<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する 作:そらからり
■クラン〈楽永高校陸上部〉
走ることに命を懸けていた。
走ることに全力だった。
「最速!」
「「「最速!!!」」」
「最長!」
「「「最長!!!」」」
「最高!」
「「「最高!!!」」」
先頭の男の掛け声に合わさる号令。
彼らは一様に、同じ格好であった。
そして、目的さえも。
「このまま止まらずに突っ走るぞ!」
「「「はい!!!」」」
違うのは、先頭に走る男の年齢くらいだろうか。
後ろをついていく者らは十代半ばくらいなのに対し、先頭の男だけは20代を過ぎている。
「《ブースター》」
先頭の男の速度が一段階上がる。
「ついてこい!」
「「「はい!!!」」」
後続もそれに合わせ速度を上げていく。
そう、どこまでも。
「《ブースター》《ブースター》《ブースター》――」
そのスキルは飛脚系統の基本スキルであり、AGIを200上昇させるというもの。
下級職のスキルであり、消費SPは少ない代わりにクールタイムは10分に対して効果時間は30秒と短い。
まずもって戦闘中は一度くらいしか使えないスキルである。
だが、先頭の男はこのスキルを連続発動させていた。
「まだまだ行くぞぉ!」
《ブースター》の重ね掛け。
始めは時速60km程度であったのが徐々に速度を増していく。
そしてその速度に後続はどこまでも付いてく。
これこそがクラン〈楽永高校陸上部〉。
否、楽永高校の陸上部が誇る走りである。
「コーチ! 前方に人影が!」
コーチと呼ばれた先頭の男が目を凝らす。
そこには走り続ける集団を止めるかのように数名のパーティーが盾を持ち道を阻む。
「ふん。関係ない!」
だが、コーチは速度を上げ続ける。
人が増えようとも構わずに。
「《
「《
コーチが必殺スキルを発動し、その後続の1人が続いて同様に必殺スキルを唱えた。
集団が必殺スキルの加護を得る。
パーティーの構える盾が近づく。
あちらも同様に必殺スキルが使われており、竜王クラスの攻撃とて防げるほどの防御力となっている。
だが――
「《韋駄天》《韋駄天》《韋駄天》――」
更に重ね掛けされた速度上昇のスキル。
クールタイムなど無視して発動され、彼らの速度は亜音速の領域を軽く超えていく。
そして盾との激突の末に、集団は全く速度を落とさずに過ぎていった。
障害物など軽く蹴散らして。
「コーチ! どこを目指しましょうか」
「そうだな……まずはあのでかいモニターのところからだ」
コーチ、と呼ばれる先頭の男はその呼称の通りに、後続の彼らの指導者である。
楽永高校という実際にある高校の陸上部。
その部員が後続であり、顧問であり指導者が先頭の男。
コーチのエンブリオである【王道走破 メロス】の固有スキルは走ることに関係するスキルに限りクールタイムを無くすというもの。
つまりはMPやSPが続く限り、重ね掛けが可能となる。
そして必殺スキル《
数万にまで膨れ上がったAGIがそのままぶつかってくるのだ。
並大抵の防御では防ぐことは出来ず吹き飛ばされる。
トラックに轢かれるどころではないだろう。
後続の部員たちのスキルも似たようなもので、先頭に走る者の速度を集団にそのままコピーさせる《
彼らは最速を自称していた。
彼らは誰よりも速く走ることが目的であった。
部員の心は一体。
誰かを置いていくことなどしない。
だからこそ、誰よりも強く速いと自負していた。
「このまま最速で駆け抜けるぞぉぉぉ!」
フラッグを守ることすらない。
部員の1人が肉体を地面に変換するエンブリオを持ち、試しに一部分だけ地面と固定した状態でとある場所に残している。
その部員の肉体にフラッグを挿してみたところ、移動しながらにフラッグは固定されていると判定されたため無事に効果を発揮していた。
