<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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久しぶりの方々にご登場いただきます
憶えていた方はブラボー

マジで暗躍させ過ぎた


2 剪定

■クラン〈三王〉

 

 空を、否、空との狭間を見上げる。

 枝葉が伸びる様を見て、四季を感じる。

 新緑の季節には遠く、しかし極寒を過ぎた頃。

 蕾が芽吹き始め、風が枝を揺らし撓む。

 だが、その全てが花開くことは無いだろう。

 時の経過と共に半分以上の蕾は枝と共に『選定』されず、『剪定』される。

 仕方の無いことだ。

 その全てに栄養を行き渡らせるには過大な量を根から吸い上げなければならないし、それでは幹への負担が大きくなる。

 そして、そのような成長をすれば、その先に待つのは歪な姿。

 半端に花開くもの、花弁が害虫や疫病に侵されるもの、小さな風で落ちてしまうもの。

 十全な姿で花開く蕾など一握り。

 無意味な栄養が消えていくことになる。

 

 だからこそ、選び取る。

 無慈悲に生殺を選択する。

 生きても良い蕾だけを生かす。

 死ぬ運命でなかった蕾であっても殺す。

 それはまさしく王の所業。

 だからこそ彼は、王であるのだ。

 

「こんなところにいたのですか」

 

 背後から声を掛けられる。

 振り返らず、枝を見上げたまま、彼は答えた。

 

「今のうちに、記録しておくのだ」

「……?」

「成長の過程だ。早いもの、遅いもの、変わらぬもの。同じ生物とて成長には個体差が生じる。ならば、早ければ良いものでもない。遅ければ悪いものでもない。だが、変わらぬものは駄目だ。成長が無くなれば、それは生物として死と同じ」

「ああ。アレのことですか」

 

 声を掛けた者も空を見上げ気づく。

 彼が何を指し、言っているのかを。

 

「僕には全く分からない世界ですねぇ。とりあえず育ててみて、良く育てばそれで良し、育ちが悪ければ仕方なしってことで捨ててしまいます」

「ふん。それはそれで良かろうよ。どちらにせよ、育てることには変わらんのだ」

 

 見上げていた顔を、地へと戻す。

 ずっと見上げていたところで首が痛くならないのは、この世界の数少ない良いところだ、と彼は思う。 

 もう、首も肩も、ろくに上げることなど出来やしない現実よりも遥かにマシだ。

 

「貴方ならば、どうするのです? ドライさん」

 

 ドライ、と呼ばれた男は他愛ないことだと笑う。

 答えなど端から決まっていることだ。

 自身は王。

 選び取る王。

 

「剪定するのみ」

 

 再び枝を見上げた。

 幾重にも伸び、これから葉が揃えば陽の光を目一杯浴びようとするするだろう。

 ドライの視界の中で幾つもの四角形が浮き出る。

 それらは直接的に何をするわけではない。

 ただ、ドライの視界を四角形で空間に仕分けているだけだ。

 テキストボックスのようなもの、と表現するのが近いだろうか。

 それらをドライは幾つか選択し、

 

「《限り在る命》」

 

 切り取った。

 同時に、ドライの視界だけではなく、ドライに声を掛けていた眼鏡の男の視界でも、枝の数本がまるで最初からなかったかのように消失していた。

 

「手の届かぬところまで剪定出来るのは便利なことだ」

「流石は【剪定王】。でもそれ、趣味とするには楽しいですか?」

 

 眼鏡の男――リーンはドライに尋ねる。

 ドライが木々の育成を趣味としているのは知っていることだ。

 だが、趣味というやつは便利ではなく不便性を楽しむもの。

 ゲーム感覚で木々を切っていて、それは趣味なのだろうか、とリーンは疑問に思う。

 

「癖でな。こちらの世界で脚立に乗って木々の世話をすると、現実でも同じことをしてしまいそうになる」

「あー、まあ。そうですね。それはしない方がいいでしょう」

 

 現実のドライの肉体年齢を考えれば、それは確かにとリーンは納得する。

 うっかり、というのは歳を重ねれば出やすいものだ。

 流石に、ドライが現実で高所から転落し半身不随になれば笑い話では済まなくなる。

 

「それに、だな。自身で手を掛けるならばやはり、こちらであろう?」

 

 と、ドライはラックに陳列される盆栽を嬉しそうにみせる。

 いずれも几帳面に世話されていることが分かるものばかりだ。

 盆栽に関して素人のリーンにも、それが一日二日で完成されたものではないと理解する。

 

「ドライさんが楽しそうでなによりですよ。ですが、こちらばかり目を向けられていると僕が困りますし、トワコさんが癇癪を起こしてしまいます」

「……む」

 

 失念していた、とドライは視線を落とす。

 随分と感情を見せるようになったな、とリーンは最近のドライの変化に気づく。

 

「それにしても僕達の中で貴方が最後とは。思いもよりませんでしたね。どうですか? 〈超級〉に至った感想は」

 

 クラン〈三王〉を統べる三人の王。

 彼ら全員のエンブリオはドライを最後にして第七形態へと達していた。

 

「こんなものか、というのが素直な感想だな。あまり、変わった気はせん」

 

 だろうな、とリーンは同意する。

 彼のエンブリオは完成していた。

 これ以上手を加える必要が無い程に。

 故に、三人の中で最も進化が遅くなったのだろう。

 

