<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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クラン戦なのでクランを出していきますね
あとイベントの説明も


1 魔女

■クラン〈御邪魔女連合〉

 

 レジェンダリアの一画。

 森の一部を改造され作られたそのクランの本拠地は異常な程に隠されていた。

 一見にして分からないどころか目を凝らしても分からない。

 幾重にも偽装系、幻惑系スキルを纏い、更には必殺スキルによって空間を圧縮されているため、そこにあると知っていても尚、出入り口など見当たらない。

 

「……どうやら、機は熟したようだ」

 

 そんな拠点の中は、小規模クランの割には広い。

 現在はクランメンバー総員が一つのテーブルに着いているが、普段は各々で実験や研究をするため部屋に籠っている。

 十数名余りで構成される〈御邪魔女連合〉。

 その名が示す通り、メンバーの条件は魔法職に就いた女性〈マスター〉であること。

 

「皆の衆。此れより我ら魔女連合の明日を賭けた戦いが始まる。心して傾聴せよ」

 

 魔女らしいトンガリ帽を被った軍服の少女は佇まいを正すと、全員を見渡す。

 室内によく通る低い声は、それだけ彼女の生真面目さを映していた。

 

「国家より与えられし試練は連合同士の戦争となる。法則は幾つかあるが、特筆すべきは三つ」

 

 参加資格を持つ全ての〈マスター〉へと送られたイベント案内のメールはクランメンバー全員読み込んでいるはずだ。

 ならばあとはどれだけ理解しているか。

 それを確かめるべく、軍服の少女は一つずつ、挙げていく。

 

「一つは陣取り合戦であるということ。だが、これは他の法則を読めば単純に陣を集めるだけに非ずと理解できる」

 

 他のルールを見て、軍服の少女は気づいたことがあった。

 恐らくは他のメンバーだけでなく、有力なクランであればすぐに分かるはず。

 

「――結局は殺した数が多い方が有利である」

 

 陣取り合戦。

 つまりは敵陣地の確保をしなければならない。

 だが、そこに追随するポイント制度があり、そのポイントを集めるには他の〈マスター〉を殺さなければならない。

 

「恐らくは連合同士が入り乱れる混戦となろう。陣を守る組と敵手を殺す組に別れ、双方役割を全うすることで勝利へと導かれる」

「はっ! だったらアタシの出番ってことだな。アタシの魔女の一撃で全員ぶち殺してやんよ」

 

 血の気の多い魔女がいた。

 ギラギラと光る眼。

 勝気な笑みを浮かべた少女は、動きやすくなるようローブを短く切り込み改造している。

 

「魔女の一撃……ああ、そうだな。貴殿の技であれば何人であろうと逆らうことはできまい」

 

 軍服の少女は割り込まれたことを怒るでもなく、その少女の言葉を肯定する。

 

「トールマウス。貴殿に切り込み隊長を任せたい」

「ああ。引き受けた」

 

 むしろその意思を、闘争心こそが必要と感じ、役割を命じる。

 トールマウスと呼ばれた少女もその言葉を受け、満足そうに頷いた。

 これで士気も上がるだろう、そう軍服の少女は今一度皆の表情を見る。

 

「我こそはと思う者はトールマウスに続け。嫉妬も、復讐も、大いに結構。魔女の大義も名分も果たしてこそ、我らは大魔女様の下にあるのだから」

 

 その言葉に魔女たちは皆、手を挙げ始める。

 自分も、私も、とトールマウスと共に戦いに臨もうとしている。

 

 同時に、大魔女、と少女が名を叫んだ時、テーブルの奥に座る女性がピクリと動く。

 だが、すぐに視線をテーブルへと落とした。

 

「さて。一つ目は合戦の法則であったが、二つ目もまた関連したものとなる。即ち、陣のことだ」

 

 参加登録をした後にクランへと送られてきたのは参加証と、クランに一つ与えられるという球体。

 

「この球体を設置した場所が連合の陣となるらしい。設置後1時間は動かせぬということだ。これがどういう意味を持つか分かるか?」

「1時間経ったら動かしてもいいってことでしょ~?」

 

 魔女の中で唯一、机に突っ伏していた少女が顔をあげた。

 瓶底のような分厚いレンズの奥にある眼がぎょろりと動く。

 

