<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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死因:無死
プロローグ 可決


■レジェンダリア〈アムニール〉

 

「な……な……」

 

 長机を挟んで2人の男が座る。

 1人は仏頂面のような、表情をみせずただ無言で目の前の男に視線を向けるのみ。

 向かい合った人間を観察するかのような視線に、しかしその先にいる男は机にばら撒かれた紙面のどれから施行を巡らせて良いか混乱していた。

 長身の男に観察される形となったのは初老の小太りの男。

 どちらも共通しているのは耳が鋭く長いということ。

 即ち、妖精種の特徴を有していた。

 

 初老の男の名はグレゴリア。

 レジェンダリアを実質的に統べる十三議族の1人。

 彼と同等の立場と権限を有する13人が可決することで法と理が決定される。

 妖精の中でも類まれなる知性と、そして長き寿命という持つべき者しか許されない才が無ければ選ばれることはない。

 そんなグレゴリアだが、彼はその長い生の中でも上位に入るかと思う程に鼓動を速まらせていた。

 

「巨人の森の壊滅……腐竜王の再活動と討伐……グランザルムの討伐……だと!?」

 

 他にもレジェンダリア近海の水位の下降や怪しげな薬が出回っているなど小さな見出しも視界に入るが、それらは些末な方だ。

 今、口に出したものはいずれも大事件と言っていい程。

 絶滅されたとされる巨人種が密かに生き永らえていたのは上層部であれば皆知っていることであるし、その原理も知っていながら見逃していた。

 要は巨人という種がいることが重要であり、そのための犠牲など別に構わない。

 だが、情報誌には巨人の森の壊滅……そこに棲んでいた巨人が皆死んだと書いてある。

 

 腐竜王やグランザルムの討伐とて同じことだ。

 力有る者が死ねば、生態系が乱れる。

 そこにいるだけで影響を及ぼす存在が、居ることが普通となるまでには果てしない時間がかかる。

 現在はその果てしない時間の先にある状態。

 これから腐竜王やグランザルムが居たことで押さえつけられていた存在が前に出てくるとなると……と考えるだけで頭が痛くなる。

 

「これは本当のことなのか!?」

 

 疑惑の段階で出されたゴシップ記事の類の可能性を尋ねる。

 だが、眼前にいる男はそれに答えることなくただじっとグレゴリアから視線を外さない。

 

「ええ。残念ながら。近々〈DIN〉が出そうとしている記事ですので確かかと。直前でこちらに送られてきましたが、どうやら手遅れではあったようですね」

 

 ニコニコと、仏頂面の男とは真逆に笑顔を崩さないのは彼の隣に立つ若い男。

 同様に耳長である。

 

 名は、何だっただろうかとグレゴリアは記憶をたどる。

 いつからここに……いやこの議会の中枢部に所属していたかすら覚えていない。

 だがここでこういった話をするのは当然の相手であるしレジェンダリアの行末を議論する際には呼ばなければならない者達であることは認識している。

 

「(ああ、そうだ。トランプマンだ。彼の名はトランプマン・ハートワン……)」

 

 ようやく思い出したその名に連なるように、仏頂面の男の名も絞り出てくる。

 何故、名前も朧げな2人が目の前にいるのかすら分からない。

 分からないのに、どうでもいいと思考が鈍る。

 

「エクゼ・キューショナー……お前に尋ねているのだ。これを持ち私に話があると言ったのは、そこの男ではなく、お前だろう」

 

 ニィ、と名を呼ばれた男は仏頂面を崩す。

 口の端を無理やり持ち上げたような歪な笑いであった。

 

「で、ある。如何にも、私は貴殿に話を持ちかける。だが、隣の男は我が代弁者。語るのは、こいつでも構わないだろう」

「なっ……お前自身は置物にでもなるというのか!」

「で、あるか」

「これだけの事件の数だ。知っていることがあるならば話せ!」

「で、あるか」

「……ッ! その口の利き方は何だ! 若造が、異邦人共に毒されておって!」

「で、あるが?」

 

 それがなんだとばかりにエグゼはグレゴリアを睨みつける。

 その視線の圧に思わず立ち上がりかけた体をソファへと沈める。

 

