<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する 作:そらからり
■スゴロク内部
「よし、まずは俺からだ! 俺はな、メスガキを分からせるために生まれてきたようなものなんだ」
「どうしようもないなお前」
先程埴輪へと斬りかかっていた剣士が意気揚々とサイコロを振る。
この迷宮の主は声からして若い女性であることは皆が悟っていた。
美少女であるかは別としても、合法的に若い女の子とお近づきに……あるいは暴力を振るう機会を得たことでやる気に満ち溢れた者ばかり。
ツッコミを入れた者が言ったように、どうしようもない連中である。
「俺の特殊能力は剣の威力アップだ! なんだ、敵が出てくるってことか? ガハハ!」
スゴロク、あるいは外箱に書かれていたようにThe Game of Life……つまりは人生ゲームであるならば、障害物があるのだろう。
それをうまく躱しながら最奥まで辿り着ければゴール、ということだ。
「六! 幸先良いぜ!」
ひょいひょいと剣士が道を進んでいく。
するとその過程にある円は全て男を避けていくように動く。
「ふうん? なるほどな。これを繰り返して進めってことか。なんだ、簡単じゃねー、か――」
『今日は快晴。だから足元から剣が降ります』
六マス目、つまりは辿り着くべき円に剣士が足を踏み入れた瞬間。
剣士の足元から幾本もの剣が飛び出し、串刺しにする。
「――っ」
巨大な剣山は剣士をズタズタに引き裂き、しばらくして消える。
そこに残ったのは全身穴だらけとなった剣士の姿であり、
「あ、アイツのHPが……!」
ふとステータス画面を見ていた〈マスター〉の一人が叫んだ。
そこには剣士の名前とHPがあり、HPがゼロとなっていた。
『あーあ。早速脱落者出ちゃったかぁ』
まだスタート画面で立ち止る彼らの横で埴輪が呆れたような声をだす。
『ねえ、早く君たちも続いてよ。私だって暇じゃないんだよ。君たちが終わらないと、次の人達を迎えられないじゃん』
「おい! なんで死んでるんだよ!」
『え……そこ今更? だって、これが私のエンブリオ。つまりは攻撃って知ってたよね? 楽しく一緒にお遊戯しましょうじゃないんだよ。攻撃対象だったら死ぬのだって当たり前……だよね?』
「……ッ! 畜生が!」
埴輪へとサイコロをぶん投げる。
サイコロは埴輪に当たるとしばらく回転し、やがて止まる。
出た目は……六。
『基本的に同じマスは同じイベントが発生する安心設計だから~』
呑気な声が埴輪から出るが、彼らとしては既に六の目は串刺しの刑であることに変わりない。
耐久性も高そうであった剣士が一発で落ちたのだから、恐らくは即死系のマスだろう。
それを出してしまった〈マスター〉に内心手を合わせる。
「行ってくるぜ」
だが、六を出してしまった男は躊躇いも無く歩く。
先程の剣士と同様に他の円は避けていき、男は真っすぐに六のマスへと辿り着いた。
そしてマスへと踏み入れた瞬間。
『今日は快晴。だから足元から剣が降ります』
「鋼鉄化!」
足元から剣が出現と同時に男は叫ぶと、その全身が金属へと変化する。
剣は男を貫こうとするが、鋼鉄の肉体を貫くことは出来ず、やがて消えていった。
「これが俺に与えられた能力、鋼鉄化か。エンブリオと類似しているってわけだか」
「あ、俺も鋼鉄化! ということは六を出せば……」
「良し。鋼鉄化は六だ! 他は……分からん! とにかく気合で他のマスも堪えろ!」
即死マスで生き延びた男に感化されたのか、他の〈マスター〉達もこぞってサイコロを振り始めた。
「惜しい! 五か……!」
先程自身も鋼鉄化の能力を有していると発言していた男が悔しそうに進んでいく。
とはいえ鋼鉄化の頑丈性は既に知れている。
ある程度のイベントには耐えてくれるだろうと勢いよく五のマスへと飛び込んだ。
『噴火の季節です。傘も溶かすでしょう』
「え――? ぎ、ゃぁぁぁぁぁぁぁっぁ」
瞬間、男の頭上からはマグマが降り注ぐ。
「鋼鉄化! 鋼鉄化!」
必死に鋼鉄化を叫ぶも、全身が鋼鉄となったところでそれ以上に高熱は簡単に鉄を溶かしていく。
やがて男は跡形もなく消え、足元には男が居たであろう焦げた痕跡だけが残されていた。
「ッッッ!?!?」
そして被害はそれだけではなかった。
五のマスの隣には六がある。