拠点を別の場所に作りながら、フラッグを移動させるという反則じみた方法で彼らはフラッグの恩恵を受け更に速度を上げていく。
そして目指すべき場所――〈洛陽創世会〉の拠点に侵入した瞬間、爆発した。
「――」
何が起こったか分からない。
ただ、どこまでも駆け抜けたかった。
走って、誰よりも速くなりたかった。
彼らはどのクランよりも早く脱落した。
■クラン〈洛陽創世会〉
「はい! というわけで1人目……いえ、10人の団体様がいらしたわけですけども! 残念ながら玄関以外には防犯のために爆弾を埋め込んであります!」
映像に向かって語るアッカウントはイエイとウィンクする。
「このアッカウント、広報担当ではありますが戦えないわけではないのです」
えっへんと胸を張る彼女に他の信者達は拍手を返す。
「とはいえ安心くださいね。回数式の地雷ではありますけど、私自身も爆発自体は止められませんので」
アッカウントの左手の紋章が光る。
そこに記されているのは燃え盛る炎。
エンブリオの銘は【格式紅爆 レーヴァンティン】。
彼女の言葉通り、地雷にも似た爆弾だ。
その基本スキルである《不発弾》は設定された回数を踏むと、最後に踏んだ瞬間に踏んだ対象を爆発させるというもの。
予め1回踏めば爆発するようにアッカウントは自身で爆弾を踏んで調整しており、そこらかしこに埋め込んだ。
「こちら〈洛陽創世会〉は皆様を歓迎しております。話を聞けば分かると思います。素晴らしいところなんだなって。是非一緒に、次の世界でまたお話したいなって。教祖様も”天使長“も”磔刑“ちゃんも――」
「――そうかい。だったらまずはアタシを歓迎してもらおうかね」
ふと、アッカウントの隣にボールが放られた。
「……?」
公園などで子供たちが蹴るような、よく見かけるサッカーボールだ。
ボールは転々と転がっていくと止まり――止められた。
いつの間にかボールの頭を抑えつけるヒール。
顔をあげればそこには、1人の女が立っていた。
「アタシの犬たちも早々にやられちまったみたいだからねぇ。暇潰しに付き合ってもらおうか」
「うーん……入信希望の方というわけではないのでしょうか」
「ハハッ! おかしなことを言うね。アンタのところの王様はさっきの髭のやつだろう?」
つよく、ボールを踏みつける。
不思議なことに、転がっているときは弾んでいたボールだが今は全く弾力性を見せない。
「アタシの国の女王様はアタシだ」
「……そうですか。貴女も私の……私達の邪魔をするんですね」
笑顔であったアッカウントの表情が一点、暗く沈む。
沈んだまま女を睨むと、幾つもの拳大程の円盤をどこからか取り出した。
「教祖様のお言葉は絶対です。教祖様のお考えは第一優先です。教祖様に救われた私達こそが絶対です」
アッカウントは円盤を女へと投擲する。
それらは回転しながら女の足元へと落ちると地面へと抵抗なく沈んでいった。
「そうさ。王様の言葉は絶対さ。だからアタシはアタシらしく言ってやろう」
ボールを蹴り上げ浮かせる。
どのような技術か、ボールは無回転のまま浮き上がり、女はそれをアッカウント目掛け蹴る。
凄まじい速度で射出されたボールは戦闘職でも反応するのは難しい程であった。
すぐさま周辺にいた他の信者達が駆けつけていなければアッカウントはそのままボールの餌食となっていただろう。
「アッカウント様!」
身を挺してアッカウントを庇った信者の1人がボールに当たると、そのまま信者の肉体は弾け飛んだ。
まるで同サイズの鉄の球でも衝突したかのような現象。
断末魔の悲鳴をあげることなく死んだ信者の末路に他の信者達は思わず一歩退いてしまう。
「さて。人が増えてきたね。次は誰がアタシを遊んでくれるのかい?」
「……最初から私ですよ。最後まで、ね」
【宣教師】アッカウント。
【蹴姫】パ・ドゥマ。
両者は睨み合い、開戦する。
知らねえやつが知らねえやつに殺されて知らねえやつが駆け付けた
しばらくこんな感じで続くのでご容赦を