「ああ、そうだ。移動に関しての制限は書いていない。開始してみないことには分からぬが、陣移動に関しては可能とみていいだろう」

「必然的に私が陣地の守り手になることだし、そこは私の裁量ってことでいいよね~?」

 

 このクランの本拠地の隠匿に関わっているのはこの眼鏡の少女だ。

 彼女なくしては陣取り合戦も成り立たないだろう。

 名をエイミー。

 クラン設立時から在籍している古参メンバーだ。

 

「無論である。貴殿こそが守り手の大将と言えよう」

「やり~。早速作戦を練って詰めておかないとな~」

 

 眠そうな表情の中、目玉だけがやけに動いている。

 だが、誰もそれを不気味とは思わない。

 魔女はその程度を気にしない。

 

「最後の一つ。報酬について」

 

 そして最も大事なこと。

 何故、彼女達がイベントに参加することとなったのか。

 

「知っての通り。アレが報酬の一つとして挙がっている」

 

 イベント報酬は幾つか用意されており、上位のクランから順に欲しいものを選んでいくシステムとなっている。

 故に、報酬によっては喉から手が出るほど欲しくとも他のクランにとっては無価値のため低い順位でも受け取れる可能性がある。

 だがまあ、確実に受け取るためには優勝が一番だろう。

 

「アレを求めるのは我らくらいだろう。故に勝ち残らずとも、参加するだけで手に入る可能性とてある。だが、貴殿らには問いたい」

 

 トールマウスによって士気を高められ、エイミーによって更に盤石となった。

 良い目をしている、と軍服の少女は内心皆を褒める。

 

「果たしてアレはおこぼれで貰って嬉しいか? 否、違うだろう! 我らはアレを勝ち取る。そして大魔女様に献上する。それこそが本懐! それこそが大魔女様に報いる唯一の手段だ!」

 

 その演説に誰もが手を叩く。

 軍服の少女の熱に、そして誰もが感じていたことを改めて認識させられたことで、思わず叩いていた。

 

「この戦は無名の者ばかりが集う。そういった仕掛けになっている。我らとてそうだ。これまでエイミーの魔法で人里離れた場所で活動を行っていた。だからこそ! この戦で大魔女様の名は知れ渡る。大魔女様の力が露見されてしまう。その時に必要となるのが我らが魔女の力」

「えっと、あのぉ」

 

 と、奥に座る女性が手を挙げた。

 20代から30歳へと差し掛かる程の年齢の女性。

 右目下の泣きボクロを掻きながらてへへと軍服の少女へと笑いかける

 オドオドとした態度は自信の無さの表れか、視線も泳いでいる。

 

「なんでしょうか、大魔女様」

 

 大魔女、と軍服の少女は彼女を呼ぶ。

 そう、彼女こそがこの〈御邪魔女連合〉のオーナー。

 “大魔女”デミータリィである。

 

 軍服の少女は敬意をもってデミータリィを見る。

 恩師よりも、育ての両親よりも、敬意を注ぐ軍服の少女から視線を遮るようにデミータリィは顔の前で手をかざす。

 

「うわわ。あんまりこっち見ないでしょぉ。恥ずかしいし、顔が可愛すぎて萌え死ぬ」

「燃えて死ぬですと!? それは魔女にとっては一大事ではありませんか!」

「あ、そーいう意味じゃなくてね。えっと、というか魔女ラテちゃん」

 

 魔女ラテ、というのが軍服の少女の名だ。

 彼女にとってこのデンドロをプレイしていて最も後悔しているのが最初の名づけであった。

 

「話、難しすぎてよく分からなかったんだけど」

「……はい?」

 

 何を言ったか聞き取れず、魔女ラテは聞き返していた。

 

「あのね。イベントがあることは分かったの。でも、結局何をすればいいの?」

「……ですから、陣取り合戦をしつつ敵手を殺せば良いのです」

「えー、そんなの可愛くないでしょ。魔女っ娘ってもっとキャッキャうふふしながらさぁ、楽しく魔法使っていこうって」

「あの……大魔女様。世界観」

 

 世界観を大事にする。

 そんな真面目さが美点であり欠点の魔女ラテ。

 リアルの彼女はここまで堅苦しい話し方をしない。

 

「復讐って、別に誰も恨みつらみないでしょ。私達の目的って魔法を研究することだけだし、邪魔されたことだって……あんましないよね?」

 

