<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する 作:そらからり
完全新規で書いて、ある程度まで育ったらこっちに輸入しようかなとか考えていたり。
マジンギアいいよねって感じで書いてたけど、纏めるの大変だ。
3話くらいまで書いたけど書き終わってから投稿するか順次にしていくか悩む。
■クラン〈パルプンテ〉
「フィリップさん。一つだけ良いかな」
「うん? どうしたかな」
フラッグを地面に刺したことで陣地も決まり、後はそれぞれの役割に従ってイベントを進めていく段階となった頃。
攻撃チームと遊撃チームの出発直前にワン・フー・ウーがフィリップに尋ねる。
「このイベントってさ。強い人も集まるんでしょ?」
既にフィリップのエンブリオである巨大潜水艦を見ているワン・フー・ウーは彼女に対しては年相応の態度をとる。
というか、実力を知った相手に対しては基本的には素直になるしかない。
そのため、クランの年上に対してはほとんど強気には出られないでいた。
彼の知る中で最も知識量が多いのはフィリップとパリドーネ。
頼りやすさでフィリップを選んだ彼は、
「俺……戦ってみたいな」
強者と戦う道を選ぶことを宣言した。
「ふむ。それは私に言うことかな?」
「姐姐に言ったら……多分見守ってくれるとは思う。だけど、本当に俺が困った時は……」
「助けられてしまう、か。好きな人には弱いところを見せたくないかな?」
「……うん」
妹妹が近くにいないことを確認すると顔を赤くしながら頷く。
「でも、何の情報も無いと不安だから。フィリップさんなら強い人を知っているかなって」
「なるほど」
無名のクランばかりのイベントであるが、確かに一握りの強者が集まっていることもフィリップは掴んでいる。
「ならば、君が避けなければならない人物から伝えていこう」
「避けた方がいい人?」
「ああ。強さも千差万別だけど、君の場合はギミック型に弱い。直接的な強さを競う戦いであればむしろ君の独壇場になるだろうけどね」
「ギミックってことは罠とか?」
「ああ。代表的なのは“1人遊び”と呼ばれる〈マスター〉だね。戦うのではなく遊ばれる。自分本位なゲームを仕掛けるエンブリオの使い手らしい。エンブリオそのものを無効化、あるいは複数で対処しなければまず正面からではまともに戦えない者の一人だ。巨大な箱が目印だから見かけたら近づかない方がいいよ」
ワン・フー・ウーはフィリップの言葉を心の中にメモしていく。
フィリップが言うのならば、今の自分は間違いなく勝てないのだろう。
「あとはそうだね……クラン単位でいえば〈御邪魔女連合〉もかな」
「アニメみたいな名前だね」
「魔女に関するエンブリオが多いと聞く。それにジョブも魔法職ばかりだ。正面からの戦闘であれば君に分があるけど、搦め手を使われる可能性が高い。変だなと感じたらすぐに身を引くことだ」
「う、うん」
魔女、ときけば魔法少女が連想される。
魔法少女、元魔法少女が多数在籍するこのクランが狙われる可能性もあるかもしれないとワン・フー・ウーは心して聞く。
「逆に、“多腕”や“悪魔憑き”、“S嬢”あたりは君と相性が良いと思う」
単純に腕の数が多い“多腕”。
技量に特化した個人戦闘型である“悪魔憑き”。
蹴ることに固執する“S嬢”。
いずれも直接的な戦闘を行う者ばかりであり、彼らはワン・フー・ウーでも戦闘になるだろうし、良い経験になるとフィリップは教えてくれる。
「分かった! 明日は遊撃チームに回れるかもしれないし、そうなったら探してみる」
「健闘を祈るよ。だけど、あくまで彼らは一角に過ぎない。無名の強者も多いだろうし、多数を相手にすれば君よりも実力が劣る者だって脅威に成り得る。決して気を抜かないように」
それは妹妹からも常に言われていることだ。
自身が弱いことを自覚し、戦闘では油断をしないと。
「それと……絶対に手を出してはいけない者もいる」
「……?」
フィリップが森を見つめる。
同時期にクャントルスカとプシュケーも感じ取る。
自分らと同格の存在がいることに。
「〈超級〉が紛れ込んでいるね……」
なんとなくの気配だ。
どこに絶対にいると分かったわけではない。
「〈超級〉……」
「もし出てきたら一人では戦わないように。私達に教えてほしい」
そこだけは譲れないとフィリップはワン・フー・ウーに約束させる。
「このクランの〈超級〉はまだ全体の中では素直な方だ。中にはとんでもなくひねくれた者だっている。もしもそういった手合いが潜んでいたら、戦闘どころの話ではないだろう」
「……分かったよ」
だけど、とワン・フー・ウーは考えてしまう。
もし戦う機会があったならば。
そして、万が一にも僅かにでも戦闘らしい戦闘が行えたら。
それは自分にとって良い成長の機会となるのではないか。
「……」
その覚悟を知ってか知らずか、フィリップはそれ以上何も言うことは無く、遊撃チームと共に旅立っていったのであった。
■クラン〈御邪魔女連合〉