 不遜な態度でエクゼはそれきり仏頂面に戻る。

 以降、頑なに口を閉ざしたままであるため、仕方なくグレゴリアはトランプマンに話を促した。

 

「……続けてくれ」

 

 トランプマンは先のグレゴリアの発言には特に気分を害した様子も無さそうで、笑顔のまま口を開いた。

 

「グレゴリア議長は近々王国と皇国で再び戦争が起きることをご存知で?」

「無論だ。第二次騎鋼戦争……この結果次第ではこちらも相応に戦力を揃えねばなくなる」

 

 王国とは同盟関係であるが、それ故に皇国が勝利した時点でパワーバランスの崩れた状態で皇国と向き合わなければなくなる。

 すぐに敵対関係になるわけではないだろうが、皇国の出方次第では〈アムニール〉の起動すらも視野に入れなくてはならない。

 

 だが、グレゴリアの返答の何が面白かったのか、トランプマンは喉の奥で笑う。

 

「失礼。いえ、議長は何か勘違いをなさっておられるご様子でしたので」

「勘違いだと?」

「ええ。まさか現戦力を過剰にみておられるとは。くくっ……道化にも勝る知恵をお持ちのようだ」

 

 馬鹿にされたと頭に血が上るよりも早くトランプマンの肉体が後方へと吹き飛んだ。

 彼の居た場所にあるのは一つの拳。

 座ったままの姿勢から伸ばされたエグゼが裏拳をトランプマンに叩きこんだのだと分かったのは、彼がそう発現したからであった。

 

「次は首を斬る。こちらから出向いたのだ。客人はこちらであり主はあちらだ。招かれざる者であることを自覚しろ」

「……申し訳、ありません」

 

 よろよろと立ち上がりながらトランプマンは謝罪する。

 そうして完全に立ち上がった時には彼の肉体にも、吹き飛ばされた先の壁にも、傷一つ残っていなかった。

 

「議長。我が国の戦力と、私が申したのは〈マスター〉の戦力です。王国、皇国どちらも〈マスター〉による戦争を行っているでしょう。それは犠牲なき戦いを双方望んだため。そして、もはや人ならざる力を持つ彼らの戦いについていけるティアンが一握りも残されていないためです」」

「……」

 

 それは、グレゴリアも重々承知していたことだ。

 〈マスター〉の力は強大だ。

 個々の能力もさることながら、不死性が戦争において脅威過ぎる。

 長引く程に、戦いに再度復活した〈マスター〉が集まってきては、ティアンの被害ばかり拡大する。

 故にこそ、王国も皇国もこのような形で戦争を取り仕切っていることは理解している。

 

「さて、王国と皇国。この二国に所属する〈マスター〉は比較的纏まりがある。戦争に参加する〈マスター〉も多いと聞いています」

「……ああ、そうだな」

 

 果たして自国が戦争となった時、どれほどの〈マスター〉が参加してくれるか。

 ……なるほど。

 これは確かに、戦力を過剰とみていたようだ。

 

「足りない、と言うのだな」

 

 言うなれば国家所属。

 ランカーと呼ばれるような〈マスター〉がレジェンダリアを次々と出奔していることも原因の一つであろう。

 〈マスター〉同士でぶつかれば、間違いなくレジェンダリアは負ける。

 

「ええ。だからこそ、今ご覧になられたこの事件」

 

 トランプマンは紙面の写真を指さす。

 それは解決に導いた〈マスター〉や、目撃者の顔が貼られている。

 

「どうでしょう? フリーの〈マスター〉を取り入れては」

 

 これらの大事件を解決できるような力持つ者を国家所属にしてしまおうという話だ。

 確かに、それならば手っ取り早く戦力を補強できるだろう。

 

「だが、どのような手段でだ」

 

 戦争が起こるかもしれないから所属してくださいなどとは口が裂けても言えない。

 そんなの、国力が低いことを自ら晒しているようなもの。

 

 何かしらの口実が必要となる。

 

「それこそ王国がとった手段です」

「はて?」

「王国は第一次の際に〈マスター〉の不足で敗北に追い込まれました。なので今回は封印珠という餌を用いて戦力をかき集めたと聞きます」

 

