<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する 作:そらからり
■レジェンダリア南部
「あったぞ! ここだ!」
「見るからに怪しいな……」
幾らイベントであり、複数のクランが参加しているイベントとはいえ、レジェンダリアをそのまま再現しようものなら二日間で他のクランの拠点を探すなど労力がかかり過ぎてしまう。
そのため、不必要な場所は縮小されている。
とりわけ平原や荒野、森林といった場所は統合や切り取られる形で再現されている。
故に、少し場所を移動すれば他のクランの拠点となるような痕跡は見つかるわけで……
「ここは……例のブラックボックスがあったところか!」
「よくもこんなところを陣地にしたものだな」
かつてレジェンダリアの一画に神が降り立っていた場所は、今は別のものが据え置かれていた。
一見すると、それは玩具の箱であった。
箱自体が玩具というわけではなく、何か玩具が仕舞ってあるような箱。
質感は紙であることは現実世界と大差ない。
何か文字が書いてあるのだが、読むことはできない。
何故ならばその箱は……とてつもなく巨大であったから。
「街一つ分くらいはありそうなデケえ箱だな」
「……『――of Life』? 駄目だ。全部は読めない」
クランの攻撃部隊として組まれた彼ら5人のパーティーはその謎の物体に足止めを喰らっていた。
まず間違いなくこの場には何かしらがある。
次第に他のクランの者達も集まってきており、遠方より箱か、こちらかどちらを攻撃対象にするか悩んでいる様子だ。
「おい……レーダーの反応はこの中にあるんだな?」
「間違いない」
運がいいというべきか。
フラッグは索敵系のスキルの範疇にあるようで、レーダー系のエンブリオや索敵系スキル、アイテムを使えば探すことも出来る。
とはいえ多少はスキルレベルが高かったり、効果の高いアイテムで無ければ探せないのだが、彼らはその高いレベルを備えた〈マスター〉達である。
「これだけの規模だ。間違いなくエンブリオが絡んでいる。TYPEはフォートレス……か?」
「だったら耐久力は折り紙付きかもしれんな。壊すには時間がかかりそうだ」
まだ軽く触れただけであるが、質感が紙素材であること。
そして、質感以上に頑丈であることが分かっている。
これを破壊するには時間がかかるだろう。
「……どうする?」
「俺、考えたんだけどよ」
5人の中の1人は自身のアイディアを口にする。
「フラッグって倒した奴には別に得点入らないじゃん?」
「おお……確かにな」
「だけど200ってどでかい点だ。〈マスター〉1人倒すよりもよほど大きい」
「一理ある」
「ということは、だ。ここに集まってきた奴らと争うよりもこの中のフラッグを破壊した方が後半は有利に進むと思わねえか?」
仲間の言葉に他4人は思わず唸らざるを得なかった。
確かに、その通りだと。
「良し。集まってきた奴らにも伝えよう。さっきの放送の奴も言ってたしな! 志が違えど敵じゃねえって」
「でも近づくの怖いから拡声器使おう。街一つくらいなら届く高性能のがあるぞ」
そうして彼らは集まってきた〈マスター〉に一斉にこの箱に攻撃し、内部に突入。
フラッグを破壊した後に再度戦おうという約定を結んだのであった。
「これで20人くらいは集まったな」
「十分だろう。……しかし、この箱何て書いてあるんだろうな」
「またか……だったら一周してくればいいんじゃねえか?」
「そら怖い。……『――me of Life』までは読めたんだけどな」
「うん? それって――」
箱に書かれていた文字を読めたところだけ地面になぞる。
それを見た仲間が思い当たる言葉を口にしようとした時、
『集まったかな。ではレッツパーリィ!』
はしゃいだ声が聞こえ、箱の周囲に集まっていた20人弱の〈マスター〉全てが突如として消えたのであった。
「……どこだここは」