 心当たりのある者は下を向いた。

 それを見て、デミータリィは溜息をつく。

 

「……ま、いいや。黙って聞いてた私が反対する理由も無いんだけどさ。せっかくのイベントだよ。肩肘張ってないでさ、もっと楽しまないと」

「……ですが、報酬が」

「まあ、いいって。欲しいには欲しいけどさ。最悪、他のクランとの交渉も視野に入れようよ。魔女ラテちゃん、そういうの得意でしょ?」

「……まあ」

 

 その真面目さ故クラン内外で信頼の高い魔女ラテ。

 問題児の多いクランが辛うじて存続できているのも偏に彼女のおかげである。

 

「殺さないと勝てないのがルールならそれは仕方ない。だけど常に臨戦態勢警戒心マックスってのはいただけないね。魔女なんてのは自分のことを考えないと。自分の欲望優先しないと」

 

 そうでなくてはクランを作った意味も無くなる。

 デミータリィは自分が集めたクランメンバーを見渡す。

 見事に可愛い少女ばかりで、デミータリィの趣味を伺える。

 

「……ああ、でもそうだな。『魔法☆少女』がもし出てきたら教えてよ。私が相手してあげるから。因縁とかは別にないんだけどさ、運命感じちゃうんだよね」

 

 魔女と魔法少女。

 逃れられない運命だ。

 

「……大魔女様がそう仰るなら」

 

 『魔法☆少女』との間に何があったのか知らない魔女ラテは緊張のあまり喉を鳴らす。

 それが伝わったのか、室内は一時静寂に包まれる。

 

「あ、もうやだ。私ったら」

 

 アッハッハとデミータリィはその空気を笑い飛ばした。

 最初にあったオドオドとした態度は失せており、今は終始魔女たちへとエールを送る。

 

「ま、頑張れー。一番頑張った子には何かご褒美でもあげようかな」

「「「ご褒美!? 大魔女様から!?」」」

 

 その言葉に魔女たちは立ち上がる。

 魔女ラテですら声に出しそうになるほど、デミータリィのご褒美という言葉は甘美なものであった。

 

「お、おう……そんなに欲しいの?」

 

 てきとうにスイーツでも買ってこようかなと思っていたデミータリィは皆の迫力に押される。

 これだと全員分買ってこないといけないかな、と財布の中身を確認する。

 

「……話が纏まった。全員、大魔女様のお言葉に従うよう心せよ。我らは己が欲望のままに、狩り、混ぜ、熱する。目指すは勝利ではない。己が欲望の解放だ。我らが楽しんだ時こそ、我らは自ずと勝利の頂を歩むだろう」

 

 相変わらず魔女ラテの言葉の意味を理解できないデミータリィはこれがジェネレーションギャップかぁと少し寂しさを覚える。

 

「そのために必要な戦力も呼んだ」

 

 え、聞いていないんだけど、とデミータリィは魔女ラテをみる。

 魔女ラテは見つめられたことで頬を赤くし、トンガリ帽で顔を隠した。

 

「彼女たちは元魔法少女だ。だが、既に幼子の夢は覚め、大人への階段を昇ろうとしている。願わくば、我ら魔女がその礎とならんことを」

 

 つまりは、新規加入メンバーを呼んでるから仲良くしてねということらしい。

 文句を言いたげな表情をするデミータリィに加入者のスクリーンショットが送られる。

 可愛い女の子だったためデミータリィは何も言わずにむしろ魔女ラテを褒めたい気分となった。

 というか、手が伸びてトンガリ帽の上から頭を撫でていた。

 

「!?!?」

 

 突然何が起きたか分からず目を丸くする魔女ラテ。

 それもまた可愛いと微笑むデミータリィ。

 にやにやと鑑賞するクランメンバー。

 

 弛緩した空気をどうにか律しようと魔女ラテは言葉を探すが見つからない。

 

「いや~。しかし魔女ラテちゃんは真面目だねぇ。私なんか昨日も上司に怒られちゃってさぁ。コピーする書類間違えちゃって、会議も台無しになる所だったよ」

「大魔女様! だから世界観!」

 

 最後はだいたいこうして会議は締められる。

 これがクラン〈御邪魔女連合〉の日常だ。

 

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