 ああ、そうかとグレゴリアの脳内にどこからか情報が湧き出る。

 封印珠を賭けたトーナメント。

 参加者は戦争に参加するための【契約書】にサインが必要。

 そうして準〈超級〉や〈超級〉が集まり戦争の形を成した。

 

「思い出して頂けましたか?」

 

 王国の情勢を思い出したと同時にトランプマンが尋ねる・

 

「ああ。そうだった、そうだった。王国はトーナメントを開いたのであった。ならばこちらも同様に行うのか? 必要時に国家に力を貸すような【契約書】を作ることは確かに出来る。だが、餌はどうするのだ」

 

 いつのまにかトランプマンに尋ねるのが正しいという認識となっていた。

 彼が言うのならば間違いないという確信を持っていた。

 

「景品としてはこちらを用意する準備ができています」

 

 そういって取り出された紙に書かれた品目は、グレゴリアをしても唸らせるものばかりであった。

 というか、普通に世に出たら危険なものまである。

 どこからこれらを入手したのか、尋ねるだけの正気は失われていた。

 

 代わりに、

 

「ならばあとはトーナメントの日時だけか」

 

 既に議会で議題に上がることすらも通り越した思考へと至っている。

 

「ああ、トーナメントは行いませんよ」

「なに?」

「同じではつまら……いえ、趣向が……ではなく、実力を測りかねないところも出てくるでしょうし、別の形で行おうかと思います」

「別の形と。俗に……異邦人共ががよく口にするイベントいうやつか」

 

 トーナメントでないならば別にイベントに限ることではないのだが、この時グレゴリアの脳内にはイベントという文字が浮かび上がる。

 そして、イベントの内容は――

 

「クラン対抗の陣取り合戦でどうだろうか」

「――素晴らしい。まさに私も提案しようかと考えていたところにございます」

 

 仰々しく一礼するトランプマンの姿にグレゴリアは気分を良くする。

 

「こちらにイベント内容を詰めたものが記してあります。相違なければ可決のサインを」

「……ふむ。良いだろう」

 

 一瞥し、特に不満も無かったためグレゴリアは印を押す。

 

「既に他12名の議長のサインは頂いております。これからイベントの準備に取り掛かります故、整いましたらまたご連絡を」

「ああ。待っているよ」

 

 いつから、トランプマンに対する嫌悪感は消えていた。

 どころか、途中から一切口を挟まないエグゼに対しても同様に、彼らに対して可能な限り支援をしたいという気持ちに溢れていた。

 

「さて最後に」

 

 トランプマンの顔がぼやける。

 若い妖精種の顔から、見たことのない顔へと。

 

「どうせ記憶に残らないでしょうし、独り言とお礼を」

 

 それはまるで特徴の無い顔であった。

 頬にハートマークのテクスチャーを張り付けていることだけが唯一の特徴といっていい。

 

「私はハートワン。最弱のハート。ちょうどあなた方が13人いて助かりました。こうして、最も力の弱い私でも忍び込む機会を得たのですから」

 

 自らの顔を触り、トランプマンは苦笑する。

 それは、妖精種の顔で無くなったことを今気づいたような表情であった。

 

「ああ、しまった。そういえば身分を明かしたらスペードの偽装が剥がれるんでしたね。帰りはどうしましょうか」

「……死に、戻ればよかろう」

「そんな乱暴な」

 

 グレゴリアには彼らの言葉の意味も、目の前の光景の正体も一切分からなかった。

 ただ頭がぼんやりとした状態で会話を聞き流していた。

 

「では――首をすげ替えよう。部屋の外に幾人かいるだろう」

「なるほど。ご随意に」

 

 意識がはっきりと戻った時。

 机を挟んだ向こう側にトランプマンもエグゼもいなかった。

 そして数日後、議会に務める妖精種が1人行方不明となった。

 




トランプマンとかいうそのままな奴
ハート、ダイヤ、スペード、クローバーでそれぞれ13人ずついます
ハートが精神操作系でスペードが偽装(変装)ですね
数字が多い程、能力も強くなります。ハートワンだとエンブリオでいう第一形態くらいの精神干渉ができます
雑務担当

エグゼ君は武装担当にしてイベント開催(強引にねじ込み)担当
こちらも名前で正体バレバレ

さっき思いついてさっき設定考えた程度なんでまだ場を引っ掻き回す程度の役割
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