「だが、漸くという気分ではある。進化が止まれば待つは死だ。停滞こそ退化よりも恐ろしいと我は思う」

「ははは。だったら僕の奴隷たちは死んだも同然ですか」

「端から殺す為に生み出しておいて何を言う」

 

 だが、それもまた王の姿。

 民を選ぶのも、使い潰すのも、王でなければならない。

 

「……ふん。少し口が軽くなっていたな。昨夜の酒がこちらに影響を及ぼしたか。で、何用だ」

 

 と、口数が多くなっていたことに気づいたドライはリーンへ尋ねる。

 

「俺の様子を見に来たわけでも無いだろう。まだ動くなと貴様が言っていたから俺はここにいたのだ。その前言を撤回するだけの、何かがあったのだろうな」

「ええ。まず一つ。カズアキさんがアレを見つけてくれました」

「……ほう」

 

 〈三王〉はとある遺品を蒐集していた。

 それは強大な兵器であり、いずれはクランの主力ともなろうもの。

 今はまだ、ソレの存在に気づく者は少ない。

 だから、価値が低いうちに集めてしまおうという方針である。

 

「彼が合流するまでは確かなことは言えませんが。どうやら死んでしまったみたいで、今はセーブポイントである天地にいるようです」

「奴が殺されたか。不死身と謳っているわりには脆いな」

「まあゾンビですから脆いでしょうね。僕とは違います」

「貴様は殺しても死なぬ男だ。で、二つ目は?」

 

 どちらにせよカズアキが保持出来たのであれば、それで問題はない。

 よほどのことが無い限りカズアキが再度死ぬことも無い。

 だが、移動自体には難がある故、まだ合流は遠いだろう。

 

「近々、レジェンダリアでイベントが行われるようです」

「イベントか。興味はないな」

「でしょうね」

 

 ドライの言葉を予測していたのか、リーンは苦笑する。

 あまり世間に興味が無い男だ。

 良くも悪くも、自身の世界で完結している。

 だからこそ、【剪定王】であるとも言えるのだ。

 

「ですが、景品には興味があるでしょう? これを見てください」

 

 リーンが差し出す紙にはイベントの詳細が書かれている。

 ドライはそれを流し読みし、やはり興味が沸かないと鼻を鳴らした。

 だが、その視線が景品の欄に辿り着いた時、彼の眼は丸く見開いた。

 

「馬鹿なのか……あの国の連中は」

 

 ドライの視線の先にあるのは全身鎧。

 名を【頑強頑丈 モーナッド】。

 その名の通り、頑丈性が売りの鎧らしい。

 

「それは同感ですが、それは僕達にとって悪いことではないでしょう? 他国の王が愚王に越したことはない」

 

 価値が分からないから容易く手放す。

 そして価値を知る者に行き渡る。

 そうやって幾つもの国が滅んできた。

 

「だが、俺達が出張ることも出来んだろう。なんだその参加条件は。『レジェンダリアの要請時に力を貸す』などという具体性の無い契約書にサインだと? はっ! 馬鹿げている」

「ええ。ええ。ドライさんならそう仰ると思いましたよ」

 

 リーンはうんうんと頷く。

 彼の激怒は最もだ。

 自身らがこれからやろうということを思えば、その要請されるタイミングがレジェンダリアと敵対している時なのかもしれないのだから。

 敵対中に寝返る可能性があるかもしれない契約書にサインなど出来ない。

 

「だから、僕達のクランの新人を何人か向かわせます。新人研修も終わりましたし、準〈超級〉である彼らの実力を見定めるには相応しい機会でしょう」

 

 〈三王〉は紛れもなく犯罪者クランであり、その大半が指名手配犯で構成されている。

 だからこそ、こういった表舞台に立つことは必然と難しくなる。

 

「“悪魔憑き”と“一人遊び”……それに〈超級〉ではありますが、彼もメンバーに入れておきましょう」

「三人か。一クラン20人までと書かれているが、少ない分には構わんのか?」

「ええ。烏合の衆が幾ら居たところで変わりありませんよ。それに、彼らが連携出来るわけもないでしょう? 好き勝手動いていれば、自然とランキング上位に入りますよ」

 

 何よりも、〈超級〉の彼はドライ、リーン、トワコの三人をしても倒すには至難となる強さだ。

 同じ〈超級〉であるが故にその強さの方向性は全く別物であるが、こと純粋な暴力であるならば、クランの中でも彼が上位に入るであろう。

 

「ならば、良かろう。貴様が良いと思うならば、我に異論は無い」

「ではオーナーの許可も得たところで。申し込みをしておきますね」

 

 ふとリーンは先ほどドライが剪定した木を見上げる。

 先程と変わらない一本の木があるだけだ。

 だが……リーンの心をざわつかせるものがある。

 リーンとトワコは人を人として見た上で、人として扱わない。

 リーンは奴隷として使い潰すし、トワコは愛して食べてしまう。

 しかし、ドライは違う。

 彼は人を人として見ていない。

 彼にとっては人も木々も同じ。

 だからこそ、きっと、彼は必要が無くなれば〈三王〉もすぐに剪定してしまうのだろう。

 もっと大事な何かを選び取るために。




【剪定王】 庭師系統派生超級職
まさかの庭師さん。現実は80歳くらいの堅物おじいちゃんです。腰とか肩が痛いからデンドロで趣味の盆栽を楽しんでます。

《限り在る命》は本文にあったようにテキストボックスのように対象を好きに選んで切り取りが出来る【剪定王】の奥義です。ただし対象は植物のみ。
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