<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する 作:そらからり
■クラン〈パルプンテ〉
「一応尋ねておきますけど……アレは知り合いとかではなくて?」
「ううん。違うよ。全然知らない人」
翼持つ少女ラブアンドイーズの敵襲から15分後。
陣地として良さそうな洞窟を見つけた彼らは早速フラッグを地面に突き立て、周囲を陣地として確保していた。
これでステータスバフの恩恵を受けられる。
あまり固まっていてはここにフラッグがあることを露呈してしまうことになるが、それでも先の来襲の件について話し合わなければならなかった。
「翼があって飛んでいるということは、貴女のモーショ・ボーのような怪鳥系をモチーフとしたエンブリオ、あるいは……【翼神】のようなジョブがあるということが考えられますわね」
「だけど雰囲気はクャントルスカさんと似てたっスね。言動とかも。好きとかなんとか」
「そう。そこですわ」
プシュケーはイテカの言葉に頷く。
どことなく、類似点が多いラブアンドイーズとクャントルスカ。
同じ怪鳥系のエンブリオとはいうがそもそも一緒なのではという考えが出てくる。
「だがよ、俺は弾丸を盗まれちまったぜ。それに、俺だけじゃねえ。地面をよく見たらよ、こんなのもあったんだ」
バーバヤードの言葉にアシスタが取り出したのはポーションやアクセサリーなどのアイテム。
「どれが誰のかまでは分からねえけどよ、全部俺達のだろう?」
「ああ。この回復薬は間違いない……俺が作ったやつだ」
「これ、私のッスね」
いつの間に、と心当たりのある者達がアイテムボックスや装備欄を確認し、やはり無くなっていると報告していく。
「能力はアイテムを盗むってか? クャントルスカの嬢ちゃんとはまた違う能力だが……モーショ・ボーってのはそんな逸話もあるのか?」
「……脳を盗むんでいくと拡大解釈すればあるいは」
いや、それにしてはやはり違和感は拭えない。
どこかクャントルスカとは決定的に違う、とクリアントの勘は告げていた。
「あの子……欲しくなるって言ってたね。好きになったから、欲しいのかな」
「また、どこかで出会うかもしれない。それに、制空権があるのはそのラブアンドイーズだけじゃないだろう。ひとまず頭上も注意しておこう」
そう、話を終わらせる他無かった。
何故ならば、その後すぐに彼らの耳には別の声が届いたのだから。
『はいはーい。皆様、傾聴願います』
直接脳内に届くアナウンスではなく、レジェンダリア全土に渡らせるような大きな音が鳴り渡る。
巨大な拡声器のようなものを使ったのだろうか。
同時に、遠方の空に巨大な映像が映し出された。
『えー、私は〈洛陽創世会〉の宣教師をしておりますアッカウントと申します。ぜひ、アッカちゃんと覚えてくださいね』
そこにはマイクを持つ女性が映っており、映像を見る者達へ手を振っていた。
「〈洛陽創世会〉……いわゆるカルトですわね。話半分程度に聞いておいた方がいいですわよ。どうせろくなことは言いませんもの」
プシュケーが呟く。
彼女的には彼らはあまり美しくはないようだ。
『皆様ご存知の通り、〈洛陽創世会〉は次なる世界への為に活動をしております。まだ詳しくは話せませんが……というか私も知らないところですが教祖様はこの〈ウェルカム〉での優勝を願っております』
アッカウントの背後にずらりと老若男女問わず信者と思わしき者達が並ぶ。
『あ、もしこのイベント中に教祖様の教えを授かりたい方がいましたらどうぞこちらまでお越しくださいね! 教祖様はいつ何時もウェルカム!だそうですので』
あくまで軽い口調だが、彼女の目は笑っていない。
心の底から教祖という存在に心酔しているのだろう。
『恥ずかしくてこちらまで来られないよという方もご安心を! “天使長”様や“磔刑”ちゃんがそろそろ皆様のところを回るそうなので、その時にお申し付けください』
アッカウントの背後に並ぶ信者達の中から2人が前に出る。
1人は若い男だ。
何かしらに熱を向ければ成功していただろう精悍な顔つきをしている。