「進軍開始だ。塞がる者全て薙ぎ倒せ! 平伏す者全て踏み潰せ!」
「「はい!!」」
幼いながらも低く出された声に応えるように、各々魔法スキルを放っていく。
「大魔女様の加護の下! 貴殿らは呪に満ちている!」
自身の背丈の2倍程の軍旗を掲げた少女――魔女ラテは高らかに叫ぶ。
彼女の鼓舞はこの場の何よりのバフである。
そして、魔女にとってのバフとは祝福ではなく呪い。
「《
魔女たちの全身が炎に炙られる。
同時に、彼女達が放っている魔法スキルもまた、昏い炎に包まれた。
幾つもの魔法が敵地クランへと降り注ぐ。
対する者達は懸命に防御スキルを発動するも、魔法スキルは全て防御をすり抜けていく。
これこそが魔女ラテのエンブリオにして必殺スキルであるジャンヌ・ダルクの能力。
仲間に炎による継続的ダメージを与える代償として魔法スキルに限り防御貫通を得るというもの。
とはいえ炎は秒間1000ものダメージを与えるため、HPに乏しい魔女たちにとっては死活問題。
そのため、炎をどうにかする手段が必要となる。
魔女の一人が継続ダメージを回復へと代える必殺スキルを使う。
これにより魔女たちは継続的な回復が可能となり、普通の魔法職よりも強気に前進できる。
「サブオーナー。制圧完了、ですっ」
「うむ。よくやった」
とあるクランの拠点であった場所が燃えていく。
フラッグも破壊出来たことを確認すると魔女ラテは満足げに頷いた。
「とはいえ……クランメンバーは逃がしてしまったようなので、あまりポイントは得られませんでした」
「無理もない。足が速い連中だったようだからな。だが! 私達が削っていけば自然と敵方のクラン順位は下がっていくだろう」
軍帽を被り直し、指揮する魔女ラテを見て、魔女たちは可愛いという感想を心の中で述べる。
誰が見ても頑張っている幼女は微笑ましい。
「それに……取り逃がした連中とて奴らが駆逐することだろう」
魔女ラテは逃げていった者達のいるであろう方角を睨む。
そちらには既に刺客が放たれている。
森の中でのバトルロワイヤルを経験した元魔法少女達が。
「チッ……こっちだ!」
魔女ラテ達によって拠点を破壊されたクランのメンバーが森の中を駆ける。
死角の多い場所は逃げるにはうってつけだが、全力で走るには障害物が多い。
そのため、速度を落としながら走らなければいけないわけだが、後方を確認しながらとなると思っている以上に魔女たちと距離を離すことが出来ない。
「奴等……フラッグを壊しやがった」
「オーナーは無事逃がせたのか?」
オーナーに頼りきりであるこのクランはそれ以外は烏合の衆と言っていい程に弱かった。
というよりも、弱いことをオーナーに求められていたために強くなる必要が無かったのだ。
「オーナーは……女王様は仕掛けに行くと」
「ああ……」
メンバーたちは遠い目をする。
自分達も一緒に行きたかったな、と。
「どうせ勝てないことは目に見えていたけど一泡くらい吹かせてやりたいな」
「……態勢を整えたら反撃といくか」
一度止まり、後方の様子を伺う。
人の気配は感じられない。
静けさの中に……獣の声がした。
「……なんだ?」
メェ、メェ、と鳴く声には覚えがあった。
同時に、家畜小屋独特の臭気が鼻を突く。
「羊?」
いつの間にか、羊の群れが彼らを取り囲んでいた。
否、取り囲んでしまう程に数多の羊が森の中にいたのだ。
「チッ。邪魔だ!」
道を塞ぐようにする羊の一匹を蹴るも、羊たちは意に介さない。
弾かれるも、一切の傷無く立ち上がる。
「……あ?」
ようやく、自分たちが良く知る羊ではないことに気づくが、既に遅かった。
羊を蹴った男の眉間に穴が空く。
男はそのまま立ち上がることなく、息絶えた。
「ヒット。一発で仕留めるとは運が良いね」
全身を羊毛で着飾った〈マスター〉が男達へとライフルの銃口を向けていた。
ライフルは煙を上げており、その理由は先ほどの一撃。
「な……何者だ!?」
「羊飼いさ。憐れむほどに、哀しむほどに、ただの羊飼いだよ」
ライフルが向けられる。
咄嗟に男たちは木の陰に隠れるも……弾丸は木々など関係なしに男達を撃ち抜いていく。
「な、何でだ……!?」
「まるで弾丸が曲がったみてぇに……」
訳も分からないまま、遠方より一方的に弾丸の餌食となった彼らはそのまま死亡する。
「毒とは恐ろしいものだ。呑み込んでしまえば、羊すら食わない」
「後れを取らなければほらこの通り。そして毒とは隠してこそ牙を剥くというもの」
羊飼いの後ろに控えた2人の元魔法少女。
そのうちの一人、芝居がかったように話す元魔法少女が答える。
「魔法少女を失ったが、【毒術師】で固めた我がジョブ構成。以前よりも毒性は強くなっている」
森の中にいた〈マスター〉が全員死亡したことを確認し、羊飼いは指を鳴らす。
すると、羊たちはあっという間に消え、森の中は再び静寂を取り戻す。
「さて、新たな巣へと舞い戻ろう。あるいは放牧を続けよう」
羊飼い――ムートン・ラムは羊のように歯を見せて笑う。