まるでイベント開始にあった転送と似たような感覚に彼らは瞬きをする。
そして、同時にここが箱の内部ということに気づくまで時間はかからなかった。
「スタートって書いてあるな……」
「おい、誰だ俺の手にサイコロなんて握らせたのは!?」
彼らの視界には19人分のステータス画面が映し出されていた。
それはパーティーを組んだ仲間だけではない。
周囲の顔ぶれは、先程一時的に共闘を申し込んだ箱の周りに集まっていた〈マスター〉達のもの。
19人分のステータスというのは彼ら全員のなのだろう。
簡略化されたステータスにはHPと名前だけが映っていた。
「おい、つまりこれって……」
自分たちの足元にあるスタートという文字。
スタートから続く道と眼前に広がる幾つもの円。
手にはサイコロ。
そして、外箱にはこう、書かれてもいた。
「双六じゃねーか!」
『The Game of Life』、と。
『やあやあ! ようこそ私の盤上遊戯へ』
小さな埴輪のようなものが足元からせり出して来る。
「ッ!」
それを見た〈マスター〉の一人は思わず埴輪へと剣を振り下ろす。
だが、埴輪は壊れるが、直に新たな埴輪が別の場所から生まれてくる。
『無駄だよ。コレは説明書代わりに出てきただけだから。別に本体とは一切HP共有していないし。ていうかあなた、説明書読まないタイプ? それならそれでいいけど』
「おい! どういうことだ! 説明しろ!」
『だからするって言ったじゃん……はぁ、せっかちだなぁ。駒は駒らしく大人しくしててよ』
やれやれと埴輪は肩をすくめる。
その仕草に内心苛つくも、何をしたらこの状況が変わるのか分からない彼らは大人しく埴輪の言葉を待つしか無かった。
『見ての通り、この世界は私のエンブリオだよ。あ、フォートレスとか言ってたけど違うから。ラビリンスだから、安心してね』
その言葉を聞き、彼らの顔はより絶望に染まる。
単純に外壁が硬いだけのフォートレスと違い、ラビリンスは内部が迷宮。
つまりは入ってからが面倒だ。
『ルールは簡単! 君達はサイコロを振って先に進んでね。あ、順番とかは無いから、どんどん振って良いよ!』
「……進んでいくとどうなるんだ」
『私のところまで辿り着けまーす! 迷宮の奥にいるお姫様を無事救出してね。きゃはっ』
浮かれた声の埴輪に思わず剣を振りかざす剣士を周囲の人間が必死に止める。
「つまりはこのゲームを突破してボスであるてめえを殺せば解放されるってことだな」
『野蛮だなー。お姫様がボス展開なんて……まあありきたりか。あ、そうそう。君たちがやる気を出すために教えてあげるよ。ここではエンブリオもジョブも能力は使うことはできるよ。ちゃーんと、この中では君たちの特殊能力として適応されているよ』
「……ほんとだ。俺はサイコロの出目が2倍になるって能力だ」
「俺は火に強くなる……?」
各々のエンブリオはこのスゴロクの中では役立つ能力になっている、というわけだ。
それらは任意で使うことが出来るようで特にクールタイムは無さそうである。
『フラッグは私の隣にぶっ挿してあるからね。ここまで来られたら私共々フラッグをあげるよ』
「うるせぇ! てめえなんかいるか!」
『ちょっと! こんな美少女をいらないなんて!』
「美少女か!? だったら少しは考えてやるよ」
『残念。こっちから願い下げでーす』
こんな会話の中でも彼らは士気が上がっていた。
いや別の敵が美少女だからというわけではない。
敵のエンブリオが言葉どおりにラビリンスであるならばゴールはある。
そして、本体は弱い。
つまり辿り着けてしまえばいいだけだ。
「行くぞお前ら! これだけの人数だ! 誰かしらがゴールまで辿り着いて奴をぶっ叩く! それでいいな!」
「美少女かどうかもちゃんと報告するんだぞ!」
「「「「応!」」」」
かくしてスゴロクに挑む連合チームは各々サイコロを振るうのであった。
こいつ本当に知らない奴VS知らない奴を始めやがった……