傍らには数体の小さな天使のようなものが浮かんでいる。
それらを指し、操っているからこそ”天使長“なのだろうか。
もう一人は幼い少女であった。
妹妹やキシリー達と同年代にみえるから10代前半くらいだろう。
ぼさぼさの髪を括って二つのおさげを顔の左右で揺らしている。
だが、それ以上に特徴的なのは、彼女は機械仕掛けの車いすのようなものに乗っていた。
目には真っ黒なアイガードを、耳にも同色のイヤーマフを、口にも何かがあてられている。
要は、彼女はあらゆる箇所に拘束を受けているのだ。
これこそが“磔刑”である証なのだろうか。
「……なんだあれ」
ワン・フー・ウーがその惨状をみて拳を握る。
彼にしてみても同年代の人間があのように扱われていることに思うところがあるのだろう。
「虐待じゃないか……!」
「あれこそがエンブリオかもしれない……まだそうと決まったわけじゃねえぞ」
窘めた声が届いたのかは分からない。
だが、強く握られた拳が緩んだ気がした。
『ではお二方にご挨拶してもらいましょう。“天使長”様からどうぞ!』
『こんにちは。アークヴェルトと申します。教祖様よりも先に話すのは、前座という意味では緊張しませんがそれでも無駄に長く時間を頂くわけにもいきません。なのでこれだけ。私の視界に入って即座に伏せなかった者は敵対行為とみなし殺します』
柔和な笑顔とは裏腹な物騒な言葉であった。
アークヴェルトと名乗る男はそれだけ言って下がる。
代わりに拘束された少女へとアッカウントはマイクを向ける。
『“磔刑”ちゃん! 何か一言ありますか!』
『……』
『おーい』
『……今、不幸を嘆く人。自分を可哀そうと思う人。本当に不幸を自慢したいならこちらまでどうぞ』
『……はい! というわけで二人のご挨拶でした! いや、場が温まってきましたね』
ちっとも温まっていないようだが、アッカウントは構わずに進めていく。
『では満を持して! 教祖様にお話を頂きましょう!』
最後に、マイクを渡されたのは髭面の中年男性。
『皆様。我が教団の者が怖いことを言ってしまい申し訳ありません』
前2人の言葉に比べ、髭の男の言葉には棘が無かった。
どころか、聞いていて落ち着くような静かな声音である。
『戦いとは、志が別な者が行うものではありません。敵対している者同士が行うもの。私達は決して戦いに来たわけではない。まずはその前提を忘れないでください』
馬鹿げたことを真面目に言っている。
それは、クリアントだけでなくクランメンバー全員が思ったようで、表情に困惑が浮かんでいた。
だが、それを聞く髭の男の後ろに控えた信者達はうっとりとした顔をしていた。
『今はただ、信じて欲しい。それだけです。私はこのイベントで優勝したい。しかしそこが目的なのではなく、通過点であり、過程の中で皆様とお話をしたいと思っています』
「……話の具体性が全くないな」
「カルトなんてそんなものですわ。細かなところなど矛盾だらけ。具体性を突けばすぐに破綻するのですから、ああして誤魔化して話すことしかできませんの」
髭の男はそれだけ言って、アッカウントにマイクを返す。
信者たち以外には全く響かない男の言葉も、信者達にはしっかりと届いたようで先ほど以上に言葉に意思が乗っていた。
『この映像は24時間、いえ36時間ぶっ続けでお送りいたします! 引き続き、お楽しみください!』
映像の中ではアッカウントが下がると、信者の一人が延々と自身の過去と教祖に出会い世界の視方がどう変わったかを語り始める。
楽しめない。
「……一つだけ言えるのは、アイツらは自分の陣地を明かしたってことだな」
「そうなるね。映像は下から投射されている。恐らくは麓に彼らがいるだろうし、あの人数ならば陣地にしていることは確実だ」
ならば、他クランの精鋭たちは真っ先にあそこを目指すだろう。
このイベントにおいて敵〈マスター〉を倒すのもそうだが、フラッグを破壊して他クランから200ポイントを減らすのも戦略の一つ。
「さあ。始まるぞ……まずはどう仕掛けるか」
さあ後は戦闘だらけにしても良いだろう
知らない奴VS知らない奴が続くぞ