<Infinite Dendrogram> 王は今日ものんびりと自殺する   作:そらからり

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13 女王様

■【蹴姫】パ・ドゥマ

 

「(そうさ。アタシは女王様なんだ……)」

 

 まるで自分に言い聞かせるように。

 再度パ・ドゥマは女王と心の中で繰り返す。

 

 小さな町の片隅。

 そこに彼女の国はあった。

 連日訪れる彼女の民は多くの言葉と金をそこに残していく。

 それだけで満足であった。

 小さな国の女王様。

 その肩書きだけで満たされていた。

 

 だが、ここ数年で情勢が大きく変わった。

 夜の国から民は消え、彼女は一人玉座で盃を傾けることが多くなった。

 

 何故だ。

 彼女は何も変わっていない。

 少しだけ歳を重ねたが、彼女の美は衰えるどころか色気が増している。

 成熟した大人である証の肢体はそれでも残った民たちからは絶大な支持を得ている。

 

 民が減った理由を尋ねてみた。

 最近、何故訪れる回数が減ったのかと。

 よもや他に主を見つけたのではないかと睨みつけながら。

 

 答えは明白単純であった。

 ゲームで忙しい。

 仕事が終わればすぐさま帰宅し、ログインしたいが為に彼女の国から足が遠のいていたのだと。

 

 馬鹿な、と文字通り一蹴した。

 民はそれに喜ぶが、以前ほどではない。

 それ以上の喜びを知っているような反応に彼女は悔しさ混じりに歯を軋ませる。

 〈Infinite Dendrogram〉……これがアタシの国から民を奪った名か、と。

 

「そっちの王様は良いねぇ。優秀な兵士がわんさかと居て。後ろでふんぞり返ってればいいわけだ」

 

 アッカウントを始めとした信者達。

 1人1人が命を懸けて外敵を排しようと鍛錬を積み重ねてきているはずだ。

 並の攻撃では止まらないだろうし、盾では受けきれないだろう。

 

 パ・ドゥマは足元のボールを足底で転がしながら考える。

 先のジャージの集団が爆発したのはアッカウントによるもの。

 まずは彼女から倒さなければ、いつどこで足元が爆発するかもわからない。

 

「……ふうん」

 

 信者達がパ・ドゥマ目掛けて走り出す。

 いずれも全力で、足元など気にしている様子は無い。

 それを見てパ・ドゥマはすぐさまの爆発は無いのかと緊張を緩ませる。

 

「(さて……条件型とみたね。威力はその条件の難度をあげることで比例していく、か)」

 

 ジャージの集団はほぼ同時に爆発していたが、完全にではない。

 前から順々に……ですらもない。

 後方が、左翼が、トップが、等々バラついていた。

 そのバラツキこそが敵の能力の鍵では無いかと睨む。

 

「ま、いいや。難しいことを考えるのは性に合わないからね」

 

 ボールを軽く浮き上がらせ、アッカウント目掛け蹴り飛ばす。

 まるで鋼鉄の塊を蹴っているかのような衝撃が彼女の足を襲い――しかしその脚は無傷のまま。

 亜音速で駆けるボールはアッカウントの前方にいた信者を巻き込んでも尚威力は衰えず、アッカウントごと葬り去ろうと肉体に触れようかとした瞬間、

 

「ワオ」

 

 その直前にアッカウントは足元を軽くトン、と踏み――爆発が起こる。

 爆発と共に風が舞い上がりアッカウントを後方に、ボールをあらぬ方向へと吹き飛ばす。

 

「あいたたた……。威力は抑えたとはいえ痛いものは痛いですね。でも我慢です。教祖様に仇なそうとする邪教の徒はこの私が改心させなければいけませんので!」

 

 全身に小さな傷をつくったアッカウントは衣服を叩きながら立ち上がる。

 

「チッ……」

「なるほどなるほど。エンブリオか職業かは不明ですがその球体の威力はあげられても重さまでは変えられないみたいですね。軽い爆風で止まってくれるなら、やりやすい」

 

 アッカウントの言葉通り。

 今ので戦闘スタイルの相性は最悪だとパ・ドゥマは確信していた。

 彼女の繰るボールの重量は一定だ。

 変えられるのは強度のみ。

 そこかしこに爆発の基点を作ることのできるアッカウントは容易くボールの軌道を変えられる。

 

 信者達が振るう剣や斧を避けながらアッカウントの隙を探す。

 【蹴姫】は前衛系超級職。

 STRとAGIに秀でたジョブであるため回避程度であれば造作もない。

 ……が、

 

「――っ!?」

 

 瞬きの間で幾つものステップを踏みながら、まるで踊るかのような回避を見せるパ・ドゥマに信者達は焦ったような表情をみせる。

 バランスを崩しその場でたたらを踏んでしまった信者の1人は、爆発した。

 

「あーあ」

 

 それをみてアッカウントは残念がるようにため息をつく。

 どうやら敵味方関係の無い能力のようだが、それはそれで見境の無さが爆発の威力を高めているのだろう。

 そしてパ・ドゥマは今の信者の爆発で気付くことがあった。

 

「なるほどね。何度か踏まないと爆発しない地雷ってわけ」

 

 返答は笑顔であった。

 

「加えて、爆発するまでの踏む回数が多い程に爆発の威力が高くなると。自分の周囲だけは緊急回避用に抑えた威力の地雷を埋め込んだ。当たりかい?」

 

 笑顔が続く。

 その笑顔はパ・ドゥマだけではない。

 爆発に巻き込まれる恐れのある信者達全てに向けられていた。

 

 

 

 

■【宣教師】アッカウント

 

 生まれも育ちも特に何か問題があるわけではなかった。

 なのに何故か彼女の人生は失敗続きであった。

 

