPを注ぎ込んでいく。
最低発動のための必要なMPは100にも満たない程だ。
それが5000倍のMPを使うことになる。
「……《ファイアボール》」
まさかと思いながら発動されたソレは、もはや下級魔法の形を成していなかった。
太陽のような超高熱の球体はゆっくりと竜の群れへと落ちていく。
直後、大爆発と共に、そこにいた生物を蒸発させた。
それはまるで【炎王】の奥義である《恒星》にも等しい威力。
それを、下級職の身でワン・フー・ウーは放った。
「……あの、妹妹ちゃん?」
「さあ、次行きましょう。レイスの装備はまだまだありますよね?」
今の一撃でワン・フー・ウーの装備は全て壊れた。
だが、アイテムボックスに眠る残りの装備をみて、どころか今ドロップした純竜級の装備を確認しワン・フー・ウーは乾いた笑みを浮かべるしか無かった。
そうして、大量の亜竜級から純竜級の装備を手に入れたワン・フー・ウーはかつてのステータスを取り戻す。
だけど、もう二度と妹妹に頭が上がらなくなった。
たぶんこれが手っ取り早い強化方法
即ち、強いモンスターの群れを範囲攻撃で一掃する
レイスとかいう下級モンスターである意味はないのですが、ワン・フー・ウーに戦闘経験を積ませるために犠牲になりました
本当はもっと上級のMP補正高いモンスターでもいいけど、装備集めるの大変になる
これでクランメンバー全員分終わったかな?
もし漏れてたら次章でそいつめっちゃ活躍させて詫び入れます