マグマが飛び跳ね、散った先には六のマス。
そこにいた男もまた、腕を焦がしていた。
鋼鉄化と、少し距離があったおかげでマグマの温度が下がっていたのだろう。
HPが半分程に減っていたが、死ぬことは無かった。
だが、
「こんなに早く二人が……」
「あっけねぇ……」
能力で耐えられる、と思っていただけに2人目の脱落は彼らの心に傷を残す。
更には隣マスくらいなら余波があるために、一度無事であったとしても安心はできない。
「これじゃあスゴロクじゃなくてデスゲームじゃねえか」
「でも……生き残るしかない」
それでも、と立ち上がる男達。
「俺、生きて辿り着いたら自称美少女ちゃんにデートの申し込みをするんだ」
下心満載で恐怖を取り払う。
「馬鹿野郎! 死亡フラグだぞ、それは!」
「良いんだ。だって、こうやって言葉にしておけば自称美少女ちゃんも手を緩めてくれたりなんか……しない?」
埴輪は何の反応もしなかった。
「あ、はい」
大人しくサイコロを振る。
出た目は一。
「むしろ嫌われてるじゃねーか」
仲間()の馬鹿にする声を背に、一が出た男は一歩踏み出す。
能力は既に死んだ剣士と同様の剣の威力アップ。剣山にも火にも何の役に立たない能力。
『穏やかな一日であった』
「……あれ?」
何も、起こらなかった。
「美少女ちゃん。解説を」
『うん? ああ、そういえば安全マスはまだだったね。えっとね、全部が死亡系だと流石に詰んじゃうでしょ。だから君たちの1~6マス先には予め安全マスがランダムに配置されているから。ちなみに人によって違うマス。まあ、運が良ければ何も無いんじゃないかな~』
そんな答えが返ってきた。
「つまりは安全マスか、自分の能力で耐えられるマスを引けってことか」
「完全に理解した」
既にサイコロを振ってはいたが足を止めていた彼らもようやく進み始める。
そして、地獄が始まった。
「が、ぼぼぼぼぼぼぼ」
「うわ、やめろ。来るなっ、こっちに来るなぁぁぁぁぁぁぁ」
「おい、俺じゃねえぞ。そのマスは、あっちの奴が出したんだっああああああああああああああ」
「あれー。俺の頭どこー。手は? 足は。アハハ。喋れるってことは口が……おへそに付いてたー!」
そうして19人の〈マスター〉は箱に囚われて1時間もしないうちに全員が死亡した。
「ふぅ。これで190ポイントか。まあまあかな?」
カチャカチャとゲームコントローラーを握り寝ころぶ少女は眠そうに目を擦る。
彼女こそがこのスゴロクもとい人生ゲームもといTYPE:エルダーラビリンスのエンブリオ、【前進未倒 ガイウス・ユリウス・カエサル】の〈マスター〉である。
「それにしても馬鹿だねぇ~。人生ゲームってことは人生をかけたゲームだよ?」
ゲームコントローラーの先にはテレビ画面が繋がれており、そこには先ほど死亡した19人の者達の名前が記載されていた。
「人生にも勝てないお前達がこの世界で私に勝てるわけないじゃん。何で負けたか明日までに考ておいてくださーい」
その顔は、確かに当人が言うように美少女であることに違いないが、どこか陰湿さが浮き出ていた。
造形自体に問題があるのではない。
彼女の奥底から出る感情が、そのような表情を作り出していたのだ。
「えーと、データは削除削除、と。これで新しいゲームが始められるぜ」
再び箱の周囲にはゲームの駒が集まってきている。
1人からでも参加は可能であるが、ある程度集まるまで彼女は待つ。
「あ、やべ。攻撃されてる。んじゃ、始めちまうか」
だが、3人のパーティーが近づいたところで即座に攻撃スキルが発動されたため慌てて彼女は必殺スキルを唱えた。
「《
彼女の名はメビウス杏里。
〈三王〉が送り出した〈マスター〉が一人、“一人遊び”のメビウス杏里である。
やった! 知らない奴が知らない奴倒したぞ!
《
ジョルノが無敵か!と言いたくなるような性能ですがちゃんと弱点は存在します。
それは、外からの攻撃にめちゃくちゃ弱いこと。
ある程度の耐久性はありますが、外部からの攻撃に対して特殊な防御機構は備えておらず、また、内部に取り込んだ人間が全員死ぬまでは新たに取り込むことは出来ません。
なんでここまで明かすかというと、多分次にこの子が出た時は死んでるからです。
つまりはボスでも何でもありません。
なのに2話使いました。楽しかったです。