 試験が赤点であった。

 箸を上手くもてなかった。

 よく転んだ。

 クラスの中心人物に睨まれた。

 

 そして、とりわけ男運が無かった。

 

 好きになる異性は、交際した途端に性格が一変した。

 ある者は金を。

 ある者は身体を。

 ある者は尊厳を。

 彼女を束縛するように、抑えつけるように、締め付けた。

 そして最後にはいつも彼女が感情を抑えきれずに別れることとなった――相手の入院と共に。

 謝罪も慰謝料も不要であったのは相手方も自身に過失があったからと考えていた……わけではない。

 そこで彼女との縁を完全に切りたかったからだ。

 次会えば何をされるか分からない。

 もうここで終わりにしたい。

 だからこそ、強制的に引き離される病院内で別れを告げることが出来たのだ。

 

 彼女は理解できない。

 ただ、自分に男運が無かったのだと嘆く。

 血に塗れた包丁を、錆びた金槌を、古びたペンチを持って。

 今回も運が悪かった、そう結論付ける。

 

「あはは」

 

 視界に入るパ・ドゥマも、信者達も。

 彼女にとっては等しく自分を愛してくれない対象だ。

 今、彼女に愛を唱えるのは教祖様だけ。

 他は何もいらない。

 他はどうなってもいい。

 

「随分と蹴りづらそうな靴を履いているんですね」

 

 どうでもいいからこそ、気づけることがある。

 それはパ・ドゥマの能力。

 

「一見、その球体がエンブリオのように見せかけていますが、だったらサッカークラブの人のように蹴りやすそうなシューズを履かないと。よく分からないですけどスパイクでしたっけ?」

「……」

「あなたが履いているのはどうみてもヒールだ。それもハイヒール」

 

 始めから、パ・ドゥマの戦闘スタイルと彼女の装備は合っていなかった。

 ドレスとハイヒール。まるで、クラブはクラブでも夜職のほうの人間の格好だ。

 

「蹴ることに特化した職業。蹴られることに特化した球体。ここまでは良いでしょう。でも、そのヒールは見逃せませんね。蹴ることと踏むことに特化したエンブリオ、でしょうか」

 

 笑顔のままでアッカウントはパ・ドゥマのスタイルを見抜く。

 球体もまた鑑定不可能なところをみると特典武具か何かなのだろう。

 強度だけを増し、重量は不変という特性を持つアイテム。

 【蹴姫】という超級職が示すとおりに、ボールを蹴って相手に当てていく。

 タネさえ分かれば御するのは簡単。

 絶えず爆風の嵐に封じ込めてしまえばいい。

 

「《炎よ、世界の終焉よ、巻き起これ(レーヴァンティン)》」

 

 必殺スキルの発動と同時にアッカウントは大きく後方へと下がる。

 直後、一帯に大規模な爆発が起こった。

 

「――アッカウント様!?」

「邪教徒を離さないでくださいね」

 

 信者達の縋る視線にも笑顔で応える。

 

 《炎よ、世界の終焉よ、巻き起これ》とは(不発弾)によって作り上げた地雷を全て連結爆発させる必殺スキルである。

 残りの踏回数など関係なく、しかし威力だけは据え置きのまま。

 もうどうなってもいいや、という彼女のいつも通りの終わり方になぞらえたかのような必殺スキル。

 信者がパ・ドゥマを引き付けている間にパ・ドゥマが逃げられないよう地雷を仕掛けている。

 どこに逃げたところで爆発が遅い――

 

「……?」

 

 空を、ボールが舞っていた。

 爆風に巻き上げられたのだろうか。

 思わず宙を見上げるアッカウントの視線の先に……ボールの先にパ・ドゥマが現れる。

 

「!?」

「……言っただろ! 遊び相手はアタシだ。暇を潰しているのはアタシなんだ!」

 

 パ・ドゥマのヒールが輝きを放つ。

 ボールをアッカウントへと蹴り放つ。

 アッカウントはパ・ドゥマの姿を見るや無意識に自身の足元へと落としていた地雷を爆発させ、またもボールを爆風にて押し上げる。

 だが、押し上げられる直前、ボールの真上にパ・ドゥマが現れる。

 

「瞬間移動!?」

 

 ボールはパ・ドゥマを過ぎ上空へと浮かび上がる。

 だが、既にボールの有無など関係ない。

 パ・ドゥマは【蹴姫】だ。

 蹴ることに特化した超級職。

 本来はボールではなく人間を蹴ることこそが彼女の戦闘スタイル。

 

「だ、だけど――」

 

 爆風によって動かされたのはボールだけではない。

 アッカウントも後方へと動いている。

 

 空中からのキックなど当たるわけがない。

 

「……」

 

 パ・ドゥマは着地すると、左脚で地面を蹴る(・・)

 アッカウントは慌てたように自身の肉体をパタパタパタと幾度も叩く。

 

「《下賜は――」

 

 右脚がアッカウントの左脇腹を捉える。

 同時に、カチリという音が彼女の肉体からする。

 

「――受け止めよ》」

 

 【蹴姫】の奥義がアッカウントの肉体を吹き飛ばしたと同時に、彼女の肉体に仕込まれた地雷が爆発する。

 最後に踏んだのはパ・ドゥマ。

 一瞬、何が起こったか理解できない表情をみせるも、つまらない顔をし、パ・ドゥマは退場するのであった。

 




【蹴姫】パ・ドゥマ
 蹴る威力をあげる超級職、蹴った対象を追いかけるエンブリオ、与えられた衝撃に対して強度を増す特典武具で戦う準〈超級〉の1人
 近・中距離が得意な個人戦闘型
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